大脱走?
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■ショートシナリオ
担当:蘇芳防斗
対応レベル:6〜10lv
難易度:難しい
成功報酬:2 G 48 C
参加人数:6人
サポート参加人数:5人
冒険期間:06月22日〜06月27日
リプレイ公開日:2005年06月30日
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●オープニング
「‥‥しかし目障りね」
「何が、ですか?」
自室にて、山の様に積まれている書類を細々と目を通し呟くセルアン・シェザースの呟きに紅茶を持って来たロディが尋ねれば、彼女は渋面を浮かべ「何を聞いているの」と言う代わりに眉間へ皺を寄せれば
「此処最近の被害よ、しかも女性物の服ばかり‥‥私へのあてつけなのかしらね。正直、許せないわ」
(「‥‥何処の何方か存じませんが感謝します」)
「何か言って?」
「い、いいえ! 何も‥‥」
一枚の羊皮紙を彼の眼前に突きつけ、それを叩き苛立たしげな様子を露にするも彼の密かな想いには一応釘を刺し‥‥だがまぁ以前に比べれば女装に対しての抵抗も薄くなって来ている事からはぁと溜息をついて、自身を落ち着かせると
「‥‥私用の物だけだったらまだいいのよ、でも商売品もやられているのよね。ま、この程度で揺らぎはしないけど‥‥早々に手を打たないと先々において厄介になるわ」
「でしたら冒険者ギルドにでも」
気遣っての彼の言葉に、とりあえずは首を左右に振ると彼女はこう答え
「彼らの報告待ち、届き次第冒険者ギルドにお願いするからまだ大丈夫よ」
艶っぽく微笑むのであった。
「どうも悪い予感がする」
「どうしたんですか、お頭?」
「‥‥荷物の運び出しを始めろ、此処を出る」
何処かの山の麓にある、何処かの洞窟。
華国の女性が着る服を身に纏い、女装盗賊団の三代目頭領‥‥過去の頭領に比べ、女装も様になっている辺り、彼らも進化している様だったがいささかしつこいのでは? と思った方もいるかも知れない。
実は存外に同志が多いらしい‥‥キャメロットと言う土地柄ならでは、と言う所だと思って貰えれば納得は‥‥したくはないが認めざるを得ない。
まぁそんな事はさて置き、自身の勘から部下にそう告げたその時だった。
「お頭ー! 大変でさぁ、リカルドとレネが逃げました!」
「‥‥無事逃げ遂せたものなら足が着くな。お前、ここにいる奴らを連れて二人を殺せ。前頭領の願いを叶えないまま、捕まる訳には行かないからな。それと集合ポイントは‥‥だ、俺達は一足先に次の拠点に移動する、頼んだぞ」
脱走の報を受けつつ頭領は判断早く、伝令係にそう言い渡すと踵を返し移動の指示を下し始め、しかしボソリと呟いた。
「‥‥しかし後幾つ、集めればいいんだ‥‥」
「何故こんな事を‥‥」
その洞窟をセルアンの依頼から見張る、一人の男が嘆息を漏らすとそれを下から見上げるクレリックの女性
「しょうがないでしょ、路銀も尽きたんだしキャメロットに戻って来るのも当然と言えば当然!」
「だからといって何故セルアンの依頼を、これだから‥‥」
「何よ、分からなかったんだからしょうがないじゃない! 此処まで来てぶちぶち言うなんて‥‥」
クリアス・セイファードの言葉に負けず、クロムと言う名の剣士は食い下がるも次なる答えには返す事出来ず、言葉途中で洞窟の方へ視線を戻せば森がざわめいているのに気付き、彼女を手で制する。
「‥‥何か動きがあった様だな、二人‥‥洞窟から飛び出して来た」
「どうするの?」
その合図に何とか次の句を飲み込むと、樹上へ尋ねる彼女は同時にすぐ動き出せる様、準備を整え始めると
「セルアンの依頼は『動きが無いか見張りつつ柔軟に対応し、三日後に報告。但し、盗賊団についての情報を得る機会があればそれを最優先に』だ。彼らを保護する、クリアスはこの件をセルアンに報告‥‥する時間はないな、とにかく急いで冒険者を連れて来てくれ」
冷静な剣士の判断に彼女は頷くと同時、馬に跨れば彼に手を振ってこう返すのだった。
「まだ私達、手も繋いでいないんだから死なないでよねっ!」
「‥‥‥変態に遅れはとらない、安心しろ」
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ミッション:女装盗賊団から脱走する二人組を救え!
成功条件:目標二人を無事に救出する事。(完全成功)
達成条件:目標二人を救出する事。(通常成功)
失敗条件:達成条件の未達成時。(完全失敗)
必須道具類:依頼期間中の保存食(日数分)は忘れずに。
それ以外で必要だと思われる道具は各自で『予め』準備して置いて下さい。
その他:女装盗賊団の被害に遭っているらしい、セルアンさんからの依頼を受けたクリアスさん方からの更なる依頼で盗賊団についての情報源となりそうな、脱走者二人組の確保が今回の依頼になります。
場所的に、主な戦場は森になるかと思います。
駆け付けるタイミングによって、状況は様々かと思いますがある程度であればクロムさんの腕なら大丈夫と言う話なので、まずは取り急ぎ現場に駆けつけて下さい。
様々な要素で難しい依頼になるかと思いますが、宜しくお願いします。
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●リプレイ本文
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「‥‥ふざけた連中だな」
一行が急ぎ向かわんとする森の中、クロムは無事に盗賊団から逃げ出した二人と合流を果たすも今は木々の中で息を潜めていた。
「まさか『森の乙女』が出て来るなんて‥‥」
「だからもう言うな‥‥気が抜ける」
リカルドと名乗る助けた男性が相対する集団の通り名だろう単語を紡げば、削られる気力に呻いて返すと剣士は改めて辺りを見回す。
周囲は不気味な位に静かで、敵の気配はない。
「‥‥死にたくなければ必死になって着いて来い」
だが先の接触で女装こそしていたが手練である事を感じたが故に近くに潜んでいるだろう事を踏んでクロム、二人に囁けば駆け出すのだった。
(「‥‥参ったな、クリアスに期待する嵌めになるとは」)
ぶっきらぼうな内心での呟きとは裏腹、僅かに微笑んでいる自身がいる事にはまだ気付いていなかった。
その頃の一行、多くの友人達が見送る中でクロム達が待つ森へ急ぎ駆けていた。
「逃げ出したのは女装が嫌になったからでしょうか‥‥」
「言うまでもなく、そうでしょうね」
「ふざけた相手とは言えや、事態は一刻を争うで〜。急いでいかなぁ!」
戦闘馬に乗って駆けるロレッタ・カーヴィンス(ea2155)ののんびりした問いへクレア・クリストファ(ea0941)の断言に、友人がもたらしてくれた晴天の空の下を飛翔するイフェリア・アイランズ(ea2890)の檄に皆は急ぎ歩を進める、その最中。
「お久し振りです、クリアス。お元気そうで何よりです」
お約束の営業用スマイルを久々に出会った知人へ向け、急ぎながらも礼は欠かさずに挨拶を交わすアリッサ・クーパー(ea5810)へクリアスも笑顔を浮かべたが
「あの時はお世話になりました。が、申し訳ありません。今は先を急ぎま‥‥」
「でも朝から走り詰めですよ、クリアスさん。一度休みませんか? 私の友人が作ってくれたお弁当でも頂きながら」
腕が立つとは言えクロムの事が余程心配なのだろう、慌てた調子はキャメロットを出た時から変わらなかったが‥‥だからこそルーティ・フィルファニア(ea0340)は彼女の事を心配すると同時、友人の気持ちを無駄にしたくない為にそう提案すれば
「賛成だね、まだ先は長い事だし適度な休息も必要だからね」
涼しげな面立ちで騎士のクリオ・スパリュダース(ea5678)が歩を止め皆に呼び掛ければ焦る気持ちをその一言で何とか拭い一行、街道沿いに座り込み昼食に近い朝食へ舌鼓を打つのだった。
女装好きな野郎だらけの盗賊団vs女性だけの冒険者一行‥‥果たして勝利を掴むのはどちらか?
●
「まだ捕まらないのか?」
翌日、女装盗賊団が抱える部隊(?)の一つである『森の乙女』を率いている男(勿論デフォルトで女装している)の問いに緑の上下共に丈が短い衣を舞わせて部下が一人
「どうやら協力している奴がいるらしくて、中々に‥‥」
「『森の乙女』とは名だけか? 出来るだけの力があるのなら、やれ」
現状を自信なく吐けば、今は彼らを取り仕切る男の叱責に首を縮めると脱兎の如く駆け出す。
「何処の誰かは知らんが、我々に歯向かう事を後悔させてやる」
‥‥渋い声音に顔だけ見ればナイスガイなのだが、それとはアンマッチなドレスを身に纏う彼は状況を把握する為、周囲から伸びる木々の枝にドレスを引っ掛ける事無く部下達の後を追い駆けるのだった。
一行が目的の森に辿り着いたのは、その日の夜も遅い頃だった。
行軍する速度にクリアスの案内と言う不安な点もあったが、何とか予定通りに到着する。
「油の数がいささか心もとないけど、どうしようかね」
だが冷静なクリオの呟きに到着する時間まで想定していなかった事へ皆は呻いたが
「全く‥‥まぁいいわ。灯りはなしで、その分探知系の魔法が使える人でフォローしましょう。さぁ、気合を入れて行きましょうか!」
「どんな格好をしているんでしょうねぇ、ちょっと気になります」
巨大な十字架をその肩に担ぎ、荒い口調ながらも気遣いは忘れないクレアへその勢いを崩すロレッタの囁きに皆は肩を落とすも、余計な力が抜ければ早速森の中へ飛び込んだ。
「思わず想像してもうた‥‥くぅう〜、負けへんでー!」
そんなおっとり神聖騎士に妙なライバル心を燃やす、ボケを命とするシフールが叫ぶその中で。
●
そして始まる探索だったがクリアスに冒険者達とクロム達、互いが互いを探す事に苦労する中
「見付けたでー! うちが一番やぁ!」
一行の中で誰よりも先にクロム達を見付けたのはタイミング良く単独で夜空を飛翔していたイフェリアだった。
闇の中で彼らの様子を窺い知る事は難しかったが余り宜しくない雰囲気を察すれば、皆への狼煙の代わりに巻物を紐解けば電撃の束をとりあえず、手近な場所へ一発解き放った。
彼女が雷撃を放つより時は少し遡り、クロム達。
「応急処置はしましたが、すぐに激しい動きは‥‥」
木陰に密か、身を潜めリカルドが負った足の傷を診てレネと名乗る女性の判断に剣士は滅多に変わる事のない表情を軽く歪め、逡巡する。
「‥‥奴らがここまで出来るとは」
力量が拮抗し、地の利も彼らにあれば足手纏いの二人を連れたクロムでも此処まで粘るのが精一杯だった。
だが、微かに聞こえた草の鳴る音に考えていられる時間も僅かだと彼は察すると立ち上がる。
「‥‥依頼主との約束もある、俺が囮になって奴らの目を惹き付けるから暫くそこで静かにしていろ」
そして静かに彼らへ呟いた時だった、クロムから少し離れた前方に雷が降り注いだのは。
「‥‥やっと来たか。思ったより早かった、な」
それに安堵の溜息をついてクロムは無表情のまま、静かに呟くと一先ず周囲の動きを察知する事に集中するのだった。
「‥‥上からの調子はどうなのでしょうか」
「イフェリアさんも大分苦労している様で‥‥ん?」
森に入って、何度となく右往左往するクリアスからつかず離れずアリッサへルーティが何度目かのブレスセンサーを唱え答えた時だった、僅かな光とそれに遅れて轟音が辺りに響いたのは。
「イフェリアさんの方が先でしたか‥‥確かにあの辺りに幾つか、人の反応がありますね」
「皆さん行きましょう。アンヴァル、宜しくね」
それより僅かに遅れて発動する魔法の効果で、先程の意味するものを理解すれば戦闘馬の名を紡ぎ駆けるロレッタの後に続いて皆も駆け出すのだった。
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「何故か村人だけが恐れるこの私、今度はカマ‥‥げふごふ、じゃなくて女装盗賊団にこの力を持って恐怖をっ!」
「予想以上に凄い出で立ちですね」
威力を重視して放つルーティのグラビティーキャノンに、副産物で舞い上がる土煙の中を戦闘馬で駆ってはロレッタの率直な感想と共に見舞われる攻撃へ少なからず浮き足立つ盗賊団、だがその姿を見せている数は少ない。
「クロム様、今の内に二人とクリアス様を連れて」
「‥‥済まん」
その隙を見逃さず駆けて来るクロム達と擦れ違い様、唯一面識のあるアリッサの言葉に冷たくも素直に従えば一行は離れて行く彼らの前に立ち塞がると
「貴方方は此処で這い蹲るのがお似合いですよ」
女騎士は次の布石を打つべく土煙が未だ舞い上がる中でクロム達を追おうとする一人の中年男性へ、言葉の毒を吐いてクリオが闘気を身に纏って肉薄すればレイピアの柄で眉間を勢い良く打ち据え、続けてその胸板へダガーを滑り込ませる。
「‥‥私らは害虫退治を依頼されて来た訳じゃないんだ。だから選ばせてあげるよ、退くなら追わないから、さ」
だが初撃が思う様に効かずダガーは空を切るも強気に冷笑を浮かべ、僅かに足元覚束ない目の前の男性と周囲へ潜む者達へ静か再び毒を吐くと途端、辺りの空気が変わる事に彼女は内心ほくそ笑んだが
「見事な挑発だな、が『森の乙女』達よ‥‥目的を忘れるな」
突如、一行の前に現れる美麗なドレスを纏ったナイスガイが場の空気を変える。
「‥‥あんたがリーダーね。処刑法剣十一ノ法、砕月聖闘断破‥‥私達が遊んであげるわ」
その姿に『森の乙女』とか言う頭を抱えそうなネーミングセンスは一先ず気にせずクレアは巨大な十字架を担ぎ駆け、丈の短いスカートを舞わせ飛び掛って来た一人を吹き飛ばせば、ナイスガイと一閃交え‥‥そして自身の膝が地に着いた事に驚愕する。
「見た目だけで実力を測るべからず。どうやら付け入る隙があって助かった、『森の乙女』達‥‥集中して攻撃に当たれ」
クレアの心を見抜いてそれだけ言えばナイスガイ、一行の装備から速度を見抜いて下す号令と同時、周囲の木々がざわめいた。
‥‥僅かな刻を置いて薄明るくなって来た闇の中、リーダーの的確な指示で遠巻きに一人を集中して襲うレンジャーで構成されているのだろう盗賊団の攻撃に、回避の技術に長けていない一行は防御重視でも全ては捌けずボロボロになりながら、それでもルーティやアリッサの支援で辛うじて戦線を保っていた。
「‥‥此処から先へは通さない、そう言った筈よ」
その最中でも隙を見ては一行と言う名の壁を乗り越え、クロム達を追い駆けようとする『森の乙女』もいたが誰かが飛び出す度に一行の中で一番に傷を負うクレアが十字架から衝撃波を放ち吹き飛ばせば、皆の援護で追撃を未然に防ぐ。
「‥‥見上げた根性だ、女にしておくには惜しいな」
「あんたに言われたくないわねっ!」
その光景にナイスガイは彼女を褒めるも再び対峙すると、空気までひしゃげさせる様に振るう神の鉄槌をギリギリで避けると即座に一刃振るえば、今度はそれを彼女が弾き二人はもう何度目か二人は距離を置く。
「‥‥頃合かと、引きましょう」
コアギュレイトにて辛うじて視認出来た一人を拘束すれば、冷静にアリッサは周囲を見回して動けないだろう『森の乙女』達の数を確認し、言葉少なに皆へ呼び掛けると
「しっかり覚えときなさい、この変態共! この永劫の追撃者ことクレア・クリストファと言う名をね、あーっはっはっは!」
「‥‥早く、こっちに」
ちょっと締まらなかったがルーティが促せばクレアの宣言と同時、後衛の援護を受けながら後退を始めれば
「‥‥追撃は難しいか。夜も明けるだろうし、下がるぞ」
うすら汚れたドレスを見てナイスガイも状況を悟れば『森の乙女』達を率い、帰還の途に着くのだった‥‥今回は両者痛み分け、と言った所だろう。
「うぅむ、ああ言う交渉は苦手でね。どうも相手の神経を逆撫でしてしまう‥‥何故だろう」
そして来た道を引き返す一行の中、あそこまで煽っておきながら堂々とそう呟いたクリオの言葉程今回の依頼で一行の記憶に残ったものはないだろう、奇抜な盗賊団が見劣りする位。
『‥‥‥』
勿論一行は返事をしなかった、と言うよりは怖くて出来なかったのだが‥‥とにかく無事依頼を終えた事に一行は安堵し、クロム達と合流すればキャメロットへ戻るのであった。
実はこの件について後日談があったりするが、それはまた次の機会にしよう。