【遺跡探索】開かれた道

■ショートシナリオ


担当:蘇芳防斗

対応レベル:1〜3lv

難易度:やや易

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:06月28日〜07月05日

リプレイ公開日:2005年07月07日

●オープニング

「‥‥流石にもう、この遺跡には何もないか」
「資料の通りですね、もうすっかり調査され尽くしていて‥‥」
 二人の男がそこにいた、ケンブリッジからそう遠くない所に位置する遺跡に。
 尤も、ケンブリッジから近い事もあって遺跡は調査が完全に終わり、それを確認する為に二人は派遣され、改めて調査していたのだが‥‥。
「これ、隠し扉じゃないですか?」
「‥‥の様だな、前に此処を調査した奴らは何をしているんだ‥‥取り敢えず行って見よう」
 周囲の壁より僅かに出っ張っている箇所を見つけた青年がそこを引けば新たな口が二人の目の前に開き、彼の上司は過去の調査隊に呆れながらも新たな通路に足を踏み入れた。
「‥‥ってすいません、何か遭ったらどうするんですか? 隠し通路を発見したのはいいんですが想定外で武器とか持って来ていないんですけど」
「‥‥おい」
 だが青年の間抜けな発言に上司、今度は青年に呆れて髪を掻き毟るも流石に逡巡する。
 まだ罠が生きているかも知れないし、まさかとは思うが‥‥何かがいるかも知れない。
 そして手元には武器や遺跡を探索するのに必要な道具もない、となれば賢明な彼らは
「行くぞ」
「えー!」
「‥‥嘘だ、それにそもそも武器があったにしても自分の身を守る事すら怪しい我々だけでは何かあると手に負えないだろうな。さて」
 ‥‥やはり踵を返してケンブリッジへと引き返すべく来た道を戻るのだった、あるかも知れない危険を確実に排し、この遺跡を完全に調査する為‥‥次に取るべき行動を考えながら。
 そしてそんな二人の耳に届かない程小さく乾いた音が一つ、彼らの足音に紛れ遺跡内に響くのだった。

 そして後日、彼らはこの件をケンブリッジの冒険者ギルド『クエストリガー』へ持ち込むのだった。

――――――――――――――――――――
 ミッション:安全に遺跡を調査する為、危険を排除せよ!

 成功条件:調査が可能な範囲までの危険を完全に排除する事。
 失敗条件:危険に排除された場合。
 必須道具類:依頼期間中の保存食(日数分)は忘れずに。
 それ以外で必要だと思われる道具(照明や寝具等)については各自で『予め』準備して下さい。

 その他:遺跡についてですが、既に様々に人の手によって調査されていますので隠し扉以前の場所について、危険はありません。
 但し、そこより奥については何が待っているか分からない事から安全とは言えませんので、十分にお気をつけ下さい。
 あ、それともし何か見付かった場合には必ず依頼人の方にお渡し下さい、それに見合うだけの追加報酬を支払うそうなので。
 ネコババだけはしない様に、冒険者としてそれはないと思っていますが。
――――――――――――――――――――

●今回の参加者

 ea0195 功刀 衣流華(27歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea6044 サイラス・ビントゥ(50歳・♂・僧侶・ジャイアント・インドゥーラ国)
 ea8205 テレサ・ヴァーディグリス(26歳・♀・レンジャー・パラ・イギリス王国)
 eb0030 サファイア・フォーション(22歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 eb0207 エンデール・ハディハディ(15歳・♀・ジプシー・シフール・エジプト)
 eb2916 アーリ・オーラン(26歳・♀・バード・パラ・ロシア王国)

●リプレイ本文


「‥‥‥‥?(訳:皆よろしくねー! ってあれぇ?)」
「‥‥‥‥‥(訳:イギリス語、早く覚えないと‥‥)」
 ある遺跡で見付かった隠し通路から先の危険を排除する為、ケンブリッジを無事に発‥‥つ前に、身振り手振りを交え言葉を紡ぐも皆の反応からやがて首を傾げるアーリ・オーラン(eb2916)と、その事態に気付いてうなだれる忍の功刀衣流華(ea0195)が唯一話し得る言語の前に困惑する一行。
「これは困ったな、私は何とかなるのだが」
 それでも一行の中、冒険者として経験豊富な破壊僧のサイラス・ビントゥ(ea6044)が二人の言葉を辛うじて解すも、他の皆は首を横に振るだけ。
「それじゃ、サイラスさんが通訳宜しくデスぅ♪」
「まぁもとよりそのつもりである、任せよ」
 彼と同じく、経験こそまだまだだが初めての依頼をうける四人より僅かに先輩であるエンデール・ハディハディ(eb0207)が独特な口調でサイラスの光る頭上を回り飛ぶと、経験浅い者達の様子を見守る事にする。
「力を合わせれば大丈夫よ、一緒に頑張りましょ☆」
「そうだね、うん。張り切って行こうっ!」
 だが笑顔を浮かべ明るい声音でサファイア・フォーション(eb0030)が沈んでいる二人の肩を叩けば、明るさが売りであるレンジャーのテレサ・ヴァーディグリス(ea8205)が背中を押して目的の遺跡へ向け、歩き出した。
「うむ、仲良き事は美しき事だな」
 言葉は分からずとも身振り手振りを交えつつ話す四人の姿を見て心配無用と察したサイラス、今は自身の頭に止まるシフールを気にする事無く微笑むと九歳になる息子の顔を思い出しては一人頷き、彼らの後を追うのだった。


 やがて遺跡に辿り着いた一行、道中こそ和気藹々と自己紹介等の話に花が咲いていた雛鳥達だったが、遺跡を前にすればその口数は途端少なくなる。
「は、初めての依頼‥‥緊張しますわ」
「何、時期に慣れるであろう。まだ静かでもあるしな」
 そして依頼された隠し扉より先の未知なる領域を進む中、先頭を任された雛鳥が一人の衣流華が緊張から不安げに呟くと、一行の背後を守る破壊僧が諭したがサファイア以外からその緊張は解けた風もなし。
「うん、ブレスセンサーに反応はありません。でも魔法には限りがあるから、基本は自分の五感と脚ですよね☆」
「そうデスよ〜、頑張って下さいね。と、テレサさん、前は大丈夫デスかぁ? もしかすれば罠があるかも知れませんよぉ〜」
「うーん、探索は人任せにしようと思っていたんだけどな〜」
「出来る事があるなら積極的に、これ大事デスよぉ!」
「う、それは確かに‥‥」
 サファイアの確認にエンデールは頷くと、次いで明るい声音で隠密行動に長けている事から衣流華と共に先頭を進むもう一人の雛鳥であるテレサへ少し警戒する様に、緑色の長髪を揺らして言えば雛鳥から返って来る呑気な答えへ声を大にして、冒険者が心得その一を語ると途端窮する彼女だったが
「あ、これなんだろ?」
 茶色い瞳を大きく開いて納得したその直後、足元にある不自然な出っ張りを見付けると好奇心の余り、それに手を掛け押してみた。

 ドーン!

「‥‥テレサさーん」
「ごめんね〜、ついつい」
「むやみやたらとあちこち触るのも、遺跡では危険デスぅ!」
 突如降って来た大きな檻に閉じ込められて困惑の表情を浮かべ、サファイアが助けを呼ぶとその罠を発動させた張本人は檻についてある扉の鍵を開けるべくアーリと共に傍まで寄る中、早くも冒険者が心得その二を語る事になるエンデール。
「あれれ、開かないよぉ!」
 蒼い瞳を瞬かせ鍵開けに悪戦苦闘するアーリの声が遺跡内に響き渡る中、この一件で雛鳥達の緊張が幾分解けたものの、その光景から自身が持つ力と出来る事を完全に把握するにはまだもう暫く、時間が掛かりそうだった。


 とりあえず入って初日の探索を終えた一行、どの程度の時間が経っているか分からないが誰かが鳴らした腹の音をきっかけに休息を取る事にしたのは間違いない。
「皆さ〜ん、出来ましたよっ」
 そして一行が待ち侘びた時を向かえ、大きな声でアーリが手振り身振りも交え皆に呼び掛けると誰からともなくそれに飛びついて始まる食事会。
「ど、どうですか‥‥?」
「ん、十分に美味しいよ☆」
「腕前はまだこれから伸びるでしょうから、頑張るデスぅ!」
「良かったぁ、これからも頑張ります〜!」
 質素な保存食でも手を加えれば大分変わるものだが、まだそれを知らずおずおずと尋ねる調理人へ、サファイアとエンデールは揃って感想を紡ぐと彼女は安堵を覚え近くへ飛来するシフールへ頷き誓うも
「‥‥眠くなって来たデスよ‥‥エンデ、もう寝ますね。アーリさんの近くで‥‥」
 それに何事か返すよりも眠気が勝った彼女は存外に寂しがり屋らしく、それだけ言えばアーリの許可より早くポテンと彼女の膝の上に落ちると早々に寝息を立て始めた。
「まだ先もあるだろうし、皆も早めに休むがいいであろう。もし寝付けない様であれば私が一つ、説教でも‥‥」
「こ、今度の機会にさせて頂きますわ」
「お休みなさい!」
 その光景を見止め、破壊僧は他の皆にも休む様に促すも説教を一つ説こうとするが、人それぞれな反応ながらも空振りに終われば大きな体躯を縮こまらせ一人、少しだけ悲しみに沈みながら彼もやがて眠りにつき、そして一日目は終わるのだった。


「そう言えば遺跡に入ってから何かしているみたいだけど、何をしているのかしら?」
「ふむ、目印をつけているのだ。私も遺跡探索と言う修行は受けた事がないのだが、この様に帰り道の目印を残しておくと迷う事無く外に出られるという話を聞いてな」
 翌日、眠りから覚めた一行は食事を早々に済ませ探索を再開すれば後ろから聞こえてくる鈍い音を発生させているサイラスへ衣流華が問えば返って来た答えに
「なるほど‥‥でも、やり過ぎな気も‥‥」
「ん? 何か言ったか?」
「い、いえ! 何も!!!」
 囁いての独り言に破壊僧が反応すれば、慌て彼女は声を裏返し否定する。
「けれど何もないよねぇ〜、詰まらないの」
「保存状態は非常にいいんですけどね。でも、今までに引っ掛かった罠から考えると‥‥」
 極度の方向音痴である衣流華が一人でも迷わないだろう、真直ぐな通路だけの遺跡を警戒だけ怠らず、だが不満を紡ぐテレサがごちればサファイアは周囲を改めて見回して何か引っ掛かるものを覚える。
「そー言えば今までの罠、檻に中途半端な深さの落とし穴とか‥‥ほとんどが何かを捕まえる様な罠ばっかりだったね〜」
 そんな魔術師の推測にアーリも今までの出来事を思い出し、歩きながらも腕組みをして首を捻ったその時だった。
「うあーん! エンデ、奥の部屋で凄いものを見つけちゃったデスぅ!」
 魔法で得た灯りを掲げたまま、一人先行して進んでいたエンデが叫びこちらへ飛翔してくる様子は、その言葉同様に慌てており
「どうしたのだ、エンデ殿?」
「奥に‥‥木で出来た鳥人形が動いているんデスぅー!」
 誰かがごくりと唾を飲む雛鳥達の様子から努めて冷静にサイラスが尋ねれば、彼女が紡いだその答えに一行は‥‥思い当たる節なく揃って首を傾げた。

「これ、ゴーレム‥‥って言うモンスターなのかなぁ?」
 エンデの報を受けてから一行、話に上がった部屋へ駆け込めば待ち受けていたのはやはり彼女が話の通り、二体の木で出来た二足歩行の鳥を模した人形。
 僅かながらのモンスター知識しか持たないテレサが、あやふやな記憶をまさぐりつつもスリングを打つその中で既に戦闘は始まっていた。
「ほら、そっちに行ったデスぅ」
「うわっ!」
 いつもの様に先を駆けるエンデールが二体の人形が振るう攻撃を華麗に避ければ、続く攻撃がその懐に飛び込んだ衣流華へ向けられると急ぎ警告し、忍も何とか回避に成功しては確かな連携で少しずつその表面を削り取って行く前衛に対し
「瞬き閃け、風の一刃‥‥ウインドスラッシュ!」
「うややっ?! 魔法が効かないよっ!」
 サファイアにアーリを警護するサイラスの目の前で、各々が得意とする魔法を紡ぎ解放すれば攻撃を集中させていた一体がまず崩れ落ちる。
「あわわ、どうすればいいですかぁー!」
「まぁ休んでおれ、もうじき終わるだろう‥‥がっ!」
 だがその中で戦う手段をなくし、一人狼狽するアーリへサイラスが優しく言えば同時に駆ける方向を急制動によって変え前衛を掻い潜って接近して来た木偶人形だったが、駆けて来るそれへ破壊僧は数珠を握り締めた右拳で激しく打ち据えると
「人生、これ修行なり‥‥誰しも必ず出来る事がある。それを模索する事、常に忘るるべからず。それさえ忘れねば、立派な冒険者になれるだろう」
 人形を同じ勢いで後退させ、つたないゲルマン語で彼女へ説けばそれにアーリが何度も頷けば
「しつこいなぁ〜」
「今デスよ!」
「こ‥‥これでぇっ!」
 その最中で続く礫にダーツの攻撃に続き、まだ体中に強張りは残るも忍者刀を隙無く振り抜いて衣流華はその日最高の一撃を見事に当てれば、二体目の木偶人形の動きを止めた。
「やっと‥‥終わりましたね〜☆」
 呟いた言葉とは裏腹、初めての戦闘と言う緊張感より解放されたサファイアが地に膝を着くと他の雛鳥達も彼女に倣い、しゃがみ込めば大きく息を吐いて全身からやっと力を抜くのだった。


「しかし、これ‥‥何を模して作ったのでしょうか?」
「さて、しかし単なる彫像にしてはいささか趣が異なっておるな」
 休憩を挟んだ後、木片飛び散る部屋の内部を意気込んで捜索する一行の目にまず写ったのはその中央に佇む一体の彫像。
 サファイア自身初めて見るそれに何とも言えぬ雰囲気に圧倒され、呻く様に呟くとサイラスもまたどう言う物か分からずにただ首を傾げるだけ。
「流石にこれは持って帰れませんし、ある事だけ報告しましょう」
「最終的に纏めるとですね〜、此処にあったのは一枚の石版と一つの開かない石扉‥‥」
「ま、あの扉が開かない以上は此処で探索は終了デスぅ〜」
 そしてアーリの簡単な纏めを魔術師が木板に削り留めると、エンデールの宣言に皆は拳を掲げたが
「でもあの扉、何だろうねぇ〜。あたしやアーリじゃ開けられないんだけど‥‥気になるなぁ」
 不可思議な文様が刻まれる、開かずの石扉を見つめたまま腑に落ちないと呟くテレサにサイラスは静かに諭しかける。
「まぁそれは依頼人の仕事だろう、とりあえずは依頼の終了と此処の報告をしにケンブリッジへ戻ろ‥‥ん?」
 だがその最後、背中を微かに叩く感触を感じてサイラスが振り返ればそこには衣流華が佇んでおり、直後に彼女はサイラスへ頭を下げた。
「サイラスさんにはとてもお世話になりました! イギリス語を覚えていなかったのにしっかり皆と協力して依頼を成功する事が出来たのはサイラスさんのおかげです!」
「何、その程度であればいつでも手伝おう。ただ、私も余り得意ではないから次に逢う時は覚えておいて貰えると助かるが」
 そのお礼に破壊僧は柔らかな笑顔を浮かべながら、静かに忠告すると衣流華も返事の代わりに苦笑いだけ浮かべ頭を掻くと
「皆良く頑張ったデスぅ、これからは大変かもしれないですけど初めて受けたこの依頼の事だけ、皆の大事な糧になるでしょうから暫く覚えておくんデスぅ〜」
『はいっ!』
 その光景を見てエンデールは雛鳥達へ労いと激励の言葉を掛けると巣立ちを迎えた四人は元気に返事をし、己が翼にこれからの期待と希望を抱え羽ばたかせる事を誓うのだった。

 〜Fin〜