【何でもござれ】舞盗姫を捕まえろ!
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■ショートシナリオ
担当:蘇芳防斗
対応レベル:3〜7lv
難易度:難しい
成功報酬:1 G 22 C
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
冒険期間:07月10日〜07月13日
リプレイ公開日:2005年07月20日
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●オープニング
「舞盗姫、ですかぁ?」
「そ、舞い盗む姫と書いて舞盗姫。その名の通り、ダンスパーティ等に現れては舞っている貴族達が気付かぬ間に金品を掏り取っているってね。その姿は誰も見た事がないと言うのもあって最近専ら話の種で、最近行われているダンスパーティには必ず『舞盗姫』が現れるって話なのだけど‥‥知らないの?」
セルアン・シェザースの屋敷を訪れたセシル・アドルニー、近々自身が催す事に決めたダンスパーティへ彼女を招こうと来て見れば、その口から紡がれる初めて聞いたその話に目を丸くする。
「知らないですよぉ〜、でもなんで見た事ない人なのに『舞盗姫』なんて呼ばれているんでしょう〜?」
「さぁ? 誰かが勝手につけたんでしょう、そこまでは私も知らないわ‥‥でも十中八九、貴女が催す予定のダンスパーティにも来るでしょうね」
が、セルアンの言葉が一節に疑問を覚えると早速尋ねてみたが、彼女は「私こそ教えて貰いたいわよ」と言った表情を浮かべ頭を振ると、続けて紡がれる予想にセシルはうなだれた。
「‥‥ただ、対策の立て様はあると思うけどね。今まで被害に遭ったダンスパーティを主催していた貴族の方々は『舞盗姫』を侮っていたのか、そこまでやっていなかった様だけど‥‥」
しかし鬼ではないセルアン、自身が今まで聞いた話から一つだけ防止策となる案があると言えばその答えが紡がれるより早く即座に立ち直って主催者、顔を上げると自身の思考で導き出した答えを口にする。
「冒険者の皆さんにお願いしますっ! 皆さんならきっと何とかー」
「ま、やってくれると思うけど‥‥何かあったら冒険者に頼ろうとするその考え、少しは改めた方が良くなくって? この件に関してはいささか骨が折れるでしょうし、何でも出来る訳じゃないんだからね」
‥‥人に決して言える言葉ではないのだが、早々に決意したセシルへセルアンが言えば彼女は頷き
「はいー、ありがとうございますっ! それでは詳細はまた後日、お知らせに上がりますねぇ〜」
「はいはい」
礼儀正しく一礼してはセシル、ひらひらと手を振って見送るセルアンが驚く程の速度を持って冒険者ギルドへ向かい、駆け出すのだった。
「‥‥あ、そう言えば聞き忘れたけど普通のダンスパーティなのかしらね?」
そして嵐が去れば一言、思い出したかの様に呟く彼女‥‥後になって知る事だが、残念な事に普通のダンスパーティである事を付け加えておこう。
「もう少し、もう少しだけ‥‥待っていて」
その夜、微かな臭いが立ち込める部屋から遠目に見えるセシルの屋敷を見つめる者がいた事はまだ誰も知らない。
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ミッション:ダンスパーティの会場に現れては盗みを働く犯人を捕まえろ!
成功条件:『穏便』に犯人の捕縛に成功した時。
失敗条件:犯人の捕縛に失敗した時。
必須道具類:依頼期間中の食事は依頼人が提供しますので、保存食の準備は不要です。
ですが当依頼の内容から礼服一式は必須でしょう。
それ以外の、必要だと思われる道具は各自で『予め』準備して置いて下さい。
(販売されていないアイテムに関して、使う場合はプレイングにて根拠の明示を忘れずに)
その他:一言で言えば、犯人を捕まえて下さい‥‥なのですが、逃げるだけの犯人を追い駆けるのとは違い周囲へ細心の配慮をしつつ、犯人に気付かれない様に上手く追い詰める必要があります。
と言う事でセシルさんからもお話がありましたが『くれぐれもダンスパーティに参加されている貴族の方々へ失礼や怪我等を負わせない様に』との事でしたので、それを念頭に置いた上で場を混乱させぬ様、人目に知れる事無く密かに犯人を捕まえて下さい。
ちなみにまだ、『舞盗姫』を見た人はいませんので人相や服装に特徴は勿論の事、性別すら分かっていませんので非常に難しい依頼だと思いますが宜しくお願いします。
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●リプレイ本文
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「‥‥え〜っとですね、以上でしょうか?」
「なるほどなるほど、それでは次に招待された方々の人となりについてお尋ねしたいのですが」
「それじゃあ、リストの上に戻って、まずはこの方からですがぁ‥‥」
ダンスパーティが催される前日、会場となるセシル・アドルニー宅にて一行は主催者である依頼人の彼女から参加する人達について確認出来るだけの要素を確認していた。
それを取り仕切るのは騎士のセラ・インフィールド(ea7163)、礼儀正しく彼女へ尋ねれば嫌な表情一つ浮かべずつらつら喋るセシルの一言一句を羊皮紙へ書き留めていく。
「礼服だけではいま一つ冴えませんのでこれを首元にあしらえば‥‥相応には見えますぞ」
「‥‥依頼の為とは言え、肩が凝る格好だな」
「全く」
そして騎士が話を聞く中、彼女の執事がアドバイスに従って翌日に着こなす服装へ袖を通す神城降魔(ea0945)と山本修一郎(eb1293)のジャパン人コンビがさも苦しそうな表情で呻く。
その様子は無表情で心の底から言っている様な志士に対し、侍の方は言葉の割に存外でもなさそうな、同じジャパン人ながらも全く対照的に見え
「大変、そうですね‥‥でも舞盗姫を捕まえる‥‥為に頑張り‥‥ましょう」
途切れ途切れの落ち着いた口調で困惑する彼らを静かに見つめながらも横笛を奏で鼓舞するのは長寿院文淳(eb0711)、見た目静かな雰囲気を漂わせているが熱い心の持ち主なのかも知れない。
「んー、面白い事になって来たわねぇ」
そんな皆の様子を傍観者宜しく笑顔を浮かべ見つめるのは、何故かこの場にいるセルアン。
好奇心から駆けつけたのだろうが面白そうな面々が揃った事からか、先程からずっと様子を眺めていただけだったが身近に佇むアリエス・アリア(ea0210)の存在に気付けば彼の肩を叩き、愉しげな声音で一言だけ言った。
「この依頼が終わったら、うちに来ない? 勿論、皆も‥‥ね」
「そう‥‥だね、お招き頂けるなら行ってみたいな」
その誘いに彼女は少し考えるも、断る理由もない事から特徴的な瞳を輝かせては頷くのだった。
(「ジャパン風な子も多いし、面白そう‥‥」)
「‥‥あらあら、大変な事になりそうですねぇ」
そう考える彼女の内心はいざ知らず、だが一行で唯一セルアンの奇特な趣味を知るロレッタ・カーヴィンス(ea2155)はその光景に一人コロコロ笑えば、他の五人が行く先を案じた‥‥って、止めろよ。
「貴方‥‥後、後一つだから。そうしたら‥‥」
その夜、儚く瞬く星空を眺め呟く者が一人。
想いを馳せ今度は月を眺めるも、やがて現実へと戻ればいそいそと明日の準備を始めるのだった、明日もまた煌びやかな衣装をその身に纏う為に‥‥そして願いを成就させる為に。
「落ち着いて‥‥落ち着いて」
逸る気持ちを抑える様に、それだけを呪文の様に呟きながら。
‥‥そして様々な者の思惑が交錯する中、ダンスパーティは本番の幕を開けた。
●
翌日、アドルニー家が入口に立てば不振な輩がいないかチェックしている男性が一人。
「始まったばかりだからこそ、見た目だけで早々分かる筈もないですか」
そう自問自答するのは騎士のセラ、今日は鎧ではなく礼服を身に着けやって来る客人達に不振がられない様に配慮しつつ、依頼人の執事と共に警戒を厳にしていたが未だにその予兆は見分けられなかった。
「セシル様とて人を選んで交流をしております故、ぱっと見で分かれば苦労致しませんぞ」
「それもそうですね‥‥それではそろそろ始まりそうなのでこちらはお願いします」
そして耳元で囁かれる執事の言葉に彼は納得すると、懐からマスカレードを取り出し装着すれば軽やかな足取りで始まりが近いのだろう、賑やかなる会場へと向うのだった。
舞盗姫をそのただ中に抱えて。
‥‥まずは一曲目、流れるのはゆったりと落ち着いた曲でセシルやセルアンに招かれた客達はそれに合わせ、静かに足を運んでは踊りを楽しむ。
だがその中で様々な楽器から流れ出でる、まだスローテンポな曲に微妙に付いて行けない一組あり。
「‥‥レ、レベルが高いね。正直、驚きました」
「そうですねぇ、セシルさんの調子からして皆さん果たして大丈夫なのかと思っていましたが、意外に嗜まれている様ですね〜」
一行の中で唯一踊りに長けているロレッタに半ば引き摺られる様な感じでアリエス、何とか彼女の足並みを合わせようと奮戦するも中々に上手く行かず、呻きながら彼女に合わせようと努力する。
「この中に果たしているのでしょうかね‥‥」
「きっといると‥‥すぐに動き出すとは思いませんけど、気にしないといつ現れていつ消えるか分からないから‥‥っ!」
そしてまだ流れる曲の中、小声で尋ねるロレッタへ銀製の髪飾りを僅かに気にしながらも赤髪を舞わせアリエスが答えると‥‥次の瞬間に足を滑らせるのだった。
その一方でドタバタしている二人を視線の片隅に捉え、笑顔を浮かべながらも曲を奏でる文淳の姿が楽団の中にあったのは言うまでも無く。
(「‥‥未だ、おかしな動きをしている方は‥‥おりませんね。何処に紛れて‥‥いるのでしょうか」)
そう考えながらも横笛に吹き込む空気を震わせ曲を紡ぐと、今度はいささか不似合いだったが目を引く装飾品を身に付ける仮面の騎士を見付け、先とは違う笑顔を浮かべながら辺りへ視線を巡らすも、怪しげな人物は彼の目にも留まる事はなかった。
だがやがて、一曲目は終わりを告げ僅かに沈黙が舞い降りればやがて人々の声が響き渡ると
「さ、少し休んだらまた再開しようか。所で文淳君、次はどんな曲がいいと思うかな?」
その最中で楽団を仕切る男性、彼の腕を見込んで一つ尋ねれば文淳の唇が緩やかな曲線を描けば
「そう‥‥ですね、少々‥‥激しい曲が‥‥いいかも」
相変わらず淡々とした声音でそう答えるのであった。
そんな彼のリクエストからアップテンポな曲が流れる場、気にせず踊る者がまだ多いものの付いて行けず休む客人達もちらほらと。
「お美しい格好だ、普段から余程気にして鍛錬している様に見受けられるが?」
「鍛錬だなんて‥‥面白い言い回しをしますね」
飲み物を注ぎに一時の休息を取る客人達を回る修一郎は、自身が得意とするナンパから話を交わしながら不審人物を関連付けようとするも、やはり他の者同様に悪戦苦闘していた‥‥尤も、麗しい婦人ばかりに集中している影響もあるのかも知れないが。
「‥‥どうだ、調子は? まぁ見た限り、芳しくはない様だが」
「だな、余程上手く隠れているんだろう」
そんな彼を嗜める様に、何とか笑顔を繕い小声で尋ねる降魔に婦人との会話を中断して答える修一郎が紡いだ答えは彼の予想通りだった。
「‥‥若干だが絞り込んで見た、他の者にも回してくれ」
だがそれに表情を変える事無く降魔、一つの巻物を侍に託せば早々とその場を後にする。
「多いな、絞り込んでこれか‥‥」
そして修一郎の目に映る、巻物に書き込まれた十数名の名前に会場にいる人の多さからしょうがないと思いつつも溜息を漏らした、その時だった。
一人の女性とそれを追って駆ける仲間達の姿をその目に捉えたのは。
「言った先から‥‥さて、どうする?」
騒然とする場に一人、動くに動けず取り残された修一郎は止むを得ず主催者であるセシルの様子を見届ける為にその場で振り返ると同時、何故かやたら軽い曲調の楽曲が流れる中で彼女の声が辺りに響き渡る。
「皆さーん、すいませんー! 実はですねぇ‥‥」
‥‥そのフォローは敢えて伏せておこう。
●
修一郎の嘆息より遡る事少し、踊れそうな曲が流れる度に場に出るアリエスとロレッタ。
その時はまだ何事もなく、また一曲が終われば暫く長い休憩に入ると言う事で一足先に歓談を楽しんでいる客人達の佇む場へ向かう。
「‥‥まだ、盗まれませんね」
「多少地味なのでしょうか‥‥それとも狙っている物を決めているとか」
ちょっとした細工を施してある銀の髪飾りを気にしながら呟く彼の後、呟いたロレッタの推測にはっと何事か閃いて顔を上げるアリエスだったがもう時は戻せない。
「盗まれた装飾品の種類に付いて、情報を集めておくべきだったのかも‥‥」
‥‥だがそれでも、その時は来た。
「もし、宜しければ一緒に踊りでも如何ですか?」
変わらずマスカレードを着けたままセラが動く、偶然目に留まった女性に何かの違和感を覚えて。
「お相手、いらっしゃらないんですか?」
「えぇ、お恥ずかしい事に。それに折角の機会なので他の方と知り合うのもいいだろうと思いまして」
それを確信に変える為に恭しく一礼すると、微笑み差し出された彼女の手を取れば一応皆へ合図を出そうとした次の瞬間だった。
自身の足から頭部まで痛みが駆け巡り、足を踏み抜かれた事に気付き‥‥思わずその手を離したのは。
「つぅ‥‥まっ、待てっ‥‥」
そしてその気を逃さず人込みを掻き分け人々の山に埋もれる様、彼より離れて行く金色の髪。
その痛みに堪え、何とか追い縋ろうとセラは慌て手近にいる仲間へ声を掛けて走ると、直後に会場内へ響き渡るセシルの声を背中で聞きながら闇が降りる屋外へと飛び出し‥‥やがて執拗な追走劇の末に舞盗姫を捕らえる事に成功するのだった。
「狼鎗、助かったぞ‥‥」
逃走する舞盗姫の捕縛に一役買った、自らの愛犬が頭を撫で降魔が褒め称える中で逃げる事が叶わなかった彼女は観念し、ペタリと地に腰を落とした。
「どうしてこの様な事をなさったのですか? 私達の様な存在がいる事を考えませんでした?」
「‥‥彼の為に、どうしても必要だったのよ‥‥」
依頼の概要を聞いた時から、それを行う理由が気になっていたロレッタの問い掛けに舞盗姫と人々から謳われた女性は一行に囲まれながら静かに口を開く。
「悪い事だとは分かっています、でも後少し‥‥高価な装飾品を手にする事が出来れば冒険で築いてしまった彼の借金が‥‥」
全ては冒険者なのだろう大切な人の為、と言う彼女の言葉にそれでもロレッタは自身の調子で先の疑問から沸いた問いを再び尋ねる。
「騙されているかもって考えた事、ありません?」
「彼に限って‥‥そんな事‥‥」
しかし紡ぐ言葉とは裏腹、その問い掛けには舞盗姫の声音は尻すぼみに弱くなって行く。
「‥‥とにかく、悪い事だと理解しているなら貴女の身柄は確保させて貰うよ」
此処では埒が明かないだろうと判断したアリエスがそれだけ言えば彼女を立ち上がらせ、その身を騎士団へ委ねようと舞盗姫をエスコートする様に先に立って歩き出した。
尚、後日談ではあるが舞盗姫の話に出た男性は後日、彼女を誑かしていた事が判明し捕まったと言う話である。
そしてそこからまた、別な話に繋がって行く事になる訳だが
「愛は人を盲目にさせる、とはよく言ったものだ」
その話を聞いた一行の中、普段する事のない笑顔を浮かべていたせいで多少表情に強張りが残る降魔の冷たい嘆息が冒険者ギルド内に響けば‥‥今回は一先ず、閉幕である。