●リプレイ本文
●First Step
「ま‥‥宜しく頼む」
そんなアシュドの第一声から始まった一行との会合、話にこそ聞いていたがそのやる気なさげな言葉に皆は嘆息を漏らさずにいられない。
「まぁ、気が進まぬのも判るが‥‥ここはそれなりに頑張っておかねばゴーレム研究が出来なくなるやも知れぬ。暫く辛抱致せ」
「そう、だな‥‥」
そんなアシュドへガイエル・サンドゥーラ(ea8088)はまっすぐ言葉をぶつけるも、どうにも煮え切らない彼の態度に場は沈黙。
「戻りまし、た‥‥」
とそこへやって来たのは彼の片腕であるルルイエ・セルファード、場の雰囲気に飲まれかけるも慌てずに自身をいつものペースに戻せばその口を開く。
「とりあえずアシュドさん、可能な限りの兵を集めて来ましたのでまずは彼らへ挨拶をして貰えませんか?」
「‥‥あぁ、そうだな。今、行こう。皆も着いて来て貰えるか?」
その言葉にのそりと立ち上がりアシュド、皆も誘うと一応その先頭に立って天幕を出ると
「ごめんなさい、皆さんにはご迷惑をお掛けして‥‥」
「まぁ色々あるのは分かっているつもりだから、とにかくやれる事をやってみるわ」
皆へ頭を下げるルルイエに、彼らと親しい間柄であるアルラウネ・ハルバード(ea5981)が笑顔で彼女の肩を叩いて励ませば、皆も一様に頷いた。
「とにもかくにも、初めが肝要なのだが‥‥さて」
‥‥が兵への挨拶はもう間近、その先を憂う忍の風霧健武(ea0403)が漏らす呟きに皆は思考を巡らせると、容易に想像出来る次なる場面に‥‥再び嘆息を漏らすのだった。
ルルイエが集めてきた兵の数‥‥大よそ八十と言う数は確かに他諸侯と比べればそう多くはないが、指揮官であるアシュドの調子からその兵達の士気までも下がっては目も当てられない状況になるのは一行から見ても明らかな訳で。
「‥‥余りいい状態じゃなさそうだね〜」
一堂に介する兵達が騒然とする場において、同様に居並ぶ一行の中でレフェツィア・セヴェナ(ea0356)の一言は確かに的を射ていた。
「流石に魔術師が中心だけあって、聡いですね。この状況、アシュド殿が収める事が出来れば‥‥まぁ無理でしょうが」
そしてさらりと毒を吐くバーゼリオ・バレルスキー(eb0753)だったが、呟いたと同時に覇気なきアシュドが現れると流石にその口を紡ぐ。
「貴族の勤めなんだろうけど‥‥こんな調子で演説をしても逆効果じゃないかな」
「ちょっと、アシュドく‥‥‥」
レイジュ・カザミ(ea0448)がその様子に首を傾げ紡ぐ不安は尤もだったが、それでも簡素に拵えられた台へと向かうアシュドへ、流石にアルラウネが立ち上がり声を掛けようとするも‥‥それよりも早かったのはレムリィ・リセルナート(ea6870)だった。
「悪いけどこの場、アシュドには任せちゃいられないっ!」
言うなり彼の両肩を押さえつけ彼女、アシュドを後ろへ押し出すとその代わりに自身が壇上へと上がり、声高らかに演説を始めたではないか!
「聖杯探索を端に発する今回の事件、政争の名を借りた聖杯争奪戦である! きっとこの裏には黒いものが蠢いているでしょう‥‥」
だが先程までの調子とは裏腹に、至って真剣な口調でクレリック達へ訴えると次いで彼女の視線は騎士達へと注がれる。
「そして今、この戦いで王妃様が城の奥‥‥どんなにか弱い心を痛めていらっしゃる事か。この時に立たずしていつ立つとっ!」
力一杯握り締めた拳を胸に、今度は切々と語り最後の兵の大半を占める魔術師達へ向き直る。
「今の環境に満足? でもね‥‥フォレクシー家がこの戦いで戦功を立てれば研究費もきっと倍増よ!」
‥‥とまぁそれぞれに、調子を変えての演説に兵士達は困惑を覚え場は更にざわめくもそれは気にしない事にして、レムリィの口からやがて最後の言葉が吐き出された。
「国を守るのは一握りの騎士だけじゃないっ、あたし達なのよっ! だからあたし達と一緒にこの国を守ろー!」
そして大仰に彼方を指差した彼女の元へ舞い降りるのは暫しの沈黙だったが、それも僅かな間。
『‥‥うぉー!』
冒険者の視点から紡がれた最後の言葉に近親感を覚えたのだろう、様々な反応こそあったがそれでも兵達の雄叫びはそれなりに辺りへ轟いた。
「‥‥これでいいのか?」
「まぁ、今の私がやるよりは効果的だろうが‥‥」
その光景を見てガイエルの問いにアシュドは相変わらず覇気のない顔ではあったが、それでもその表情は複雑そうに見受けられた。
●Link
「ゴーレムの研究家、と友人から聞いていたのだがゴーレムは一体も連れてないのだな。ストーンゴーレムでもいれば大きな戦力足り得るのだが‥‥」
「思う様に研究が捗らなくてな、可能であれば勿論連れて来たが‥‥まだ暗中模索だ」
ボケッと天幕の外で一人、空を見上げるアシュドへ声を掛けたのは黒衣を纏うアンドリュー・カールセン(ea5936)で
「相手は不義の子である事を理由に反乱を起こす様な奴だ、さぞかし信心深いのだろうな。そんな奴がイギリスを統治するとなると今後、ウィザードの肩身は狭くなるだろう‥‥もしかすると今後、研究も自由に出来なくなるかもな」
「む‥‥ぅ」
そして此度巻き起こった戦争の話から彼が進むべき目的のすり替えを試みる彼の発言には一言だけ唸るも、それ以上の反応は返ってこない事からかなり悩んでいる様子が窺い知れた。
(「‥‥今置かれている状況を理解しているからこそ、精神との折り合いが付かないのだろうな」)
内心でアンドリューが呟き、どうしたものかと頭部へ手を伸ばしたその時だった。
「今回の依頼宜しくね、アシュド君。少し話があるのだけど‥‥いいかしら?」
黒衣の背後からアルラウネ、彼の肩に手を掛けてはアシュドへ手招きをした。
「らしくないわね、全く。何があったの? 柄にもない事をやってるのが気になるけど‥‥」
そしてアシュドを人気のない所へ連れて行けばアルラウネ、落ち着いた声音で久々に会う彼へ問い掛けると当の本人はポツリポツリと語り出す。
「ね、アシュド君‥‥良く考えてみて。私設の兵を動かすのは家の為かも知れない。でもそれはいずれ、国の平和に繋がるわ。ゴーレムの研究は平和じゃないと出来ないわよ?」
「‥‥‥‥」
その話は彼女の予想通り、父親との確執の事でアルラウネは溜息を漏らしそれでも優しい声音で説き伏せようとするが、彼の反応は鈍いまま‥‥その様子へ今度は苛立たしさを露に赤い髪をバサリと翻し、彼に背を向ければ
「‥‥もう、貴方がやらないなら私がやるわ」
淡々とした口調でそれだけ言うも背後で気配が揺らぐ事はなく、遂には激昂。
「王妃様に何かあればフォレクシー家は取り潰しになるのよ、事は意地とか家とかの問題を超えているわっ! 国の一大事に貴方は関与出来るの、何とか出来るのよ‥‥」
だがそのトーンは徐々に小さくなり、彼女の声だけが響く場に佇むアシュドは困惑した表情で俯いたまま。
「貴方の傍にはルルイエさんも皆もいる。私も勿論いるわ、だから頼って頂戴、ね。一人じゃないんだから」
そして彼女が紡いだその一言に、彼はやっと顔を上げた。
‥‥そんな彼らの様子を柱の影から見守る者一人。
「ぽっ」
その様子からシェリル・シンクレア(ea7263)の妄想は止まらなかったが、下手に口外すればそれこそ今以上に士気が下がりそうで頭を振ると、パタパタと二人の元へ駆けて行き‥‥不意に転ぶが尚平然と立ちあがり
「この事は内緒にしておきますからっ!」
『はっ?』
硬く握り拳を固めては二人の眼前に掲げ誓うシェリル‥‥ここまで誤解しまくっていると実に清々しいものであるが、アシュドとアルラウネは何の事かと困惑を覚えるばかり。
そしてその様子にやっと我に返ったエルフのウィザードは同じ魔術師であるアシュドの顔を見て一つの懸念を思い出し、尋ねる。
「ととと、所で。聖杯もゴーレムに関係しているのでしょうか?」
「‥‥接点はないと思っているが、正直な所は何とも言えないな。もしかすればあるかも知れないし、ないかも知れない」
「研究、進んでいないんですね」
「うっ‥‥」
正直な所を話したつもりが逆に痛い所を突かれ、呻くアシュドへ
「ゴーレムがいないアシュド君はただの魔術師、っと」
アルラウネの更なる追打ちに彼は膝をつき、二人が笑えばアシュドも地に寝転がれば笑うと
「‥‥そうだな。出来る事があるならやるべきか。誰もが何でも出来る訳じゃない、自身だけが出来る事が今、あるのなら‥‥」
掌を掲げ、天空に浮かぶ太陽を掴む様にグッとそれを握り締めた。
●Construction
「なぁこれ、何に使うんだ?」
「今回の事件を歌にする為の参考資料です」
兵の持つ能力から適切な布陣を行う為、名簿の作成に勤しむバーゼリオへ様々な事に付いて問われている一人の騎士が疑問を氷解させると
「貴方の行動によってはこの国の歴史が変化するかも知れませんからね」
「‥‥なるほど、悪くはないか」
続く言葉に騎士はいささか奮起してか笑うと、一通りの質疑応答が終わった事から退出する。
「これで半分、か。思った以上に骨が折れる」
「けど士気は存外に高いですね、先の演説の効果が少なからず働いている様で」
ゲルマン語で纏められたそれを整理し、束ねていくルクス・シュラウヴェル(ea5001)のそっけない感想に事実を持って彼が答えると
「最初こそどうなる事かと思ったものだがな」
「そうですね。さて‥‥次の方、どうぞ」
苦笑を浮かべ、エルフの神聖騎士が思った事を口にしては苦笑を浮かべるとバーゼリオも釣られ笑うと、早速次の者を呼んだ。
「さて‥‥早く終わらせる事にしましょう、まだやるべき事もありますし」
「そんな訳で教会は怪我人で一杯でしたよー、調べれば色々な情報が出てきそうだけど‥‥今日はこれが手一杯」
それからルクス、先の仕事を終わらせれば急ぎ駿馬を駆って情報を纏める為に動き出す。
そのまず最初は教会で、手を振っては駆け‥‥唐突に転倒するレフェツィアの元へ急ぎ馳せ参じれば額をさすりながらの彼女の報告から今後、有益な情報が得られそうな事を確信する。
「普段より閑散としていますよね‥‥でも、日中ならまだ、危険じゃなさそうです」
そのついでだろう、キャメロット市街の状況を報告するクレリックの言葉に思わず目を伏せるルクスだったが
「いずれ、以前の様な熱気でざわめく街に戻るだろう。だから今を‥‥精一杯頑張ろう」
「そう、だね。うん! とりあえずもう少しだけ頑張ってみるよ!」
そして元気良く言うレフェツィアへ、ルクスは静かに微笑むと別な仲間がいる次の場所へと駆け出した。
「‥‥それと最後にだが、いささか懐は痛かったものの有益だと思われる情報を仕入れる事が出来た」
友人達から得た情報をやって来たルクスへと伝えるのは、主に商人達の下で働く者達との情報交換を行っていたゼファー・ハノーヴァー(ea0664)。
その最後に少し軽くなった財布を弄びつつ、一枚の羊皮紙を皆へと差し出した。
「どうやらこの辺りで最近、動きが活発になっている貴族がいる様だ。武具の大量受注があった事に加え、人の出入りも激しいと言う話だ。その紋章がその貴族の持つものらしい」
まずは尤も大事だと思われる情報についてルクスへ報告すれば、彼女は一も二もなくその羊皮紙を凝視しては
「当たってみる価値はありそうだな、此処は‥‥だが今日は一先ず戻る事にしよう」
今後の方針を決めると夕日が沈みかけている事からそう判断し、駿馬を駆りつつもその頭の中では皆から得た情報を改めて選別するのだった。
「アーサーが王に相応しくないと言うが、ならば誰なら良いのだ? まさか此度の反乱を起こした、オクスフォード侯とでも?」
「‥‥頑張っているな、流石と言った所か?」
この状況下においても比較的人通りの多い大通りが広場にて、朗々と歌を紡ぐが如く声を上げるバーゼリオへ労いの言葉を掛けるルクス。
「ルクス殿ほどではないですよ、それより状況はどうですか?」
「思っていたよりもいい情報を手に入れたかも知れない、これから取り急ぎ纏め夜の会議に間に合わせるつもりだ。で、そちらは?」
「こればかりは時間が経ってみない事にと何とも‥‥けれど、少なからず敵側への抑止になると信じています」
集まり彼の話を聞いていた民衆達へ笑顔を浮かべ、手で終わりの合図を告げればお互いの状況を把握しながら自信を語るバーゼリオに彼女も頷くと
「楽しみにしている、が今日は一先ず戻ろう。そろそろ日も暮れる‥‥」
「たった四日とは言え、長い四日間になりそうですね」
そして遂には沈む夕日を見つめ、彼もルクスに倣いそれを見つめては初日の慌しさからそう呟かずにはいられなかった。
●Meeting
「‥‥之によって情報の伝達や、戦闘時に手薄な処への補強等を小隊単位で速やかに行え、また警戒態勢中は二交替制で休息も取れる事となる。そして中隊を城の東西南北に配置し、小隊から一部を検問所にも配置すると言う案を推す」
その日の夜、僅かながらに許された時間の中で従うべき作戦の考案をする一行。
予め考えてきた案を、代表して健武が忍らしい装いに雰囲気のまま静かな声音で提案すれば此度の指揮官はいつもの調子に戻ってはいるも暫く逡巡する。
「連絡手段を更に硬くさえしておけば、一転突破を試みようとする部隊がいた場合にも対応は出来そうか‥‥良し、それで行こう」
「さて‥‥街にたらされる一滴の雫の音も聞き漏らさぬ様、戦と言う物は一つの方向に向かい静かに呼吸するものだ。その行方に息を凝らして見つめよう‥‥と言う事で、これが今日だけで集まった情報だ」
だがそれも僅かな間で意外な程あっさりその案を認め、肝心仔細な話を纏めるともう一人の参謀になろうと奮起するレイヴァント・シロウ(ea2207)は、ルクスが纏めた羊皮紙の束を卓の上に置いてそれを細かに分け皆へと回す。
「そう時間もなかったのに、此処まで纏めるなんて凄いですねっ!」
「そんな事は、ない」
共に情報収集を行ったレフェツィアも感心する程、時間の許す限り書き込まれたその内容だったが彼女は謙遜するだけ。
「‥‥参ったな、あいつが出張って来たか」
と皆が数多集めた情報が踊る羊皮紙を見つめる中、一枚のそれに記された紋章を見て心当たりがあるアシュドは一人呆れる‥‥どうやら少なからず知る者も相対する様で、存外に世間は狭いのだと改めて実感するのだった。
「まぁ、いい。時間が限られている以上‥‥早速動く事にしよう、済まないが皆も早々に準備を始めてくれ」
「ふん、生意気にもアシュドはアーサー側に付いたか‥‥」
夜の帳落ちるキャメロット、その中枢を支えるキャメロット城を見下ろして呟くのは一人の青年。
「これを機に当家は必ずや有力な貴族に成り上がってみせる! その為にもアシュド‥‥悪いがお前にはその礎になって貰うぞ、ふふふ‥‥」
それでもアシュド以上の野心を持って青年はほくそ笑むとその身を翻し、指揮棒を眼下に広がるキャメロット城に突き付けて
「さて、先を越されては敵わん‥‥ベルスト家、動くぞ」
その青年、ブラグス・ベルストは部下達へ命令を下した。
●Absolute Defensive Line
様々な面から一行はアシュドとその兵達を助け、気遣う中で時間は進み三日目の夜‥‥城の裏手に広がる森にて静まり返るその闇の中を進むのは、黒き衣を纏う人の群れ。
「‥‥‥‥」
その数からしてキャメロット城近辺の状況を確認する為の強行偵察部隊なのだろう、それの先頭を駆る者が静かに手で合図をすれば周囲の部下達を伴って再び前進を開始する。
しかしその行軍は程なくして停止する、森に仕掛けられたトラップによって。
「ち‥‥巧妙な」
彼らとて十分に警戒していた、だがそれよりも相手の腕が勝る事を理解すると部下が減って行く中でも敢えてその歩を止めず、ただ前へと飛翔しギリギリの一線で罠を掻い潜っていく。
「この森に足を踏み込んだ‥‥お前達の負けだ」
そして響く声、侵入者の気が逸れた一瞬の隙を見逃さずにアンドリューは自身の懐近くに走る綱を一本切って罠を発動、木の棘が付いた玉を降らせる。
「‥‥っ」
それを後方へ飛び退り完全には避け切れず、肩を押さえては屈み滑る侵入者。
その様子に冷淡な笑みを浮かべるとアンドリューは混乱冷め遣らぬ敵を見据えながら早々に踵を返し、後退して行く。
「‥‥‥」
「待て、深追いは危険だ‥‥人員の把握と状況の記録を、一時退く」
彼を追い駆けようと部下の一人が身を屈め疾駆しようとするも、それを手で制する司令塔と思しき人物は端的にそれだけ言えば思考を巡らす。
「そうなると次の手は‥‥」
「侵入者、数八‥‥後退して行きます」
「‥‥折角の戦争だと言うに」
僅かに連れ立って来た数人の兵士達の中でバイブレーションセンサーが導きにそう答える魔術師へ静かな表情のまま、高揚感を刈り取られたアンドリューは詰まらなそうに嘆息を漏らす。
「まぁ、いい。では伝令を走らせてくれ、敵の侵入があった事を‥‥」
まだ夜は明けそうにもない、混迷を極めるこの戦争が行く先も。
アンドリューが森で奮戦していた頃、市街を警備する者達もまた警戒を厳にしては異変が起こらないか徹底的な見回りを行っていた。
(「‥‥梟とはこんな感じだったか?」)
その中、ガイエルは久々に自身が習得しているミミクリーを用い梟へと変化すると上空からの監視を行っていたが動物知識に長けていない為、魔法にこそ成功するもののどうにもしっくり来ない様子で夜空を羽ばたいていた。
(「む、あれは‥‥」)
そんな折に彼女の目に留まったのはどうにも挙動の怪しい団体様ご一行、即座に呼子笛を鳴らそうとするも‥‥風に靡く上、普段と違ってどうにも首の自由が利かず咥える事が出来ない。
(「‥‥どうやらレイジュ殿も見付けておる様だし、大人しく見回りの兵士を呼んでこよう」)
素直にそれだけ悟れば彼女はレイジュの上で一度旋回すると、彼の視線を受けてから城の方向へと飛び去って行った。
「この調子じゃ、依頼を受ける前にしっかりと準備しておかないと駄目だよね‥‥」
そのレイジュ‥‥合図として使おうとしていた矢に松明がない事に気付いて心にそう誓うと今夜だけで何度目の遭遇か、不審者四人をとりあえず味方部隊の到着を待つ事にし、影から監視するもうっかり何かを蹴飛ばせば静かな周囲に響く物音から振り返る四人。
「‥‥何者か?」
「あちゃ‥‥しょうがない、すいませんが貴方達は悪い人ですか?」
額に手を当て、やっちゃった感を漂わせ不審者達の前に姿を現すレイジュだったが指の隙間から鋭い視線を覗かせ尋ねると同時
「だとしたらどうする、坊主がっ!」
駆け出す四人が立て続けに刃を縦横無尽に振るうと、彼も即座に剣を抜き放てば全身の運動神経をフルに回転させ神懸り的にその四つの刃を全て弾き、避ける。
「‥‥うっわ、あぶなっ!」
それに一番驚いたのは他ならぬレイジュ自身だったが、未だに危機は継続中で次は全て避ける事は無理だろうと唸る彼を傍目に不審者達は彼を囲う様に再び動いた、その時‥‥彼らの間に手裏剣が飛来したのは。
「‥‥悪いがこれ以上の戦闘は無駄だ、お前達こそ既に包囲されている。投降するならそれも良し、さもなくば」
今日は欠ける月を背に健武が告げると重い金属音が辺りに響き、レイジュ達がいる直線の道を騎士達が塞ぐその中で再度の威嚇にライトニングサンダーボルトが不審者達の周囲に走る。
「好きな方を選べ」
そして冷徹な宣告に彼ら、武器を放れば兵士達は手馴れた手付きで素早く彼らを拘束する。
「助かりました、所で風霧さんが警備している場所は大丈夫ですか?」
「ここにいる者の数から対処出来る最低限の人数で来た‥‥問題はないだろうが何が起こるか分からない。一先ず戻るが気を付けて動け」
「分かりました、風霧さんこそお気をつけて」
状況が刻一刻と変化する事を案じるレイジュへ健武が言葉少なく答えれば二人は再び夜の街を駆け出した。
「厳しい戦いになるだろうけど、イギリスとアーサー王の為にもこの戦い‥‥決して負けられない」
駆ける中で普段とは全く違う真面目な表情を浮かべレイジュ、それだけはと拳を固めて誓うのだった。
「動かざる事もまた大事、目先の事に気を取られてはやがて大事に至る‥‥ならば私は時が来るまで此処を動きはすまい‥‥」
その一方、周囲はおろか上空までを警戒するゼファーは動じる事無く厳しい視線を巡らせて他の兵達と共に見回りを行っていた、自身が意思に従って。
そしてゼファーが不意に見上げた夜空には、今も静かに月と星だけがのんびりと佇んでいた。
「この光が再びキャメロットを平和へと導いてくれればいいが‥‥それは私達次第か」
●Inter Mission
「小規模な陽動では動じないか‥‥ご苦労、以下の状況から考えるに搦め手は効きそうにないと分かった以上、既にこちらの存在を悟られていると理解すべきか」
「はい‥‥ですが、よりシンプルな方向で事を進めれば問題ないかと」
その月の下、現状を伝える黒衣の男に考えを巡らせブラグスは部下の提案に一つ頷くと、握り拳を作って次いで部下へ下すべき命令を与える。
「‥‥元よりまだるっこしい手は好かん、取り急ぎ動かせるだけの兵を集めろ‥‥全力を持って叩き潰すっ!」
「一先ず、現状は何とかなっているのか」
「その様で‥‥だがこれからが正念場だろう。少なからずこちらの手に戦力は明かされている筈、そうなると相手の次なる手は分かるか?」
レイヴァントの報告から、まずは胸を撫で下ろすアシュドだったが情報を統括、分析する彼の問いへ即座に答えを紡ぐ‥‥正しく苦虫を噛み潰したかの様な表情を浮かべて。
「あいつの事だ、次の手は容易に見える‥‥故に今度こそ本番だな。となれば後は情報を待つだけ、恐らくはもう頭に血が上っている事だろう」
そして言葉と同時、天幕に箒を抱え入って来たルクスの告げる新たな情報にアシュドは頭を振った‥‥余りにも予想通り過ぎたが為に。
●Tidal Wave
‥‥それは最終日だった、突如として前方よりやってくる騎馬の部隊が現れたのは。
アシュドの予想通り、鎧にある紋章から遂に痺れを切らしたブラグスの全兵である。
その数はアシュドが率いている兵よりに少ないが、他所の防備を疎かにする訳に行かない結果から実際には敵側が僅か勝っていた。
「このどよめく音の渦に旋律を与えるべく兵を動かし、戦場を一つの音曲に奏でよう。それでは諸君、Ahead‥‥Go Aheadだ!」
それでもウィザードを除いた兵で再編成された小隊を駆るレイヴァントがウォーホースへ乗って片手を振り上げ叫べば、周囲に展開されるほぼ同数の小隊も高らかに声を上げる。
その様子は明らかに、士気が高まって来ている証拠。
「これでほぼ、集められるだけの数か?」
「これ以上他を割けば何処かしらに穴が空くよ。もう少しでアシュドさんが動き出すからもう少しだけ、誘い込んで」
裏のひっそりとした路地から伝令として現れたレイジュへ壁として運用出来る兵をエルフの騎士が問えば、帰って来た答えに了承の意を示すと自身が統率する兵達へ後退の指示を出すのだった。
「まだだ、まだ少しだけ下がれ! そして勝利の鉄槌をかの者達へ!」
「この程度の数、何を手間取る! 早く蹴散らせ‥‥それにしてもアシュドは何処か?!」
キャメロット城へ力押しに攻め入らんとするブラグス、ただ一つだけの命令を下し眼前に立ちはだかるアシュドの軍勢を押し潰さんとするも、その中に紛れる冒険者達の練度の高さ故にそれは消耗こそさせるも完全には適わず、苛立たしさを露にして叫んだその時だった。
「呼んだか、ブラグス‥‥随分と久しいな」
背後から突如現れた魔術師達、情報戦では上を行く一行の手を借りて接敵するまでの時間に部隊を再編成し直すと魔術師だけの兵を二つに分けては後方に伏せ、互いが互いの攻撃に当たらない様に布陣していたのだ。
「悪いが目前しか見えないお前に負けるつもりは更々ない、旧知の仲故に今なら降伏する事も構わないが‥‥どうする?」
「くっ、兵を伏せていたかっ! 相も変わらず卑怯なり!」
「これが兵法と言うものだよ、それでは終幕だ‥‥」
完全に挟撃された形となるブラグスにそれを率いては降伏を勧めるアシュドだったが、首謀者の如何にもと言うべき負け台詞を答えと察してアシュドにレイヴァントは共に手を翳し‥‥迷う事無くその手を振り下ろした。
「それでこれから、どうするんですか?」
戦い終わって、昇る朝日を拝みながらアシュドへ尋ねるレフェツィアに返す答えとして、彼は暫く首を捻って見るが
「此処まで行動を起こした以上、結果を見ずにノッテンガムへ帰るのは癪だな。私が出来るだけの事をしてみるさ」
そして皆へ、この依頼で初めて浮かべるだろう笑顔でそれだけ言えば皆から兵達へ目線を移し‥‥ブラグスの攻撃がある事から分かっていた事ではあったが、騎士を中心とした敵部隊との交戦で予想以上に疲弊しきった様子から
「やはりやめ‥‥る訳にも行かないか。なら余り時間もない以上、僅かな休息の後に我らが騎士団と合流してウィンザーへ進むっ」
どうしたものかと考えるが、背中に薄ら寒い視線を感じるとアシュドは再び毅然とした態度を取り、兵達への指示を下す。
そしてその様子とルルイエの静かな笑顔を見て一行、とりあえず依頼を達成した事に安堵しては揃って、ウィンザーがある方へとその視線を向けた。
「しかしこれからが本番、何事もなければいいのだが‥‥」
騎士団の士気は高いと聞くが、それでも不意にゼファーが紡ぐ不安は果たして‥‥。
〜It Continues〜