【聖杯戦争】折れた剣を携えて

■ショートシナリオ


担当:蘇芳防斗

対応レベル:6〜10lv

難易度:やや難

成功報酬:4 G 9 C

参加人数:8人

サポート参加人数:2人

冒険期間:07月28日〜08月03日

リプレイ公開日:2005年08月06日

●オープニング

 彼の意思は固い、真っ直ぐなまでに固い‥‥だがそれは固過ぎた。
 何も固ければいいものではない、やるべき時にやる意地は必要であるが時には肩の力を抜いてただ流れるまま、流れなければならない時もある。
 だが、それは彼には出来なかった‥‥理想を信じて止まない純粋さ故に。
 だから‥‥ひたすらに追及しては追い求め、自らの騎士たるべき信念が折れたと思った時‥‥彼は初めて自身が進むべき道に迷っていた。
 折れた剣を携えて。

「‥‥と今のキャメロットはこの様な事態。早急に円卓の騎士が状況を把握する為、ある村に滞在しているユーウェイン卿を連れ帰って来て欲しい」
 冒険者ギルドにて、白髪が多い初老ながらも重厚な雰囲気を漂わせる男性の口から発せられる依頼に付いて、首を傾げながら受付嬢
「連れ帰って来て欲しい、と言う事は‥‥」
「場所の特定は出来ておる、じゃが当の本人は帰らないと言ってな」
「‥‥ウーゼル王とアーサー王の秘密が明かされたから、なんでしょうね」
 状況を確認しつつ彼の心中を察し呟けば、それを確信付けるように初老の男性が一つ頷き
「それ以外、何が彼程の者に剣を捨てさせようとする道を選ばせると言うか」
「そんな所まで‥‥」
「うむ、アーサー王から賜った剣を鎖で封じる様に縛り抱えては、静かにとある村で暮らしておる」
 説得も行ったのだろう、その時の状況を語れば呻く受付嬢へ頭を下げては改めて血反吐を吐く様な声音で頼むのだった。
「しかしながら時は、アーサー王はまだユーウェイン卿の力を必要としている。難しいかと思うが、我々ではどうしようも出来ない。先の依頼を考慮して‥‥こちらへ依頼に来た次第なのだ、宜しく‥‥頼む」

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 ミッション:ユーウェインを説得せよ!

 成功条件:ユーウェインの説得に成功した時。
 失敗条件:成功条件を達成出来なかった時。
 必須道具類:依頼期間中の保存食(日数分)は忘れずに。
 それ以外で必要だと思われる道具は各自で『予め』準備して置いて下さい。
(販売されていないアイテムに関して、使う場合はプレイングにて根拠の明示を忘れずに)

 その他:今はとある村にて剣を抜く事無く、騎士としての鍛錬をする事無く静かに暮らしていると言うユーウェイン卿に会い、円卓の騎士として復帰する様に説得しキャメロットまで連れて来て下さい。
 説得の手段に関しては皆さんに一任しますので彼の心にしっかりと決着を着けた形でキャメロットへ共に帰還して頂きます様、それだけ宜しくお願いします。
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●今回の参加者

 ea0453 シーヴァス・ラーン(31歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea0858 滋藤 柾鷹(39歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea2699 アリアス・サーレク(31歳・♂・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ea4460 ロア・パープルストーム(29歳・♀・ウィザード・エルフ・ビザンチン帝国)
 ea5541 アルヴィン・アトウッド(56歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea6237 夜枝月 藍那(29歳・♀・僧侶・人間・ジャパン)
 ea6870 レムリィ・リセルナート(30歳・♀・ファイター・人間・ノルマン王国)
 ea7623 ジャッド・カルスト(36歳・♂・ファイター・人間・イギリス王国)

●サポート参加者

デルスウ・コユコン(eb1758)/ 神哭月 凛(eb1987

●リプレイ本文

●A Road(道中にて)
「‥‥って事があってね、割かし意地悪な人なのかなぁなんて思ったのよ!」
 目的の村へと向かう道中‥‥一人挫けし円卓の騎士、ユーウェインを迎えに行く一行の中で彼を知るレムリィ・リセルナート(ea6870)が先の聖杯探索での彼の様子を身振り手振りで大仰に語れば
「それはまぁ‥‥微妙なところだな」
「なにおー、アリアスもそんなこと言うのー!?」
「‥‥卿は純粋な人からな」
 その話からアリアス・サーレク(ea2699)はその時の卿の心情を察し、同じく彼女の頭を撫でてみれば激しい言葉が返ってくるも、それとは裏腹に彼女の瞳が少し寂しげに見えシーヴァス・ラーン(ea0453)も彼の事を思い出し言う。
「どうやら着いた様ですね、此処の村に‥‥ユーウェイン様が」
 やがて皆の視界に目的であろう、村が目に入ると夜枝月藍那(ea6237)の呟きもまた沈痛なものだった。
「何故此処なのか、他に誰も知る事のない場所へ身を隠す事も出来た筈。まだ迷っている様である事は話の通り、か‥‥いざ参ろう」
 そして滋藤柾鷹(ea0858)自身が気になる事、強いて言えばそれは皆も同様で彼の言葉に頷けば何処か独特な雰囲気漂う村の中へと歩を進めた。
 誰か、戦闘の時とは違う緊張の為か‥‥それとも別の意味を持ってかは分からないが短く息を飲むその中で。

●Blowing(それぞれの思い)
「‥‥シーヴァス殿、だったか」
「こいつは光栄だ、円卓の騎士に名前を覚えられているとは。久し振りだな、ユーウェイン卿‥‥所でお前さん、こんな所で何やってるんだ?」
 村にある教会の前、ただ佇むだけのユーウェインを村中駆け回ってやっと見付ける事が出来たシーヴァスは、彼の口からついて出た言葉に仰々しく一礼するも続く言葉は厳しいものだった。
「また会おう、とメイドンカースルの戦いが終わった後で俺達は約束を交わした。また必ず‥‥とな。だが今、俺が会ってる男は誰だ?」
「円卓の騎士ではない、ユーウェインかな」
「‥‥なぁ、お前さんが目指したのは『騎士』じゃないのか? 敬神・忠誠・武勇・礼節・名誉、婦人への奉仕。これのどこに血筋が関る? 騎士ってのはここが勝負だろ」
 そして彼は続けて紡ぐも、それをあっさり受け流す円卓の騎士へ嘆息を漏らしながらそれでも彼は己が胸を叩いては言の葉を紡ぐ事を止めない。
「遺跡で俺を助けた卿は騎士の誉れを持っていた。皆への的確な指示、慈しみ、戦闘時の行動力、そして謙虚な心、あれは間違いなく円卓の騎士たる者だったぜ」
「そう、立派なものではないですよ。それに問題は自身だけの事ではありません‥‥アーサー王の」
 だが先程とは裏腹にユーウェインを讃える彼へ円卓の騎士は謙遜して言うもじゃらり、と鎖が鳴ればそれを合図に円卓の騎士が口は噤まれる。
「今、その王がイギリスの混乱に際し『ユーウェイン卿』を待っている。自身の事もあるだろうがまずは国の為に‥‥そんなユーウェイン卿を必要とする者達の伸ばした手を払えるのか? それはお前さんの中の『騎士』に恥じない態度なのか?」
「‥‥‥‥」
 そんな彼へシーヴァスは諦めず言葉を掛ける、強い光を宿した瞳で彼を見据えて。
「失礼、貴方がユーウェイン殿ですかな‥‥と、どうやら間違いないか」
「意外に早かったな、ジャッド」
 それに円卓の騎士は答えられず場を沈黙が包んだ時、現れたジャッド・カルスト(ea7623)の問い掛けは本人の答えを待たずしてもたらされると、飄々とした様相は変えずにシーヴァスへ笑顔を浮かべ返すと次いで目前にいる円卓の騎士へ頭を一つ下げる。
「私はジャッド・カルスト。冒険者をしている者だ、シーヴァスがいる事から分かっていると思うが‥‥」
「あぁ、察しはついているよ‥‥けれど」
 改めて一行が訪れた事情を説明しようとするも、それはユーウェインが紡ぐ言葉と次いで剣を封じている鎖が不意に鳴らした音で遮られ‥‥そして卿の言葉も最後まで紡がれる事はなかった。
「ユーウェイン殿にただ会いに来た、それだけでは駄目かな? 折角卿と会う事が出来ると言うので皆で揃って土産も持って来たのだが‥‥」
 しかしそれでも挫けない、ジャッドは取って置きのカードを切る様に言えば風がさざめく中で静かに笑い、その返事を待たず彼へ手を差し出した。

●Tea Party(茶会)
「丁度いい所に、今しがた準備が終わったばかりよ。それとわざわざようこそ、ユーウェイン」
 ジャッドが手に招かれるまま、ユーウェインが訪れたのは村の外れにある一本の木だけが佇む草原。
 その傍らに天幕を広げ、三人を迎えたのはロア・パープルストーム(ea4460)で普段座する卓とは違うだろうが彼の元へ駆け寄れば、簡易的にあしらえたそこへ笑顔を浮かべながら遠慮なしにその手を引いて一つの席へと座らせようとしたが
「一撃、付き合ってくれないか」
 アリアスの言葉と次いで投げられる太刀が一先ず座する事を許さず、ユーウェインも彼の瞳を見て本気だと理解してゆらりと地に乾いた音を立てて転がったそれを手に取り刃を返せば‥‥アリアスへ僅かな暇すら与えずに駆け出した。
 それでも彼は闘気を湧き上がらせると、その一撃を甘んじて受けた上で‥‥それに合わせ刃を振るうが先程まで彼がいた場所は既に彼の気配はなく、気付いた次の瞬間には太刀から手を離し更に懐へ飛び込んで来たユーウェインの肘打ちが入ると腹部に走る衝撃と同時、彼は空を仰ぐ様に転倒する。
「‥‥やはり円卓の騎士は強いな」
「そうでも、ないですよ」
 その結果に、彼自身も納得してはさばさばとした表情で呟くが円卓の騎士はそれを否定する。
「これは神聖騎士の妹がお守り代わりにと贈ってくれた剣なんだ。あいつは真面目で御人好しで、今も罪の無い人々が傷付かない様にと必死に戦っている‥‥いや、まずそれよりも済まなかった、折角の紅茶が台無しになるのも皆に悪い。座って、それからだな」
 そんな卿の調子に苦笑を浮かべるも、アリアスは言葉と共に剣を掲げると次いで想いが溢れそうになったが、それは何とか押さえて立ち上がると改めて円卓の騎士を茶の席へと招くのだった。

●Diary(騎士の手記)
 ロアとレムリィが紅茶の準備をするその中で、私は皆の話に耳を傾けていた。
 まだ以前の様な調子で皆と言葉を交わす気力は‥‥私にはない。
「何の為に剣を取り、その力を用いるのか? 何故騎士の道を選んだのか? 何に忠義を、剣を捧げるか‥‥今一度思い出して下され」
 ジャパンにおいて、騎士とも言うべき侍の柾鷹が紡いだ言葉に私は思考を巡らせると
「名声やお金とか‥‥そう言うものではありませんよね?」
 そして直後に彼と同じジャパン出身の藍那の問いへ、私は頷いた。
(「そんな物の為ではない‥‥そう、私は‥‥」)
「‥‥この様な争いに巻き込まれてしまった人達を貴方は見て見ぬ振りをしますか? もしそうなのであれば‥‥貴方の持つその剣を私が貰い受けます、守る意思の無い人には無用の物です」
 過去の記憶をまさぐる中で不意に剣を封ずる鎖が鳴り、彼女の言葉が続いている事に気付くと‥‥次いで自身が目指すべく『騎士』の標を思い出した。
「‥‥力が欲しかった、誰かを守れる位の力を。だから私は‥‥円卓の騎士を」
 『過去』を思い出して私は顔を顰めると、その様子に気付いた皆が何事かと困惑する中で‥‥私は気付く。
「なら今の貴方は何を悩んでいるのでしょうか。信じていた王の過去‥‥それが貴方には許せないのですか? しかしそれは王自身の人としての中身には何も関係ありませんよね、貴方の心の先にあるのは王への思いかも知れませんが‥‥国民はどうなるのですか? 今一度自分が何を信じ、何を守ろうとし、何がしたかったのか考えてみて下さい」
 だが私が気付いたそれを藍那が代弁する様に言えば、あの時の『誓い』を思い出す。
「王や仲間、国民らが危険に晒され‥‥尚、黙って見過すと言うのならそれこそ今までの道が全て無駄だと認めるような物、それでも宜しいか?」
「それは違うっ!」
 不意に、過去を否定する問い掛けをして来た柾鷹へ私はやおら立ち上がり思わず叫ぶと‥‥不意に訳が分からなくなる。
(「騎士として目指すべき道はある‥‥なら私は何の為に王に仕えているのだろうか?」)
「‥‥王は貴殿が必要と申された、恐らく円卓の騎士としてのみでなく貴殿個人としても。人の本質は血統や地位に左右される物ではない。その剣と今まで見てきた王を思い出されると宜しかろう」
 尤も大事であろう事が抜け落ちている事からそんな惑いに駆られている中、柾鷹が紡ぐ句は続き私はその言葉はそのままに受け止め考えるも迷走する思考が重なれば‥‥やがて何を言えばいいのか分からなくなった。
「俺は騎士ではないのでこの様な事しか言えないが‥‥騎士、いや人が誰かについて行こうとする時はその人の志に惹かれた時だと思うんだ。柾鷹が言う様に王の志はとは何だろうな」
 その時だった、場が静まるその中で風の様に生きると言っていたジャッドがそれを払う様に一言呟くと私は何かに弾かれ、顔を上げた。
「今、イギリスが混沌に包まれようとしている‥‥この混沌の犠牲者は圧倒的に無辜の民が多いだろう。その時、ユーウェインは身を潜め混沌が収まるのを待つだけなのかい? 王が‥‥皆が守るべきものを守る為に戦っているこの時に」
 初めて会った時とは違う、真剣な眼差しで見つめる彼に私は今まで何をしていたのか、そしてこれから進むべき道を何となしに見出したが、敢えてそれは口にせずもう少しだけ思考の波に飲まれてみようと思い
「‥‥苦いな」
「少し失敗したかしらね、普段から家事なんてしないから」
 差し出された冷たい紅茶を一口啜ると、口内に広がる苦味から顔を顰め‥‥それを見てロアは首を傾げながら、それでも私へ向けて笑顔を浮かべた。
 それに少しだけ、心の奥底にわだかまっていたものが溶け出した気がした。

 その夜、昼とは打って変わりレムリィの提案で酒宴が催される。
「さ、お姉さんに何でも言ってごらん?」
 半数近くの面子が既に辺りへ転がる酒壺同様に寝こける中で、年上ぶる彼女の頭を撫でれば以前同様にむすくれるレムリィを見て、私は久々に笑った気がした。
「求める『騎士とは何か』の理想形を王に見ていたんじゃないのか? それは裏返せば王を騎士の偶像と見て盲目的に後を追い駆けていただけで、だから瑕を見つけ完璧な理想でなくなった為に、道を見失って動けなくなった‥‥そうじゃないか?」
 随分と静かになった場で起きているアリアスが呟いた言葉は比較的に的を射ていた。
「少し、違うかな。アーサー王の志が一つを‥‥私が貫くべき騎士として進む道と同じそれを、露になった瑕で見失ったんだと思う」
「じゃあ‥‥」
 私の言葉にその瞳を輝かせ尋ねてくるレムリィに私はどう答えたものか逡巡すると、それを見透かしたのだろう、アリアスが再び口を開く。
「先へ進む道の足場は他者に求めるのでなく自分の中にこそ求めるべきだと、そう思う」
 日中の話から僅かだけ、彼の内心を察すると私は立ち上がって‥‥だがやはりもう一度だけ起きている者達を振り返ると尋ねるのだった。
 今にして思えば、皆の目には間抜けに映った事だろう。
「しかし、今になって戻るのも‥‥」
「大丈夫! あたしが許す!」
「他の騎士様達は何を考え、行動していらっしゃるのかそれぞれの理由を聞きにキャメロットへ帰るのも悪くないと思うわ。答えは今出す必要無いもの」
 だがそんな問いにも拘らずレムリィとロアが至って真面目な表情を浮かべ、そう返せば少しの間を置いてから私は剣に絡む鎖を解き‥‥捨てた。
 ‥‥が不意に甲高い音が周囲に響き、寝ていた者を起こしてしまったのは言うまでもない。

●Knight of Lion(獅子の騎士)
 頬を撫でる風は血を纏い、辺りに打ち捨てられた死体の数々が戦いの激しさを物語る。
「‥‥話には少し聞いていたが、まさかこれまでとは」
 キャメロットからそう離れていない、少し前まで死霊の群れ達が蹂躙していたのだろう戦場に立ち、凄惨な光景に目を奪われるのは獅子の騎士ことユーウェインだった。
 まだ何かに囚われている雰囲気こそ醸し出してはいたが、それは先日に比べれば殆ど薄らいでいた。
 そしてその光景から自身が何を行うべきか、自ら改めて掲げた標に従い一先ずその場から踵を返し
『もし貴方の剣が再び輝く時があれば俺は喜んで力になるよ』
「‥‥では早速、貸して貰う事にしようか。誰でもない、皆を守る為に」
 別れ際に言ったジャッドの言葉を思い出して笑うと、キャメロット市街へ向けてその歩を進めるのだった。