夜王降臨

■ショートシナリオ


担当:蘇芳防斗

対応レベル:7〜13lv

難易度:やや難

成功報酬:3 G 80 C

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:07月29日〜08月03日

リプレイ公開日:2005年08月08日

●オープニング

「ふーん‥‥うーん‥‥」
 キャメロットは冒険者ギルドにて、他の受付嬢が受理し発行した依頼書を受け取り見ては呻く受付嬢。
 その机の上に置かれている一枚の羊皮紙を穴が開きそうな勢いで見据えては、先程から呻いてばかり。
「どうしたよ、一体?」
「これよ、これ‥‥今回の依頼」
 その様子に声を掛けて来た冒険者へ彼女は実際には穴の開いていない羊皮紙を差し出す。
「書いている通り、梟退治の依頼。狩猟する獲物に村で飼っている牧畜とかが襲われているからだって‥‥鼠とか兎なら分かるんだけどそんな事、あり得ないわよねぇ。可愛いし」
 ‥‥最後の一言はともかく、依頼書へ目を通す冒険者へ掻い摘んで解説すれば再び溜息をつく彼女だったが
「‥‥これ、見たか?」
「え?」
 羊皮紙のとある一文に気付いた彼は言葉と共に受付嬢の眼前に改めて羊皮紙を突き付け、その箇所を指差す。
『体長二メートルにもなる巨大な‥‥』
「あ、あはははぁ‥‥へー、そうなんだ。それなら退治しないとねっ!」
 それに気付けば受付嬢、乾いた笑いを浮かべた直後には何事もなかったかの様に握り拳を作って普段通りに振舞えば目の前にいる彼は勿論、周囲でそば耳を立て聞いていた冒険者達は揃って頭を垂れれば彼らこそ呻かずにはいられなかった。
『‥‥大丈夫なのかよ‥‥』

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 ミッション:巨大梟の群れを退治せよ!

 成功条件:巨大梟の全数(五匹?)退治に成功した時。
 失敗条件:巨大梟を全数退治が出来なかった時、若しくは村人達に被害が出た時。
 必須道具類:依頼期間中の保存食(日数分)は忘れずに。
 それ以外で必要だと思われる道具は各自で『予め』準備して置いて下さい。
(販売されていないアイテムに関して、使う場合はプレイングにて根拠の明示を忘れずに)

 その他:今回は単純に、ジャイアントオウルの退治が目的の依頼となります。
 その速度と一撃の重さは非常に侮りがたいものがあるので十分に気を付けて頂きます様、宜しくお願い致します。
 ちなみに巨大梟の巣は村人達が主な狩猟場にしている木々深い山の天辺にあるそうです。
 撃退に向かう場合は頂上へ至るルートにもよりますが、先に気付かれる可能性は十分あります。
 それと最後に、村への襲撃ですが梟の習性からやはり深夜の襲撃が多いようです。
 今の所、毎日と言う事ではない様ですが村にいる牧畜の数も大分減少しているそうなので、このままではいずれ‥‥。
 以上の事から依頼人から特に言われてはいませんが解決して頂きます様、宜しくお願いします。
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●今回の参加者

 ea0018 オイル・ツァーン(26歳・♂・レンジャー・エルフ・ノルマン王国)
 ea0023 風月 皇鬼(31歳・♂・武道家・ジャイアント・華仙教大国)
 ea1003 名無野 如月(38歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea1131 シュナイアス・ハーミル(33歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea3468 エリス・ローエル(24歳・♀・神聖騎士・エルフ・イギリス王国)
 ea3731 ジェームス・モンド(56歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea3991 閃我 絶狼(33歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea8088 ガイエル・サンドゥーラ(31歳・♀・僧侶・エルフ・インドゥーラ国)

●サポート参加者

緋邑 嵐天丸(ea0861

●リプレイ本文


「彼らも自然に生きる者、他者の縄張りに踏み込めばどうなるか知っているでしょうに」
 梟の襲撃を受ける村へ進む道を行く一行、達成は可能でもかなりの困難が待ち受けているだろう今回の依頼だったが、その道中で責任感の強さから強気に皆へ自然の理を説く神聖騎士のエリス・ローエル(ea3468)だったが
「しかし梟か‥‥空を飛ぶ敵とは、厄介極まるな」
「それも五匹、この依頼‥‥骨が折れそうだ」
 中には自身の力量から不安を抱える者もおり、煙管から煙をくゆらせ呟く名無野如月(ea1003)にガイエル・サンドゥーラ(ea8088)もそれに呼応する。
「それでもやらねばならんのだ、俺達は。梟も生きていく為だろうが、人間様にも生活がある‥‥因果なもんだが、仏心を出す訳にもいかんからな」
「あぁ‥‥分かっている。引き受けた以上、それは必ずやり通そう」
「今度は『梟殺し』、かな?」
「まぁそう堅くならずとも、気楽に行こうじゃないか」
 そんな二人へ一行の最年長で人生の先輩とも言うべきジェームス・モンド(ea3731)は彼女らを導こうとするも、ガイエルと如月の先の言葉とは裏腹な意志には宥め落ち着かせようとする。
「そーいや、ボス格の梟がいるんだって? ただでかいだけなら良いんだけど‥‥ソニックブームとか使えたりしないよな?」
「さぁ、どうだろうな。俺としては強ければ強い程やりがいがあっていいと思っている。偶にはこう言うのも悪くない」
 その傍らでは閃我絶狼(ea3991)は過去の依頼を思い出して彼女らとは別な不安を抱いたが、表情だけ無愛想なシュナイアス・ハーミル(ea1131)が浮かべる笑顔には肩を竦め僅かに呆れた。
「自然の理を乱している事に気付いて貰えない以上‥‥」
 そしてエリスが微かに惑う気持ちへ見切りを付けると、その瞳に目的の村と山が飛び込んで来るのだった。
「そう、だな‥‥負けるつもりは、無い」
 その光景に戦いは近い事を改めて感じるとオイル・ツァーン(ea0018)は誰にも聞き取れない程、小さな声音で呟くのだった。


 静かなる闇が包む夜を迎え、その頃になってもまだ一行は慌しく村中を駆け回り梟との一戦に備えていた。
「‥‥こちらの方も村人及び家畜の全数が屋内に隠れたのを確認した」
「それでは準備完了ですね」
「後は、梟が来るのを待つだけか」
 ガイエルの報告を最後に、戦うべく準備が整った事をエリスが皆へ言えば風月皇鬼(ea0023)は先程まで眠っていた為か、まだ残る眠気から欠伸をするもそれを慌て噛み殺して言うと
「腕の見せ所ですよ、囮役の皆さん。頑張って下さいね」
 その様子にエリスは苦笑を浮かべながら囮役を買って出た三人へ激励の言葉を掛け
「見張りは私に任せて下さい、この目は伊達ではありませんよ‥‥それでは皆さん、始めましょう」
 改めて皆を見回し、頷くのを確認してから一行は闇へ溶ける様に消えた。

 そして暫く、時は緩やかに流れるだけで辺りはただただ静かなまま。
「‥‥何も来ないな」
 先の皇鬼同様、襲い来る眠気から欠伸を噛み殺しながら変わらない状況と煙管が今は口元に咥えられない事から少々落ち着かない如月だったが、それはそんな時にやって来た。
 ばさり‥‥
「‥‥来ました、皆さん気を付けて下さい」
 皆が羽ばたきをその耳に捉えるといち早くエリスがそれを目視し、小声で警告を皆へ告げればガイエルが急ぎ、長めの綱で枝にぶら下げているランタンを覆い隠す布を次々に取り払うと、囮役近くの梢に潜伏していたオイルもまた周囲へ燃え移らない位置に設置していた灯り用の藁へ火をつけ、皆の視界を確保する。
「大きい‥‥ですが、引く訳には行きません」
 目に映る、その梟の巨大さにエリスは息を呑んだが自身に言い聞かせる様に呟いた‥‥その直後
 空気を叩き飛翔していた梟はやがてその身を倒し滑空を始め、空を切り裂きただ真っ直ぐにその視界に移る者達の元目掛け、急降下を開始する。
「やっとおいでなすったか‥‥待ち草臥れたぜぇっ!」
 そしてそれを迎え撃つのは日中、十分に睡眠を取った皇鬼で誰よりも早く立ち上がると叫んで梟を誘えばそれは功を奏し、梟は彼の袂へ飛び込んで来た。
「ちっ、浅いか?!」
 そして振るわれる爪をその身で受け、翼を狙って渾身の力を込めた拳で打ち抜こうとしたがそれは寸での所で身を捩って避けられ、翼部の一部だけを削るに留まると慌て急上昇を開始する梟。
「‥‥っ、間に合わん‥‥か」
 その一瞬の暇、それ目指し駆ける皆同様にオイルも駆けるが火を点けるのにいささか手間取り舌打ちするその中で遂には中空高く舞い上がる‥‥筈だった梟は、ガイエルかエリスの唱えた魔法で中空に一瞬動きを縫い付けられ、次いでミミクリーによって延長された腕を持って振るうジェームスのチェーンホイップがその身を絡め取ると、地へ叩き堕とした。
「やるなぁ、ジェームス」
「いや何ね、この俺も鞭を使わせたらそれなりにやるものさ」
 そんな一瞬の攻防が終わった直後、感心する絶狼へ渋さを全開にジェームスが哀愁漂わせ言うと
「とりあえず、これで終わりか‥‥流石にこれだけ数に差があれば当然の結果だな」
「所でどうしましょうか、残る四匹」
 やがて正気に戻った梟が鞭に束縛されながらも暴れる中、それを見つめ攻防に出遅れた如月の口惜しそうな呟きに皆へ問う絶狼。
「一先ず今日はもう少し様子を見てみよう、時間はまだある。山狩りは明日の出方次第だろうな‥‥」
 それに如月同様出遅れたシュナイアスが言う通り、まだ夜が明けていない事からそう判断すれば先はまだ長い事を改めて皆に示唆すると、一行はまたあるかも知れない梟の襲撃に備えて再びそれぞれの持ち場に戻った。

 そして村を訪れた初めての夜は明ける‥‥その夜明け頃だったか、ジェームスは山の方角から一つ、梟の鳴き声を聞いた気がしてそちらへ目をやって静かに呟いた。
「‥‥すまんな、俺達にも生活がある。許せとは言わないが‥‥」
 静かに紡がれたその言葉の最後は、日が昇ると同時に鳴き始めた鳥達の囀りによって掻き消された。


 ‥‥翌日の夜、日中に全ての準備を改めて整えて直しては先日同様に囮を立てて待つ一行の耳に昨夜より遅い時間、夜空より響く羽ばたきが届いたのは。
「‥‥残り全てが来た、か」
 月を背負っては囮役の三人を照らす月光を遮る影が今日は四つ、変わらず身を潜めるオイルの目に飛び込んで来ると隙なくそれらを伺う中で呟いた言葉が合図になったのか、一際大きな梟が鋭い鳴き声を発し四匹は一斉に囮が一人へ集中して急降下を始めた。
「俺かよ!」
 その標的は騎士がシュナイアス、慌て皇鬼に如月がその間に入ってそれぞれ一匹ずつを牽制するも二匹は進路をそのままに、彼目掛け突っ込んで来る!
「‥‥っそ!」
 止むを得ず、二匹の攻撃を急所を避けてはその身で受けつつ一匹だけに的を絞って自身が持つ膂力を限界まで引き伸ばすと、大上段から渾身の力を持って振り下ろせば梟が羽ばたくより疾く、その頭部を打ち砕く。
 次いで盛大に飛び散る梟の血の中で彼は慌て、周囲を見渡せば皆は散り散りになりそれぞれが梟へ対応する状況となっていた。
「くぅっ!」
 その傍らで初撃を凌いだ後の隙に全てを賭けて一刃を振るう如月だったが、それは皮一枚の差で回避されると今は防戦一方に回る。
「余り無理をするな!」
 それでも隙を再び伺って次なる刃を振るう彼女だったが、僅かに体が泳ぐとそれに乗じ爪を振るおうとしたがシュナイアスがクレイモアを振るい牽制すれば上空へ飛翔する梟、その間に如月と背を合わせ相手の出方を伺うシュナイアス‥‥そして梟もその二人の様子に暫く中空で二人の隙を見逃すまいと羽ばたくだけ。
 ‥‥勝負は一瞬、互いにそれを察して動かなくなってから少しだけ、時が流れる。
「水を注す様ですまんが、これで‥‥お終いだ」
 乾いた音が辺りに響けば、それは紙の摺れる音だと察した如月が声の方向へ振り返るとその音に反応して降下する梟を目標にスリープを放ったのはガイエル。
 程なくしてそれは効果を表し、梟の翼が羽ばたく事をやめると地表目指し落下を始める所へ続けて彼女は急ぎプラントコントロールのスクロールを取り出し、周囲に生える木の枝を触手へと変え、それを束縛する。
「任せても良かったんだが、まだ敵は残っている故に少しでも負担は軽くせねばな」
 様々な思いから、複雑な表情を浮かべる騎士と浪人だったが二人を諭す様にガイエルが言えば背後から照らす灯りの中で彼女は苦笑を浮かべた。
 ‥‥残り、二匹。

「守るべき者の為に、討たせて頂きます」
 悠然と空の高みに飛翔する梟へ、決然とした態度は変わらずエリスが告げるとそれを挑発と受け取ってか、彼女目掛け疾駆する夜の王者に合わせ彼女もダッシュすると勢いのまま梟と交差し‥‥手傷を負った梟が上空に舞い上がれば駆けながらも詠唱を始め、オイルが飛んだ次の瞬間。
「その翼、最早空飛ぶ事叶わず‥‥コアギュレイト!」
「よし‥‥これで」
 くるりと踵を返し、目標を見据えれば完成させたコアギュレイトで梟を束縛するとオイルが狙い済ました位置に落下してきた梟が翼を銀の短刀で根元から切り裂き、地へ叩き落すと僅かな間を置かず着地してその命を刈り取った。
 これで三匹、そう時間は掛かっていない‥‥だが残る一匹は非常に厄介だった。
「下手には動けないか‥‥」
 残されたのは梟達の群れを統べる一際大きな梟で、その攻撃に晒されては凌ぐ事だけに専念する絶狼の判断は正しい。
 攻撃を受け流す事は出来ても自身の回避技術ではそれを避ける事が出来ない以上、ひたすら軍配で防御に専念するもその場から一歩も動く事叶わず、その場に縫い止められていた。
「くそっ、降りて来やがれーっ!」
 それを牽制し、絶狼から引き剥がそうと拳を振るう皇鬼だったが傷だらけの巨大梟はそれを嘲る様に早きを持って中空を舞い上がる。
「今の内‥‥って、こいつもか」
 その間に場を離れようとするも、絶狼目掛け羽ばたきから衝撃波を放って彼の動きを牽制する梟へ彼は冷静に、だが嘆息を漏らすと凛とした声で短く紡がれた詠唱が二つ、その場に響いた。
「かの者を捕らえよっ!」
「効かない‥‥か」
 だがエリスにガイエルが放つ魔法は抵抗され、行動の抑止には繋がらない‥‥それでも散っていた面子が徐々にその場へと集まり出せば、残された梟は一声鳴いて更なる速度で宙を駆り絶狼へその爪を一閃すると直後、離脱を試みる。
「引き際は逃さんつもりか‥‥だが、このまま行かせる訳にはいかん」
「っ‥‥そこぉ!」
 ‥‥それは淡々とした口調で渋く決めるジェームスと先程のお返しと叫び絶狼が同時に放った鞭は、その両足を絡め取る事に成功する。
「これがせめてもの、情けだ‥‥」
 程なくして傷だらけの梟を中空より引き摺り下ろすと静かな夜の只中に最後の梟が上げる、嘆きにも似た鳴き声が響くと一行は戦いが終わった事を理解し‥‥複雑な表情を浮かべたが
「強者の領域に踏み込めば報いが来ます、そして強者である人の領域は広がるでしょう‥‥それが今の世の理です」
 昇る日が放つ陽光の元、晒される梟の死骸へエリスは囁く様に‥‥諭し掛ける様に呟くと十字を切って彼らの冥福を静かに祈った。


「確かに立て直す事は容易ではありませんが、それでも皆さんの為にと準備したものですし‥‥このお金は」
「理由もなく金など受け取れないか? 元からやるとは言ってない、貸すだけだ。村が軌道に乗ったら適当に利子を付けて返してくれればいい。俺は気長に待っていよう」
 それから一行の中、シュナイアスだけが申し出た話に村長は困惑し丁重に受け取れない旨を告げ断るも彼の押しにやがて負けると、幾許かの報酬金を預かればそれ以上何も言わず去って行く騎士に一行の背中を暫くの間、見送るのだった。