Speed Stars

■ショートシナリオ


担当:蘇芳防斗

対応レベル:6〜10lv

難易度:普通

成功報酬:3 G 40 C

参加人数:6人

サポート参加人数:2人

冒険期間:07月30日〜08月05日

リプレイ公開日:2005年08月08日

●オープニング

「‥‥お前に頼むのは少々不安だが、今は人手が足りないのでとある件を任せる事にした」
 何処か、闇の中で微かに揺らめく灯りの下で煌く蒼き鎧を身に着けた巨躯の男は目の前にかしまづく、時期外れの長いマフラーをはためかせている男へ命令を下す。
「キャメロット近郊のとある村で虜囚の身となっている男を連れて来て欲しい‥‥近々小規模な護衛を持ってキャメロットへ護送がある、その際に」
 そして一枚の紙を目の前にいる騎士、ヴィーに差し出せば彼がそれに目を通している間に再び口を開く。
「‥‥だが、お前一人では過去の実績からして不安が残る。それを踏まえて今回は三人程お前に貸す、協力して任務を達成して来い」
「俺一人でも十分で、旦那!」
「‥‥成功してから言うのだな、それは」
 その提案を突っ撥ねるヴィーだったが、巨躯の男にそれを言われてはぐうの音も出ずうな垂れると蒼き鎧、一つ指を鳴らす。
『‥‥‥‥』
 そしてそれを合図にクルクル舞い踊り新たにその場へ現れる男、巨躯の男は当然ながらヴィーも絶句するその中で‥‥これまた蒼い衣服で全身を固めた彼は二人の近くで急停止すると、ヴィー目掛けて一枚の木板を投げつけた。
「ぶふぉっ!」
「ふっ‥‥話通り、お馬鹿な様子。だが今回は大丈夫! このゼルクトゥス・ライゼルと愉快な仲間達が付いているからな!」
 ‥‥その自己紹介もどうかと思うが、ゼルクトゥスとか言う彼はそれを一切気にせずに今度はヴィーへ手を差し出すと
「しかしながら君も僕同様な素養を感じる‥‥この様なきっかけで知り合ったのも何かの縁、お互い切磋琢磨しては今回の任務‥‥絶対に成功させようではないか。君とならきっと出来ると信じているっ!」
 目線を合わせればお馬鹿な騎士に何かを感じてだろう、笑顔を浮かべて言う。
「‥‥そう、だな。旦那が笑い転げる程あり得ない成功率の任務でもお前とならやって行けそうな気が俺もした! よし‥‥蟻が象に踏み潰される直前の気持ちで頑張ろうぜ!」
 どうすればこうなるのか‥‥何故か意気投合した二人、お互い肩を組むと巨躯の男の存在等すっかり忘れては早々とその場を後にする。
「‥‥『イレギュラーズ』とでも名付ける事にしよう」
 そんな彼らの様子に渾名をつければ一人場に残された男はやはり不安に駆られ、頭を抱えるのだった‥‥そう思うなら頼まなければいいのに、と思うのは秘密にしておこう。
 色々と事情があるのだろうから、まぁそれはしょうがない事にして‥‥何にせよ、上の人間は大変なのである。

 そんな出来事から数日後、一部の貴族達が反乱続くキャメロット。
 混乱続くその中で騎士団から冒険者ギルドへ一つの依頼が舞い込んでくる。
『以下に記す村へ向かい、ヴラッドソンなる虜囚を警護しキャメロットへ無事に連れて来て欲しい。尚、虜囚の詳細については一切を秘匿とさせて貰う』
「‥‥まぁ状況が状況とは言え、ちょっと納得行かないかな。んー‥‥」
 一通の手紙に記されている内容に憮然とした表情を浮かべながら、だが確かに依頼とする上で必要としない情報だろうと判断すれば彼女は早速依頼書を認めるのだった。

――――――――――――――――――――
 ミッション:とある人物をキャメロットまで護送せよ!

 成功条件:何事もなくキャメロットまで護送出来た時。
 失敗条件:護送に失敗し、連れ去られた時。
 必須道具類:依頼期間中の保存食(日数分)は忘れずに。
 それ以外で必要だと思われる道具は各自で『予め』準備して置いて下さい。
(販売されていないアイテムに関して、使う場合はプレイングにて根拠の明示を忘れずに)

 その他:ヴラッドソンと言う虜囚をキャメロットまで護送する事が今回の依頼になります。
 どう言った方か、詳細は分かりませんが目的の村で彼を監視している騎士団の方がいますのでその方から身柄を預かって下さい。
 それとどうやら何者かが彼の身柄を狙っていると言う話があるそうなので、道中は十分に気を付けて下さい‥‥尚、村からキャメロットまで二日と少々掛かりますが護送ルートは特に指定されていませんので、その選択は皆さんの判断にお任せします。
――――――――――――――――――――

●今回の参加者

 ea1402 マリー・エルリック(29歳・♀・クレリック・パラ・イギリス王国)
 ea2269 ノース・ウィル(32歳・♀・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea3827 ウォル・レヴィン(19歳・♂・ナイト・エルフ・イギリス王国)
 ea5981 アルラウネ・ハルバード(34歳・♀・ジプシー・人間・ビザンチン帝国)
 ea9027 ライル・フォレスト(28歳・♂・レンジャー・ハーフエルフ・イギリス王国)
 ea9089 ネイ・シルフィス(22歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・イギリス王国)

●サポート参加者

ゴールド・ストーム(ea3785)/ 神哭月 凛(eb1987

●リプレイ本文


「一体何をして捕まって護送する事になったのか知っているか?」
「申し訳ありません、私も詳細については聞いておりません‥‥無論、彼も頑なで口にせず」
 虜囚の護送と言う事でそれがいる村へ辿り着いた一行、早速その足で騎士団の簡素な詰所に向かうと、牢の中にいる髭面の男を見ながらウォル・レヴィン(ea3827)が彼を監視する騎士へ問えば、帰って来た答えに一つ呻く。
「だが見た感じ、口を噤む程の悪事を働いた者とは思えないのだがな」
 そんな虜囚の外見から率直に思った事を口にするノース・ウィル(ea2269)の言う通り、ヴラッドソンという男の面立ちは髭面でこそあるが極端な悪人面ではない。
「顔だけじゃ分からないわよ、ノース‥‥で、護送はいいんだけど襲撃があるかも知れないって言う情報の出所は何処からなのかしら?」
 そう呟いて複雑な表情を浮かべる彼女へ、アルラウネ・ハルバード(ea5981)は諭し掛けると次いで牢屋へ詰める騎士へ依頼書を読んでから引っ掛っていた事を尋ねれば
「最近怪しい人を見たとかって言う話があったりするんじゃないか?」
 彼女に次いで、騎士の代わり自身の予想をライル・フォレスト(ea9027)が紡げばそれを肯定し、その騎士は頷くと
「そうですね、この辺りにある村で虜囚について尋ねる、見知らぬ二人の男がいると言う話がありまして‥‥」
「時期が時期と言う事から警戒強化の意味合いかしらね、状況が状況とは言えもし虜囚が逃げたと言う事になれば騎士団の名誉が傷付く事になる‥‥そんな所?」
「‥‥その通りです」
 事情を説明し始めるも今度はアルラウネがそれを言い当て、役目を失った彼はうな垂れる。
「あぁ、ごめんなさいね。私達が聞いているのに」
「そう落ち込むな、まだ聞きたい事もあるからな」
 その落ち込みっぷりに新米の騎士なのだろうと察し、すかさずフォローするアルラウネとノースの言葉を聞いて彼も顔をやっと上げると、再び尋ねられた事へは誰も口を挟む事無く嬉しそうに答えていく、その傍ら。
「あたし達が無事にキャメロットまで送ってみせるよ、だから安心しな」
「‥‥‥」
「うーん、だんまりだと困っちまうんだけど‥‥まぁ、宜しく頼むね」
 ネイ・シルフィス(ea9089)が牢越しながらヴラッドソンへ挨拶するも、寡黙な性格なのだろう無言で彼女へ目線だけ向ける彼にネイはいささか困るも、一先ず笑顔だけ浮かべたが
「‥‥‥休みましょう、明日から移動ですし‥‥私、お腹‥‥空きました」
 騎士の話が終わった様で、場がまず一区切りした事に気付いたマリー・エルリック(ea1402)がネイの服の裾を引っ張ると、今度は苦笑を浮かべる魔術師は皆を促し詰所を後にするのだった。

●初日
 一行はキャメロットへ至るにはやや遠回りになる山道を選び進んでいた、聖杯戦争が始まって間もない頃だった為と、やはり街道ではどうしても目立つ事を考慮して。
「今の所、何事もないか」
「気を付けておくれ‥‥何か嫌な予感がする、さっきからそれだけ収まらないんだよねぇ」
 山道を進んで暫く、周囲を警戒するノースの呟きにどうしても薄ら寒い予感だけ拭い切れないネイが慎重な面持ちで皆へ呼び掛けたその時だった、高笑いと次いで馬鹿みたいに高いテンションで紡がれた言葉が辺りへ反響して聞こえて来たのは。
「何だ、今宵の食卓について相談しているのか?! それなら牛の丸焼きを推奨するぞ‥‥我が食べたいだけだがな!」
「ふむ、分かった。リーネに頼んで調達させて置こう」
『‥‥‥』
「‥‥美味しそう」
「出たねぇ‥‥馬鹿と煙はなんとやら、と言うに相応しい場所から」
 その大部分が彼らと初見と言う事もあって殆どの者が絶句するが、マリーは口元へ指を当て羨ましげな視線を二人に返し、一行の中でヴィーを唯一知るネイは相変わらずの登場に呆れて嘆息を漏らす。
「えーと、そっちのマフラーは『絶対無敵のアリンコ』だったっけ? 噂のあんたに会えて嬉しいよ♪ で、そっちは知らないけど‥‥『青き伝説のカトンボ』とでも言うのかい?」
『違うわっ!』
 がそれでも臆さずライルが二人へ親しげに微笑み言えば、二人は全力でそれを否定し‥‥一行が見上げる先にある崖の上で踊っていた。
「なぁ、投げたら何でも当たるのか、あれ?」
「そう、あれだよ。いい的だからね」
「あれとか言う‥‥へぶっ!」
 その様子にウォルが指を差しつつネイへ問えば、彼女が笑って答えるその中で崖の上の騎士は再び反論したが言葉の途中、飛来する鉢植えが命中すれば悶絶の呻き声を上げる。
「‥‥何でだ! 何で当たる!」
「精霊のお告げってやつ?」
 前々から疑問に思っていた事をアルラウネが答えると一瞬の沈黙の後
「そうか、そうだったのか‥‥」
 信じたのだろう、愕然とする彼だったがそれを皮切りに皆は一斉にヴィー目掛け手近に転がる石を数多投擲すると当たる度に悲鳴を上げるヴィー‥‥と、余りにもそれだけが長い事続くので失礼ながら一部割愛させて貰うとして
「何でゼルは当たらん!」
「日頃の行いがいいからさ」
「それなら俺も負けん! 甘んじて犬の餌になりかけたり、見知らぬ家の見知らぬ主人へ三つ指立ててお出迎えしてみたり‥‥」
「‥‥飽きた、詰まらない」
 小一時間程経ったか、相方には全く石が当たらない事から仲間割れする二人へ止めの言葉と共にマリーが放った石は余程当たり所が良かったのだろう、その一発にヴィーは上体を揺らがせ‥‥崖から落ちると
「ヴィー!」
 一行へ未だ名乗り上げていないゼルクトゥスが彼を助けようとして、やはり谷底へと落ちていく‥‥意外に義に厚い人間かも知れない。
『‥‥うわぁ』
「‥‥先に行こうか、邪魔な奴らも消えた事だしね」
 だがその光景に何もそこまでと一行が呻く中、二人になっても結局同じと結論付けるネイは倍加する精神的疲労に眩暈を覚え‥‥それでも依頼を果たす為と自らに言い聞かせ皆を促せば、再び歩き出すのだった。

●二日目
 山道から降りて森の真只中を進む一行。
「‥‥睡眠不足は‥‥お肌の、敵。おやすみなさい‥‥」
「あぁ、お休み。しかし今日は来ないのかなぁ、退屈なんだけど」
「話の通り、確かに面白かったけど‥‥しつこそうだから私は御免被るわ」
「私もアルラウネ殿に同意だな」
 この日は特に何事もなく一日が過ぎ去ろうとし、それでも静かな闇の中で夜通し見張りをする一行。
 そしてもう寝息を立てている三人の傍らで早速暇を持て余すウォルだったが、それに反対するアルラウネとノース。
「今頃何しているんだろうな、あいつら‥‥」
 まぁそれもそうか、と思いながら手に持つ縄の先で寝ているヴラッドソンを見てウォルはふとあの間抜けな二人が今どうしているか、不意に気になった。

 同じ刻、同じ空の下、同じ森の中。
「なぁ、此処は何処だ? あいつらは何処に姿を隠した?」
「知らんよ‥‥いつの間にかリーネとビルとも別れる破目になる程、君の方向感覚の凄さが分かった事だけ今回はいい勉強になったがね」
 そう深い森でもないのに、ヴィーの先導によって朝から迷走を繰り返す彼らだった。

「‥‥むにゃ」
 そんな事は露知らずライル、その傍らで眠るネイと共に過ごしている夢でも見ているのだろうか幸せそうな笑顔を浮かべ、一時の休息に身を委ねていた。

●三日目
 森から出れば遂には街道と交わり人が行き交うその中を進む一行‥‥とは言え、道行く人の数も以前に比べれば大分少なく戦争の影響が色濃く出ている事を如実に感じる。
「どうせまた、一悶着あるんだろうねぇ‥‥はぁ」
 昨日から一行の周りは至って静かで、それ故に次にあるだろう襲撃の光景を思い浮かべてネイは溜息を付くが
「甘いものは疲れを取る、と聞いたのでな。まあ、無理はするなよ? さて、ヴラッドソン殿も疲れただろうし皆もそろそろ休憩にしない‥‥か」
「そうね、丁度いい時間の様だし」
 言うと同時、腹の虫を鳴らすノースに皆は苦笑を浮かべるが太陽の高さからそれには敢えて何も言わず、アルラウネがフォローを入れたその時。
「とぅあ! 皆より先んじて昼食を頂いての参上っ! ヴィーとその痛快な‥‥ゲフ」
「ゼルクトゥスと愉快な仲間達、だ。いい加減覚えてくれ‥‥」
 土煙を上げて駆け、余程満腹なのか腹の底から息を漏らして一行の後方より現れたのは誰も歓迎していないヴィーとそんな彼の様子を呆れながら突っ込む、蒼き鎧の男。
「話の通り‥‥嫌な予感、当たったみたい‥‥」
「‥‥また来ると思ったよ、『絶対無敵のアリンコ』」
「そこな娘! 見知った顔とは言え、いい加減に我をその名で呼ぶのは止めろ!」
 固まるネイの姿を見てエリーが言葉短く声を掛けると自身の時が一瞬止まっていたのを感じ、それでも久々に出会う仇敵へ絞り出す様に言えば互いに火花を散らす中でバックパックへ手を伸ばす彼女。
「それじゃ‥‥これでも喰らっとけよ!」
「わぷっ!」
 それを察したライルが異臭放つ雑巾を放ると同時にネイも発泡酒を投げつければ、ヴィーの顔面にそれらはもれなく命中し、呻く彼の声を合図に場は動き出した。
「頑張れ、負けるな‥‥力の限り‥‥」
 エリーのグットラックがまずライルにその効果を与えると悪逆たるGを打ち砕くメイスを振り翳し、眼前にいたゼルクトゥス目掛け振り下ろすも彼の手甲によってそれは阻まれる。
 そして暫し互いが激しく攻め、受けるがライルの方が僅かに押されていた。
「中々やるじゃないか、あんたっ‥‥アンドラ!」
 それでも振るわれる拳を皮一枚の差で避けると愛犬の名を呼び、彼の牽制を任せると自身は飛び上がり‥‥その後ろで詠唱を完成させたネイがライトニングサンダーボルトを解き放つ!
「これでっ!」
 遠慮なしに放ったそれはゼルクトゥスを確かに打ち据え、焦がすも彼はまだ立っていた。
「悪いがこれでも頑丈でね、その程度ではまだ倒れやしないよ」
「参ったね‥‥これじゃあんたらの評価を見直す他ないじゃないか」
 そして二人は笑った。

 ‥‥その一方、ヴィーと相対するのはウォルとノース。
「その程度ぉ!」
「‥‥マジかよ、こんな阿呆に遅れを取るなんて」
 ぶつかる闘気の波動はヴィーが勝るとウォルはその結果に愕然とし、その隙にと迫る阿呆騎士だったが眼前にノースが立ちはだかると剣と剣が衝突し、その手応えからノースは笑った。
「が‥‥剣の腕前が私と同程度なら、まだまだだな」
「くっ、あっちの悪逆非道陰険娘に比べればまだマシな万年腹鳴り娘に遅れは取らん!」
(『‥‥後で絶対殺す』)
 とネイにノースが思ったかは定かではないが、騎士の挑発に少なからず揺れる二人。
「ちょっと長いマフラーの貴方‥‥ヴィーと言ったかしら? 女難の相が出ているの、気を付けないと不味いわよ」
「な、なんとぉ!」
 だが一行も負けてはいない、アルラウネが彼女らの代わりに精神的攻撃をお返しすると彼女ら同様にヴィーも揺らげば好機と見たノースの押しに負け、慌て飛び退る。
「それと蒼い鎧の貴方、遭難の相が出ているわっ!」
「‥‥それは先日体験して来た、既に遅いな」
「あら、釣れないわね」
 そんな彼の様子を満足そうに見届ければ彼女はそのついで、ライルと打ち合うゼルクトゥスへも指差し叫ぶが彼は動じず、今度は詰まらなさげに舌打ち一つ。
 そう言う訳で精神的な打撃は五分と五分、技量においても五分と五分。
 互いに決め手を欠き、両者はやがて間を置き睨み合うも拮抗するその場を崩すものが現れたのは突然だった。
「‥‥馬車、来る‥‥皆さん、避けて」
 エリーの叫びと共に不意に見知らぬ二人が駆る馬車が森の中から現れると瞬く間に一行へ肉薄し‥‥何故か馬鹿コンビだけをその勢いのまま器用に撥ね飛ばした。
「あぁあ、坊ちゃんになんて事を!」
「‥‥そのまま二人の落下地点に走らせてくれ、次いで此処を離脱する」
 馬車に乗る二人、頭を抱える厳つい男性のクレリックが指示にローブを羽織った女性が慌て宙を舞う二人を幌で受け止める事に成功すれば、一目散に走り去っていく。
「く‥‥また逃げる気かい!」
「逃げるのではない、名誉ある戦略的撤退だと言ってくれたまえ! ビル、昨日の夕餉が残りを!」
「あ‥‥お肉」
 ネイの叫びにまだ全然元気なゼルクトゥスは幌の上に立ち上がり応えると、指を鳴らせば途端‥‥足止めの為か馬車から干し肉がばら撒かれたが、それはエリーだけが反応する結果と相成り他の皆は石なり魔法なりで馬車の足を止めようと試みるが
「はっは、今回は互いに痛み分けと言う事にして置こうじゃないか! だが次の機会は必ずあるっ、その時まで精進しておきたまえ!」
「‥‥どっちの台詞だよ」
 しかしそれは叶わず、走り去る馬車から蒼き闘士の捨て台詞に最後までウォルに一行は呆れるのであった。


「へ‥‥たったそれだけか?」
 二人は取り逃したものの、ヴラッドソンだけは何とかキャメロットが騎士団へと護送する事に成功した一行、彼がどんな事をしたのか一行の元を訪れた騎士に尋ねればウォルを筆頭にその答えを聞いて皆は唖然とする。
「たった、ではない。かれこれ一年もあの村を中心に食料が常日頃から奪われていた事を考えれば村人達に取って彼はにっくき仇敵、しかも今はこの様な状況。その中でも続けていたからにはそれ相応の罰を与えねばならぬ」
「とは言え、いささか大仰じゃないかい?」
「全くだ、があの村に詰める騎士達も戦場へ収集されていたからな。万が一の事があってもまずいだろうと判断して‥‥」
 その説明でもどうにも腑に落ちないネイが問い質せば、騎士も本音を漏らし始める。
「何故、言わなかった?」
「恥ずかしくて‥‥言えるかよ」
 ノースの問い掛けにヴラッドソンは両手を拘束されたまま、照れ隠しにそっぽを向けば彼女は苦笑を浮かべるとぶっきらぼうな彼へ温かい言葉を投げ、励ますのだった。
「何はともあれ、これを期に悔い改めるのだな。事情は聞かぬが‥‥貴殿なら出来るのではないだろうか」
「‥‥です、よ」
 それに便乗してマリーも頷くと、彼は二人の言葉へどう反応したものか困った様子だったが‥‥それでも一つ頷くと
「それにしても一体、なんでヴラッドソンを狙ったんだろうねぇ」
 騎士の話を聞き終えたネイがそれだけは分からず、首を傾げれば‥‥事の真相は闇の中へ消えた。