【人の想い】珍妙な拾い物
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■ショートシナリオ
担当:蘇芳防斗
対応レベル:3〜7lv
難易度:易しい
成功報酬:1 G 64 C
参加人数:8人
サポート参加人数:3人
冒険期間:08月01日〜08月06日
リプレイ公開日:2005年08月09日
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●オープニング
「陸の上もやはり悪くはないな」
久々の休暇、早朝にも拘らず丘の上の散歩を楽しんでいるのは普段は海の男であるアシュレイ・ゼルガードその人で、キャメロットのすぐ近くにある森を散策していた。
天気も良好、今日は然程暑くもなく涼しい風が辺りに吹き渡れば思わず笑顔も浮かぶがそれも束の間。
ガサリ
草葉が擦れる音に表情を引き締め、油断なく長年使っている長剣に手をかければ‥‥
「う‥‥ぁ‥‥‥」
やがて木立の向こうから現れたのは一人のエルフの男、一つだけ呻けば完全に意識を失ってその場に倒れこむ。
「おいっ‥‥まずいな、これは。くっ!」
その光景にアシュレイは昏倒した優男に近付き、余り宜しくない状態である事を察すると取り急ぎ彼を担いでキャメロットへ引き返すのだった。
袂に落ちている謎の男が持つには似つかわしくない剣をも抱えて。
数日後。
「シヴァン、やはり記憶は戻らないか?」
「‥‥‥」
仕事の合間、家に戻って来たアシュレイは先に拾った男ことシヴァンとだけ名乗った男に尋ねるも、彼は静かに首を横に振るだけ‥‥どうやら名前以外の記憶を失っている様で、大人しいを通り越したもの静かな性格からアシュレイが暫く保護する事にしたのだが。
「おっと、夕食が出来た様だな。食べるか?」
「‥‥‥」
「‥‥」
芳しい香りがアシュレイの鼻腔をくすぐれば床に伏せているシヴァンを誘うも、これまた静かに頷くだけ。
‥‥物静かを通り越して言葉をしゃべると言う事すら忘れている様な錯覚に陥る程、静かな彼に船長も釣られ静かに嘆息を漏らせば
「何とかしてやりたいのだがな‥‥」
そう呟いたがその夜、それを打破する鍵を手に入れる事になるのを彼はまだ知らない。
「‥‥そして彼は空に帰って行きました、泣きながらも笑顔で見送る彼女が手を振るその中で‥‥」
「御伽噺、か‥‥子供へ聞かせるには十分だが絵空事な感が強い話の様だ‥‥大人なら、人によっては‥‥選り好み、しそうだ‥‥」
安静にしているシヴァンの傍らで隣の部屋から聞こえてくる、妻が我が子へ聞かせている御伽噺に静かな声音で自身の名を紡いだ時以来、初めてとも言うべき反応を見せるシヴァンに思わず驚くアシュレイ。
「何だ、物語の方が好きなのか?」
「物語‥‥と言うより、真実にあった冒険譚‥‥が好きだ」
「なるほど‥‥言われてみれば容姿といい、格好といい吟遊詩人っぽいな」
「‥‥」
その反応にアシュレイは問いへ答えると、線の細い彼をまじまじと見て納得する船長に再び口を噤むシヴァンを見て、一つ思いついた。
「冒険者から実際にあった話をして貰えれば、記憶喪失から回復するきっかけ位は作れそうだな」
無口だが怪我も完治しないまま外へ放り出す訳にも行かず、行く当ても今はない彼の事を想えば船長は翌日にでも冒険者ギルドに行こうと決めるのだった。
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ミッション:自身が体験した冒険譚を聞かせよう!
必須道具類:依頼期間中の食事は依頼人が提供しますので、保存食の準備は不要です。
それ以外で必要だと思われる道具は各自で『予め』準備して置いて下さい。
(販売されていないアイテムに関して、使う場合はプレイングにて根拠の明示を忘れずに)
その他:ひょんな事から『拾い者』をしたアシュレイさん、とりあえず保護してみるもそのシヴァンと言う人はつい最近までの記憶がなく、癒えぬ傷もそのままに放り出す事も出来ず困っているそうです。
しかも非常に物静かで何を尋ねても口を噤むばかりとどうにもこうにもお手上げの状態‥‥なのですが、どうやら物語と言うか冒険譚には興味深げに聞き入っては楽しげにお話をしてくれるそうです。
そこでアシュレイさん、記憶を取り戻すきっかけとして皆さんが経験した冒険譚を語って欲しいと言う依頼を持ち込んで来ましたので、是非ともご協力の程お願いします。
ちなみに架空のお話をするとシヴァンさんはとても怒るそうなので(本人談)、もしもそんなお話をする場合にはくれぐれも気を付けて下さい。
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●リプレイ本文
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「確かに不釣合いな剣だな」
早速依頼人であるアシュレイ・ゼルガードを訪れ、『珍妙な拾い物』ことシヴァンの紹介を聞いてヴルーロウ・ライヴェン(eb0117)は自身の腰に下げるレイピアと彼の剣を見比べ、納得する。
「余り武器の事は気にした事ないけど‥‥凄そうだね、鞘だけ見ても十分にそれが分かる」
そんな彼の傍らでそれを興味津々に覗き込むイシュメイル・レクベル(eb0990)だったが、シヴァンへの挨拶がまだだった事に気付くと
「初めまして、イシュメイル・レクベルです。宜しくお願いします!」
「‥‥あぁ」
元気に挨拶を交わしたが話の通り彼は無表情なまま、そっけなく一言を返すだけ。
「ふぅん、こいつが記憶喪失の吟遊詩人か‥‥」
「んー、やっぱり記憶がないと不便だよね」
返ってきたその反応から、グイド・トゥルバスティ(eb1224)とハンナ・プラトー(ea0606)も僅かな好奇心から彼を見つめるも、返って来る視線は静かなまま。
「まぁそこまでにしておこうか、二人とも‥‥所でアシュレイ、折角此処で綴らせて貰う冒険譚だ。貴方の子供にも聞かせてやらないか?」
「‥‥それも悪くないな、その場合には内容を気にして貰えると助かるが」
そんな二人を諭し、ナラク・クリアスカイ(ea2462)の提案にアシュレイもふむと考え込んで、やがて頷いたがそれに一言だけ付け加え皆を見回すと
「う‥‥」
詰まるのはクラム・イルト(ea5147)、僅かに顔を引き攣らせるもすぐに普段の表情へ戻したが‥‥いささか遅く、アシュレイは笑うも
「クラム殿の話は私の子供が寝た後の方が良さそうだな」
それだけ言えば、まずは皆へ席を勧めた。
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「俺はまだ駆け出しの域だけど‥‥そうだな、俺の最初に受けた依頼の話でもしよっか?」
一行の中、臆せず先陣を切ったのはグイドだったが、アシュレイ一家にシヴァンが見守る中で僅かに緊張を覚え、それでも意を決して彼は口を開いた。
「俺が冒険者になって初めて受けたのは商人を目的地まで送り届けつつ、山賊を退治する依頼だった。まぁ良くある話だけどな」
僅かな苦笑を貼り付けてグイドは言うと淡々とした口調でその時の自身の想いに様子から、徐々にその口調に熱を帯びさせれば戦闘時の状況やその時の自分の立ち振る舞いについて語る。
「‥‥無事、山賊達を捕まえる事に成功した。最初こそ俺は山賊に憤りを感じていたが、生きて捕まえ罪を償う機会を与えられたのは良かったかも知れない‥‥と思う」
やがて物語は終わり、シヴァンの様子を伺うも彼は至って静かなままだったがグイドは別段気にせず
「そして最初の依頼を共にした皆に感謝すると同時、これからも冒険者として頑張れそうな自信を得る事が出来た‥‥俺の話としてはこんな所かな」
「そんなら俺も同じ様な話だけど‥‥街道を通る旅人を襲う謎の獣を退治してくれって言う依頼を受けたんだ、その正体がまぁ梟だった訳だけど‥‥」
独白する様に呟き次いで笑えば、終わりを告げるとそれに次いでレナン・ハルヴァード(ea2789)が間を置かず、語るのは梟退治の話。
「俺は倒す事ばっか考えていた。空飛ばれたら厄介とか、翼を傷つけたら飛べないかもとか‥‥それは他の皆もそうだった」
彼の話もグイドの話と似た話ではあったが、視点としては違っていた。
「でも一人だけ微妙に違う事を考えていた人がいて、その人が言うには『梟は自分が生きる為に狩をしているだけ。別に人を傷付けたい訳じゃなく、生きている物の理』って言っていた‥‥その人だけだった、そんな考え方を持っていたのは。そして街道で襲われた人と俺達が倒した梟の両方へ弔いの花を捧げたのは」
レナンは終始、静かな声音でその時の複雑な心境を語り継ぐ。
「その依頼を通して、剣を使う人間として俺はそれを使う時‥‥いつももたらす結果や意味を考えないと‥‥なんて」
「‥‥‥」
その中でシヴァンが見つめている事にレナンは気付くも、彼は真面目な表情のまま
「どうせなら命の重みを知っている戦士になりたいよな、思ったよ‥‥って柄じゃないか。でも色々な人がいるよな、冒険者も‥‥難しいけど面白い」
それだけ呟き‥‥だが次の瞬間には我慢出来ず、照れ臭そうに頬を掻いて笑えば自身の話を締めた。
「‥‥けどやっぱ、こんな真面目な話は俺向きじゃないな」
それに聞き手のシヴァンは何も言わず首だけ振ると、静かに微笑んだ。
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「ふ、この俺に任せるんだな。悲しい少年の話を聞かせよう」
この依頼に臨む一行の中で真打とも言うべき全身青尽くめのヴルーロウはリュートを爪弾き、自信を覗かせ物語を紡ぎ出す。
「最初は小さな事だった、ある森に骸骨の戦士が現れた。勿論倒しはしたがそれだけで終わる話ではなかったんだ‥‥」
それに次いで紡がれる物語は倒した筈の凶族が不死者として現れ、それを機に現れた一人の少年と対する話。
その途中、勿体振り一度話を区切るも次に彼の口から語られるのは‥‥それがハーフエルフから生まれたと言う事実。
「様々な思いが交錯する中、それでも不死者の群れを操る少年を罪人として俺達は裁いた‥‥しかし俺達もハーフエルフ、だがどんな未来が待っていようと後悔しない」
それでもその行いは間違いでなかったと自信を持った表情を浮かべ終えるとやがて静まる場‥‥それは話の重さ故に当然かも知れない。
その中でシヴァンの様子は言うまでもなく目を閉じ、黙して聞き入るだけだったが
「とある依頼で少女の救出を依頼されたわ、依頼者は少女自身。彼女はあと数日で貴族の妾にされる事になっていたの‥‥」
「‥‥む」
一息程度だけ挟んですぐに彼の後を継いでファーラ・コーウィン(ea5235)が語る話には興味を惹くと、依頼人へ教えた護身術や依頼人と交わした話をそのままに語る。
「‥‥それから十ヵ月後位に町に入る途中でゴブリン騒ぎが起こり、逃げる途中で馬車が横転してそのまま彼女が消えてしまったと言う噂を聞いたわ。皆はそれに諦めて捜索もしなかったそうよ」
そして続く物語、先より更にトーンを落とす彼女だったがシヴァンはそこでピクリと反応するも、彼女は気付かず話を紡ぐ。
「でもそれから二年程して私は彼女と再会したわ。そう‥‥冒険者ギルドでね。『おかげで私も冒険者として暮らしていけます』って元気そうだったわ」
最後に笑顔で締める彼女に、シヴァンが僅かに眉を顰めたのを彼女はその時になって初めて気付いた。
「‥‥最初と最後の繋がりが、今一つ分からん。時間も飛躍しているが‥‥記憶違いか?」
彼の指摘にファーラは先に紡いだ自身の話を思い出し‥‥確かにその通りだと理解し、うな垂れると同時、鍔鳴りの音が響く。
「お、おい‥‥」
音源の源はシヴァンでいつの間にか剣を持ち、抜こうとする様子に慌てアシュレイと近くにいる者達が彼を宥めようと駆け寄れば‥‥彼は笑い、剣を置いた。
「人であれば記憶違いはあるもの‥‥が、人に聞かせるのであれば‥‥その点はしっかりと見直しておく必要が、あるな‥‥」
冗談らしからぬ冗談に皆は初めて見る彼の振る舞いに唖然とし次いで、苦笑を貼り付けるのだった。
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「私が何の話をするかと申しますと決して派手ではない冒険? のお話でもしまーす」
「派手、ではない‥‥か」
「そ、冒険って一言に言っても色々あるからね」
リュートベイルの伴奏に乗せ始まる物語の前に、自身にとっての『冒険』をハンナは笑顔を携え皆へまず語る。
「私にとって冒険って言うのは、簡単に言っちゃうと世の為人の為だね。私だって一応はナイトだし、それは決して直接戦ったりする事ばかりじゃないんだ」
リュートベイルを弾く手は止めずに一人頷き、伏せていた顔をやがて上げれば
「例えばそれは人を楽しませる事だったり、励ます事だったりも私にとっては立派な冒険。勿論、私自身も目一杯楽しむけどね」
皆へ視線を向け、とある研究に没頭する者の名を出してようやく本題の物語を切り出す。
「その研究者さんが色々とあって塞ぎ込んでいるんで励まして、って感じの依頼があったんだ」
その話は人を楽しませる事が好きな彼女ならではの、面白可笑しな調子で語られる‥‥内容とは気持ちそぐわない感こそあったが。
「結構大変だったんだけど硬軟織り交ぜた励ましとか、昔の約束とかの力で何とか達成出来たんだ」
非常に簡潔ながらも自分らしく語るその終盤、ちらりと皆にシヴァンの様子を伺うと‥‥変わらず押し黙っているシヴァン以外は皆それぞれな反応だったが、楽しげに話す様子が好感触だった様で微苦笑を浮かべる中、ハンナの締めに皆は確かに頷いた。
「面白くないかも知れないけど、私にとってはそれも立派な冒険だよ。困っている人がいればまずは楽しませる、それがハンナちゃんでーす」
「僕が最初に受けた依頼はね、フォレストドラゴンのパピィさんをお母さんドラゴンの元に帰す依頼だったんだ。そのパピィさんは好奇心旺盛でいたずらっ子なんだけどとっても可愛いんだよ」
休まず止まらず続く伴奏の中でイシュメイルが語った話はドラゴンの子供との交流、初めこそ楽しげな表情を浮かべ語っていたがその竜の母親が現れるだろう事を恐れ、竜の子を置いて逃げた事を告白し‥‥先まで笑っていた表情を反転させる。
「本当はパピィさんとお母さんドラゴンがちゃんと再会するまで立ち会いたかったのに‥‥パピィさんに寂しい思いさせたの」
だが僅かな間を置いて再度笑顔を浮かべイシュメイルは、その視線を静かなままのシヴァンへ向ける。
「シヴァンさんはどんなお話が好きなの?」
「‥‥真実が込められた話、だろうか」
アシュレイの妻がさっき出してくれた紅茶に菓子を摘みながら、誰よりも早くそれを食べつつイシュメイルが尋ねるとシヴァンは暫くの間を置いて彼へその答えを返す。
「‥‥作り話も嫌いじゃない、だが何処か誇張されている様で‥‥余り好かない」
「なるほど〜」
手は止めず相槌を返す彼へシヴァンは苦笑を浮かべ、包帯だらけの身を横たわらせた。
「疲れた、失礼だが少し眠らせて‥‥貰う」
●
日は変わり、いつの日か夜‥‥クラムはある意味イギリスらしい話を語る。
勿論、アシュレイの子供にはご退席願っている。
それはフライングブルームと同じ能力を持った野菜の話で‥‥冒頭こそまだ良かったが、話が進めば進む程にその光景は余り想像出来なくなりシヴァンを含む場に居る皆は閉口していたがそれでも彼はその話を続ける。
「‥‥因みに俺は見ている方だったが、あんな物で空を飛びたいとは思わなかったな。それとギルドの職員も遠い目で依頼書を見ていたのが記憶に残っている」
一息付けばふっ、と遠い目で天井を見上げると
「その光景は‥‥口では言えん程凄まじいものだった。周りのテンションはやけに高いし、女でもそれに‥‥この様な光景は他では見れないだろうな、『色々な意味』で」
『‥‥‥』
「済まない、どうしても脳裏に焼きついて離れないもので話してみたんだが‥‥余り気に召さなかったか。さて、この話の後で悪いが誰か頼む」
クラムは苦笑を浮かべ自身の話を終わらせると周囲を見回し、準備が終わったのだろう立ち上がったナラクに後を任せた。
「寝ている子にも聞かせたかったのだが、始める事にしよう」
そして取り出す幾つかの人形‥‥とは言っても家主の子から拝借した物だが、それを持ち静かな声音で一つの物語を語りだした。
「‥‥ある静かな森に、猫の母子が仲良く暮らしていました。猫のお母さんは剣を作るのが上手で、輝く綺麗な二つの蒼い剣を持っていました」
先から続くヴルーロウとハンナの伴奏の中で紡がれる話に合わせ、ナラクは両手に持つ人形を手繰ると
「ある日、悪い狼が仲間の人間を連れてやって来ました。狼は猫のお母さんを食べてしまうと、蒼い剣の一つを奪ったのです」
次には片手に持つ人形を猫から狼へ持ち替え、もう片手に残る猫の人形に掴み掛かり‥‥暫く後に狼の人形だけを手元に残す。
「子猫は残された蒼い剣を胸に、片方の剣を取り戻そうと決めました。でも一人では狼達に敵いません。そこで子猫は人間の女の子に化け、人間達に大事な宝物を一緒に取り戻してくれる様にお願いしたのです」
そして語りながらナラクは次々に人形達を繰る、それは常に二体だけで他は回りに置かれているだけだったが、その巧みな話術と動く人形達に皆は惹かれる。
「人間達は女の子が猫だと知りつつ、それでも一緒に悪い狼達をやっつけ宝物を取り戻しました。しかし、蒼い剣はボロボロになっていました。けれど子猫はまるでお母さんに逢えたかの様に剣を抱くと、人間達へ『ありがとう』と言いました」
やがて物語を最後まで語り終えると、自身の代わりに人形達の頭を下げれば皆が拍手する中でシヴァン。
「‥‥面白かった、と思う‥‥誰にでも分かる語り口と‥‥その、内容が。その後の話も気になった‥‥」
小さく感想を述べれば、ナラクは微笑みそれを最後に夜は更けて行った。
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「色々と済まなかったな、皆」
「他の者は分からないけど俺は吟遊詩人じゃないからなぁ‥‥余り話すの上手くなかったかも知れないが、そこは勘弁だぜ。なんか思い出せるといいな」
翌日、依頼を終え帰路に着こうとする一行へ一行の知人から魔法で治療を施されたもののまだ体を動かせないシヴァンの代わり、アシュレイが礼を言うとグイドの言葉に船長は首を振り
「きっと今回の事は彼にとって何らかのきっかけを与えている筈だ、もし何かあれば皆へ真っ先に伝えよう‥‥本来であれば彼と交わすべき約束なのだろうがな」
苦笑を浮かべれば、ファーナはふと周囲を見回した。
「あれ、ナラクは?」
「剣とは傷付ける為だけにあるものでは無い。シヴァン、君のその剣も心を繋ぐ絆であると良いな」
その仮面の騎士は少し、シヴァンと語らっており‥‥相変わらず静かな彼に苦笑を浮かべつつも最後、それだけ言うと
「‥‥そうだと、いいな。ありがとう‥‥」
身は横たえたまま、言葉少なではあったが確かに彼は笑顔を浮かべるのだった。