【人の想い】啼けない小鳥

■ショートシナリオ


担当:蘇芳防斗

対応レベル:4〜8lv

難易度:やや易

成功報酬:3 G 12 C

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:09月29日〜10月07日

リプレイ公開日:2005年10月07日

●オープニング

「はぁ〜、やっぱりセネスお姉様の歌は綺麗でした〜」
「ありがとう、でも折角お客様が集まったのだから貴方も歌いなさい」
「えっ‥‥」
 とある村の広場にて、歌を紡ぎ上げては村人達から拍手喝采を受けるセネス・ファルトニーニへ労いの言葉を掛ける、彼女と似通った装いの女性だったがセネスの提案に一歩その身を引くと
「‥‥でもでも‥‥」
 次いでワタワタと両手を振って辺りをきょろきょろ伺えば、挙動不審に。
「折角いい物を持っているのだから、ね。練習しないと」
「わっ!」
 それでも優しく声を掛けてからセネスはその背を静かに押し出すと、村人達の前に押しやった。
「お、姉ちゃんも歌うのかい? 楽しみだねぇ〜」
「俺は美人だったら誰でも‥‥ったた、悪い悪い! 済まなかった!」
 そして上がる村人達の様々な茶々の中、彼女は肩を落としつつも意を決して顔を上げるとやっと口を開いた。
「‥‥ううううう、歌の前にひとちゅ、皆さん、どんな飲び‥‥飲み物が好きですか?」
 凛と響く声で、歌の代わりに舌を噛みつつ紡がれた彼女の質問に村人達は最初こそ困惑するも気さくな彼らは親切心から彼女へ回答を返すとその直後、次に彼女は観客に背を向ければ
「‥‥それじゃ、私が皆さんの代わりのそれを全部飲んできますのでっ!」
『何でそうなるんだっ!』
 逃走を開始‥‥それは正しく脱兎の如く。
「人前で歌うなんて、私には出来ないです〜!」
 彼女のその行動に村人達は何事かと更なる困惑を覚えたが、当然彼女の足は止まる事がなければ後は村人達、ただ見送るしかなかった。
「‥‥人の目を惹き付ける声に動きを持っているのですけど、これでは」
 その様子に目眩を覚えながら呟くとセネス、兎と化したシアラ・ハルミトンを捕獲すべくその後を追い駆けるのだった。

 ‥‥それから数日後、護衛を頼んだ冒険者達と別れたセネスはシアラを伴って久々にキャメロットの冒険者ギルドへ足を運ぶと次なる村へ行くまでの間、護衛をして貰える者がいないか受付嬢へ尋ねるのだった。
「‥‥そのついで、と言ってはなんですが彼女の相手もして貰えると助かります。持っている歌唱の才能は私よりも上なのですが」
 そこで一度区切り、セネスが背後へ振り返ると‥‥一人の冒険者が好意から飲み物を渡され、それをおろおろとしながら受け取るも盛大に転ぶシアラの姿が二人の目に入った。
「人見知りが激しくて、沢山の人の前に出るとそれはもう‥‥一朝一夕でどうにかなるものではないのでしょうが、何かきっかけさえあれば」
「なるほど‥‥ねぇ」
 セネスと目を合わせてから次いで、シアラと言う女性に再びその視線を戻すと受け取った飲み物の中身を被ったらしく、濡れそぼった髪の上へ綺麗に器を乗せてはそれをそのままに、恥ずかしげに顔を覆って駆け出すも‥‥冒険者ギルドに入って来た冒険者と正面衝突しては、再度の転倒で後頭部をしたたかに床へ打ち付け気を失う彼女。
 その様を見て受付嬢は何も言わず、静かにセネスの肩を叩くのだった。

――――――――――――――――――――
 ミッション:二人の歌姫を護衛し、目的の村まで送り届けろ!

 成功条件:???
 達成条件:無事に次の村まで二人の護衛を達成した時。
 失敗条件:達成条件に失敗した時。
 必須道具類:依頼期間中の保存食(日数分)は忘れずに。
 それ以外で必要だと思われる道具は各自で『予め』準備して置いて下さい。
(販売されていないアイテムに関して、使う場合はプレイングにて根拠の明示を忘れずに)

 その他:主目的としては書いてある通り、二人の歌姫を護衛して無事に次に向かう村まで送り届ける事になります。
 それと暇な時‥‥もしかすれば道中ずっとかも知れませんが、シアラさんの相手をしてあげて下さい。
 セネスさんでも骨が折れる相手なので、すぐに人見知りや上がり症が治ると言う事はないでしょうが皆さんとのやり取りできっかけを与える事は出来るでしょう。
 それでは、宜しくお願い致します。

 傾向:まったり人情話系?
――――――――――――――――――――

●今回の参加者

 ea0061 チップ・エイオータ(31歳・♂・レンジャー・パラ・イギリス王国)
 ea2155 ロレッタ・カーヴィンス(29歳・♀・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea5866 チョコ・フォンス(29歳・♀・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea6557 フレイア・ヴォルフ(34歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea7141 ヴァルフェル・カーネリアン(41歳・♂・ナイト・ジャイアント・ビザンチン帝国)
 ea9957 ワケギ・ハルハラ(24歳・♂・ウィザード・人間・イギリス王国)
 eb1293 山本 修一郎(30歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 eb1421 リアナ・レジーネス(28歳・♀・ウィザード・人間・ノルマン王国)

●サポート参加者

サリトリア・エリシオン(ea0479

●リプレイ本文

●はじめまして
「リアナ・レジーネスと申します。セネスさん、シアラさん‥‥」
「道中よろしくねっ」
 蒼い瞳を輝かせ、物腰柔らかに二人へ挨拶を交わそうとするリアナ・レジーネス(eb1421)だったがその途中、割り込みセネスと握手を交わしては振り回さんとする程の勢いでチョコ・フォンス(ea5866)が接する姿に、皆は苦笑を浮かべる。
「こちらこそ、宜しくお願いしますね。ほら‥‥シアラも」
「あうあう」
 そんな二人の挨拶に次いで、微笑みセネスが返せばシアラへも挨拶をする様に促すが彼女は顎をカクカクさせるだけ。
『‥‥』
「初めまして、あたしはフレイア。こっちは相棒のロキだよ」
 セネスはともかく初対面だがたったの八人を前にそんな調子に陥る歌姫へ、一行は唖然とするもフレイア・ヴォルフ(ea6557)が両の色が違う瞳を細め微笑みながら自身に、次いでその肩へ止まる鷹を紹介すれば
「わわっ、鷹さんだー」
 おずおずと手を伸ばす彼女へロキの唐突な一声に驚き、足を縺れさせ後ろへ転倒しようとしたが
「このヴァルフェル、一時姫君達にこの剣を捧げよう。ま‥‥此度の得物は少し違うがね」
 一つの大きな手がシアラの背を支え体勢を立て直させた後、巨人のヴァルフェル・カーネリアン(ea7141)がぎこちないながらも恭しく一礼すれば、すぐにその顔を上げると腰に下げる得物を僅かに揺らし、苦笑を浮かべるのだった。

●ぱたぱた
「馬の上はどうー?」
「ははは初めて乗ったんですが‥‥おお、面白いですね〜」
 自身の馬の上に乗るシアラへ、その主であるチップ・エイオータ(ea0061)が尋ねれば彼女はまだ幾分ぎこちなく、詰まりながら答えると
「折角ですから、こちらもどうですか? 空を飛ぶのも気持ちいいですよ」
 空飛ぶ箒を駆って周囲の安全を確認した後、歌姫が乗る馬と並走しながらのんびりした口調で問い掛けるワケギ・ハルハラ(ea9957)へ
「あ‥‥の、乗ってみたいですっ!」
「手綱を離しちゃ‥‥」
 彼女は興奮し、頬を赤く染めながら両手と馬の尻尾の様に括っている金髪をばたつかせ、その誘いに乗ったがチップの警告より早く落馬‥‥
「余りはしゃぎ過ぎてはダメですよ」
 しかけたが、その近くを歩いていた山本修一郎(eb1293)が寸での所で抱き留め地に下ろせば、上品な顔立ちに微笑を浮かべ諭したがその次の瞬間、力なく後ろへ頭を垂らしていた歌姫は何かに慌て、修一郎へヘッドバッドを繰り出すと次いで自身は卒倒する。
「はぁ‥‥」
 その後方から嘆息を漏らしては眺めるだけのセネス。
 彼女が乗っている、自身の馬を引くフレイアはその光景に苦笑だけ浮かべれば
「やはりこう言った事は徐々に距離を詰めるのが大事ですよね、誰しも痛い目に遭いたくは‥‥いえ、何でもないですよ」
 マイペースな雰囲気をそのままに、小首を傾げながらそう言葉を紡ぐロレッタ・カーヴィンス(ea2155)へセネスは微笑み、彼女を見ればその心情を察して首を左右に振ると
「それは私も思っていますので、此処でなら仰っても大丈夫ですよ」
「‥‥やはり大変なのだな」
 フレイアが馬の鬣を撫でつつ苦労する歌姫へ乾いた笑いを浮かべるのだった‥‥違う意味でこの依頼の困難さを感じつつ。
 とにかく、依頼はまだ始まったばかりである。

●うたおうよ
 二日目の昼下がり、予定より早く道程を消化していた一行は見晴らしの良い草原にてシアラとの交流も兼ね、少し休む事と決める。
「歌って発声練習が基本なんだよね?」
 そうなれば一行の行動は決まった物で、シアラをぐるりと取り囲めばチョコの問い掛けを端に発し、コクコクと頭を激しく上下に揺するシアラを先生と見立てての歌唱訓練が始まった。
「あーえーいーうーえーおーあーおーーー! って腹筋とかも鍛えるの?」
「え、えとあの‥‥どうなんでしょう?」
 その質問の主は余程張り切っているのか、次いで高らかに声を響かせるもその途中でふと疑問を口にするが、首を傾げ戸惑う先生の様子に皆は苦笑を浮かべる。
「先生も歌わないの?」
 だが一先ず、チョコに倣う形でそれぞれに声を発する皆の中でチップはおろおろしている先生へ手本をとせがんでみると
「‥‥下手、ですから」
「うーん‥‥おいらは下手でも堂々と歌うよ。歌うの気持ちいいし、楽しいもん」
 肩を落とし自信なさ気に答える彼女だったが、チップは引かず笑顔を湛えて返すと皆も賛成だと頷きシアラへ視線を注げば、歌姫は何か訴えようと口をパクパクさせるも
「まぁ皆、シアラも困っている。もう少し落ち着いて行こうではないか」
 笑みを浮かべ修一郎が回りへゆるりとフォローを入れたが僅かにタイミング遅く、緊張に耐えかねた歌姫が疾くその身を翻して駆け出すが、なだらかな草原の坂を前に転倒し滑り落ちて行くのだった。
「どうやらこれは‥‥相当苦労しそうだな」
 慌て飛び出す一行の背中を見送りながら、ヴァルフェルは自身が掲げる信条故に彼女は追わず、だがそれだけ呟けば空を仰ぎ見て笑った。

「あ、あのな‥‥も、もし良かったら‥‥少し歌、教えてくれないか? その、あの‥‥恋人にだな、聞かせたいんだ」
 ‥‥坂道を転げ落ちてから暫く、一人佇むシアラへ不意に声を掛けたのはフレイア。
 何時もの毅然とした表情は何処へやら‥‥正しく恋する乙女の如く、自身で口にする言葉に頬を赤らめ照れながら問うと
「‥‥っ! え、えとえと‥‥セネスお姉様の方が教えるの、じょーずですよ? そそそんなに大事な事なら尚更にっ!」
「いやな‥‥上手いからこそ、彼女に頼むのは気が引ける。私の歌は下手の横好きだから、な」
 猛然と立ち上がり、握り拳を握って力説するシアラだったがその眼前に立ちはだかるのは本気の乙女。
「それにあたしはシアラ、あんたから教わりたいんだ!」
「!?!?!?」
 彼女の真剣さに目を白黒させて歌姫は声ならざる声を上げると、一陣の風となってフレイアの脇を駆け抜けようとする。
「ま‥‥待てっ、あたしは本気だ!」
「べぷっ!」
 だがそれでも乙女も引けず、引き止めようと手を伸ばして倒れ込めば‥‥思い切り彼女の足首を掴めば奇妙な叫び声を上げたシアラは転倒し、次いで今度こそ昏倒するのだった。
「あ‥‥」
 その光景にロキが飼い主の上で旋回すれば呆れる様に一つ、鳴いた。

●そらさない
 村も目前、翌日には辿り着くだろう所まで来た一行だったが、日が落ちれば止むを得ず野宿を決めて暫く
「夜はそれ程強くないのですけれど‥‥頑張ります」
「‥‥大丈夫?」
 虚ろな目を泳がせて、誰もいない闇の彼方を見つめ握り拳を握り誓うロレッタの姿にチップが不安を覚え、尋ねた頃‥‥周囲は真闇に包まれていた。
 皆で騒いだ祭の名残こそ残るも、今は静寂だけ‥‥。
「‥‥ん?」
 の筈だったがその時、チップの耳に鳴子の音が微かに響くと慌て飛び跳ね、遂には頭も泳ぎ出したロレッタの肩を叩いてから眠り入っている皆へ呼び掛けた。
「何か来たよっ!」

 それから程無く、戦端は開かれる。
 敵は狼、一行の力量なら恐れる事はないが高い統率力と連携から戦況は一進一退の様相を呈していた。
「貴方にも何か、貴方にしか出来ない事があるでしょう?」
「‥‥出来る、事‥‥」
 その最中、一行に守られただ佇むだけの二人の歌姫だったが、不意にシアラへ声を掛けるセネスの真意に気付いたかは分からないが、彼女は姉の言葉を紡ぎ反芻すると考えるより早く震える足を無理矢理に抑え込み、立ち上がった。
「ら、ら、らーーー‥‥」
 足だけでなく全身の何処かしもが震える、だがそれでも彼女は一声を発した後に歌を紡ぎ上げようとするが何時も感じる重圧をその身に感じると、地に膝を突きそうになる。
「シアラさん、歌って!」
 だがその時、リアナの声が響く。
 魔法で一行を後方より支える自身も然程余裕がないだろう中にも拘らず、シアラを励まそうとする彼女の気持ちにその歌姫は
『目を閉じて観客を見ず誰もいないと思い込むのもいいかも知れんが‥‥』
 太刀を振るい、臆せず戦うヴァルフェルの言葉を脳裏に思い出せばその姿から一番大事な言葉が再び、木霊する。
『いずれにせよ己に自信を持ち、決して逃げ出さぬ事だ』
 そして息を大きく吸い、目を閉じてから彼女は歌を紡ぎ上げた‥‥自身が知る、数少ない歌の一つを。

「優しく、優しく 包んでくれる貴方
 貴方の気持ちに 背中押されて
 私が此処に いるのだから
 私は、私は いつも、何時も‥‥貴方の傍に、いるよ」

 それはテンポも、ピッチも酷かったが‥‥何処までも響きそうな凛とした声で、それが辺りを優しく包み込む。
「折角ならこの良い歌を聴きながら、お酒を飲みたいですね」
 歌としてそれは褒められる物ではないが、それでも心に響くその歌声を確かに聞いた修一郎は、戦いの只中にも拘らず顔を綻ばせると白刃をまた一つ、月下の下で煌かせるのだった。

●ここにいるよ
 二人の歌姫と一行が目指す村に着いたのは、翌日の既に日は落ちた頃。
 だがそれにも拘らず、皆はその村にある唯一の小さな酒場を訪れていた‥‥。

 舞台と呼べないだろうが、客人より僅かに高い酒場の一角でシアラは先の戦闘から少しだけ吹っ切れたのか、大きく息を吸えば今度こそ己の声を村内にまで響かせる様、歌を紡いだ。

「唄える勇気を貴方にあげるから
 輝く歌声、きっと出る
 唄える力を貴方は持っている
 自分の歌声、信じてね」

 その中、静かに同じ歌詞が遅れ響かせていたのはワケギで、少なからず彼が発動させたメロディーは確かに彼女の心を鼓舞する効果を及ぼしていた。

「歌おうよ 歌おうよ 心の扉開き
 唄おうよ 唄おうよ 愛しい人の唄」

 だがその歌は、呪歌の効果だけで紡がれていない事に一行は気付くもその傍らで一つの呼吸の分だけ、シアラが間を置けば次には二人の歌姫が揃い口を開く。

『意中のあの人に 歌声を贈る
 嬉しい予感が 満ちてくる
 空では星座が ダンスを踊って
 愛の歌声に 応えてる』

 そこまで歌い終え、踏んでいる場数の分だけ余裕のあるセネスが後ろで待機していた一行へ振り返り微笑めば、それを合図に皆も一斉に歌姫達が奏でる歌の輪へ加わった。

『歌おうよ 歌おうよ 皆で声を合わせ
 唄おうよ 唄おうよ 愛しい人の唄』

 そして歌は止まり、一つ、大きく吐き出される誰かの吐息。
 次いで訪れた沈黙は一瞬で、やがて場が拍手に響けば皆の表情はそれに遅れ、喜びに満ちるのだった。


「見事な歌声だったと思うぞ、感服した」
「そんな事‥‥ないです、よ」
 やがて歌い終えた一行、簡単な打ち上げにとそのまま酒場で話を弾ませればヴァルフェルの言葉に隣で未だ頬を赤らめ、肩を縮める歌姫へ
「シアラさんは、私が怖いですか?」
「もう‥‥大丈夫、かな」
 リアナの問い掛けは唐突ではあったが、尋ねられた歌姫はその表情をぎこちない笑顔で満たしながらも彼女へ返すと
「もし、怖くないと思ってくれるのでしたらお友達になってくれません?」
 その言葉と同時、シアラへ手を差し出せば一瞬の間の後‥‥リアナは小指にだけ掛かる圧力を感じると、次には笑顔を交わした。
「もうお別れ、なんだよね。寂しいな‥‥けど、これ」
 その光景を見て、名残惜しさを覚えたチョコが言の葉と共に差し出すのは一枚の絵。
 手渡された羊皮紙に見事なタッチで描かれている、二人の歌姫の姿を見て照れ臭そうに頭を左右に振りながらも彼女と握手を交わすと
「シアラさんが歌を唄う事を好きなら、いつかきっと‥‥もっと上手に人前で歌えると思います」
「だから、頑張ってね!」
「‥‥‥!」
 続くワケギとチップの激励には感謝の言葉の代わり、瞳を潤ませながら今度は頭を上下に振って頷くシアラの様子を見て
「これで一先ずは大丈夫、なのでしょうか」
「だと良いのですけれど‥‥」
「まぁ、もう少し長い目で見てあげるのだな」
 相も変わらずのんびりとした調子で首を傾げるロレッタへセネスも正直な所を言うが、フレイアの言葉に二人が頷いた矢先。
「一先ず、お疲れ様でした」
「そそそ、そんなこっとぉはぁー!」
 微笑む修一郎の労いにシアラが慌てると、次の瞬間には彼女が何かしたのだろう‥‥卓が突如、引っ繰り返ると
「‥‥やはり、もう暫くは気に掛けて上げた方がいいと思います」
 彼女の対面にいたロレッタは卓一杯に広がる料理の皿の幾つかを被りながら、それでも動じず静かにセネスへ言うと直後、場に笑いが巻き起こるのだった。