【レギオン】別章 〜Mind Twist〜

■ショートシナリオ


担当:蘇芳防斗

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:1 G 30 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:10月13日〜10月28日

リプレイ公開日:2005年10月24日

●オープニング

「なぁ‥‥まだ、終わらないのか」
 広場に佇む一人の男性、遠くで揺れるシャーウッドの森を眺め一つ、呟くと
「オーウェン様が頑張っているみたいだけど、もうかれこれ一ヶ月は経つよな」
 それを聞いた別の男性、領主の事こそ信頼はしているも話にだけしか聞いていない、長きに渡る戦いを脳裏で再度、振り返る。
「ノッテンガムはこれから、どうなるのかしら‥‥」
 その傍ら、佇んでは置かれている椅子へ座る女性はこれからに不安を覚え自らの肩を抱くとその身を一つ、震わせた。
 そして広場が不意に静まれば冷たさだけ宿る風が一陣、駆け抜けた。

「‥‥‥‥」
 そんな市民の様子を見て、静かに冷たい風の中を駆け抜けて行くヴィー・クレイセア。
 少しずつ寒くなって来た空気の中、何時もの様にマフラーを舞わせ駆けるその隣には
「どうした、いつもの元気がないじゃないか!」
 長い金髪を靡かせ、派手派手しい青い鎧を身に纏うゼルクトゥス・ライゼルの姿もあった。
「いや、本当にこれで良かったのかと」
「‥‥らしくないな、何かあったか」
 彼に答えるヴィーの声は何時もと違い、随分と静かなもので親友も思わず心配すると
「旦那の様子さ、何か急ぎ過ぎている様な」
 そのままの声音を保ち、騎士は駆けたままそれだけ言う。
「ふむ‥‥確かに引っ掛かるが、計画とやらが動き出したのだろう? ならば‥‥」
「だが、この嫌な予感は何だ」
 それにゼルクトゥスも頷くが、考えあっての事と言って諭すもヴィーは引かず。
「‥‥忘れろ、彼に仕える恩義がまだ君の心の中にあるならな。一人で餓えて死ぬだけの所を助けて貰ったのだろう? そして此処まで鍛え上げてくれたのだろう?」
「‥‥‥」
 だが拘る彼へ、ゼルクトゥスの言葉が心へ刺されば騎士は沈黙を重ねる。
「‥‥で、今回の任務は何だ」
「詳細は後で話す、が‥‥重要な任務だ」
「となると、計画の一端を成功させるか否かは私達に掛かっていると言う訳だな!」
 その雰囲気に青き鎧の闘士は溜息をつくと、話を変えようと今回の任務に尋ねれば騎士の答えに相変わらず駆けながら、握り拳を作り叫ぶ。
「ママー、あの人達‥‥」
「しっ、見ちゃいけません!」
 その光景を目にし、子供が好奇心で母親へ問うも彼女は己が子を言葉の途中で嗜めて視線を合わせない様にと抱きかかえるが‥‥勿論、そんな茶々を気にする二人ではなく、会話は続く。
「そうなるな」
 頷き、ゼルクトゥスへ肯定の意を示す代わりに頷くと静かに笑う、闘士。
「なら張り切って行かねばなるまい、成功させる事が出来れば‥‥」
「『暗部』が一端に加えて貰えるか!」
「なくはないな!」
 次いで紡がれる言葉にヴィーも続けば、やがてそのテンションは何時も通りに復活し
「ならば、ツァール兄が操るズゥンビより速やかに任務を達成してみせるっ!」
「どの位、時間を掛ける気なのだ」
 高らかに宣言する騎士へ呆れるゼルクトゥスだったが、ヴィーは何時もの様に高笑いを上げ‥‥だが胸に刺さる楔は未だ、抜けずにいる事を感じていた。

「なんだ、あれは‥‥」
 その異様な光景を視界の片隅に留め、何となく呆れるレリア・ハイダルゼムだったがエドワードが彼女の上着の裾を引っ張れば、その視界を一点から周囲へ広げ嘆息を漏らした。
「剣を振るわぬだろうこの依頼、私には難しくて困るが‥‥どうしたものか」
 町中に漂う澱んだ雰囲気からそれだけ言うも彼に引かれるがまま、また別な場所へとその足を向けた。

「‥‥上手く惹き付ける事が出来ればいいが」
 一枚の、古ぼけた紙片に記されている文字に目を通しながらノッテンガムの町を見下ろすのは『ナシュト』と呼ばれた、蒼い鎧を身に包む巨躯の男。
「‥‥出来ねば計画が動き出した以上、不要な歯車は‥‥」
 何を考えてか、静かにそれだけ呟けば一人、駆け出すのだった。

――――――――――――――――――――
 ミッション:ノッテンガム市街を守れ!

 成功条件:???
 達成条件:市街に被害等が発生しなかった時
 失敗条件:市街に何らかの被害が発生した場合

 必須道具類:依頼期間中の保存食(日数分)は忘れずに。
 それ以外で必要だと思われる道具は各自で『予め』準備して置いて下さい。
(販売されていないアイテムに関して、用いる場合はプレイングにて根拠の明示を忘れずに)

 その他:レギオンの復活より一ヶ月、未だ市街にまで被害は及んでいませんがその日はどの様な形かで起こるだろう事から、今回の依頼をお願いされました。
 皆さんはレリアさん、エドワードさんと共に万が一のレギオン襲撃に備えつつ市街の状況を確認、観察し何かあった場合には適宜に対応して下さい。
 レギオンによる直接的な被害は未だありませんが、いつ来るかも知れない恐怖から人々の精神はどうなっているか、そしてこれからどうなるのか‥‥想像もつきませんので。
 それでは宜しくお願い致します。

 傾向:PCの行動次第で如何様にも
 参加NPC:レリア、エドワード
――――――――――――――――――――

●今回の参加者

 ea0018 オイル・ツァーン(26歳・♂・レンジャー・エルフ・ノルマン王国)
 ea2765 ヴァージニア・レヴィン(21歳・♀・バード・エルフ・イギリス王国)
 ea5541 アルヴィン・アトウッド(56歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea5866 チョコ・フォンス(29歳・♀・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea7044 アルフォンス・シェーンダーク(29歳・♂・クレリック・エルフ・イギリス王国)
 ea8065 天霧 那流(36歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 ea9089 ネイ・シルフィス(22歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・イギリス王国)
 ea9098 壬 鞳維(23歳・♂・武道家・ハーフエルフ・華仙教大国)

●リプレイ本文

●Nottingham
「遠路はるばる疲れただろうがこれから暫くの間、宜しく頼む」
「‥‥‥」
 キャメロットを発って五日目の昼頃、市街の門を前に皆を出迎えるレリア・ハイダルゼムと無言のまま、彼女の傍らに佇むエドワード・ジルス。
「こちらこそ、宜しく頼む」
 女剣士の素っ気無い対応に、一行の中で唯一彼女らと面識のあるにも拘らずオイル・ツァーン(ea0018)も同じ調子で返せば次いで周囲から漏れる、忍び笑い。
「面識あるのに何か堅苦しい挨拶だね。ってそれより何よりレリアさんにエドワードさん、宜しくねっ」
 その主であるチョコ・フォンス(ea5866)、一つ咳払いをして明るい笑顔を湛えて挨拶を交わせば他の皆も彼女に倣ってその後に続くと
「話は友人からも聞いているわよ。色々と大変なご様子で」
 皆の最後、ヴァージニア・レヴィン(ea2765)が微笑と共に紡いだ言の葉にレリアの表情を僅か、曇らせると
「あぁ、人々の様子は余り宜しくない、辺りを見て貰えればそれが分かるだろう」
 長い銀髪を舞わせ、周囲を振り仰げば一行も視線を巡らせれば閑散とした町並みが飛び込んで来る。
「市街に何事もないからこれだけで済んでいる。だが此処に万が一、レギオンでも来ようものなら」
「レ、レギオンですか。じ、自分は存じ上げませんが‥‥皆さんの為にが、頑張らなきゃ」
 その光景を寂しげに、だが最悪の事態を想定しレリアが呟けば目深に被る外套から覗く、不自然な色合いの黒髪を揺らすハーフエルフの壬鞳維(ea9098)は震えるも、拳を固め静かに決意すればその様子に静かなままだったエドワードが頷く。
「それにしても寒気ばかりするのは、あたしだけかい?」
 その光景に小さな魔術師と目線を合えば表情を綻ばせるネイ・シルフィス(ea9089)だったが、先程から背筋に走る悪寒についてレリアへ問うも
「確かに最近、寒くなって来たが今日はまだ暖かい方だ」
「あぁ、そうかい‥‥やっぱりそうなんだねぇ」
 その答えに四度目の再会が否めないと悟ればネイ、自身でも知らぬ内に嘆息を漏らした。

●A Sword
 それから一行、成すべき事をレリアに話した後にノッテンガムの騎士団を統べるヴリッツ・シュベルツァと会い見えていた。
「民を守るのが騎士の役目、だからこそ今までは私達が市街を守っていたけれど今回の件を考えれば確かに自警団の存在は必要なのかも知れないですね」
「なら此処最近は話の通り、市街の警護は手薄なのですね」
 騎士団長の言葉に真面目な面持ちで確認する天霧那流(ea8065)へ彼は頷けば
「全く持って痛い限りですが、その通りです。騎士団の大部分を対レギオンに投入しなければ防ぎ切る事が出来なかったとは言え」
「まぁ過ぎた事を言ってもしょうがねぇ、それよりこれから何をするかが大事じゃねぇか?」
「その通りだ。だからこそヴリッツ、あんたに会いに来たんだ」
 次いで渋面を浮かべるもきつい言葉尻ながら、その装いからはクレリックには見えないアルフォンス・シェーンダーク(ea7044)に、続いて明朗に真っ直ぐ騎士団長へ言葉をぶつけるアルヴィン・アトウッド(ea5541)ら、二人のエルフの言葉へ暫く沈黙するも
「そうですね、分かってはいるのですが‥‥とりあえず先の話は可能な限り手伝います」
「助かる。この地に確固たる剣を残す為にも、そして後にまで皆が町を守る剣となる事を願って」
 紡いだ言葉と同時にその表情を緩め一行へ協力を誓えばオイルの決意に皆は頷き、行動を開始するのだった。

「エドワード、改めて宜しく。レリアと一緒じゃなくても大丈夫?」
「‥‥うん」
 やがて二組に分かたれる一行の内が片方、頭を撫でた後に踵を返し手だけ振るレリアの背中を見送るエドワードの様子に那流が優しく尋ねると、初めて口を開く彼に微笑み頷く。
(「何かあったのかな?」)
 その光景にチョコも微笑むが、会った時から変わらぬエドワードの希薄な反応に内心で小首を傾げるも、彼女の僅かな表情からそれを察してオイルがやはり静かに口を開く。
「掻い摘んで話しておく必要はあるか、心の傷‥‥癒えぬ身には酷かも知れぬがいいか、エドワード」
 チョコが頬を掻く中、その問いには少しの間を置いてから頭を縦に振る彼の頭にオイルが掌を置けば再び口を開こうとしたが
「まぁ行きましょう、皆さん。時間も勿体無い事ですし、その話は道中で」
「手、繋ぐ?」
 そっと手を掲げ、ヴァージニアが影を差している彼を制すると次いで那流がエドワードへ手を差し出せば、返事の代わりに伸びる手を握れば表情を綻ばせ歩き出した。

 そんな事で動き出した一行は町に詰めている僅かな騎士団の協力を得て、自警団設立の為に市街を巡回し、まずはその中心になる市民達と話を交わしていた。
(「やっぱ、たりぃな」)
 その、いつの間にか出来た人だかりの只中でアルフォンス、沈んだ表情ばかり浮かべる人々の様子に何となくの気紛れから、普段の装いのままでうろ覚えな説法を説いてみるのが暫くして自身が取った行動を後悔する。
「おいらもやってみたい!」
「必要な時に必要な事をすればいい。いずれお前にも戦う時が来るかも知れないが今はまだ、その時ではないと俺は思う」
 だがその甲斐もあってか、殺風景だった町並みの中にも人の姿が少しずつ増えて来れば自警団に付いて尋ねて来た子供へアルヴィンが優しく諭しかけ、その頭を静かに撫でた。
「‥‥ん?」
 その折、ハーフエルフであるが故に外套を被っては子供達と戯れるネイの視界の片隅で蒼い影が舞った気がして、暫くの間凍りつくのだった。
「ねー、お姉ちゃん。さっきのお話の続きー!」

「す、すみません、レリア殿。む、無駄足にお付き合いさせてしまって」
「気にしなくて良い、皆と違って他に私が出来る事はなかったから」
 数日後、日が既に落ちた頃。
 情報を交わす一行の中、自身の狙いの的が外れた鞳維が身を縮め込ませ女剣士へ詫びるも、彼女は相変わらず表情を変えず素っ気無い口調でハーフエルフの武道家を諭すと
「まぁそれでも、巡回の結果は出ていますね」
「そうだな。とりあえずはオイルが言う一振りの剣、残す事が出来そうだ」
 前向きな性格を持って朗報を紡ぐ那流にアルヴィンが頷けば一時の住まいが窓の外に広がる、輝く星空を見上げる。
「そう言えばレリアさん方が見た、怪しい人達ですけど」
 その彼のローブの端をエドワードが引っ張る中、それに微笑みヴァージニアがフライングブルームや魔法を用いて市街の周辺を巡回した結果を皆へ告げる。
「所構わず誰かしらが見掛けていて、魔法で過去を垣間見ても特に何をする事なく‥‥正直、何が狙いなのかは」
「相変わらず分からねぇ奴だが、積極的に動かない所を見ると陽動の類だろうな」
「しかし一体、何の為に」
 次いで小さく肩を竦めれば、アルフォンスの判断にアルヴィンが首を捻れば、その中で那流とネイが何かに気付くも
「とにかく皆さん、気を付けて行きましょう」
 ヴァージニアが一先ず、場を締めればその日はとりあえず休息に入った。

●Mind Twist
「くれぐれも夜は用心とか気を付けて、何かあったら遠慮なく言ってね」
 その翌日、シャーウッドの森に程近い区域の広場にて僅かに顔を覗かせる人々へ那流が穏やかな声音で皆へ呼び掛ければ
「どんな時でも希望を忘れないで 優しさを忘れないで
 大切な人を守る為に友人と 隣人と手を取り合って
 希望を信じて 生きていこう」
 歌う事が何よりも好きなヴァージニアが舞う風に魔力を織り込んだ歌声を乗せ、言の葉を紡ぎ上げれば家に潜んでいた人々が窓から続々と顔を覗かせる。
「無理もない、緊張を強いられる日々を過ごして来ただろう。まだ少し、時間が掛かりそうだな」
「ごーごー、ゴーレムだよー!」
 表裏のない、何処までも澄んだ歌声が響くもそれからは変わらぬ人々の反応にオイルが呟けばその最中、エドワードの事情を聞いても尚屈託なく木製の人形を手繰り接するチョコへ無言ながらも両手をばたつかせ応える彼の姿を視界の隅で捉えれば、羨ましげにそれを見つめ‥‥気を使うだけの自身の不器用さを少しだけ、呪ったが
「人は強いものだと、信じたいな」
 知らぬ内、以前より少しだけ楽しげに見えるエドワードの表情から静かに呟いたその言葉は次に吹いた突風に、ヴァージニアの歌共々掻き消された。
「む?」
『あ』
 がその突風が間抜けな声を上げた事に気付いた五人、その突風がノッテンガムを騒がせている馬鹿騎士に闘士だと理解すれば釣られ誰かが間抜けな声を上げると、突風がやって来た方向から遅れて声が上がる。
「アリンコ騎士達、覚悟しなよ!」
 よく見ると薄汚れているヴィーへ物を投げ追い駆けて来たのだろう、彼を見付けたアルフォンスを筆頭に別行動を取っていた五人が現れれば、続くネイの宣言に
「私は騎士ではない!」
「そんな事はどうでもいいよ。で、今回は何をしようとしているんだい?」
 訂正を求めるゼルクトゥスだったが彼女は軽やかにそれを無視すると、一歩前に出れば見知った相手故に強気に出る。
「お前達、象の群れを我らが力で地の果てまで誘き寄せに寄せる! 白旗揚げても駆け抜ける! そんな秘密で素敵なミッションを遂行中だ!」
『やっぱり陽動ですか』
 だがそれにヴィーは何故か胸を張り、高らかに告げれば一行は揃って呆れると
「なっ、何故それを知っている! さては我のピュアな心でも読んだか!」
『自分で言っていたから』
「‥‥様子を見てくる、無理をしない程度に。エドワードも来てくれるか?」
 その反応に自身で言った事が分からないのかヴィー、立て続けに皆を呆れさせると付き合い切れないと判断したオイル、エドワードが首を縦に振るのを確認してから歩き出す。
「嘘だ、嘘だと言ってくれ‥‥ゼル!」
「いいや、彼らの言っている事は真実だ」
「うぉぉー、まさかゼルまでもがっ! 此処にいる人は皆、獣の皮を被った人か?!」
「逆だ」
 そして去って行く彼は気に留めず、親友の襟元を掴んでは揺するも孤独の憂き目に遭って錯乱すれば、沈黙を決めていたレリアにまで突っ込みを貰う始末。
「そこのお兄さん、背中から哀愁が漂ってるよ?」
「ふはっ、何を根拠にその様な事を!」
「無理に笑っても、騒いでもね‥‥心が叫んでる。良かったら聞いてあげるけど」
 それでもその光景に何かを感じたチョコ、騒ぎ立てる彼とは違う調子で静かに彼の心へ響かせる様、呼び掛ければ
「‥‥‥」
「おい、ヴィー。余計な事は考えるな、今は任務だけ」
「で、何が起きてる訳? つか何が起きようとしてるんだ? ハンパじゃねぇ何か‥‥なんだろ?」
 意味不明な妄言ばかり吐くヴィーにしては珍しく、沈黙を返すと彼を揺さぶりつつ拳を掲げるゼルクトゥスを遮ってアルフォンスが掛ける言葉とは裏腹、穏やかな表情を湛え尋ねると
「魔本だ。五冊の魔本を集め、レギオンを解き放った後‥‥それを真に解放しようとしている」
「ヴィー!」
「今の旦那は何か、違うっ! あの魔本を手にしてから少しずつ変わって、昔から冷たかったが、今は何かが‥‥違う」
 その口から紡がれた答えに闘士は叫ぶも、ヴィーは更なる叫びで彼を沈黙させたが
「やはり処断しておく必要があったか‥‥ヴィーよ」
「‥‥旦那」
「あんたは一体何者なんだい?!」
 その騎士の頬を掠め、地へ突き立つ槍に皆が辺りを振り仰げば巨躯の割、軽やかな音を立て一行の前に舞い降りる蒼き騎士。
 次いでそれを抜き、呟けばヴィーを貫こうと槍を掲げるもネイが叫びと共に放った雷撃をまともに受ける。
「‥‥導く者、この醜く小さな世界を」
「そ、それでも貴方に導かれる程、人は堕ちていないと‥‥思いますが」
 そして舞い上がる土煙の中で直撃にも拘らず平然と立ち尽くすナシュトの呟きへ、周囲を恐る恐る振り返りつつ、動き出す自警団の姿から鞳維が彼を見据え強く言えば
「今更、遅いのだよ‥‥もう止められぬっ!」
「ナシュト様」
 顔を覆う鉄兜の中の表情は見えず、だがナシュトの絶叫と同時‥‥その傍らにいつの間にか佇んでいた着流した和服の男が呼び掛けと、その手元にある一冊の本を蒼き騎士が見れば、彼は踵を返す。
「それはっ!」
「此処の図書館にあった物だ。誰も悲しむ事がない様、痛みを越えねばならない‥‥その時が今であり、それを乗り越えてこそ待つ世界が、歩くべき道が見える。その為に、これが必要なのだ」
 ヴィーの話から浪人風の男が持つ本が何かを察した那流が叫ぶと、自身の目論みを遠回しに口にするナシュトだったが
「何を言っているのか、さっぱりだねぇ」
「知る必要はない‥‥時期に分かる事だ。もう、此処に用は無い‥‥そしてそれはヴィー、お前も同じだっ!」
 ネイの皮肉を聞き流せば、その魔術師へさっきの礼を返す為か不意に槍を振り抜けば周囲へその一閃から放たれる衝撃波を見舞った。
「ま、待っ‥‥」
「それより、皆を助けないと」
 そして再び舞う土煙の中、遠ざかって行く幾つかの足音を耳にすれば赤黒い髪を揺らし武闘家は逡巡するもやがて追い駆けようとして、ヴァージニアに引き止められれば周囲に醜く残る破壊の爪痕に愕然とし、彼女に従うのだった。


 それから数日を経て一行は一先ず自警団の礎を築き、その後を騎士団に任せてノッテンガムを背に一路キャメロットへの道を歩いていた。
「‥‥あいつ、どうするんだろうねぇ」
「騎士である自覚があるなら、いずれ答えを見付けるだろう」
 その一行の中でネイの、珍しく心配そうな声音にオイルが背後を振り返り言えば
「だといいですけど‥‥」
 それでもヴィーの最初の調子を思い出し、それだけで疲れた真面目な那流が別な意味で不安げに呟くのだった。

「‥‥何故、ついて来る?」
「へこんだままの親友をそのままにしておけるか」
「お前って奴は‥‥馬鹿だな!」
「君に言われたくはないな、まぁいい。それでこれから、どうするんだ?」
「‥‥さぁ?」
 あれから然程時間が経ってない頃、そんなやり取りを交わす二人組がシャーウッドの森へ入って行くのを見た人がいたらしい‥‥が、それから先はまた別なお話。