【魔本解放】外伝 〜Go On!〜
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■ショートシナリオ
担当:蘇芳防斗
対応レベル:5〜9lv
難易度:やや難
成功報酬:1 G 64 C
参加人数:6人
サポート参加人数:7人
冒険期間:11月23日〜11月26日
リプレイ公開日:2005年12月01日
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●オープニング
●お馬鹿コンビ、放浪の末
「何処だ、此処」
「‥‥いつの間にやらキャメロットまで来てしまった様だな」
あれから彷徨っていたのだろう、何日も歩き詰めの末に何処かの森を脱出し四人を眩しく照らす夕日に此処は何処かと尋ねるヴィー君と、辺りを見回しそれに答えるゼルクトゥス君。
「どうするつもりだ、一体? 本当に訳があって此処まで来たのだろう?」
訳があって此処まで来たのなら『何処だ、此処』等と尋ねないだろう。
「冒険者ギルドで人手を借りる!」
「は?」
「旦那を元に戻す為だ、その為に我は此処まで来た!」
だがヴィー君、いきなり妙な提案を口にして蒼き闘士を唖然とさせれば次いで握り拳を掲げ、その理由を力説。
凄い形相だ、今にも泣き出しそうな位に凄い表情。
「なるほど、何も考えていない様で実はそこまで考えていたのか! 流石だな!」
しかしそれに納得するのはゼルクトゥス、納得するなよ馬鹿。
「だが、我々は今まで冒険者ギルドとは敵対していただろう。今更どの面下げてそんな事を‥‥『愚民共、我らの為にその小さな力を貸せ』とへりくだってお願いした所で無理だ」
けれど問題点に気付いた馬鹿闘士は改めて馬鹿騎士へ尋ね‥‥ってちょっと待て、ゼルクトゥス、その言い回し全然へりくだってないぞ。
「安心しろ、ゼルクトゥス。それに付いても既に我の中では解決済だ」
無論、そんな事は気にしないヴィー君は懐から苦労し、一枚の羊皮紙を取り出す。
ご丁寧にグルグル巻きにされ、紐でふんじばってあるそれを出して笑えば
「これを冒険者ギルドに届ければ一発で問題は解決だ!」
中には何が記されている事か、とんでもない文面になっている事は容易に予想出来たがそれでも彼は自信を溢れさせ、マントを靡かせると
「復讐も果たせて、奴らが我らに降った上で旦那を元に戻せる‥‥こんなにも素晴らしい策が他にあるか? 否、答えはない!」
ゼルクトゥスより言葉が返って来るより早く、自己完結すると
「そんな訳でこれを誰かに届けて貰おう‥‥と言う事で、とりあえずはキャメロットに侵入だ! そして誰かにこれを冒険者ギルドへ届けて貰う! 以上、行くぞ!」
まだ何か言いたげだった闘士とその仲間達を差し置いて彼は踵を返せばキャメロットへ向け、駆け出すのだった‥‥彼に捕まる人間が出る事を考えると、不憫でならない。
●挑戦状
『拝啓、我をアリンコとか呼んでいるお馬鹿な冒険者諸兄。
今日も元気でいつもの様に弱い者虐めに精を出しているかと思うが、程々にしておきたまえよ。
後で弱い者達に逆襲され、我に泣き付かれても困るからな!
と、そんな事になったとしても我が知った事ではないのでさて置いて‥‥本題を記す。
勝負だ、弱い者虐めが好きな冒険者の諸君。
いよいよ以て我はお前達に正義の鉄槌を下す事に決めた、深い意味はないが何となくそんな気分になっただけだ、なんて口が裂けても言わないぞ!
ましてやお前達の事を恨んでいる訳でもない、今まで散々馬鹿にされて臭い布をぶつけられた挙句に言葉攻めでは飽き足らず、暴力三昧の日々なんかもう忘れたぞ!
‥‥いやまぁそんな訳で、勝負しませんか?
君達が勝ったら何でもします、えぇそりゃ靴磨きでも雑巾掛けでも弱い者虐めでも!
‥‥但しお前達が負けた場合は別途、指示があり次第だが我らに従いついて来て貰う。
うだうだと書くのは飽きた、だから理由は聞くな、時が来たら話す。
と言うか、我らが負けたら何でもかんでも全部纏めて話す!
だからお願いします、先生方。
以上、ヴィーと愉快な仲間達より』
●それを読み終えた、冒険者ギルドにて
『‥‥‥‥』
キャメロットで様々な行路を取り仕切るアシュレイ・ゼルガードが託されたそれを読み上げれば、その後に続くのは沈黙。
そりゃそうだ、こんな妙ちきりんな挑戦状に誰が「返り討ちじゃ、ゴラァ!」等と言えようか、呆れるのが関の山‥‥と言うかむしろ、何の意図を持ってこれを書いたのかがいまいち良く分からない。
だがそれでも、アシュレイはその沈黙を断ち切る様に言葉を紡ぐ。
「私がこれを預かった、ならこれを私が依頼としてお願いするのはどうかな?」
「と言いますと?」
その提案は意外で、だがそれを表情に現す事無くアシュレイへ受付嬢が尋ねると
「実は彼ら、ノッテンガムにとって必要な情報を握るだろう人物として名前が挙がっていてね。もしキャメロットで見掛けたら捕縛する様にかの領主から言い伝っているんです、私が。どうして彼らを捕まえなければならないのか、詳細については聞き及んでいないから分からないけど‥‥ノッテンガムにとって重要な情報を握っているのだろうね」
ノッテンガム領主と接点がある事を口にしつつヴィー達が置かれている現状に付いて、間を挟みながら長々と語れば、一息入れた後に提案した理由に付いて述べ
「そう言う事で一つ、これを依頼として頼まれてくれないかな? 彼らとは接触が取れる状況なので力を持って押さえる事も簡単だろうけど、ヴィーと言う騎士の瞳はこの手紙を書いた割には意外に真直ぐだったのでね。私がルールを設けた上で立会い、彼らも納得させた上で勝敗をつけるべきだと思う」
「アシュレイさん‥‥いえ、依頼人がそう言うのでしたら」
この戦いの一切を取り仕切る旨を告げて受付嬢を納得させると、アシュレイは顔を綻ばせるのだった。
「なら、決まりですね。それでは明日にでも詳細を纏めてこちらと彼らにお伝えします、それで依頼として改めて引き受けて貰えるでしょうか?」
「はい、分かりました」
しかしながら一体ヴィーと間でどんな会話が成されたのか、正直気にはなるが‥‥それが話される事はなかった。
そして翌日、世にも珍妙な依頼が冒険者ギルドへ張り出されるのであった。
『馬鹿の果し合いに応じて貰える冒険者募集、真性の馬鹿が相手なのでお気軽に!』
『はぁ‥‥』
それを見て数名の冒険者の口から一斉に溜息が漏れたのは此処だけの話。
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ミッション:ヴィーとゼルクトゥスらの対決に臨め!
成功条件:勝利した時
失敗条件:敗北した時
必須道具類:依頼期間中の保存食(日数分)は忘れずに。
それ以外で必要だと思われる道具は各自で『予め』準備して置いて下さい。
(販売されていないアイテムに関して、使う場合はプレイングにて根拠の明示を忘れずに)
その他:ふと舞い込んで来た挑戦状、何を考えての事か分かりませんが文面から見る限り‥‥理解不能ですね。
過去の報告書を見る限り根っからの悪人ではないと私達は判断し、またアシュレイさんが依頼主と立会いをすると言う事でこの依頼を引き受ける事となりました。
今後のノッテンガムにとって、大事な戦いともなるでしょう‥‥?
以上、宜しくお願い致します。
傾向:騎士道精神に乗っ取った対決、いつもよりは真面目?
NPC:アシュレイ、ヴィー、ゼルクトゥスと愉快な仲間達(神聖騎士とウィザード)
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●リプレイ本文
●Thought
決戦当日の朝、まだ戦いの場へ向かうには早過ぎる頃。
「当日の安全確保と、そのついでなのですが‥‥自分が口を出す事ではないだろうが、ヴィー達の今後が心配なのでその身柄の保護と安全確保についてどうかご一考して貰える様、ノッテンガムの領主様へ伝えて頂けないでしょうか」
普段と違う、丁寧な口調で今回の依頼人であるアシュレイ・ゼルガードへ頼み込んでいたのはライル・フォレスト(ea9027)。
過去、ヴィーらが行った事を考えれば‥‥まぁ、そう大した事はしていないも『暗部』との接点を持っていた事から、何らかの処罰は与えられる事を踏んでの彼の申し出‥‥甘いと言えばそれまでなのだが、お人好しな彼の性分故に言わずにいられなかったのだろう。
「伝えておこう、尤もその点に付いては暫く心配ないと思う。オーウェンは『暗部』の拠点を知りたいと言っていたからな‥‥まぁ、後は彼らの意図次第だろう」
「それは‥‥確かにそうですね」
彼の不安を払拭させる答えにノッテンガム領主の真意を告げると、ライルが苦笑を浮かべれば次いで二人は同時に肩を竦めた。
とそんな真面目なやり取りが事前に行なわれていたりしたのだが、いざ始まってみれば
「真の強者は、己が強さをひけらかしたりしないものだそうですが‥‥はてさて、あの方達はどうなのでしょうね?」
「ん、あんな感じだぜ。少なくとも俺が以前見た時と変わってないな」
愉快な仲間達とは初見なアレクセイ・スフィエトロフ(ea8745)の問い掛けにライル、何やら揉めている彼らを指差すもその光景は至極普通に見え、いまいち分からない彼女。
「因みに‥‥どんな方なのだ?」
その詳細をライルへ更に尋ねると、彼が耳打ちする事暫く‥‥。
「‥‥ふ」
詳細を知った彼女は憐憫と同情を込めた瞳でヴィーを射抜くと
「何だ、その蔑み哀れみ満々な同情の視線は! まだ死合いも前なのに早くも必殺の弱者虐待かぁっ!?」
「何が弱者虐待ですってぇ?! そっちがお馬鹿な事ばかりしているのが悪いんでしょ‥‥成敗されて当然よ!」
「ムギャー!」
途端、その視線に気付くヴィーの叫びは天霧那流(ea8065)の一喝に地団太させられる羽目となり‥‥これから『決闘』を行なうとは思えないやり取りが繰り広げらる。
「哀れな、君の瞳には私達が馬鹿にしか見えていないなんて! 余りにも私が優れ過ぎているからそう映ってしまうのだろう‥‥あぁ、でも私はそんな君達を咎めたりはしない、何と言っても私は天才だからね!」
「流石です、坊ちゃん!」
『はぁ』
そしてその場を更に掻き乱す蒼き闘士のゼルクトゥスが割って入れば彼を崇拝する女魔術師が褒め称え、どうやら常識人らしい男の神聖騎士はその光景に一行と揃って溜息を漏らすとやがて、一行と愉快な仲間達の間で前哨戦の舌戦が始まり、早くも場は混沌とする。
「しかし本当に変わらないねぇ、お馬鹿なアリンコ。まだ懲りないのかい?」
「‥‥今回も来たか、我が宿敵めっ!」
その中、いつの間にかその輪を抜けヴィーが舌戦を観戦していると近付いて来たネイ・シルフィス(ea9089)の不敵な笑みと共に紡がれた挑発に呻くも
「今回こそはお前に今までの屈辱、恥辱、侮辱‥‥その他諸々全てを!」
「全てを‥‥何だい?」
「忘れます、はい」
負けじと叫ぶが、彼女の冷徹な一瞥にそれは最後まで言えなかった。
「‥‥人間、見た目や言動だけでは解からん事もあるからな。と言っても、それだけでもないのだが」
そんな光景を一人蚊帳の外、生暖かい目で見守る羽紗司(ea5301)が嘆息を漏らすも彼らを擁護する様な発言を、だが小さく呟くと
「‥‥確かにこれは、交えてみないと分からないか」
「決闘‥‥ふふふっ、余りにも良い響きで熱き血潮が沸き上がっていきますわ。ジョンブルの方々にゲルマン魂を見せてあげしょう!!」
その表情を引き締め、静かに闘気を漲らせればその彼に続いて誰よりもテンションの高さ故に普段と口調の違うジークリンデ・ケリン(eb3225)が高笑いを上げるのだった‥‥さてはて、この戦いの行方はどうなる事か。
●Strong Wind
「あたし達が勝つよ‥‥全力で来るんだねぇ!」
「ふっ、それはこちらの台詞だよ。お嬢さん」
やがて始まろうとする戦いを前に始まるネイの口上を流し、ゼルが優雅に笑うと次いでその拳を掲げれば残りの皆も一斉に各々の得物を構えると響く、アシュレイの声。
「準備はいいな?」
それに皆が頷くと続くのは、船長の後ろに立つ一行の知人達。
「そんな人達に負けない様、頑張ってね!」
「怪我には十分、気を付けてな」
それぞれ思い思いに声援を飛ばせばその隣で呻くヴィーの肩身は狭く
「くぅ、これが敵地の洗礼か! しかし負けんぞ‥‥見よ、我が妙技!」
だが次には叫び、その妙技を披露するが‥‥余りにも下らない技だったので描写は割愛。
「‥‥始めっ」
「風のウィザード、ネイ‥‥参るよ!」
「行きます」
呆れるアシュレイの合図にネイの叫びが重なり、同時にアレクセイとそれに合わせゼルも駆けるが、彼女は静かに笑うと即座に身を翻し‥‥次いで僅かな動作だけでジークリンデが詠唱を完成させた。
「く、この呪文‥‥」
「さぁ、どうしますか?」
そして彼らの周囲を煙の領域に包めば呻くゼルへジークリンデは愉悦の笑みを浮かべると、間を置かず違う詠唱を完成させてはその目に赤外線視覚を得て前衛の二人へ指示を出す。
「‥‥そちらに二十歩程進んだ所に皆、固まっています」
「りょーかい!」
その指差す方を見つめ、ライルは返事をするが‥‥一向に煙の中から出て来ない事に訝りつつも気を抜かず、その出方を探る事にする。
その頃、煙の中。
「念の為、結界を張りましたがどうなされます?」
「ここで待っていても彼らは来ないだろう。エレーナ、あれをやる‥‥以後は索敵を密に私の援護を、ジドはここでエレーナを守れ。これではある意味、向こうも迂闊に手は出ない筈だ」
神聖騎士の問いにゼルは考えも僅か、答えを提示すれば
「流石です、坊ちゃん!」
「無論だ‥‥では、行くぞ!」
傍らにいる筈のエレーナと言う魔術師へ見えないだろうがその賞賛に微笑むとゼルの掛け声と同時、エレーナが即座に呪文を完成させればそれをゼルの背中へとぶつけた。
「プワァーフェクツ!」
「なっ!」
彼女が放ったのはストーム、それの力を借りて唐突に煙の領域からゼルが飛び出せば予想だにしなかった行動に驚く四人、流石に体勢が崩れていた為に不意を付いたゼルの拳をその目標となったアレクセイは避けるも即座、着地と同時に放たれた二撃目には目を見張りつつ寸での所で上体を反らし、回避する。
「‥‥中々、やりますね」
「君達こそ、な」
「そこだぜっ!」
そして笑う二人だったが、彼女を援護すべくライルが彼の懐へ鋭く飛び込むと鎧の継ぎ目を見切り駆け抜け様、そこへ斬撃を見舞えばゼルの体勢は僅かに崩れ‥‥二人はそれぞれ飛び退ると
「くっ、今だっ!」
「ケリン、同時に行くよ!」
「えぇ!」
煙の領域から飛んで来た風の刃に身を刻まれながら、ライルの合図と同時に風と火を司る魔術師達が目線を配し
「あたし達の‥‥攻撃に耐えられるかい!」
「ま・る・や・きにして差し上げますわ♪」
即座に印を組み同時に完成させた雷撃と爆炎の塊をゼルへ贈呈し、見事に彼を焼き焦がす‥‥が。
「ぐふぅ‥‥いい、攻撃だっ!」
「うへ、頑丈だな」
「‥‥皆、散って!」
濛々と上がる土煙の中で焦げながらも立つ彼にライルは呆れるが、大気が微かに爆ぜる音を耳にしたアレクセイが叫ぶも、それより僅かに早く煙を突き破ってエレーナが放った雷撃が迸る。
「ぷぎゃーー!!」
『‥‥‥』
が、それは見事にゼルを捉え焦がし四人を呆れさせるのだった。
「‥‥いいのですか、あの程度の腕であれば私とマリゥ様だけでも」
「いいんじゃない、むしろ奴らが負けてくれた方が面白くなって良さそうだけどねぇ」
その戦いを木陰より覗く者あり‥‥非常に上手く気配を隠している為、一行にアシュレイまでもその存在に気付く事はなかったが‥‥この状況を好機と見、落ち着いた声音での部下の進言を一蹴するマリゥ。
「まぁ、そんな顔をするな。第一、命令としてこれは受諾していない」
「‥‥ですが、このままでは」
次いで無言で顔を顰める部下を宥め、彼女は笑うもその部下は尚も食い下がらず。
「あいつの情け‥‥いや、もしかしたら止めるべく残されたのかも知れないねぇ」
だが呟いた言葉は彼女が問うていた物に対してではなく、負けた同胞へ「それでもお前は男かぁ!」と喚いている騎士に対して伝えるべき言葉か。
「行くよ。円卓の騎士が一人、ユーウェインが保護する魔本とその鍵‥‥イアン・ヴェルスターの確保に」
だが次には何事もなかったかの様に改めて受諾した命を口にすると未だに不機嫌な部下を宥め透かせ、キャメロットへと駆け出した。
●Large Minded
一戦目はその後、ゼルの悲鳴にエレーナが結界から飛び出せばその彼女をアレクセイが見事な手際で昏倒させると次いで、煙の結界が晴れれば目に映った一対四と言う戦力差にあっさり両手を掲げるジド。
と言う事でゼル達のほぼ自爆に近い形で勝利した冒険者側。
「ふっ、弱い者苛めという事はあんたも弱いと自分で認めたようなもの。悔しかったら、実力を見せて見なさい」
「恨み等これっぽっちもないが、戦うと言うのなら‥‥それ相応の覚悟をしろよ」
それ故に続く二戦目も‥‥勝ち方はあれだが、意気揚々とヴィーを挑発する那流と羽紗。
が、珍しくヴィーは沈黙。彼が何を考えているのか分からないが、今までとは明らかに違う調子から二人はそれぞれ静かに拳を固め、得物に手を掛けると次いで響くアシュレイの合図で一斉に地を蹴った。
「うぉおぉっ!」
叫ぶヴィーは先を駆る羽紗目掛け、見た目至極在り来りな長剣で切り掛かるも
「甘い」
直線の軌道で迫る刃を素手で見事に挟み込むと、その横合いから駆け込んで来る那流が両手に持つ二刀を立て続け振るうが、それよりも早くヴィーが抗い浪人の掌に収まる刃を抜き出し飛び退る。
「やれば出来るじゃない」
「当然だっ!」
彼が取る一連の動作に那流は感心するがその暇にヴィー、印を組めば着地と同時にそれを完成させ闘気を纏うと改めて剣を掲げ、突貫を開始する。
「その動作‥‥余りにも単調だ」
駆ける騎士にその呟きとは裏腹、慢心を持たず羽紗が待ち受けては再度その刃を掴み取ろうとしたが目の前に迫ったその騎士の体は掻き消え、次いで側面より鋭い衝撃を受けて吹き飛ばされそうになるも、踏ん張りその場に堪える。
「それだけの力、どうして『暗部』に貸したりするの? あんたは何の為に戦うの?」
「俺は‥‥旦那の為に! 惑い苦しむ旦那を助けるが為に!」
自身の思考を欺かれたその攻撃に羽紗は静かに顔を顰めると直後、追撃しようとするヴィーだったが羽紗を援護しようと再度那流が彼らと距離を詰め、その間にヴィーへその意思を問い白刃を煌かせる那流だったが‥‥その答えと共に振るわれた騎士の剣は凄まじい音を立て、風を切り迫ればそれは彼女を捉える。
(「っ、これは正攻法だとあたし達が不利かもね」)
その威力に那流は目を見張り、痛みに表情を歪めながらそう判断すると
「そう‥‥でもそれは無駄じゃない? あたしが聞いた話じゃこの一連の事件に決着を着ける為、直に『暗部』本拠地へ強襲を掛けるそうよ」
「それでも我の中にある蟠りが解けるまで、我が納得出来るまで決して『これ』はお前達へ任せる訳に行かないんだっ!!」
先のやり取りから彼が揺るぎそうな、友人達が集めてくれた情報の一つに尾ひれを付けて言うとそれを聞くなりヴィーは表情を変え、裂帛の叫びと共に駆け出した。
(「余程、真剣なのね」)
その姿と想いに彼女は視線を伏せるもやがてその表情に決意を湛え顔を上げると、今度は羽紗より前を那流が得物を握る両手をぶら下げ駆れば
「悪いが俺らとて負ける訳には行かない‥‥お前の意思がどうであれ、挑まれた以上は!」
珍しい一面を覗かせて羽紗も熱く叫べば彼女の後を駆け、その背後から宙へ飛翔して抜き手を掲げるとヴィーの首筋目掛け、全力でそれを叩き込んだ。
「勝負、あったな」
「あぁ‥‥だがお前達になら任せる事が、出来そうだ」
その戦いは熾烈を極め、暫く続くもやがて勝負は決し地へ膝を突き荒い息を吐く二人を前に、僅差で倒れ伏したのはヴィーだった。
そしてその顔を覗き込み言う、羽紗に騎士は頷くと一つ笑うのだった。
●After The Festival
「堂々と戦っていたあんたの方が、あたしは良いと思う‥‥よっ!」
「いづぁーーー!!!」
戦い終わって一行、何故か抱擁やらキスがあちこちに飛び交う不可思議な光景の中でボロボロの騎士へしっかりと、容赦のない応急処置を施すネイの平手が彼の背に打てば絶叫を上げるヴィーは暫く、その場で転げ回る。
「それで、貴方方の本当の目的は何ですか? 幾らこれまで冒険者にコケにされまくったからって、問答無用で掴まるかも知れないのにそんな理由でこの様な試合を申し出た訳ではないのでしょう? 私達とて無慈悲ではありませんから‥‥回りくどい事をせず素直に仰って下さい」
そしてやがて止まる彼は地面に大の字になると、次に響くアレクセイの問い掛けへ
「‥‥この勝負、勝って皆を連れノッテンガムに戻ろうと考えていた」
「ナシュトって人を助けたい、って事?」
ヴィーはそのまま、空を仰ぎ見て言うとそれが指す本当の意味を察した那流の更なる問いに騎士は頷く。
「そのナシュト。さっきも言ったけど多分、魔本の影響で宜しくない状態だと思うわ。で‥‥今その人は?」
「今は恐らく‥‥」
更に彼女は言葉を連ねると、ヴィーの口から紡がれたのは‥‥『暗部』本拠地の場所だった。
「領主が最も知りたがっていた事は知っていた様だね‥‥さて」
その答えにアシュレイは髭を摩ると、懐から一枚の羊皮紙を取り出した。
その後、ノッテンガム領主の指示か一時アシュレイの元へ保護される形となり、ヴィーのみがアシュドと合流する事となり、彼が案内の元で『暗部』本拠地への襲撃が決まるが、それはまた別の話である。