【探求の獣探索】挑むべき試練
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■ショートシナリオ
担当:蘇芳防斗
対応レベル:7〜13lv
難易度:やや難
成功報酬:3 G 80 C
参加人数:8人
サポート参加人数:4人
冒険期間:11月26日〜12月01日
リプレイ公開日:2005年12月06日
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●オープニング
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「神の国アヴァロンか‥‥」
宮廷図書館長エリファス・ウッドマンより、先の聖人探索の報告を受けたアーサー・ペンドラゴンは、自室で一人ごちた。
『聖人』が今に伝える聖杯伝承によると、神の国とは『アヴァロン』の事を指していた。
アヴァロン、それはケルト神話に登場する、イギリスの遙か西、海の彼方にあるといわれている神の国だ。『聖杯』によって見出される神の国への道とは、アヴァロンへ至る道だと推測された。
「‥‥トリスタン・トリストラム、ただいま戻りました」
そこへ円卓の騎士の一人、トリスタンがやって来る。彼は『聖壁』に描かれていた、聖杯の在処を知るという蛇の頭部、豹の胴体、ライオンの尻尾、鹿の足を持つ獣『クエスティングビースト』が封じられている場所を調査してきたのだ。
その身体には戦いの痕が色濃く残っていた。
「‥‥イブスウィッチに遺跡がありました‥‥ただ」
ただ、遺跡は『聖杯騎士』と名乗る者達が護っていた。聖杯騎士達はトリスタンに手傷を負わせる程の実力の持ち主のようだ。
「かつてのイギリスの王ペリノアは、アヴァロンを目指してクエスティングビーストを追い続けたといわれている。そして今度は私達が、聖杯の在処を知るというクエスティングビーストを追うというのか‥‥まさに『探求の獣』だな」
だが、先の聖人探索では、デビルが聖人に成り代わろうとしていたり、聖壁の破壊を目論んでいた報告があった。デビルか、それともその背後にいる者もこの事に気付いているかもしれない。
そして、アーサー王より、新たな聖杯探索の号令が発せられるのだった。
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それから暫く、トリスタンと同じく円卓の騎士であるユーウェイン・ログレスの元へ一枚の羊皮紙が届いていた。
「トリスタン殿が手傷を? ‥‥それでこれがその遺跡を調査した際に発見された入口の一つ、入ってすぐの所にあった石版の内容を書き記してきた物なのですね」
「あ、はい!」
その羊皮紙を携えて来た若い騎士が紡ぐ簡単な報告にユーウェインは確かな腕を持つトリスタン卿が負傷した事へ秀麗な眉を顰め、次いで羊皮紙に踊る文字をとりあえずざっとだけ読み尋ねれば、簡潔に返事の後でユーウェインは改めてその羊皮紙に認められている文字へと視線を落とし、熟読を開始した。
『厚き壁の群に求むのは力、己が力だけで打ち抜いて行け』
「己が力だけ‥‥武器は使えるのでしょうかね? 素手で砕けと言うのは流石に無理‥‥ですよね?」
「さ、さぁ‥‥?」
まず円卓の騎士は一文目を読み、分かる筈もないだろう若い騎士へ問い掛け困らせるユーウェイン‥‥意外に天然かも知れない。
『時と共に現れる怪物に求むのは技と知識、早く確実に倒さねばその数は増し続けよう』
「急所を見切った上で、的確にその部位を攻撃し短時間で勝負を決しないとまずそうですね」
次いで二文目を読み終え、そうだろうと推測するユーウェインだったが果たしてそれは。
『時と共に崩れる回廊に求むのは速さと運、帰路は残れどそれは崩れた後にしか見えず』
「惑わず迷わずただ前に進め、と言う事ですか。万が一の事が遭っても運が良ければ‥‥」
そして三文目、これに付いては大体想像が出来たか‥‥だが危険だろう事を察して厳しい表情を浮かべる。
『そして全てを纏め、臨め‥‥そして己が振るう力ありき場所述べて、最後まで立ちし者に欠片は託されよう』
「何を指しているのでしょうか、これは‥‥?」
最後の四文目、今までの記述と異なり非常に曖昧な記述から首を傾げる円卓の騎士。
「けれど、『欠片』と言うのが恐らく」
それこそが恐らく聖杯探索を継続する為に必要な、アーサー王が求めている物なのだろうとだけは理解出来た。
ならばと彼の腹は決まる、アーサー王は信ずるに値すべき、剣を捧げるべき王なのだから‥‥やるべき事は見える。
「クエスティングビースト、ですか‥‥果たして」
そして王が今、求めている者の名を口にすればユーウェインは息を吐き
「とりあえず、これを読む限りでは私一人だけでは無理の様ですね」
元より一人で乗り込むつもりはなかったが、羊皮紙を読んでから改めてそれだけ実感するとユーウェインは立ち上がり若い騎士と共に自室を後にする。
「‥‥冒険者の方々とお会いするのも大分久々ですね、今回は迷惑を掛けない様にしないと」
苦笑と共にそれだけ呟き、久々に冒険者ギルドへと足を伸ばすのだった。
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ミッション:巨大遺跡にある入口の一つ‥‥その最奥に眠るだろう、『欠片』を回収せよ!
成功条件:『欠片』を回収出来た時
失敗条件:『欠片』を回収出来なかった時
必須道具類:依頼期間中の保存食(日数分)は忘れずに。
それ以外で必要だと思われる道具は各自で『予め』準備して置いて下さい。
(販売されていないアイテムに関して、使う場合はプレイングにて根拠の明示を忘れずに)
その他:これで三度目になるでしょうか、聖杯探索のお触れが回って来ました。
それと同時、ユーウェイン様から賛同者を募集する旨の依頼を引き受けましたのでご協力頂けます様、宜しくお願い致します。
ユーウェイン様の話を聞く限り、力押し一辺倒では踏破出来ないと思われます。
それぞれの試練に対応出来る方がバランスよく集まるといいのですが‥‥?
傾向等:遺跡の完全踏破、戦闘有り、気合も大事?
NPC:ユーウェイン
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●リプレイ本文
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イブスウィッチにある巨大遺跡、その入口が一つからその内部に眠る『欠片』を手にすべく円卓の騎士と一行は今、報告にあった石版の前に立っていた。
「『そして全てを纏め、臨め‥‥そして己が振るう力ありき場所述べて、最後まで立ちし者に欠片は託されよう』‥‥要は各自が持てる能力を際限まで使って試練を乗り越えよ、と言う事ですか。成る程、確かに挑み甲斐はありますね」
「また色々と‥‥難しい感じだね」
一行への挑戦状と受け取れるそれを目の当たりにしアレクセイ・スフィエトロフ(ea8745)はそれでも微笑むが、道中から常に無表情だった夜光蝶黒妖(ea0163)はその表情に声音まで厳しくして呟く。
「何かがある事だけ、これから読み取れはしますが‥‥その詳細については夜蝶殿が言う通り、分かりませんからね」
その無表情な彼女の言葉を受けて、円卓の騎士であるユーウェイン・ログレスも首を傾げるが
「しかしこうして肩を並べるのも久し振りですな、ユーウェイン卿。その後どうですかな?」
その肩を叩き、彼へ笑い掛けるジャッド・カルスト(ea7623)は次いで挨拶を交わすと
「もう、大丈夫だよ。あの節は迷惑を掛けたね」
「ならば、今回の依頼は映える華があると言う事で失敗はまず無いな。男としては嬉しい限りです」
苦笑を浮かべ答えるユーウェインに先日、僅かにしか会っていなかった彼だったが確かにその言葉の通り変わりない事を察すると、今度は意地悪げに微笑み円卓の騎士を困らせるが
「先に進みましょう、皆様。先に待っているものが何か、個人的には非常に興味もありますし」
そこにフィーナ・ウィンスレット(ea5556)が助け舟を出すと、皆はウィザードらしい探究心旺盛なその言葉に苦笑を浮かべながら、石版の後に続く道を歩き出した。
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「‥‥そう言えばイアン殿が世話になったと聞くが、忝い。その後変わった様子なく、達者であったろうか?」
「えぇ、今の所は特に何事もなく。ただ彼を置くだけのスペースが自室になく、長らく空けていたからその掃除には大分苦慮したよ」
石版より奥に延びる回廊はただ一本で一行は安堵を覚えながら一つ目の試練へ向け歩く中、円卓の騎士と始めて会するガイエル・サンドゥーラ(ea8088)の問いに苦笑を浮かべて答える円卓の騎士が紡ぐ話は随分と庶民的で、一行は彼のとっつき易さ故に笑うもそれは何とか噛み殺していたが、やがて一行は行き止まりにぶつかる。
「石版に記されていた通り『壁』ですね、行き止まり‥‥じゃないですよね?」
「‥‥壁は厚いけど、奥に‥‥道が続いている様だね」
その壁に耳を当て、夜枝月藍那(ea6237)が軽くその一箇所を叩くと響く音から皆へ問えば、頷く夜蝶が彼女の言葉を確証付けると次に入口の石版に記されていた一文目が壁に刻まれている事に気付く。
「此処が‥‥一つ目の試練、みたい」
「何も罠はない様です」
「さて、予想の範囲内だったね。ならば此処が一番の活躍所かな」
それから当然の様に分かる事を皆へ伝えれば、アレクセイと共に壁に罠が仕掛けられていない事を確認し簡潔にそれだけ告げると、彼女らの背後でゆらりと槌を握るジャッドが悠然と壁に向かえば即座、それを破砕する。
「‥‥困りましたわ、手持ちの武器では対処出来そうにありませんねぇ」
「私もです」
その彼の後姿をと壁を交互に見比べ、油を満タンにしたランタンを掲げる二人の神聖騎士がロレッタ・カーヴィンス(ea2155)とフレア・レミクリス(ea4989)は己の武器を見て呻くが
「武器がなくとも、力で壁が砕けるなら出来る事はある筈です。なら、少しでも彼を手伝う事にしましょう」
その彼女らへ微笑み言うユーウェインの提案に、一行の中で次に体力がある彼女らは頷いて円卓の騎士と肩を並べては、石版に記されたままの『壁』に挑むのだった。
「ふむ、ハンマーも中々爽快な武器だね‥‥しかし」
「‥‥多過ぎますね」
「まぁ、試練だからだろう」
それから小一時間、うんざりした表情で呟くジャッドにフレアが相槌を打てばその二人を宥めるユーウェイン達‥‥未だ壁を崩していた。
「でもこれはこれで、楽しいかも知れません」
しかしその中でも一人、疲れているだろうにも拘らずマイペースなロレッタの発言に皆が皆、呻きながら。
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あれから更に時間が経ち、一行はやっと次の試練を前にしていた。
「その身に降りよ、神の息吹‥‥」
「ありがとう」
幸運をもたらす、藍那の詠唱が完成しフレアへ施されると彼女が紡ぐ礼と同時、先まで壁を崩す事に終始していた戦士達は一時の休息に別れを告げ、立ち上がる。
「‥‥この近辺にも罠は、ないね」
「しかしこの中には何が待っているのだろうな」
一行の行く手を塞ぐ、一枚の扉を調べ終わった夜蝶の紡ぐ言葉の後でガイエルは石版に刻まれていた二文目をその扉にもある事を確認し、それを掌で摩りその解が未だに見付からず悩むも
「考えていてもしょうがありません、行きましょう」
「敵の分析は任せたよ」
その横に並び立っていたフレアが扉へ手を掛ければ静かに、その扉を開けると振り返らずジャッドも智謀に長けるだろう者達へ願い出れば、彼女の後に続気部屋へと入るのだった。
「開かないですね‥‥」
潜った扉の対面に出口だろう扉は見える、部屋に皆が入ったと同時に閉まったそれをアレクセイは開錠を試みるが開く事は無く、今もそれは口を閉ざしたまま。
「いい鍛錬になりそうですね、尤も相当の数を倒さなければならないでしょうが」
その中で微笑み愛剣を煌かすユーウェインが言の葉は事実、試練が待つ部屋に入ってから一行は然程強くないモンスターと戦っていたのだが
「スカルウォーリアーにはジャッドさんが‥‥それで、そちらは‥‥」
モンスターに対する知識が深い藍那でも指示が追い付かない程、数が多くその種類も様々で更には扉とは別に部屋の内部にある大小の穴からそれらが一定の間隔で沸いて出れば、出口も開かずうんざりする一行。
「なるほど‥‥」
入ったと同時、微かに感じた振動から一行の質量を記憶した部屋は出口を閉めるとそれ以外の口からモンスターを吐き出し、部屋に入った者の総質量以上である限りは決して部屋から出してくれる事はないのではないだろうかと夜蝶は感覚でだけ、何となく悟る。
「そう言う事か」
「となると、このままでは持久戦ですね‥‥」
憶測の域は出ない、が夜蝶はガイエルが張る結界の中にいる魔術師達へそれを手短に伝えると刻まれていた文の真意に気付くが、周囲の状況からフィーナが結界の中で風を迸らせながら知恵も巡らせ言うと、それに藍那も頷き
「そうだね、それ程強くはないんだけど‥‥頑丈な敵ばかりだから。あの穴を埋められればいいんだけど」
何気なく呟いたその時だった、それを耳にしたアレクセイが結界の中へ滑り込めば自身のバックパックから一つの巻物を取り出し、それを静かに紡ぎ上げれば入口の一つを半ばまで土の壁で覆う。
「これで‥‥いいですか?」
その壁に阻まれ、閊える敵を見て藍那が頷くよりも早く彼女は再び巻物に綴られた文字を読み上げた‥‥全ての入口を塞ぐまで。
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先の試練、アレクセイの機転で突破は叶うもそれまでにやや時間が掛かった事から多少なりともくたびれた一行は休憩を挟みつつ進み、だが三文目のみが記された石版を前に止まっていた。
「何の変哲もない普通の通路ですね‥‥」
「崩れている場所も特にありませんし」
その石版の奥、闇に紛れて何処まで続いているか分からない回廊を見つめ言うフレアにフィーナも自身のランタンを掲げ頷けば、どうしたものかと困る一行‥‥尤も大方の予想は付いていたが。
「ここは俺にとっては最難関かもな‥‥幸運のダイスよ、頼むぞ」
ジャッドはその懐から水晶のダイスを取り出し、口付けをする。
「‥‥ん?」
だが妙な音に耳にして彼が視線を上げればその視界には箒に跨り宙を飛ぶフィーナが映り、ジャッドは思わず口を開けると
「こちらの方が早くて安全です」
「だが、それでは試練も何も‥‥」
「此処で何かあって、探索を断念する事になれば『欠片』は手に入りませんよ?」
フィーナの意見は尤もだったが、ユーウェインは納得が行かずに抗議をするも彼女が続き紡ぐ言葉には言い詰まる。
「まぁ敢然と立ち向かうのもいいだろう、危なくなったらフィーナ殿の箒へ掴まればいいだろうしな」
「そうですね」
だがそこへそっけない口調ながらガイエルが微笑み言えば、フィーナも頷くと皆はこの回廊を確実に踏破する為の準備を始める。
「とりあえず、私がこの先を走ってみよう。飛んでいても罠がないとは限らないしね」
「なら俺も、走ってみる‥‥」
そして、やはり駆け抜ける気満々なユーウェインが言葉へ箒を抱えた夜蝶にアレクセイ、ジャッドも彼に付き添う事に決めれば円卓の騎士は笑い
「フィーナ殿にも付き合って貰おうかな?」
「私がもし、落ちた時には逆に宜しくお願いしますね」
「勿論‥‥では、行きましょう!」
次いで黒衣の魔術師へ声を掛ければ、彼女の答えに頷きユーウェインの合図が響き‥‥まずは先んじて五人が地と空を駆けるのだった。
「頑張って下さいね〜」
身を包む重い装備故にその光景をまず見守る事にしたロレッタの、相変わらずのんびりした激励が回廊に響く中で。
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「はぁ〜」
「‥‥此処、ですね。この回廊の最奥は」
先程まで、退路に僅かな足場のみ残し崩れる嫌味なまでに長ったらしかった回廊を突っ切った内の一人、アレクセイが深く息を吸えばユーウェインも肩を上下に‥‥だが一枚の扉とそこに刻まれている、石版の最後の文を見て取れば皆を見回し脱落者がいない事と肯定の頷きを確認してからその扉を開けた。
「人‥‥影?」
その遺跡にある最奥が一つと思われる、広い部屋に一行は警戒を崩さず中へ進めば誰よりも先に『それ』を視界に捉えた夜蝶、油断なく得物の小太刀を抜くと皆はそれをきっかけに、それぞれが携える得物に手を添えた次の瞬間
「持つその力、何の為に振るうか我が前に指し示してみよ!」
部屋に何者かの言葉が響くと同時に風が唸り‥‥皆は飛び退るが『それ』はその中の一人、ユーウェインを穿つ。
「あらあら、流石です」
「‥‥最後の試練、そう言う意味でしたか。尤も最後の一文はもう少し、分かり易く書いて頂ければいいのに」
皆がその光景に冷汗を覚えただろう時でもロレッタが響かせる声に、闇の中から現れた槍を受け流したユーウェインは一瞬詰まり、だが対峙する騎士と思しき者へ微笑むと
「聖杯を守る騎士、ローエングリンに喧嘩を売るかっ! そこの騎士よ!」
その態度へ烈火の如く猛り、ローエングリンと言った騎士は一行が驚愕する間に円卓の騎士から一歩で距離を離せば遅れ駆け出す一行を前にしても揺るがず、身の丈以上の長さもある槍を苦にする事無く構え直すと、一行を迎え撃つ。
「まさかとは思いましたが‥‥聖杯騎士がいるなんて」
「この戦い、厳しいものになるやもな」
何かを予感していたフィーナの言葉にガイエルも渋面を浮かべる中、それぞれが得意とする魔法を放つべく詠唱を始めると、次いで剣戟が鳴り響くが‥‥暫く後に一行の疲弊はローエングリンのそれより目に見えて明らかとなる。
「最後まで‥‥残ってみせるっ!」
力で押すだけの聖杯騎士ではあったが、確かな実力故に一行の前衛は卓越した回避技術を持つ鉄面皮の夜蝶の、珍しく感情の篭った叫びが響く中でも彼女を中心に防戦を強いられ、後衛の魔法を持ってその身を削るも中々に聖杯騎士は倒れない。
「貴方の動きを束縛します」
その彼の速い動きに惑わされ、だがようやくローエングリンへ狙いを定めたフレアがコアギュレイトを放ち、聖杯騎士を縛ろうとするもそれは抵抗され‥‥しかし僅かな間だけ、その動きが止まる。
その、僅かな時間が勝負を決した。
「我が主の為、ひいてはイギリスに住まう皆の為‥‥私は今、この剣を振るうっ!」
「ぬっ!」
「‥‥今かっ」
その機を逃さず、ローエングリンの袂へ一気に飛び込んだユーウェインが振るう一閃に彼が体勢を崩すと、延髄を狙ったアレクセイの攻撃を囮にジャッドが振るった銀の短剣は聖杯騎士の利き手に深々と突き刺さる。
「これも試練と言うのなら、此処で殺し合う道理はないでしょう」
「‥‥ふん」
しかし落ちた槍を気にせず血に濡れた拳を固め聖杯騎士は尚も駆けようとするが、いつの間にか首筋へ突き付けられた刃を前に彼はその動きを止めるとユーウェインの言葉に返事の代わり、一つだけ鼻を鳴らした。
「貴方が聖杯に付いて知っている事を一つ、教えて頂きたい」
「‥‥聖杯城はキャメロットから南東、50km程に位置する城の事を言う」
一行を前に床へ座り込むローエングリンを前に、ユーウェインが尋ねたのはたったの一つ‥‥それでも彼は円卓の騎士の問いに真直ぐ答えると
「それともう一つ‥‥これを託す、この場はぬしらが勝利した証と円卓の騎士が見せた力を振るうべき在り処に免じてな」
立ち上がった聖杯騎士は床に転がる槍を藍那によって癒された右手で握り踵を返せば、その部屋の最奥にある一体の像が携える水晶で造られた、長めな箱を抜き取り無造作に一行へと放る。
「‥‥っ」
「それでは我は此処で去る、また相見えた時‥‥その時こそ、本当の決着を着けよう」
フレアがそれを受け止め‥‥見た目より意外に重い箱を抱え一歩、たたらを踏む。
「そしてそれは皆へも言おう、確固たる意思もなく振るわれる力に真実の力はない。その答え、見出すがいい」
その様子に聖杯を守る騎士が口元だけ微笑みながらも続く言葉が厳しく響くとその時、不意にその姿は闇の中に掻き消え一行は狐に抓まれた様に口を開けるも
「また一歩、聖杯に近付く事が出来て喜ばしい事ですね」
「‥‥この『欠片』が、私達の希望となります様に」
円卓の騎士が持つ水晶の箱を見て、ロレッタが微笑めば次いでアレクセイの呟きは祈りの様にその部屋へ響き渡るのだった。