道場改造計画

■ショートシナリオ&プロモート


担当:Syuko

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:04月03日〜04月08日

リプレイ公開日:2008年04月08日

●オープニング

 雑巾を手に八束佐織と、詩織は道場を見回した。
 兄、伊織が志士になるといって家を出て、京の都に向ってからもう一年になる。
「兄上、元気にお勤めされているかしら」
「まだまだ下っ端ではお辛いこともあるでしょうね」
「兄上、どんくさいところがあるから」
 姉妹は顔を見合わせ苦笑した。
「それよりもこれからの私達の暮らしを考えなきゃね」
 父母の死後、跡取りとなるはずだった兄が江戸を発ってからこれまで何とか姉妹二人と父の門下生だった男とで道場をやってきたのだが
この度、その門下生に仕官の口がかかり、江戸を離れるのだという。
 そうすればいよいよ道場は立ち行かなくなる。
 ほんの入門したての子どもなら姉妹にも多少の心得があり、なんとか指導出来ないこともなかったが。
「八束流ももう終わりね」
 もともとジャパンにある流派の亜流の一つなのでそう名が知れているわけでもなく、入門希望者は数えるほどしかいない。
 江戸では、北辰流が浪人に人気だし、元からある由緒正しい流派や剣豪の開いた流派の中で姉妹の祖父が開いた八束流は無名に等しいのだ。
 我流と言われても仕方ない。
 当然、姉妹の暮らしは成り立たず、広さだけはある道場を抱えて何か生活の手段を講じなければならないのだ。
 志士のひよっことも言える兄に仕送りは期待できない。
 姉妹は器量よしではあったが、世知辛い世の中、裕福な婿など望めそうになかった。
「私は何か商売をしたいと思うの」
「そうね、広さだけはあるんですもの」
 父祖から受け継いだ家屋敷を手放したくはない。
「でも‥‥」
「私達、商売の経験なんてないんですもの」
「手伝ってくれそうな友達はいるけれど」
 が、彼女達も世間知らずの娘達。普通に商売を始めても失敗する可能性は高い。
「何か、いい考えはないかしらね」
 暮らしに困らないような何か‥‥。
 姉妹は広く人材が集まるというギルドに向うことにした。

「でも、こんな依頼、受けてくれる人なんているかしら?」
「当たって砕けろ、よ。姉上」


依頼内容

求む!道場を改造し、商売を始めたい姉妹に良いあどばいすを。

できれば開店準備や、初日くらいはお手伝いをお願いします。

●今回の参加者

 eb2545 飛 麗華(29歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 eb3525 シルフィリア・ユピオーク(30歳・♀・レンジャー・人間・フランク王国)
 eb4757 御陰 桜(28歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ec4722 城戸 晴天(18歳・♂・浪人・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

◆目の前に立ち並ぶ女性たちを見て八束姉妹は思わず頬を赤らめた。
 いずれが菖蒲か杜若、立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は‥‥。
「あ、姉上」
「言わないで。女としての自信が‥‥」
 器量良し姉妹としてご近所では評判の佐織と詩織であったが、依頼に応じてくれた美女三名を前にささやかな自信はがらがらと音を立てて崩れ去りそうである。
 飛麗華(eb2545)、シルフィリア・ユピオーク(eb3525)、御陰桜(eb4757)生まれ出ずる国は違えどもいずれも『ぼんっきゅっぱっ』のぼでぃーを誇っていた。
「と、とにかく、お力を貸していただけるとのこと有難うございます」
 気を取り直して姉妹は三人に頭を下げた。
「それなんだけどね、佐織ちゃん、詩織ちゃんはどんな商売をしたいの?」
 桃の刺繍が施された振袖が実に似合う御陰桜は姉妹にそう尋ねた。
「商売と言っても、物を売りたいとか、料理屋さんにしたいとか色々ありますから。あなた方が何をしたいかまず、お聞きしたいです」
 飛麗華に言われて姉妹は顔を見合わせた。
「私達、お料理は結構得意なんです。ただ、普通に料理を出すのだと、すでに評判のいいお店がありますし」
「最近めいど喫茶とやらが評判だと聞きましたが、同じようなお店を出しても通用しないと思うんです」
 二番煎じでは確かに印象は薄かろう。
「なるほど。何か特色のあるお店にしたいってわけだね」
 シルフィリアは考えがあるのかうんうんと肯いた。麗華や桜が続けて姉妹の考えを導き出す。
「この道場の広さを生かしたいですよね」
「それに店を出すともなれば心構えも肝心よ。佐織ちゃん、詩織ちゃんが明確なびじょんを持たなきゃ。あたしたちができることはそのお手伝いに過ぎないんだから」
「びじょん?」
「えぇっと、どんなお店を出したいか思い描いてみて」
「食べ物屋ならどんな客層を狙っていらっしゃいます?甘味処なら女子中心になると思いますし、さっき言ってためいど喫茶なら殿方が多くなると思うのです」
「できれば、大人も子どもも皆がゆっくりできるお店にしたいです。ここは道場を閉める前は子どもが出入りする場所でしたから」
「だったら提案があるんだ」
 姉妹の希望がだんだんはっきりしてきたところでシルフィリアは口を開いた。
「演目付小料理屋ってのはどう?」
「演目付き、ですか?」
「そう、あたいがいた遠い国ではそれに近いものがあったんだけど、踊りや軽業なんかを楽しみながら食事する食堂があったら家族連れも入りやすいんじゃないかって」
「なるほど」
「道場の上座を舞台に見立てて、お客は長机か卓袱台でそれを見ながらお酒や軽食を楽しむ。ほんとは舞台が目立つように一段高いほうがいいんだけど、それは店が軌道に乗って儲けが出てから改装すればいい」
「演じ手はどうやって集めます?」
「街で演じる場に困ってる大道芸人や役者っていると思うんだ。お客のお捻りと幾許かのお礼を彼らに渡せば、口コミで集まってくると思うんだよね」
 場所取りで敗れたりショバ代を払えず困っている芸人から有望な人材を発掘できればそれが広まり、更に芸人たちが集まってくるだろうとの算段だ。
「口火は必要だろうから、あたいも舞台に立つよ」
 シルフィリアの提案に姉妹は顔を輝かせた。
「素敵。本当に素晴らしい考えだわ。ねぇ、詩織」
 佐織は感激して頬を紅潮させている。
「ええ。とても。それなら子ども達も喜びますね」
 喜色を露にした姉妹に麗華は冷静に忠告した。
「でもまだ考えることはたくさんありますよ。私も料理のことならお力になれると思います。どんなものを出したいですか?」
「そうでした。料理は詩織が得意ですわ。詩織、麗華さんに相談に乗っていただいていくつか試作品を作ってみてはどうかしら?」
「ええ。麗華さんお願いします」
「なら、あたいは街で大道芸人に声をかけて交渉してくるよ。佐織ちゃんはお手伝いの娘達を集めておいで。夕方からは接客と商いの基本の講義だよ」
 蠱惑的な『ないすばでぃ』に紅の艶やかな服を纏い、シルフィリアは芸人を探しに街に出かけていった。
「接客と心得はあたしが担当するわ」
「はい、よろしくお願いします。すぐに皆を集めてきます」
 桃髪の百合メイドとの異名を持つ桜は接客を生業としている。
佐織は頭を下げるとすぐに道場から駆け出して行った。

◆「いらっしゃいませ」「ありがとうございました」「ご注文は何になさいますか」「お待たせいたしました」
 揃いの襷をかけた娘達が声を合わせる。
「余裕が出来たらお揃いの着物や羽織で店の特徴を出すのもいいかも」
 店員となる娘たちに教育を施しながら桜は考えていた。
「みなさ〜ん、試作品が出来ました。食べてみてください」
 詩織とともに麗華が盆を持って厨房から現れる。
「大きい釜や鍋があって本当によかったです」
 麗華が嬉しそうに言った。彼女は得意の料理の腕前を詩織に伝授し、三日かけて一緒にお品書きを考えていた。
 道場時代に時々大人数の食事を煮炊きする必要があったので厨屋も広く鍋釜も大きいものが元々あったのだが、それが役に立つ。
「立地もまずまずだし、あとは料金設定だね。利益が出るかちゃんと考えないと拙いからね」
 シルフィリアの言葉に一同は肯く。
「芸を見せるのだから少しだけ高くてもいいんじゃないでしょうか」
「最初は抑え目な価格がいいんじゃないかしら?開店記念とか」
「サービス価格ってわけだね」
「宣伝はどうします?」
「ああ、それは任せて。あたいが舞台衣装を着て街を歩くから」
「あたしも一緒に行くわ」
 シルフィリアと桜、最強の宣伝である。おそらく街行く男子の目を釘付けにしまくることであろう。
 これで麗華が加われば更に威力が増し、萌え死にする男が続出するに違いない。
 が、江戸の街の男子にとって幸か不幸か、麗華は道場に残ることとなった。
「私は詩織さんを手伝ってお料理の下ごしらえに励みます。もう少し検討したい品もありますし、仕入れのこともありますから」
 手伝いの娘達によって掃除も終わったし、長机もいくつか集まった。
 店に余裕が出来れば、手を加え、間口を広げたり、卓を揃えたりするつもりだが、今はこれで良しとすべきだろう。

◆暖簾を掲げ、佐織は並んだ人々に微笑んだ。
「いらっしゃいませ、『八束』開店でございます」

 華やかに飾られた舞台ではシルフィリアが紅と紫の衣装で艶やかに軽業を披露していた。
 合間に披露する話術は客を惹きつけ、思わず子どもが箸からぽろりと里芋を転がすほどだ。
 店の前ではかつての門下生たちから贈られた酒が振舞われ、姉妹は父の遺徳に深く感謝した。
 客達の間を忙しく動き回る娘達を桜はにこやかに見守っている。
(今のところ、問題はなさそうね)
 酒も取り扱う店である。中には困った客も出るかもしれない。
 何かあったら春花の術を使い泥酔したと見せかけて深く眠らせてしまうことも桜には可能である。
 見たところ、客は皆、シルフィリアの芸に感動し、食事を楽しんでいるようだ。

「お客様のご様子はいかがです?」
 麗華の問いに器を下げてきた手伝いの娘はにっこり微笑んだ。
「評判は上々です」
 詩織とともに頭を捻り、練りに練ったお品書きは成功のようだ。
 大きな儲けは出ないかもしれないが、演目を選び、料理の味の水準を守れば、姉妹二人食べていくには困らないのではないだろうか。
 何より、八束姉妹がとても楽しそうに働いている。

(たいへんなこともあるだろうけどさ)
 軽々ととんぼ返りを決めて、シルフィリアは桜にウィンクした。

◆「かんぱ〜い!」
 店を終えて皆は祝杯を挙げている。
 売り上げは予想以上だったし、早くも噂を聞きつけた芸人から幾組か舞台に立ちたいという声も来ていた。
 店の前途を思い、姉妹は希望で一杯だった。京都にいる兄に知らせたら喜んでくれるだろうか。

「だけど、気を抜いちゃいけないよ。いつもこう上手く行くとは限らないんだからさ」
 シルフィリアがそう言うと麗華も桜もうんうんと肯いた。
「ええ。照る日もあれば曇る日もあると申します」
「佐織ちゃん、それに詩織ちゃん、これからはあんた達二人ががんばるのよ」
「はい」
 姉妹は感謝を籠めて三名の美しき冒険者達を見た。
「私達、一生懸命がんばります。ですから、今度はぜひお客様としていらしてください」
「さーびす、させて頂きますから」
 詩織が茶目っ気たっぷりにシルフィリアのまねをする。
「うん、楽しみにしてるよ」
 シルフィリアは微笑んだ。