恋の花咲くこともある?

■ショートシナリオ


担当:Syuko

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 39 C

参加人数:6人

サポート参加人数:3人

冒険期間:05月10日〜05月13日

リプレイ公開日:2008年05月15日

●オープニング

「こんにちは」
「お、小料理『八束』の佐織ちゃんじゃないか。今日は何だい?出前も始めたのかい?」
 近頃、小料理屋の美人女将が板についてきたと評判の八束佐織は愛想良く冒険者ギルドの案内人に微笑んだ。
 小料理屋『八束』は元は道場だったのを、歌や踊り、芸を楽しむお食事処である。
 京都で新米志士をやっているらしい兄を心配しつつ、佐織は妹詩織と共に忙しい日々を送っていた。
 この小料理屋の開店に当たっては、冒険者達の知恵と力が大いに働いている。

「先だってはご来店ありがとうございました。でも今日は依頼でお邪魔したんですよ」
「ほう、何だい?店で何ぞ問題でも」
「ええ」

 佐織は困ったことを思い出すように眉を顰めた。
「うちのお店を手伝ってくれてる、お花ちゃんなんだけど、困ったお客に好かれちゃって」
「ごろつきでも居座るようになったのかい?」
「いえ、そんな人じゃないんですけどね」
 相手はひょろっとした優男だ。

 佐織の話では、その客はただ日がな、じっとお花を見つめているのだという。
 ちゃんと食事も注文してくれるし、金払いもいい。
 だが、はっきり告白してくるでもなし、というわけで、ただ、お花が困惑しているのだ。

「今時珍しい純情な男じゃないか」
「ええ。まあ」
 それだけなら店の回転率的には問題はあるが辛抱の範囲内だと佐織は肯いた。

「でも困った応援団がいるんです」
「は?」
 なんでも、その若者、『花のお江戸一家』の親分の息子らしい。
 いたってひ弱そうではあるが、次期親分ということになるらしいのだ。
 となると、本人は大人しくとも、一家の若い連中が黙っていない。
 お花に色目を使う客がいようものなら、凄んで、びびらせる。
 おかげで怯えた客の足が遠のくといった有様である。

「いっそ、当たって砕けてくれたらいいんですけど」
「でも、お花ちゃんの気持ちはどうなんだい?」
「いいも何も、当人から何の働きかけも無いんじゃ、返事のしようがないじゃないですか」
「でもわかるだろう、少しは脈がありそうだとか、まったく無いとか」
「どうなのかしら‥‥とにかく、この状態を何とかしてほしいんですよ。悪気はないんでしょうけど、営業妨害になってますし」
「そいつは困ったねぇ」
 
「まとまるにしろ、断るにしろ、なんとか穏便にすまないものかしら‥‥」

●今回の参加者

 ea0592 木賊 崔軌(35歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 ea4927 リフィーティア・レリス(29歳・♂・ジプシー・人間・エジプト)
 ea7181 ジェレミー・エルツベルガー(29歳・♂・レンジャー・エルフ・イスパニア王国)
 ea7692 朱 雲慧(32歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 eb1555 所所楽 林檎(30歳・♀・僧侶・人間・ジャパン)
 eb4757 御陰 桜(28歳・♀・忍者・人間・ジャパン)

●サポート参加者

ジェイミー・アリエスタ(ea2837)/ ゴールド・ストーム(ea3785)/ リュー・スノウ(ea7242

●リプレイ本文

◆笛や太鼓の音に合わせて、鈴が鳴る。
 リフィーティア・レリス(ea4927)の神楽舞に客は皆うっとりと見入っていた。
 依頼の為に女装しているとあって、彼を男性だと疑う者はいなかった。
 舞台は一段高く設えられていて、そこから目的の人物が見える。
 一人だけ、舞台上の自分を見ず、店の中を動き回る一人の少女を視線で追う人物。
 件の花のお江戸一家の跡取り息子である。
(ふうん、あれはやはり惚れてるんだろうな)
 物言いたげな素振りもするのだが、勇気が出ないのか、しゅんと頭をうなだれる様子を見てリフィーティアは内心首を捻った。
(俺はあーいうじめっとしたの苦手だ)
 何はともあれ、肝心なのはお花の気持ちだが‥‥。
 
 舞台を見る素振りで、木賊崔軌(ea0592)は傍の所所楽林檎(eb1555)と目を見交わした。
 客を装った仲間ジェイミー・アリエスタが離れた席で周囲をさりげなく見張っているのが見える。
「どうよ、若の視線」
「ええ。あれはどう見ても」
 崔軌に問われてあれは恋する者の視線だと林檎は肯いた。
 舞台上のリフィーティアはじめ、周囲の何も彼の目に映ってない様子だ。
 見ているこっちのほうが、こっぱすかしい。
「崔軌さん、それよりもあちらを」
 林檎はそれとなく少し離れた席に陣取る、一見ガラの悪そうな集団に視線を送った。
(ひい、ふう、‥‥六人か。今のところは大人しいが)
 その辺りだけ妙に空間が広いのは、他の客が彼らを不審がっているためであろう。
 崔軌は「こりゃ、確かに営業妨害だ」と呟いた。

「まあ、竹之屋さんから?」
 新米女将の佐織とその妹、詩織は嬉しそうに朱雲慧(ea7692)に微笑んだ。
「本店のやっさんから話を聞きましてな。義理人情の竹之屋としては放って置く訳にはいきまへんさかい」
「なんてありがたい」
「詩織、雲慧さんは、竹之屋金山店の店長さんだそうよ。あなたのお料理を見ていただいたらどうかしら?」
憧れの竹之屋の厨師との対面とあって、詩織はぽっと頬を赤らめて雲慧を恥ずかしそうに見た。
「是非、お願いしますわ」
 雲慧は快く承諾した。依頼の件が上手く片付いたら腕を奮おうと考えていたところだ。
「店の様子は、と」
 暖簾の奥から様子を探る雲慧の側を御陰桜(eb4757)が
「はいはい、ごめんなさいね」
 と下げた盆を持って通り過ぎた。
「佐織ちゃん、少しは女将が板についてきたみたいだけれど、困ったお客様へのあしらいはまだまだね」
「すみません、桜さん」
 『八束』開店時、桜には一方ならぬ世話になったとあって、佐織は素直に肯いた。
「まぁ、乗り掛かった船だし協力するわよ。手のあいた人は並んで」
 桜は店員たちの前を歩きながら、化粧や香、着物についてチェックした。
「野暮ったいのはだめだけれど、挑発的過ぎるのもだめよ。飲食業は何よりも清潔感が大事だからね」
「はい!桜さん」
「あたしの接客を見てお客さんのあしらい方の参考にしてね。ああ、せくはらに対してはちゃんとたしなめなきゃダメよ?調子に乗せたら自分の為にもお店の為にもならないからね」
「わかりました!」
 うんうんと桜は肯き、皆を仕事に戻した。
「あ、お花ちゃんは休憩、ね」
「はい」
 ようやく椅子に腰を下ろせてお花はほっとしたのか桜や舞台を終えてきたリフィーティア、さっきから厨房から客席を伺っているジェレミー・エルツベルガー(ea7181)に茶を入れた。
(なかなか、いい子じゃないの。お茶も美味しいし)
 桜はお花を観察した。優しい顔をしている。何よりも笑顔がいい。周囲に気配りもできる中々のしっかり者と見た。
「お花ちゃんは恋人とかいるの?」
 ジェレミーに単刀直入に訊ねられて、お花は目を丸くした。
「い、いません、恋人なんて」
 ぶんぶんと首を振る様が初々しい。
「じゃあ、あの花のお江戸一家の若についてはどう思ってる?」
「ど、どうって‥‥」
 俯いてしまったお花にリフィーティアが助け舟を出した。
「例えばの話だけど、あの若親分から告白されたらどうする?」
「そんなこと‥‥」
 口篭りながらも顔全体を真っ赤にして意識しているのはありありと伝わってきた。
「奥ゆかしい子もいいけど、時には積極的になることも大切だよ」
「わ、私がですか!?」


◆お花は頬も赤いままに接客に戻った。
 若親分の席には近づかないようにしているのがぎこちない。
 そんな中、客の一人が徳利を持ってお花に振って見せた。
「おい、そこのねえさん、酒の追加だ」
「はい、ただいま」
 にっこりと返事してそちらに走ろうとして一瞬若を見るとお花はきまり悪そうに笑顔を引っ込めた。
 若親分がたちまち意気消沈する。

「てめっ」
「まさかお花ちゃんに酌させようなんて考えちゃいねぇだろうな」
 凄んでみせる男たちに客は顔を引きつらせて必死に首を横に振った。

(あーあー)
 崔軌は苦笑すると、困っているお花を手招きした。
「ちょっと合わせてくれ」と耳打ちすると、これ見よがしに指きりしてみせる。
「じゃ、後で迎えに来るな?」
 花のお江戸一家の若い衆たちが凄い形相で睨んでもどこ吹く風だ。
 一方、お花と親しげな男の登場に若親分は見る見るうちに顔を曇らせ、がくりと肩を落とした。
 悠々と店を出て行く崔軌を若い衆がばたばたと追いかけていっても気づく様子もない。


「この辺でいいだろう」
 店から少し離れた場所で足を止めた崔軌を若い衆たちが取り囲む。
「何か用か?兄さんたち」
「お花にちょっかい出すのを止めな。痛い目を見たくなかったらな」
「痛い目ねぇ」
 余裕綽々の崔軌に若い衆の苛立ちはますます募ったようだ。
「コノヤロー」
 棒っきれを振り下ろしてくる男を避け、崔軌はその腕を捻り上げた。
「加勢するで」
 雲慧が傍の男の脚を払って鮮やかに転倒させた。
「つ、強ぇ」
 二人を取り囲むようにじりじりと男たちが後退した。
「次は誰だ?」


◆雲慧と崔軌のおかげで翌日から若い衆たちはなりを潜めた。
 もともと悪気はなかった連中である。
「若想いは結構だが、本気で応援したいんなら暫く店から手ぇ引けや」
「人の恋路の進む速度は人それぞれや、周りが先走ってしまうと、纏まるものも纏まらへんで」
 二人にそう諭され、彼らは叱られた子供のように頭をたれた。
 一家を背負うには頼りない若ではあったが、人柄は良く、子分たちには慕われていた。
 だから彼らなりに一肌脱ごうとしたのだ。
「それが裏目に出たってことだな」
「へ、へい」
「よっしゃ、次は肝心の若のほうやな」
「そうだな」
 今頃は仲間達が渇を入れている頃だろう。


 店の外で若親分は林檎と桜を前に困惑していた。
 お花のことで話があると書かれた紙を桜に手渡され来てみれば‥‥である。
「はっきりとした望みがあるのに、見つめるだけという、動かないも同然の貴方。はっきりしない分、周囲が先走るなどして迷惑をかけておられる様子とお見受けしましたが、気づいていらっしゃいますか?…このままでは、好意を伝える以前の問題ですよ」
 林檎の言葉に若親分は目を丸くした。
「何故、僕の気持ちを?」
 あれだけバレバレな視線を送っておいて何故もへったくれもないもんだ。
「あんたさぁ、お花ちゃんが好きなんでしょ?」
 桜がじれったそうに説明する。
「あんたがはっきりしないから取り巻きのせいでお店や他のお客さんが迷惑シてるのよ。気付かなかった?」
「黒の教えを説く身としては試練に挑むことを推奨いたします…が、貴方の都合だけでなく、相手や周囲の都合も見た上で取り組めればより良し…と存じます」
「試練‥‥それって告白しろってことですか。でも仰る通りお花ちゃんに迷惑だったら‥‥」
「告白するんなら練習に付き合ってあげるわよ?」
「れ、練習ですか?」

 桜は艶に微笑むと人遁の術を使った。
 達人の域に達している彼女のそれは姿ばかりか、声や香りまで見事に似せることが出来る。
「お、お花ちゃん‥‥」
 目の前に現れた意中の乙女の姿に若親分の顔がぽっと赤らんだ。

◆お花はジェレミーと同席している若親分を物陰からそっと見つめた。
 なんだかいつもと様子が違う。
 いつもは決まった席に一人っきりで座っているのに、今日はジェレミーに話しかけられ四苦八苦しているように見えた。
 女将の佐織が頼んだ冒険者のおかげで若親分の取り巻きが店から姿を消したことにはほっとしたが、その冒険者に若親分が何か言われているのかと心配になったのだ。
 若親分のほうは練習通り告白できるだろうかと緊張の極致のところをいきなり銀髪の異国人からわからない言葉で話しかけられ、面食らっていた。
(そろそろか)
 言葉がわからないなりに四苦八苦しながらも誠実に接しようとする若親分にジェレミーは好感を持ちながら、お花の様子を見守った。
「あの、お客様、こちらのお客様のご迷惑になりますので」
 お花は必死の様子でジェレミーと若親分の間に割って入った。
(来た、来た)
「お、お花ちゃん‥‥」
 慌てた若親分が湯飲みをひっくり返す。
ジェレミーは肩を竦めると諦めたように席を離れた。
「大丈夫でしたか?お客様」
「あ、ああ」
「よかった、すぐにお席を片付けますから」
(行け、若、男になれ)
(そこよ、今がいい潮じゃないの)
(男やったら、気持ちをさっさと表に出さんかいッ!)
(試練に自ら立ち向かうべきです)
(行動起こして失敗したっていいだろ)
店内の到るところで皆が見ない振りをしながら固唾を飲んで見守っていた。


◆川べりを歩く二人を遠くに見ながら、冒険者たちは『八束』の心づくしを味わっていた。
「ほい、出来上がったで」
「そろそろあいつら呼んで来いよ」
「そやで、お熱いのは結構やけど」
 詩織に手伝わせ、二人を祝福するために雲慧が腕を奮った料理がところ狭しと卓に並んでいた。