お猫さまを探して

■ショートシナリオ


担当:Syuko

対応レベル:11〜lv

難易度:やや易

成功報酬:3 G 4 C

参加人数:8人

サポート参加人数:2人

冒険期間:05月26日〜05月30日

リプレイ公開日:2008年05月31日

●オープニング

 眉を八の字に下げた男が、しょげた様子で冒険者ギルドに現れた。
「すみませぬ、ここは、色んな依頼を引き受けてくれると聞きましたが」
「まあ、そうですね。化け物退治から猫探しまで‥‥」
「そう!それなんです!」
 男は顔をあげ、嬉しそうに、顔を輝かせた。
「それって、化け物退治ですか?」
「いえ、私が依頼したいのは探し物のほうで‥‥」
「猫探し。ああ、いいですよ。名前や住処、探す猫の特徴などを書き留めますから」
 猫探しなら比較的簡単な依頼だ。駆け出しの冒険者にもこなすことが出来よう。

「私は、猫飼と申します。私、じつはさる殿様のお猫さまをお世話しているのですが‥‥」
 猫飼はその大切な猫を盗まれてしまったのだという。
「異国のそれは貴重なお猫さまなのです」
 
 どこぞの殿様が異国の猫を買い求め、それを馴らすよう頼まれ預かったのだが、今朝、起きてみると、忽然とその姿が消えていたのだと言う。
「何故、盗まれたと?逃げ出したかもしれないじゃないですか」
「いいえ、逃げ出したなら騒ぎになるはずです。何せ、そんじゃそこらにいる猫ではないんですから」
「そうなんですか?騒ぎに?では、犯人に心当たりは?」
 いくら珍しい猫とはいえ、逃げ出したくらいで騒ぎになどなるだろうか?小首をかしげながらも受付人は聞き取りを続ける。
「先ほども申しましたように、世にも珍しい猫ゆえ欲しがる人間はおりまする。中でも猫好きの長者と呼ばれるお方はしつこいほど譲ってくれと言うてきておりました」
 あの執着ぶりは尋常ではなかったと猫飼は断言した。だが正面から返して欲しいと出向いていっても相手にはされまいし、買い戻す金子など猫飼には用意できない。
 長者の家にはならず者たちが用心棒として雇われているとも聞く。

「ふうむ。その長者殿が怪しいと言うのですな」
「はい。長者が猫の餌を大量に買い付けているという噂を聞きましたから」
「しかし、猫好きならたくさん飼っているのでしょうし、大量の餌が必要になるでしょう」
「いいえ、あのお猫さまの餌は特別なのです」
 腑に落ちないながらも珍しい猫ならばそう言う事もあるのだろうと受付人は肯いた。
「わかりました。では依頼には長者のことも付記しておきましょう。ところでその猫の特徴は」
「黄色い毛並みに黒い縞模様があります。額の部分は『王』という紋様が浮き上がっております。顎や頬は白い毛が生えていて、あ、これが抜けた毛の一部でして」
(わ!めちゃくちゃ、剛毛。こんな猫がいるのか?)
「それからこれがお猫さまの首輪です」
「ええ!?」
 あきらかに通常の猫の首周りを逸脱したサイズの首輪にギルドの受付人は驚きの声を上げた。
「おいおい、それって虎じゃないのか!」
「確かにちょっと大きめですが、じつに大人しい子でして。お殿様のお使いに引き渡す日が迫っているのですよ」
「あんた、猫って言ったじゃないか」
「ですからお名前が『お猫さま』なんですってば」
「あんたねぇ‥‥はぁ」

 受付人は呆れた溜息をこぼしてから、筆に墨を含ませると、『求む!猫探し』の猫の部分に大きく×を入れた。

●今回の参加者

 ea0285 サラ・ディアーナ(28歳・♀・クレリック・人間・イギリス王国)
 ea0592 木賊 崔軌(35歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 ea1170 陸 潤信(34歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 ea2989 天乃 雷慎(27歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea9689 カノン・リュフトヒェン(30歳・♀・神聖騎士・ハーフエルフ・フランク王国)
 eb1555 所所楽 林檎(30歳・♀・僧侶・人間・ジャパン)
 eb3701 上杉 藤政(26歳・♂・陰陽師・パラ・ジャパン)
 eb4757 御陰 桜(28歳・♀・忍者・人間・ジャパン)

●サポート参加者

木賊 真崎(ea3988)/ ヤグラ・マーガッヅ(ec1023

●リプレイ本文

◆陽精霊は「わからない」と答えた。
「太陽の下にはいない、ということか」
 上杉藤政(eb3701)は長い塀が続く屋敷を遠目に見た。
 猫好きの長者として知られている男の屋敷である。
「長者さんは馬の肉や牛の肉を買い集めているようですよ」
 所所楽林檎(eb1555)に頼まれたというマーガッヅの報告からして、『お猫さま』が長者屋敷に囚われている可能性は高い。

「それにしてもでかい屋敷だな。中の様子は頼む。それらしいモンの位置感知出来たら上杉に知らせてくれっか?」
 木賊崔軌(ea0592)は助っ人の真崎にそういうと傍らの所所楽林檎(eb1555)を見下ろした。
「林檎、どっから潜入するか下見をしたいんだが付き合ってくれねぇか?その、男女二人のほうが何かと目立たねぇしよ」
 付き合う、につい反応して林檎は薄っすら頬を染めた。
 崔軌がこうして自分をあてにしてくれて嬉しいものの、今一歩踏み出せないといった状況である。
「ええ。崔軌さん。どの道筋で『お猫さま』を運び出すか検討しなければなりませんね」
 猫飼の話によれば『お猫さま』はまだ成獣にはなりきっていないものの、そこは猛獣、油断は出来ない。
 ぶっそうな預かり物をどう運ぶかについては、林檎に考えがあった。
「奴さん、相当な猫好きらしいな」
「珍しい猫を持参すれば、喜んで客として迎えられそうですね」
 長者に近づき気を反らすという役割の仲間たちにとってはいい材料だ。

「本気でその格好でいくつもりですか」
 義兄、陸潤信(ea1170)に妹、天乃雷慎(ea2989)は元気良く答えた。
「うん!猫好きって感じだろ?」
 雷慎は猫の着ぐるみを身につけていた。
「『お猫さま』と遊ぶんだ♪後で紹介してよね、兄貴」
「まさか、じゃぱんで虎を見ることになるとは‥‥」
 『お猫さま』は潤信の故郷、華仙教大国から連れてこられたらしい。
「でも、そのお猫さまって、取り返した後どうなっちゃうの?」
檻の中の飼育なんて可哀想、という妹に潤信は肯いた。
 
 その頃、上杉はインビジブルや忍び足を駆使して長者の家の床下まで潜入することに成功していた。
 床下を移動しながら上杉はその頭上にあるものを陰陽師の操る精霊魔法で透視した。
 屋敷の最も奥まった場所にソレがいた。

◆翌日、長者屋敷の門前に四人の女性が立っていた。
 二匹の猫を連れたカノン・リュフトヒェン(ea9689)、上杉の定正を抱いたサラ・ディアーナ(ea0285)、猫の着ぐるみの雷慎、そして術で猫耳としっぽを生やした御陰桜(eb4757)である。
「こんにちは〜♪ここにネコちゃんがいっぱいいるって聞いて来たんだけど会わせて貰ってもイイかしら?」
 うふっと妖艶に微笑む桜に見張りの男たちの鼻の下が伸びた。
 男たちは猫よりも猫耳や着ぐるみがお好きなようである。
「いいとも」
「おい、そんな簡単に。今はアレがいるんだぞ」
「長者さまはきっとお喜びになるさ」

 通された座敷で四人は長者と対面した。
(わわ、猫に似てる!)
 飼い主とペットは似るというが、猫好きの長者は猫顔であった。
「うっわぁかわいい猫がいっぱい!」
 雷慎が歓声を上げる。
「この猫は遠い異国の猫でしてな」
 毛足の長い猫を長者は膝に乗せて自慢した。
「それからこちらは‥‥おや、その猫は随分珍しいようだが」
 長者はサラの膝で大人しく丸くなっている定正を見た。
 それもそのはず上杉の定正はケット・シーなのだ。
「ええ。かわいいでしょう?でもとても誇り高いところがありますの」
 サラが穏やかに答えた。
 今回も上杉が前もって『お猫さまのために一肌脱いでくれ』と頼んだゆえにここにいる。
「譲っていただくわけには?」
「残念ですがこの子は知り合いからお預かりしているので」
「ぜひ、その方にお譲りくださるよう、お話を!」
 目の色がすっかり変わっている。さらりとカノンが助け舟を出した。
「珍しいといえば、額に宝石のはまった猫がいるのをご存知か?」
「おお、そのような珍しい猫が!?」
 長者はその話に食いついた。
「なんでも、ジャパンにそのような猫を飼うものがいるとか」
「ほう、この国に!」
「それは世にも珍しい猫でございますね」
 サラも相槌を打つ。
「さすがの長者さんもそんな珍しい猫は飼ってないよね♪」
「あら、長者さんならもっと凄いネコちゃんを持ってるんじゃなくて?」
 桜は長者の猫を抱き上げた。猫はすりすりと甘えている。
桜の身体から仄かに香るマタタビに惹かれているのだ。
 桜の猫、虎之介がにゃあんと抗議するように甘え鳴きした。
「こぉら、ヤキモチ妬かないの♪」
 猫と戯れる猫耳美女に長者は良い眺めじゃのう〜と目尻を下げた。
「珍しい猫か。おるにはおりますがの」
「ぜひ見せていただきたいですわ。ご覧の通り私たちは猫が好きで堪りませんの」
「わぁ、僕も見たい!」
「あたしも見てみたいわ」
「そうかな。そんな珍しい猫が他にいるかどうか‥‥」
 疑わしそうなカノンの言葉に長者は自慢げに笑った。
「百聞は一見にしかずといいますからな、特別にお見せしましょうかな」

 案内された部屋は屋敷の最も奥まった場所にあった。
「わあ!おっきい」
 檻に入れられた『お猫さま』が怯えているのか、低く唸った。
「あまり近づかんでくだされや」
「まあ、ケガをしていますわ」
 足に枷が嵌められているのだが、暴れた時にか傷になっていた。
「外したほうが良いのでは?傷がつくとペットとしての価値が下がると思うが」
 カノンが冷静に意見する。
「それもそうじゃのう」
 長者は見張り番を呼んだ。
「枷を外せ。マタタビを少し与えれば大人しくなるだろう」
 これで救出が容易になる。
 鍵を持った男の顔を四人は頭に入れた。
 マタタビ効果か大人しくなった『お猫さま』にサラは近づいた。
「かわいそうに」
 ケガをした前足に触れると呪文を囁く。たちまち傷が癒えた。

◆楽しげな笑い声が響いてくる。
 四人の猫好きの客をもてなすために酒宴が開かれていた。
 見張りの男たちも気がそぞろのようである。
「ねぇねぇ、お兄さんもどう?」
 かわいい着ぐるみ猫娘にそう勧められてはついつい手が出るというものだ。
「厳重な檻に入っているのに見張る必要があって?」
 などと桜に妖艶に誘われて男たちは杯をあおった。
「もう一杯。ほんと、ネコってかわいいわよね〜」
 膝に抱かれた仔猫を見て男たちは(ネコになりてぇ〜)と心の中で叫んでいた。
 腰の鍵束を桜が掠め取ったことには気付きもせずに。
 座敷ではカノンとサラが長者とネコ談義に花を咲かせている。

 その浮かれ様を庭に潜んで、崔軌、林檎、潤信、上杉が苦笑しつつ見ていた。
 昨日のうちに細工した裏木戸から侵入は難なく成功した。
 門前の男たちは既に気絶させてある。
 屋敷内の男たちもすっかり注意を母屋の座敷に向けていた。
「やるなぁ、あいつら。俺らも行くぞ、林檎、潤信」
 彼らは『お猫さま』のいる棟にまっすぐむかった。
 何気ないふりで縁側を歩く桜の指から鍵束が放り投げられた。
 チャリっという音とともに崔軌がそれを受け取る。
「では、私は」
「うん。頼んだぜ」
 上杉は姿を消して援護するつもりだ。

◆見張りの男たちは崔軌のペット妖精の去夜の魔法であっけなく眠りこんでしまった。
 虎は新しい侵入者を威嚇して低く唸った。
「いたいた。頼んだぞ、潤信」
 潤信が静かに檻に近づいた。
『静かに、私達はおまえを猫飼さんに帰す為にきたのです』
 猫飼の着物を虎に嗅がせる。
 潤信の能力のおかげで言葉が通じていた。
『本当?本当に帰れるの?』
『必ず帰してあげます。だからしばらく大人しくしてくれますか』

 潤信がもう大丈夫だと肯き、林檎の白い手が虎に触れ呪文を唱えた。
 その身体が形を変えていき、少年になった。
 崔軌は猫飼の着物を少年に着せ掛けると、背中を向けて屈んだ。
『この人の背中に乗るんです』
 潤信と林檎が少年を支え、崔軌の背に乗せる。
『決して声を出してはなりませんよ』
「表に出たら、馬に変えてやるからよ、少しの間の辛抱だ」
 崔軌は少年を背負って走り出した。
 林檎と潤信が守るように続く。

「こちらです」
 姿無き声に庭を誘導される。上杉が案内してくれているのだ。
「見張りがきます。注意をそらしますのでその間に」
 上杉は怪しげな音を立て、見張りたちの注意を引いた。
 その隙に三人は少年を連れて庭を走り抜けた。

「上手くいったようだわね」
 桜はそう呟くと、立ち上がり、酔いの回った長者を見下ろした。
「人の物を獲っちゃうなんていけないだー」
 と雷慎が責めても長者はすでに高いびきだ。
 明日の朝は大騒ぎになることだろう。
「雷慎ちゃん、撤収よ。そいつらは放っておきましょ」
「そうだった、『お猫さま』と遊ばなきゃ」

「ここまで来れば大丈夫だな」
 崔軌は少年を降ろした。
 人間の姿勢は虎にとっては辛かろう。
「林檎、頼むわ」
「わかりました」
 林檎が再び呪文を唱えた。今度は少年の身体が馬となった。
 馬は不服そうに嘶いた。
『辛抱してください。本来の姿では街の人々を驚かせてしまう』
 潤信に宥められて馬はぶるぶると鼻を鳴らす。
「よし、行こうぜ」
 馬の鼻面を撫でると崔軌たちは歩き出した。

◆礼を言う猫飼に『お猫さま』を引き渡した。
「でも、可哀想だよ。檻で飼うなんて」
兄の力で会話し、『お猫さま』と仲良くなった雷慎が呟く。
 桜に肉球をぷにぷにされ『お猫さま』はごろごろと咽喉を鳴らしていた。
「あなたと離れるのはきっと心細いでしょうね」
 同情をこめて、サラが虎の背を撫でた。
「そのことなのですが、私は『お猫さま』について行くことにしました」
「それはいい」
 『お猫さま』の真の名や、猫飼への気持ちをテレパスで聞いていた潤信は心から喜んだ。
『達者で暮らしてください』
 最後にもう一度、とテレパスで話しかけた潤信に虎はこくりと肯いた。