みよと一角獣

■ショートシナリオ


担当:Syuko

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:5人

サポート参加人数:1人

冒険期間:05月30日〜06月04日

リプレイ公開日:2008年06月05日

●オープニング

 ぬっと突き出された手の中の金とくしゃくしゃの紙。
 幼いながらも不敵な面構えをした少年の睨みつけるような真剣な眼差しにギルドの係員は紙を広げ、皺を伸ばした。

「ぼうけんしゃのひとへ」
おねがい、わたしのおともだち、いっかくじゅうをわるいひとからまもってください」

「この手紙は?」
「おれの村のみよっていうチビから頼まれた」
「一角獣といえば、珍しい生き物だ。お前さんも見たことがあるのかい?」
 少年の真剣な瞳を見れば悪戯でないと信じられるが、一応確認の為に係員はそう尋ねた。
「あるよ!でも世話はチビすけがやってるんだ。そのほうがヤツの機嫌がいいから。
 なあ、冒険者ぎるどってのは困ってる人間を助けてくれるところなんだろ?
 だったら、みよの頼みを聞いてやってくれよ
 金なら払う。村の大人の手伝いをして稼いだんだ」

 おそらくこの少年も一緒になって貯めた金なのだろう。
 ぎゅうっと握られていたせいで硬貨が温かくなっている。

「わかった。早速書き出して壁に貼ろうな。お前さんの名は?」

「正太!」

「くわしく話を聞かせておくれ」


依頼内容

正太とみよが
密かに世話をしている一角獣の子供を角を狙う密猟者から守り、
再び自由に山野を駆け回れるようにしてほしい。

●今回の参加者

 eb2810 レフィル・ウォーレグ(20歳・♀・ジプシー・シフール・イスパニア王国)
 ec1298 一条 如月(31歳・♀・陰陽師・パラ・ジャパン)
 ec4808 来迎寺 咲耶(29歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 ec4935 緋村 櫻(27歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ec5006 イクス・グランデール(27歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)

●サポート参加者

レア・クラウス(eb8226

●リプレイ本文

◆「・・・これは。噂には聞いていましたが、神秘的なものですね」
 夜目に輝くような白い馬身、額に生えた一本の螺旋の角。
 一角馬にはそうそうお目にかかれるものではない。
 緋村櫻(ec4935)はまだ成獣にはなっていない一角馬を見て呟いた。
 この美しい動物が、欲に駆られた人間に狙われているとは‥‥。
「一角獣か…はじめて見るな。珍しいから、とか噂で親を殺された上に、自身の命まで狙われるとは不憫だな…」
 これを見逃すのは騎士道精神に反する、とイクス・グランデール(ec5006)も憤りを隠せない。
「ごめんなさい。この子、女の子がすきなの」
 男はたとえ正太も触れることが出来ないのだという。
 イクスは心配げに自分を見上げる幼い少女に微笑んだ。
「気にしなくていい。聞いたことがあるよ。ユニコーンは穢れ無き乙女にしかその身に触れることを許さないんだよな。あ、俺は騎士のイクス・グランデールだ。よろしくな!」
 みよはまだあどけない瞳でじっとイクスを見てからこくんと肯いた。
「お兄ちゃんたちがこの子を悪いひとから守ってくれるの?」
「そうでござるよ」
 一条如月(ec1298)はみよに微笑みかけた。
「よかった。この子とても恐がってて。ずっと恐い、恐いって泣いてたの」
「みよ殿は一角獣の言葉がわかるのでござるか?」
 テレパシーを使っての会話を試みるつもりであった一条は驚いて目を丸くした。
「ううん。でもこの子が言うことは頭の中に浮かんでくるの。あたし、おかしくなっちゃったのかな」
 どうやら一角馬にはそういう能力が備わっているらしい。
「そんなことはありませぬよ。みよ殿。その証拠に今から拙者がみよ殿の頭の中に話しかけてみますゆえ」
 一条はテレパシーを使ってみよに話しかけ、安心させた。
「これを使えば、こちらからも一角獣に話しかけることが出来るでござる」
「うん」
「なるほど。不思議な生き物だね。人の心を惹きつける。角が万病に効く特効薬だというのはガセと効いたけれど‥‥」
 来迎寺咲耶(ec4808)に櫻は肯いた。
「そう信じているものがいる、と言うことが問題なのでしょうね」
 万病に効くという噂の角は非常に高値で取引されているようでそのため、悪質な密猟者が後を絶たないのだった。
 この一角馬の母親もそうした欲の犠牲者なのだ。
 なんとしてもこの子どもの一角馬を守ってやろうと皆は決心した。

 蝶の羽をひらひらと羽ばたかせて偵察に出ていたレフィル・ウォーレグ(eb2810)が戻った。
「小屋の近くに大人の足跡がいくつもあったよ。たぶん、ここに匿われていることは向こうにはばれたと思う」
「では世話をしているのが子どもだと知っているのでござるな」
「うん」
 レフィルは声を潜めた。
「みよの親も心配してる。今まで見て見ぬふりをしてきたけれど、密猟者が迫っているとなると‥‥」
 みよや正太の身も危険に曝される。

◆「そんなのだめ!」
 みよがぎゅっと一角馬の子の首筋に抱きついた。
 みよと正太、そして一角馬を守るために、冒険者達は囮作戦を取ることにしたのだ。
 あえて、子ども達を帰し、小屋を手薄にして密猟者達を誘い出すのだ。
「みよ、この人たちの言うとおりにしよう」
 正太が言っても、みよは首を振るばかりである。
「山はとても広くて密猟者がどこから来るかわからないんです。それならば、一角獣のところに誘き寄せて一時に悪い人を捕まえてしまうしかないんですよ」
 櫻がそう説明する。
「それに一角獣もそうしたいと言ってくれているでござる」
 一条に言われてみよは涙の粒を頬にくっつけたまま一角馬を見上げた。
「ほんと?」
 まるで肯いたように一角馬の頭が動いた。鼻面でみよの頬を涙を拭くような仕草だ。
「この子、とっても恐がりなのに」
「大丈夫だ。俺たちが必ず守るから」
「絶対にこの子の命を奪うような事はさせない」
 イクスや咲耶の力強い言葉にみよはようやく納得した。

 翌朝、レフィルの案内でイクスと櫻が密猟者の仕掛けているという罠を探すために出かけると、一条と咲耶は小屋の周囲に落とし穴を掘った。
 穴の上を枝と木の葉で蓋をしたあと土でうまくカムフラージュする。
 子ども達の目もあり、できるなら、捕縛して役人に引き渡したいものだ。

 兵法によるイクスの予測どおり、茂みに張った鳴子がカタカタと鳴ったのは夜になってからのことだった。
 みよと正太を夕暮れになるまでに村に送り届け冒険者達は万全の体制で密猟者達を待ち受けていた。

「うわあ!」
 どさっという音とともに野太い男の悲鳴が聞こえた。
 どうやらいくつか仕掛けておいた罠にまんまとひっかかったらしい。
「密猟者!」
 一条がムーンアローを放った。
「ぎゃあ!」
 また悲鳴が聞こえる。
 冒険者達は小屋を飛び出した。
「ひゃあ!」
 鎧の隙間を櫻に日本刀で突かれて密猟者が飛び上がった。
 向こうでは逃げようとしてレフィルの矢に阻まれた男が失神していた。
 そいつを木の幹に一条が縄で縛り付ける。
 レフィルは時折矢を放ちながら、罠にお尻がはまって身動きできない密猟者をタコ殴りしている。
「うおりゃあ!」
 一角馬のいる小屋を背にイクスは雄たけびを上げ、飛んで来た矢を撥ねかえすと男たちを威嚇していた。
 小屋に近づこうものなら軍配斧を振り回して応戦する。
『後、二人、男』
 聞こえてきた不思議な声に櫻は振り返った。
 忍び寄ってきた男たちが襲いかかってきた。
 すかさず、男の一人に胴にみね打ちを決める。それを見て一緒にいた男がくるりと逃げた。
「おっと」
 二刀が男の喉元に突きつけられる。咲耶がにっこりと微笑んでいた。
「さて、仲間はこれで全部なのかな?」
 

◆十人の密猟者達は捕らえられた。
 手傷を負ったものもいるが皆軽傷で多くは気絶させられ頭に瘤を作って、縛りあげられている。
「はやく、連れて行っちゃって」
「罪なきものを、己の欲だけで殺めようとは、言語道断。道理に外れる道を歩むものには、罰をお願い致します」
 役人に引き渡され、うなだれながら連行されていく男たちを見送って咲耶と櫻が顔を見合わせた。
 残る問題はみよ、である。一角馬を人の手に慣れすぎないうちに山へ帰してやらなくては‥‥。
「可哀想だけど、人里近くだと、またいつ誰に目をつけられるか分からない。大事に思うなら、自由にしてやるのが一番だね…… 」
「ええ」
 
 
「まだ子どもなのに、一人で暮らすなんて可哀想よ!」
 一角馬の首にぎゅっと腕を回してそう言い張るみよを正太は持て余していた。
 どうしても手放すのは嫌だと言うのだ。
 騎士イクスは身をかがめ、みよに視線を合わせる。
「君は本当にこの子が好きなんだな。でも、この子がここにいると狙われてしまう。それが危険なのはわかっただろう?どんなに親しい友達でも時が来れば家に帰るものだ。そしてこの子にとっても同じなんだよ…家に帰らなきゃならない。わかるよな?」
 櫻もみよを安心させるように優しく微笑んだ。

「みよさん、確かにこの子は親を失って、哀れかもしれません。でも誰だって、一人で生きて行かなくてはいけないのです。私も、大切な人たちを失った事があります。けれど、今もこうして、生きている。みよさん、きっとこの子だって、大丈夫ですよ」
「うん。ここにいれば、この子はまた悪い人に人間に狙われるかもしれない。自由な野山に帰してあげるべきだよ」
 青い蝶の羽根で空を舞うレフィルにみよは「でも‥‥」と瞳を潤ませた。
「みよ殿、一角獣も、山へ帰ると言っているでござる」
「そんなのうそだもん!」
 一条はみよの頭を撫でた。
「嘘ではありません。気を静めてこの子の声に耳を傾けてみて下され」
「‥‥」
 みよは黙り込んだ。じっと『声』と話しているようだ。
「‥‥帰るの?」
 子ども達を危険に巻き込むことを一角馬は望んではいないようだった。
「きっとまたみよ殿のところに遊びにてくれるでござる」
「そうしたいと思ったらまた俺たちを呼べばいい。必ずあわせてやるさ。」
 一条とイクスの言葉にみよはきゅっともう一度一角馬の首筋に頬ずりし、ようやく肯いた。

「おにいちゃん、おねえちゃん、ありがとう」
 手を振るみよの髪には櫻の挿してやったかんざしが陽の光を浴びて輝いている。
 子ども達に手を振り替えしながら、この友情がいつまでも続いてほしい、と一条は願った。