かちかち山の狸合戦

■ショートシナリオ


担当:Syuko

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:06月19日〜06月24日

リプレイ公開日:2008年06月25日

●オープニング

「困ったのう」
 家の裏にある山を見上げて和尚は溜息をこぼした。
 近頃、悪戯好きの狸たちが、里に下りてきては畑の作物を漁っていくのだ。
 貴重な鶏を獲られ、泣きべそをかいている者もいる。
 
「かわいい奴等なんじゃが‥‥」
 
 反って楽しんでいたくらいだ。
 だが、村人達にとってはそうではなかった。
 狸にも頭がいいのがいて、中には人に化けたりできるものもいるらしい。
 先だっても山の廃屋に住み着いた女狸が麓の村の若者を化かして騒ぎになった。

「なんとかならんもんじゃろうか」
 狸の肩を持つわけではないが、和尚には腐れ縁ともいえる古狸がいるせいで中々憎めないのだ。
 狸にしてみれば山に入ってきた人間こそ、侵入者と言いたいらしい。

「おまえさんが若い頃はこんなこともなかったがのう」
 和尚は傍に座る古狸を見下ろして、また溜息した。

 昔なじみの古狸も自分と同じように年老いて、仲間への抑えが効かなくなったらしい。
 古狸の話では、狸も人と同じ、個々の性格もあって、お人よしや、悪戯者、意固地な者や、底意地の悪い者や食い意地がはった者、色々いるらしい。
 人間の罠にかかって、危うく狸汁にされそうになった恨みを忘れない狸もいたりして、和尚の馴染みの古狸も中々苦労をしているようだった。
 村の中で、腹に据えかねた若者達が手に鍬や鎌を持って、山に入ったが、何せ彼らの縄張りだ。
 敵わず怪我人まで出る始末だった。
 このままでは、村長は冒険者ギルドに狸退治の依頼を出すだろう。

「しかしのう、山から狸がおらんようになるのものう」
 狸がいなくなれば、鼠が増えすぎて、これまた畑に被害が出るかもしれない。
 第一、寂しいではないか。

「要は、じゃ。狸の悪戯をやめさせればいいんじゃ」
 傍らの古狸は和尚の言葉に「あ?」と小首をかしげた。
「血気に逸る若い狸どもを納得させて悪さをやめさせるには合戦しかないと思うんじゃ」
 合戦って‥‥。
 人語を解する古狸は思った。
 長年の付き合いながら、この男はまた突拍子も無い。

 反対だと、古狸はふるふると首を振った。
 合戦などすれば、どちらにも犠牲が出るだろうし、万が一、死人がでたら大変だ。

「いや、本当の合戦じゃない。勝負さえつけばいいんじゃから」
 あの『かちかち山』は大層後味が悪かったが、今度は違うぞ、と和尚はほくそ笑んだ。

「人手のほうはわしが集める、狸のほうはおまえさんが何とかまとめてくれ。『悪戯をやめろ』と言うては耳を貸さん者も合戦じゃといえば参加したがるじゃろう。決まりをきめて負けたほうはお互いの縄張りを侵さない、ということにするんじゃ」
 古狸は和尚の言うことにようやく納得して、若狸を説得することを了承した。

 人の暮らしに山は不可欠だ。
 だからこの勝負は負けるわけには行かない。
 それに犠牲を出せば後々まで禍根が残る。
 村の若者達では手に余るだろう、と和尚は考えた。

「困ったときは冒険者ギルドじゃ。御仏のお導きがあるに違いないて。のう、豆吉や」
 合掌すると和尚に、『豆吉』は勝手につけた名前で呼ぶのはやめてくれ‥‥と心の中で呟いた。

●今回の参加者

 ea4475 ジュディス・ティラナ(21歳・♀・ジプシー・パラ・イスパニア王国)
 ec4507 齋部 玲瓏(30歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)
 ec4855 十七夜月 風(35歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ec4859 百鬼 白蓮(28歳・♀・忍者・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

◆「おお、なんと可愛らしいうさぎさん達じゃろう」
 相好を崩した和尚は山寺の縁側に狸の豆吉と顔を見合わせた。
 ギルドに依頼を出し、狸と模擬戦を行ってくれる冒険者たちを募ったが、まさかこれほどとは‥‥、と非常に満足げだ。
 もちろんうさ耳の似合う男性諸氏もいるだろうが、和尚の好みから言うと断然うさ耳は女子の頭にあるほうが喜ばしい。
「有難いことじゃ」
 寿命が延びそうじゃのう、なむなむと和尚が手を合わせると豆吉も同じように前脚をすり合わせて頭を垂れた。
 ジュディス・ティラナ(ea4475)と十七夜月風(ec4855)の頭には『らびっとばんど』。ふわふわの耳がついているヘアバンドである。
 お手製のうさ耳で参戦してくれた齋部玲瓏(ec4507)、百鬼白蓮(ec4859)の布製のそれもとても個性的だ。

「あたしはねっ、うさぎさんとお坊さんが大好きなのよっ☆」
 ジュディスが和尚を見てにこにこしながらそう言った。どうやら和尚の頭の光り具合がとてもお気に召したらしい。
「それは光栄じゃ。本当によう来て下された」
「ところで和尚、狸に好物のようなものはあるのだろうか?」
 いざと言うときの為に風は狸の好物を用意しておくつもりだった。
 狸のほうに撒き散らせば、かなり気がそれるのではないだろうか。
「好物といえば、魚が好きなのではなかったかな。生憎、ここは寺ゆえ用意は出来ないが」
 山のこととて新鮮な魚は中々手に入らないが、村なら干し魚が手に入るという。
「一応、用意しておくか」
 そういう風に一同は肯いた。
「和尚殿、狸は人を化かすと聞き及ぶが‥‥」
 そう問いかけた白蓮に和尚は肯いた。
「中にはそういう者もいるようじゃ。何を隠そう、この豆吉も若い頃は中々の化け手であった。よくわしを騙くらかそうと挑戦して来たものじゃ」
「狸さんも智恵があるということですね。騙されないようにしたいものです」
「はい!はい!!玲瓏ちゃん」
 ジュディスが手を挙げる。
「どうしました?ジュディスさま」
「あたし、合い言葉思いついたのっ☆。たぬきさんがあたし達に化けた時、誰が本物かわかる様にしたいのっ☆」
「なるほど、合言葉、ね、それはいい」
 賛成する白蓮にジュディスが「いいの、思いついた!」と手を打った。
「こういうのはどう?『うさぎの耳は』『長いんだもん』」
 思わず皆から笑い声が零れる。
「かわいいじゃないですか、それでいきましょう」
「うん。だが、合言葉が一種類では狸達に一度聞かれたら意味がなくなってしまう。他のパターンも考えておいたほうがいい。そうだ、こういうのはどうだ?」
 小声でもう一つの合言葉を提案する風に皆はそれはいいとうんうんと肯いた。
「よし、私は村まで降りて干し魚を手に入れてくるよ」
「ならば、自分が行ってこよう。風殿には他に準備があるので御座ろう?」
 白蓮は他に村に用事が無いか和尚に訊ね、気軽に山を下りて行った。
「私たちはとりあえず、模擬戦の会場になる山頂を見てこようか」
 という風に玲瓏は肯くと手に裁縫道具を持って立ち上がった。
 糸を使って旗に狸が近づきにくいように少々細工するつもりだ。
 大勢いるあちらと違い、こちら側は精鋭とは言え、少数。
 準備は万全のほうが良い。
「私も念のために銅鏡を仕込んでおこう」
 狸達が眩しがって惑わされるかもしれない。

◆くるくると嬉しそうに舞うジュディスの杖の先から光の玉が迸る。
 魔法少女のいでたちに狸たちは魅了され、ぼうっとなったところに光の玉、である。
 面食らって気絶する狸もいる。
 そもそも狸は本能的に危機回避の為に気絶しやすいらしい。
 それを手早く玲瓏は縄で縛り上げ、自分の陣の木に縄の端を結びつけた。
「よし、今のところ、味方に化けている狸はありませんね」
 魔法の力を使い、それを確かめると玲瓏は自陣にひるがえる旗を見上げた。
 ざっと見て、狸は二十匹ほどか。
 しかも、茂みの中には、この模擬戦に出ていない狸たちが隠れていて、固唾を飲んで勝敗の行方を見守っているようだ。
 よもや手出しはしないと思うが‥‥。
 彼らに気付いたのは玲瓏だけではなかった。風はにやりと笑うと桶に用意してあった干し魚を茂みにぶちまけた。
 魚の匂いに見物客たちが我先にと争って食いつく。
よし、これで見物客たちの気は逸れた、と風は前方に視線を向けた。
下で魚を貪っている狸達を尻目に木々を利用して敵陣に近づいていく。
同じく敵陣に向う白蓮を見つけた。
「うさぎの耳は」
「長いんだもん」
 可愛い合言葉を真面目に唱える白蓮に風は思わず口角を上げる。
「白蓮、一気に行くぞ」
「承知した。数もかなり減ったようで候」
 人型をとった狸達が二人を阻止せんと襲い掛かってくる。
 いつのまにか傍にジュディスがいて、共に敵陣に向っていた。
 おかしい。ジュディスは自陣に近寄る狸を撹乱して気絶させる役割を担っているはずだ。
 隣にいる少女は確かに彼女の姿かたちはしてはいるのだが。
 白蓮は走りながら合言葉を叫んだ。
「うさぎの耳は」
「長いんだもんっ」
 合言葉は合っていた。すかさず、今度は風が問いかける。
「では、もう一つ。うさぎはゲルマン語で?」
「長いんだも‥‥」
「残念、外れだ」
 風のスタンアタックがジュディスに化けた狸に炸裂した。
「人型を取ってくれているほうが急所がわかりやすくて有難い」

◆「取ったで候!」
 邪魔をせんとする狸達を見事にかわし、敵の旗を掲げた白蓮の声を遠くに聞き、ジュディスと玲瓏は捕虜となった狸たちの数を数えていた。
 もちろん、勝敗が決した今、捕虜達は解放される。

「そこまでそこまで。双方ともよう闘った」
 ぽんぽんと手を打つ音がして、和尚と豆吉が姿を現した。
 狸の大将格に豆吉が何か話しているのが見えた。まるで諭しているかのようだ。
 やがて、豆吉と顔を見合わせた和尚が冒険者たちに話はついたので捕虜を放してほしいと頼んだ。

「ささ、皆、腹が減ったろう、寺に食べ物が用意してある。来なされ」
 寺に着くと、和尚は盆に盛られた握り飯を狸達に振舞った。
「おまえさんたちも食べてくだされ」
 昨夜和尚によって振舞われた精進料理も中々のものであったが、味噌をぬって囲炉裏で焼いたこの握り飯もなかなかの味だった。
 最初は警戒していた狸達も今は喜んで握り飯を口にしているようだ。
「うむうむ。そうじゃ。こうして人と狸が仲良う暮らしてくれるのが拙僧の一番の望みじゃ。なぁ、豆吉や」
 返事もせず握り飯を鼻先でつつく豆吉の背を和尚は優しく撫でた。
「これで狸が村人に悪戯をやめてくれたなら万々歳じゃ」
 人間が侮れない存在だと知れば、約束は守られるだろう、という和尚の目論見はどうやら当たったようだった。

「ところでじゃ。齋部殿と百鬼殿に頼みがあるのじゃが」
「まあ、なんでしょうか?」
「なんで御座ろうか?」
 仲良くなった子狸と遊んでいた玲瓏と、白蓮が顔を上げた。
「うむ、じつはな、その頭のうさ耳を拙僧に頂けないものかなと思ってのう」
 和尚は彼女達の手製のうさ耳が大層気に入ったらしかった。
「もちろん、ただでとは言わんよ。この寺に伝わる品と取り換えてくれんかのう」
 和尚は納戸からごそごそと葛篭を取り出すと、蓋を開けた。
「あった、あった」
 葛篭の中にはラビットバンドが二つ納められてあった。
「どうじゃろうか、取り換えていただけるかな。そうじゃ、ジュディスちゃんと十七夜月殿にも何か差し上げようのう」
「わぁい」
「いいのだろうか」
 和尚は中身は後のお楽しみじゃ、と言いながら二人に風呂敷包みを渡した。
「このうさ耳は寺の宝として大切にさせてもらうからの。狸たちとの和解のしるしじゃ。さ、皆、もっと食べてくだされ」

 やがて、本来、寺に無いはずの酒まで持ち出され、狸囃子とともに賑やかで楽しい宴会は夜遅くまで続いたという。
 その後、近隣の村では狸に化かされる被害は出なくなったらしい。