食材現地調達バーベキュー

■ショートシナリオ


担当:Syuko

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 39 C

参加人数:5人

サポート参加人数:1人

冒険期間:07月21日〜07月24日

リプレイ公開日:2008年07月29日

●オープニング

 パチパチと算盤を弾きながら小料理屋『八束』の若女将、佐織は呟いた。
 芸事を観覧しながら美味しい食事を楽しめる店として開店して、三月になる。
 お客の入りもまずまずだ。
 感謝を籠めて何か目新しい企画を打ち出したいところだが‥‥。
「海や山でその場で調達したものを皆で料理して食べるという趣向はどうかしらね。じつは場所の目星はつけてあるの」
 佐織がいうには、そこはほんの少し海岸から沖に出たところにある島ということである。
 伝手でひと夏、借りることが出来るらしい。
「山に入れば、茸や果物くらいあると思うし、海では勿論、釣りができるしね」
「え〜?そんなに上手く行くかしら」
 妹の詩織は少々懐疑的だ。
「人が集まるかどうか。第一、まったく食材が集まらなかったらどうするの?」
「そうね。じゃ、最低限、流しそうめんだけでも楽しめるように仕度していきましょうよ」
「流しそうめんか‥‥」
 厨房担当の詩織にとってこの暑い最中に竈の前につきっきりでいなくていいのは魅力的であった。
「でもいきなりの素人さんじゃ不安だわ。島で事故でもあったら‥‥」
「そうねぇ。どんなことが起こるか、予想できないし。ここはまず、この企画がうまくいくか、腕に覚えのある人で、試してみるほうがいいかもしないわ」
 街中とは違い、海や山のことである。
 ただの食物採集だけで済むなら問題は無いのだが。
「じゃ、早速手配しないと。舟とかも頼まないといけないしね」
 忙しくなるわ、と佐織は早くも動き出した。
「腕に覚えのある人かぁ‥‥」
 詩織が憧れの眼差しで宙を見上げた。
「うまくいけば、冒険者さんたちの骨休めになるかもしれないし、楽しんでもらえればいいんだけど」

 

●今回の参加者

 ea3094 夜十字 信人(29歳・♂・神聖騎士・人間・ジャパン)
 eb4757 御陰 桜(28歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 eb8739 レイ・カナン(19歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ec1073 石動 流水(41歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ec5122 綾織 初音(26歳・♀・侍・人間・ジャパン)

●サポート参加者

ゴールド・ストーム(ea3785

●リプレイ本文

◆青い空、沖合には白い入道雲。
 夏らしい晴天だ。
 申しわけのような小さな桟橋に横付けされた船から、佐織と詩織は籐で編んだ行李を幾つも下ろした。
「佐織ちゃんも面白いこと考えたわね」
と、御陰桜(eb4757)は傍らの夜十字信人(ea3094)を見上げた。
「桜さん、参加してくださって心強いです」
 すっかり顔馴染みとなった桜の参加に八束姉妹は嬉しそうだ。
「こんにちは、佐織ちゃんに詩織ちゃん、今日はお客として楽しませてもらうからね」
 もにたぁとしての任務はもちろんだが、今回は骨休めをかねて大事な信人と甘い時間を過ごせればいいと桜の期待は膨らむ。
「きゃっ、素敵な方。この方が桜さんの?」
「ええ♪信人ちゃん。あたしの大事なヒトよ」
 うふふと上機嫌に微笑む桜にお似合いの美男子だと姉妹は頬を染めて肯きあった。
 二人の間に流れる雰囲気にあてられそうな予感がする。
「夜十字さん、ではこれをお受け取りください。釣りを楽しんでいただこうと皆様にお渡ししているんです」
「釣竿か」
「ええ。もちろん、ご使用は自由です。山に行かれる方も竿はお持ち帰りになってかまいません」
 今日の趣旨はこの無人島が散策や海水浴を楽しめる場所かどうか、調べてもらうことである。
 できれば海のほう、山のほう、ともに調べてもらいたい。
「じゃあ、私は山のほうへ行かせてもらおうかな。危険な場所がないか調べてみよう。ついでに毒キノコや毒草がないか、確認してこようかな」
 植物の知識に明るいレイ・カナン(eb8739)がそういうと、石動流水(ec1073)釣竿を断りながら
「俺は海だ。大物を待ってぼうっとしてるのもいいからな」
と言った。
 果報をのんびり寝て待つつもりだが、ヒミルの釣竿ならかなりの大物も狙えるはずである。
「あ、餌は小蟹、イワシ、アジをご用意しました。大物が釣れるといいですね。流しそうめんや火の準備が済んだら私も釣りをやってみたいです」
 石動の愛猫きなこを抱いて詩織は微笑んだ。まだ幼い三毛猫だが可愛くて仕方が無い。
「もし、勝手がわからないようなら、手ほどきしようか?」
「いいんですか?ぜひ!」

 綾織初音(ec5122)は熊手と網の袋を持った。
 中性的な顔立ち、風体をしているので間違えやすいが、れっきとした女性である。
「俺は貝を探してみよう。食べられるものがあるかもしれない」
 波打ち際を歩くのも岩場に少し潜ってみるのも楽しそうだ。
「はい、楽しみにお待ちしています」
 この企画の為に臨時に雇い入れた店員が石を積んで簡単な炉を作り上げる作業を監督しながら佐織は皆を見送った。縦に割った竹を繋いで勾配をつける作業も進みつつある。
「皆様、くれぐれもお怪我のないようにお気をつけて」

◆「‥‥海の匂いか…偶には、悪くない‥‥」
 日本刀を肩に風に髪やホークウィングを靡かせながらそう呟く夜十字に
(素敵)
と思わず見とれながら桜は
「まずは日焼け止めを塗らなくちゃ」
と、八束の名が筆書きされた大きな唐傘の下、敷かれた茣蓙の上で甘い視線を送る。
「日焼け止め?」
 他の誰かに塗って貰えよ、とばかりに夜十字は周囲に視線を飛ばす。
「だって、佐織ちゃんや詩織ちゃんは忙しそうだし、レイちゃんや初音ちゃんはもう出発しちゃったんですもの」
 あとはこの近場で釣りをするつもりらしい石動だけである。
 もちろん、他の男性に恋人の肌に触れさせるわけにいかず、夜十字は『仕方ないな‥‥』と呟いて、おもむろに日焼け止めに手を伸ばした。
 こうやっていつも桜に振り回され溜息を零しながらも、幸せそうに笑う彼女を見るのは嫌じゃない。
「塗り終わったら、山へ行くぞ。まずは食料調達と現地調査だ」
「行ってもイイけど、後で絶対海につきあってね?」

◆「えっと、あそこが船着場だから‥‥。大丈夫。迷ってないわ」
 高台から見下ろせる位置にある船着場を確認してレイは安堵の息をついた。
 とにかく方向音痴ですぐに迷子になってしまうのだ。
「ま、そんなに大きい島じゃないし、何とかなるわよね」
 一応、通ってきた木にはリボンを巻いて目印をつけてはあるし、心配はいらないだろう、と歩き始める。
「あ、あれは」
 木に鈴なりに生ったヤマモモを発見してレイは喜びの声を上げた。
 ヤマモモはそのまま食べてもいいし、甘く煮てお菓子に使ってもいい。
「あとは茸なんかもあればいいんだけど」
 毒草や毒茸が生えていたら、佐織に報告しておかなくては、とレイは目を凝らした。
「わ、あれはっ!!しまった!」
 凄まじい叫び声が響いた。

◆「何なの?あの叫び声は」
 桜と夜十字は顔を見合わせると、声のしたほうに走った。
「大丈夫ですか!?」
「って、何、そのでかい茸は」
 駆けつけた二人が見たものは50センチはあろうかという大きな茸を抱えたレイであった。
 レイは苦笑して二人に茸を見せる。
「大紅天狗茸に気付くのが遅くて。この茸って近づくとあんな凄まじい叫び声を上げるのよね」
「これって食べられるの?」
「ええ。色はケバいけど、生でも食べられるの」
 背負い籠には入りきらないので手に抱えながらレイは「じゃ、お騒がせしました」と言って先へ進んだ。二人のお邪魔をするのは避けたいものである。馬にけられては堪ったものではない。

◆盗賊の手袋着用で器用さをアップし、石動はヒミルの釣竿で釣り糸を垂れていた。
 小船でのんびり昼寝を兼ねて、である。
 波に揺られるリズムは心地がよく眠りに誘われる。
 浜では八束姉妹のバーベキューの準備も進んでいるようだ。
 あとで詩織に釣りを指南する約束だが、それまでに何か成果を得られればよしと、海面に時折目をやる。
「おおっと」
 ふいに浮きが沈みこみ、強い引きがあって、釣竿がしなった。
 が、どんなに獲物が暴れようと、そこはヒミルの釣竿。鯨だって連れる代物だ。
 紅い鱗の魚が海面に上がってきた。
「真鯛か。煮ても焼いても美味い」
 浜に目をやると詩織が手を振っている。
「メインも出来たことだしあとはのんびりやるか」
 石動は軽く手を挙げて詩織に合図した。

◆「わ、今の何だ‥‥」
 波打ち際を掘って大きな二枚貝をいくつも見つけた綾瀬はふと、沖合の海上をはねた物体に目を凝らした。
「角が生えてる?」
 一メートルはあろうかという大物が海面から跳ねたのだ。
 頭には剣のように尖った角。
 あれに突かれたら堪ったものではないだろうな、と綾織は呟いた。
「石動さんに知らせてみようか。俺の手には負えなさそうだ」

「梶木だな‥‥」
 沖合で大物と格闘するには小船では危険すぎると石動は首を振った。
「だが、この辺りで梶木が出るというなら大物狙いの釣客も呼びこめるんじゃないか?」
 その際はもう少し小回りの利く、ちゃんとした釣り船を手配したほうがいいと詩織に指南した。
「なるほど。釣りに的を絞るのも良いですね。大物が連れたら盛り上がるでしょうし」
 営業の新しい案を貰って詩織は早速姉と相談してみると喜んだ。
「貝も随分取れたよ。網で焼くと美味しそうだ」
 綾織が網袋の中を見せる。
「わぁ、大きな貝。蛤でしょうか」
「焼いて醤油を垂らして食べたいな」
「よし、この鯛とカワハギを早速調理しよう」

◆赤い蝶の羽根を震わせて二人の妖精が楽しそうに水面すれすれを飛び交う。
 それを時折見やりながら、夜十字は取ってきた山鳩の羽をむしり調理している。
 桜が春花の術で見事落とした山鳩はまるまると肥えていた。
 木の上の巣から卵も見つけたので、それは濡れた紙で幾重にも包んで、焚き火で蒸し焼き中である。
 桜は身体の線がばっちり出た見慣れぬ恰好で嬉々として戯れている。
 水馬の術なのか、飛び魚のように巧みに泳ぐ。
 駒鳥を象ったペンダントが日光を浴びてその胸に光っている。
 己のそれと一対のものを意識した。
「信人ちゃ〜ん♪」
 手を振られて夜十字は微かに頬を緩めた。
 

 綾織も片肌を脱いで、さらしで固めた胸が見えるのも構わずに水と戯れている。
 石動と詩織は料理談義に花を咲かせていた。

 レイも無事に戻ってきて、夕食は中々豪勢なものとなった。
 レイの持ち帰った茸の大きさは詩織を驚かせまた喜ばせた。
「焼いてもいいし、素麺のツユにも使えますね」
 これだけあれば食べ放題である。
 夜十字と桜の取ってきた山鳩と卵の蒸し焼き、石動の鯛にカワハギ、綾織の焼き蛤の醤油がけも好評だった。
「これなら食事としては十分喜んでいただけそうね」
「お客様と一緒に調理するのも楽しかったわ。勉強にもなったし」
 デザートにレイの採ってきたヤマモモが出され、その後はお楽しみの西瓜割りである。
 筵を引いた上に西瓜を佐織が大事そうに置いた。
 西瓜は高級品なのだ。
「右、右」
「あら左よ」
「ここか!」
 それなりに西瓜割りも盛り上がるようだ。
 採算が合わないので、次からは大きい瓜で代用することも検討しているが、今日は特別である。
「温くならないうちに召し上がってください」
 小川で冷やしては置いたが、時間が経てば温くなり味は落ちるだろう。
(井戸があるといいんだけど)
 いつかここに八束の支店や旅籠を立てて一大りぞーとに‥‥というのが佐織の大いなる野望である。
 (今回は寝袋に寝てもらうことになっちゃうけど‥‥)
 浴衣姿で砂浜に並んで座ってくつろぐ(らぶらぶともいう)桜と夜十字の周囲を小さな浴衣を着た妖精たちが飛び回り、石動、綾織、レイと詩織は仲良く話しながらきなこを構っている。

 焚き火を囲む皆の顔を見て、佐織は確かな手ごたえを感じていた。