納涼・お化け屋敷の怪

■ショートシナリオ


担当:Syuko

対応レベル:6〜10lv

難易度:やや難

成功報酬:2 G 27 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:08月11日〜08月14日

リプレイ公開日:2008年08月18日

●オープニング

 よお、冒険者ギルドの案内人さん。
 こういう噂を知ってるかい?
 近頃、評判のお化け屋敷が両国で興行してるらしいんだが、何でも出てくるお化けがあまりにも本物っぽくて、恐くて恐くて腰を抜かす者が続出だっていうじゃないか。

「へぇ、お化け屋敷。面白そうじゃないですか」
 
 そうかな。
 だがな、こういう噂も聞くぜ。
 そのお化け屋敷、入っていく人間と出てくる人間の数が違うってよ。

「ま、まさか」

 うん、まぁ、さ、恐くなって動けなくなったヤツが、途中で出してもらってるのかもしれないんだけどな。
 よくあるだろ、関係者以外立ち入るべからず、とか書かれた扉がさ。

「なんだ、脅かさないでくださいよ」

 だよな。ちゃんとした興行主がやってることだし。
 うまく作りすぎて、あんまり怖えんで噂に尾鰭が付いただけだよな。

「きっとそうに決まってます」

 ただ、気になるのは、その興行主、なんかいつもと様子が違うらしいってことなんだよな。

「様子が違うって?」

 うん。
 なんていうか、人が変わっちまったみたいでさ。金の亡者になっちまったって。
 中々入りのいい興行なのに、もっととばかり必死に客集めに奔走してるらしいし。
 他の見世物小屋は商売あがったりらしい。

「大丈夫なんでしょうかね、その人」

 だよな。同業者の反感も買うし、仲間も大方、首にしちまったらしいしな。
 それに‥‥。

「それに?なんですか?」

 うん。知り合いの威勢のいい兄ちゃんを最近見かけなくなったんだが、気のせいかな。

「ええ?」

 そのお化け屋敷の評判を俺に教えてくれたのもその兄ちゃんなんだよ。
 たしか、その次の日に出かけるとか言ってたな。
 それっきり見かけやしない。

「まさか、中でなにか‥‥」

 あんたも、やっぱりそう思う?
 んじゃ、虎の子はたいて頼んじゃおうかな。
 ちょっと恩義のあるひとの息子でさ。放っておくわけにも行かないから。

●今回の参加者

 ea9450 渡部 夕凪(42歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 eb2963 所所楽 銀杏(21歳・♀・僧侶・人間・ジャパン)
 eb3736 城山 瑚月(35歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ec2813 サリ(28歳・♀・チュプオンカミクル・パラ・蝦夷)

●リプレイ本文

◆「恐かったぁ」
「なんか、凄く本物っぽくなかった?」
 まだ興奮さめやらぬ様子の町娘たちがきゃあきゃあ言いながら遠ざかるのを渡部夕凪(ea9450)は見送った。
「あの娘たちは無事に出てこれたねぇ」
 今のところ、出入りの数は合ってはいるが、噂が立って向こうも慎重になっているのだろう。
 お化け屋敷の周囲には他にも見世物小屋や芝居小屋があった。
 他の興行主からの評判は到ってよくない。最近では周囲との付き合いも絶っているとのことだった。

◆「お嬢ちゃん、一人で肝試しかい?」
 通りすがりの者に問われて所所楽銀杏(eb2963)は心もとなさそうに小首をかしげた。
「‥恐くて面白い、と、評判を聞いたですが‥ひとりはやっぱりやめようかな、って‥」
「俺もじつはさっき入ってきたところだが」
「どんな感じです?今度お友だちと来ようと思うですけど、気を失ったりしないよう、心構えになりそうなお話をしてくれる人が居ないかな、って思ってるのです、よ」
「俺のダチなんか、腰抜かしちまって、もう一人の奴と家まで送ってったところさ」
「つまり、三人で中に入ったということです、ね?」
「一人じゃ恐くてなぁ。中には一人で肝試しするやつもいるらしいが」
「それは勇気がありますね」
「でも、ここ、変な噂があってよ。一人で入って出てこなかった奴がいるらしい。だけど、肝試しに箔がつくってんで、反って評判が上がったって言うぜ」
 若者に礼を言うと銀杏は小屋の周囲をぐるりと歩いた。
 外から見る分には特別怪しげなところはないようだ。

◆「では、あのお化け屋敷周辺で確かに行方不明者が出ているというのですね」
 城山瑚月(eb3736)は番屋にいた。
 役人の話では、数人があの小屋周辺で消息を絶っているらしかった。
 中には届け出のない者もいるだろう。実際にはもっと多くの人間が姿を消しているのかもしれない。
「興行主から話も聞いたのだが、何も出なくてな」
 何の証拠もない上に、いなくなったのは女、子どもではなく、大の男だというのだから、役人達も首をかしげている。

◆「依頼主さんからお話を聞いてきましたが、とくに目新しいことはありませんでした。恩人の息子さんは遊び人らしくて、いなくなっても皆、おかしいと思わなかったらしいです。依頼主さんだけがお化け屋敷の噂を聞いて、心配になったということでした」
 と、報告するサリ(ec2813)に夕凪が訊ねた。
 皆は、昼間集めてきた情報を交換し、作戦をたてようと集まっていた。
「辞めさせられた従業員の代わりはどうなってるんだい?」
 人員の補充は必要なはず、と皆はサリに視線を向けた。
「それが‥‥お化け役の募集がないか聞いてみたのですが、いくら経験があると言っても相手にされなくて」
 もっとも呼び込みの男も内部の事情には詳しくなさそうだった。
 おそらく呼び込みだけで小屋の中には入らないのだろう。
「やはり潜入する必要がありそうですね」
 すでに忍び込む方法の目星はつけた瑚月が言う。
「俺は屋根裏からサリ殿と所所楽殿を追います」
「小屋の外は私が見張っておこう。かわいいお嬢さん方のほうが敵さんも油断するだろうしね」

◆歯を鳴らすしゃれこうべを掲げて夕凪は呟いた。
「面倒なことになりそうだ。本物が混ざってるよ」
「昨夜、透視を試みたところではよくわかりませんでしたが」
 サリの言葉に夕凪は首を振る。
「どうやら、一体や二体じゃなさそうだよ」
「サリさん、そろそろ、行かないとです、よ」
 銀杏とサリの二人は怯えた振りで前の組に追いつくように計画を立てていた。
「気をつけて。私は他の客を足止めするから」
 夕凪に見送られて二人は小屋に近づき、木戸をくぐった。

「ぎゃあ!」
 情けない男の悲鳴が相変わらず響いている。
 二人が懐に忍ばせている香り袋が暗闇の中、良い匂いを振りまいていた。
 外はあんなに暑かったのに、小屋の中はひんやりとしている。
 墓場を模した傾いた墓石や割れた提灯、朽ちかけた卒塔婆が並び薄気味悪い。
 こつん、こつんと妙な音がする。
(来たか)
 二人は顔を見合わせた。
 柄で器用に飛び跳ねるぼろぼろの傘が二人を追うように向ってくる。
 とても作り物とは思えない。
「とりあえず先に行きましょう。傘化けは、集団で人を襲うことが多いです、し」
 いざとなったら魔法で対処するつもりだが、ここはお化け屋敷。危害を加えられない限りはさっさと進めばいい、と銀杏はサリと先を急ぐ。
 通路は入り組んでおり、身を隠す場所はいたるところにありそうだった。
 足元を何かが走り回る。夜目が利く二人にはそれが白い獣だということがわかった。
 心得のある二人は足元を掬われることはないが、大抵の人は転んでしまうだろう。
 墓石の向こうを半透明の物体がふわふわと飛びかっていた。
 少し追う真似をすると途端に逃げていくのは臆病な妖怪らしい。
 ガチャガチャと古鎧が擦れあう音がして、ゆらりと錆びた刀を持った骸骨が現れた。
 これまでのあまり害のない妖怪とは違うと二人は身構える。
「よくもまあ、これほど本物を集めたものですね」
 サリの困惑した呟きに銀杏は肯く。
 だとすれば、興行主は何者か。
 行方知れずになった人々がどんな目にあったのか。
 鎧姿の骸骨を適当にかわして逃げ惑う振りをしながら二人は、暗闇に目を凝らした。
「今のところ大丈夫だな」
 屋根裏を移動しながら瑚月が呟く。
 こうして屋根裏から見ると、迷路のような構造が手に取るようにわかる。
「あの辺りが楽屋裏か」
 ほとんどの人間が悲鳴をあげながらも出口のほうへ誘導されていくのだが、ひとりの男が違うほうに誘い込まれていることに気付いた。
 通路にどんでん返しの仕掛けがあって、連れのない人間は楽屋裏のほうに攫われているらしい。
 手筈どおりなら、銀杏とサリがそろそろ逸れることになっていた。

「銀杏さぁ〜ん」
 妙齢だがパラゆえに少女に見えるサリが心細そうに銀杏の名を呼びながらおそるおそる歩いていく。
 はぐれた振りをして別々の場所を彷徨っているのも作戦の内である。
 わらわらと、どこからか小鬼たちが湧いて出てきた。

(ここいらで泣いてみるです、か)
 銀杏はしゃがみ込むと顔を覆った。
 ここは怖がっているように見せるべきだろう。
 一人になり恐くて動けない客を彼らがどうするか、うまくすれば行方知れずになった人と同じ経路を辿れるかもしれない。
 取り囲まれた気配がした。
 指の隙間から褐色の短い足を何本か確認して銀杏は顔を覆ったままにんまりした。

◆連れてこられたばかりなのだろう、大きな図体をして震えるばかりの男を前に、筋骨逞しい堂々とした男と、空ろな瞳をした軟弱な男がいた。
「面白味がありませんね。だが、貴方はこれがあれば満足でしょう」
「ひぃっ」
 筋骨逞しい男は、客の懐から巾着を取り出すと『ほら、大好きなお金ですよ』と空ろな瞳の男の膝にじゃらじゃらと中身を撒き散らした。
「さて、この男はどうしましょうかね。契約を結んで我が僕とするのも良し、妖の餌にするも良し」
「助けてくれっ」
「いいですねぇ。つまらない人間でも怯えた気は我ら魔族を楽しませてくれます」
 小銭を拾い集める興行主を見下すと悪魔はにやりと笑った。
「とはいえ、そろそろ潮時かもしれません」
 小鬼がやっかいな相手を攫ってきてしまったようだし、屋根裏には男も潜んでいる。
「一応挨拶くらいはしておきましょうかね」

 サリと銀杏を目の前にして悪魔は慇懃に微笑んだ。
「ようこそ。お楽しみいただけましたか」
「あなたは何者です!?」
 小鬼を振り払って自由の身になるとサリと銀杏は悪魔を睨みつけた。
「そうですね、天井に張り付いているそこの貴方が降りてきてくださったら名乗ってあげても宜しいですよ」
 音もなく瑚月が床に降り立ち、二人を庇うように悪魔に対峙する。
「いいでしょう。我が名は羅刹。魔族に末席に連なるもの、です」
「その悪魔が何の目的でこんなことをしでかすのか聞かせて貰いましょうか」
「目的ねぇ。人を堕落させ不幸に陥れるのが我らの喜び。強いて言えばそんなところでしょうかねぇ」
「そんなことが許されると思っているのですか」
 羅刹は声を上げて笑った。
「多数の人間を大いに喜ばせて差し上げた、そのお駄賃を少しばかり頂いたまでのことですよ」
「行方知れずになった人は‥‥」
「妖の中には人を好んで喰らうのもいるのですよ。お嬢さん」
 サリに羅刹はしれっと答えた。
「とはいえ、そろそろ潮時だと思っていたところです。妖どもも飽きてしまったようだし」
 と、余裕を見せる羅刹の顔に緊張が走った。
「ホーリー!」
「つっ」
 聖なる力が銀杏の体から発せられたのだ。
「使わないで済むなら、と思ったです、が」
「やはり白い魔法の使い手でしたか」
 痛そうに腕を押さえ、羅刹は苦笑した。
「長居をしすぎたようですね」
「逃がしませんよ」
 短刀で切りかかる瑚月をかわすと羅刹は大鼠に変身し、壁の隙間から床の穴にもぐりこんだ。
 高笑いが響いた。
「置土産をどうぞお楽しみください」

◆「こりゃあ、後始末が大変だ」
 夕凪は溜息をついた。
 羅刹が駆り集めてきた妖怪たちを始末しなければならない。
 いずれも大して強くは無い妖だが、人を襲うのが本能のようなものは退治するしかなかった。
 お化け屋敷の興行主は酷くうなだれていた。
 羅刹が去って目が覚め、自分のしでかしたことを理解したらしかった。
 悪魔に取り付かれていたとはいえ、妖怪を引き込んだとあってはただでは済むまい。
 何らかのお咎めを受けることだろう。人より少しばかり強欲だったことにつけこまれてしまったのが不幸の始まりだった。
 今から番屋に出頭するという興行主はもう見るのも嫌だと、冒険者たちにお化けセットを残していった。このまま廃業する気らしい。
「これ、どうします?」
 お化けに変装する衣装や化粧品を前に冒険者達は苦笑した。