おちょぼの心
 |
■ショートシナリオ
担当:Syuko
対応レベル:1〜5lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 62 C
参加人数:4人
サポート参加人数:-人
冒険期間:12月09日〜12月14日
リプレイ公開日:2008年12月17日
|
●オープニング
この依頼はそう難しくはない‥‥。花園馨は壁に貼られた紙を見つめた。
いや、冒険と言えるかどうか。腕に覚えあり、とまだ胸を張れない自分にだって難なくこなせそうな‥‥。
依頼の内容はこうだ。
『女房の郷に預けられている子どもを迎えに行って江戸まで連れてきて欲しい』
依頼主は市ヶ谷の商人、吉兵衛である。
「の、割には、少し報酬が高いような気がするけれど」
「ああ、その依頼、ちょっと理由ありなんですよ」
ギルドの案内人は筆を動かす手をとめ、馨を見た。
「あんた、子どもの世話をしたことは?」
「ありませんけど」
「なら少々難しいかもしれないねぇ」
考えるように馨を見たあと案内人は事情を説明しだした。
件の子どもと言うのは、ちょぼといい、吉兵衛の女房おえんの姪っ子にあたるのだが、江戸から歩いて一日ほどの女房の郷から山奥に入った村で親兄弟と暮していた。
ところが、その村、山賊にでも襲われたのか、住民は殺され、その中の幾人かは骸すら残っていなかったという。
たった一人生き残ったのが、その七歳の少女だというのだ。
村に立ち寄った商人に助けられ、郷に送り届けられたのだが、よほど怖い目を見たのだろう、まったく心を閉ざしたように言葉を話さなくなってしまったという。
「代官所でもその子に事情を聞こうとしたんだが、どうにもできなくてね」
近頃、その辺りでは手荒な山賊が出るらしく、他の村でも恐々としているのだ。
吉兵衛は心優しい男で、ぜひ、女房の姪っこであるその子ちょぼを養女として引き取りたいと思っていた。
大事に世話をすれば、いずれ心を開いてくれるのではないかと‥‥。
しかし、ちょぼは頑として郷を離れたがらないのだという。
商売が忙しくなければ、自ら赴きたいところであるが、残念ながら師走の書き入れ時、そうもできない。
しかも郷周辺が物騒となれば尚更である。
「なるほど、じゃあ、そのおちょぼちゃんの心を開き、納得させて江戸まで連れてこなくちゃならなんですね」
「子どもの足では一日で行く道程も倍ほどかかるだろうしね。吉兵衛さんは嫌がる子を無理に駕籠に放り込むわけにもいかないと言うんですよ」
「うーん」
幼子の説得か‥‥と馨は考え込んだ。
やはり一人では荷が重い。
●リプレイ本文
◆待ち合わせの時刻、約束の辻に揃った他の三人を見て、群雲龍之介(ea0988)は江戸の街のほうを見た。
「どうやら聖殿は間に合わなかったようだな」
「ええ、後から来るかもしれませんし、先に参りましょうか」
マロース・フィリオネル(ec3138)の提案に他の二人も肯く。
「幸いにも皆、馬だ。郷には早く着きそうだな」
真島彦佐(ec5751)が愛馬の鼻面を撫でてやりながら言う。
「僕、頑張りますので宜しくお願い致します!」
花園馨も緊張を見せつつ、馬に乗った。
「それにしてもおちょぼという子はよほど酷い有様を目の当たりにしてしまったのだな」
轡を並べながら彦佐は群雲に呟いた。
「うむ。依頼人の吉兵衛によるとおちょぼ以外は皆、殺されるか攫われるかしたらしい」
「皆殺しですか」
「恐怖で心を閉ざしてしまうほどだからな、酷い有様だったろう」
「‥ほんの少しでもおちょぼの心の傷を癒してやりたいな‥‥」
「江戸へ向かうことについても無理をしたくありませんね」
これ以上、おちょぼの気持ちを傷つけまい、という思いは皆同じだ。
マロースの言葉に皆は同意した。
「でもどう接すればいいんでしょうか‥‥」
不安げな馨にマロースは微笑みかけた。
「辛抱強く気持ちを解しましょう。私も神聖な力を使って癒しを試みて見ます」
「おちょぼは元は動物好きな明るい子だったそうだ。それが切欠になると良いがな」
「甘いものも好きかも知れない」
彦佐の懐には、おちょぼの為にエチゴヤで買い求めてきた珍しい飴が入っている。
「よし、説得に時間をかけるためにも先を急ぐぞ」
「了解!」
群雲の言葉に皆は馬の腹を蹴った。
◆「はじめまして、俺は群雲龍之介だ」
「マローネです。こんにちは」
「拙者は真島彦佐と言う。彦佐でかまわんよ」
「花園馨です。な、仲良くしようね」
初めて見る彼らにおちょぼは目を丸くした。
が、声は出ない。
だが、預けられた家のおかみさんの袖の後ろに身を隠しながら、彼らから目を離さなかった。
怯えているようにも見える。
おちょぼを預かっていた家のおかみさんに伯母夫婦の意向を伝えた。
幼子を案じていたそのおかみさんは引き取り先が見つかったとて安堵したようだ。
後はこの子の心をどう解すか、である。
マロースは柔らかな微笑を浮かべながら、心を回復させる呪文を唱えた。
「おちょぼちゃん、このお餅はね、桜餅というのですよ。食べてみませんか?」
風来の菓子職人がこさえた菓子の色合いがおちょぼの興味を微かに引いたようである。
優しく桜餅を差し出すマロースをおずおずと見ながらもおちょぼは手を伸ばしてきた。
「とても良い香りがするでしょう?」
硬い表情のままとは言え、小さな口がぱくりと桜餅を食む。
いたいけな様子にマロースは思わず、おちょぼをやさしく抱きしめた。
「よく生きていてくれましたね。助けに来るのが遅くなってごめんなさい。もう大丈夫ですよ」
マロースはおちょぼの頭を撫でながら「大丈夫」と繰り返した。
彦佐もうんうんと肯く。
「大人でも厳しい状況であったろうに…よく頑張ったな、おちょぼ殿」
おちょぼの両の眼から涙が湧きあがり、その頬を伝った。
「そうだ、おちょぼ、馨殿と一緒に天丸と遊んであげてくれないか?」
群雲のペットの天丸が主人の言葉に反応するように鼻を鳴らすと、おちょぼは小さくこくりと顔を動かした。
(おお、瞳に光が)
微かにではあるが、瞳が子どもらしく輝いたのを群雲は見逃さなかった。
「馨殿、怪我のないように気をつけてくれ。俺たちは郷の人たちの話を聞いてくる」
おちょぼの説得はもう少し心を解きほぐしてからだ。
◆郷の人々に聞いた話はギルドで得た情報とそう大差はなかった。
わかったのは、竈に隠れていたおちょぼだけが助かったということだけだ。
火の気のない竈で動くこともままならず震えていたのだという。
どれだけ怖かったことだろうか、と冒険者たちの胸は痛んだ。
「おちょぼ殿」
天丸の首を小さな手で撫でていたおちょぼは声のするほうに顔を上げた。
その円い瞳に小さな赤い服を着た老人の人形がひょこひょこ動いているのが映る。
おちょぼの眼はその物体に合わせて動いている。
「これはな、異国の神の使いの老人を模した飴なんだ。とても甘いぞ」
と、彦佐が差し出した。
少し首をかしげて考えるようにしてからおちょぼはゆっくりとサンタクロースの形の飴に触れた。
「舐めていいんだぞ」
恐々ではあるが、おちょぼはペロリと飴を一舐めした。
甘味に思わずその頬が緩む。
「今日は龍之介殿が腕を奮ってくれるそうだ。晩御飯、一緒に頂こうな」
みんな、一緒?とでも言うように彦佐と馨を順に見るおちょぼに二人は『一緒だよ』と肯いて見せた。
群雲のご馳走を一緒に摂りながら皆はおちょぼの様子をそれとなく伺う。
「まあ、こんなにも箸が進むなんて、はじめてのことですよ」
おかみさんの言葉におちょぼの心がかなり解けてきているのだと皆は思った。
「おちょぼ、じつは我々は江戸の伯母さんに頼まれてそなたを迎えに来たんだよ」
群雲が切り出すと、おちょぼはぴたりと箸を止め、俯いてしまった。
「江戸の伯母さまはおちょぼちゃんと一緒に暮したいんですって」
うつむいたおちょぼの顔が泣きそうな顔になっている。
「江戸に行きたくないの?」
馨がそう訊ねるとおちょぼは首を振る。
「何か、気にかかることでもあるのかな」
彦佐が考えるように腕を組んだ。
「おちょぼちゃん、山賊のことが気になっているのなら安心してください。私たちが決してもう怖い目には合わせません。あなたの村を酷い目に遭わせた連中は必ず懲らしめますから」
マロースの言葉におちょぼは慌てたように必死に首を振った。
どうも様子がおかしい。
「心配しなくていいのだ。俺たちは山賊になど負けはしない」
そう群雲が宥めてもおちょぼは必死に『だめっ』とばかりに首を横に振るばかりだ。
彼らが山賊退治をするのを止めるかのように。
ぎゅっとマロースの手を握って離れようとしないおちょぼを真ん中に四人の冒険者たちは床を延べた。
「眠ったようだな」
床に仰向けに寝たまま、群雲が低く呟く。
「ええ」
眠ってもなお、離そうとしない小さな手をマロースはそっと撫でた。
「何が言いたかったのかな、おちょぼ殿は」
彦佐は寝返りを打つと肘を突いておちょぼを見つめた。
「うむ。まるで我らが賊と戦うのを止めたいようだった」
「この郷を出たがらなかったのは、その所為なんでしょうか」
鬼のように非情な山賊の仕業を思い浮かべた馨がぶるっと身を震わせた。
「おそらくそうだろう。山賊たちに俺たちがやられると心配しているのではないか。帰るまでにはまだ二日ある。その間にできるだけおちょぼの心を癒してやりたいな‥‥」
それから二日というもの、冒険者たちはおちょぼと寝食を共にした。
泊めてもらっている家の手伝いや馬の世話をしたり、童の頃を思い出して遊んだり。
隠れ鬼の途中、初めて聞い童女の悲鳴に皆は顔を見合わせた。
「ごめんね、おちょぼちゃん、思い出しちゃったんだね」
鬼役の馨が謝りまくる。おちょぼはマロースにひしっと抱きつくとしゃくりあげた。
「おちょぼちゃん、もう大丈夫ですよ。おにいちゃんは龍之介さんと彦佐さんが『めっ』ってしてくれますからね」
薪割りを手伝っていた群雲と彦佐がナタを放り出して、勢い駆けつけるのを見て泣いていたおちょぼの表情が緩んだ。
「脅かして本当にごめんね、おちょぼちゃん」
「おちょぼのことは、こうして俺たちが絶対守る。だから一緒に江戸に行ってくれないか?」
群雲の言葉におちょぼは皆の顔を見回してからこくりと肯いた。
翌日、彼らは郷を後にした。
始め、群雲が白王号の背におちょぼを乗せ、彼自身は馬を引いて出立したのだが、やがておちょぼが船を漕ぎ出したので、マロースが抱いて愛馬ディンケルボックに同乗することになった。
街道に出てしばらくすると山道に差し掛かった。
見通しが悪い場所である。
妙な草の動きに気付いた群雲が合図を送るとマロースは馬を止め、
「彦佐さん、おちょぼちゃんを頼みます」
と振り向いた。
マロースからまだ寝ぼけ眼のおちょぼを抱き取ると彦佐は自分の馬の影にまわった。
馨が刀を抜いて守るようにそばに付く。
「彦佐殿、馨殿、おちょぼを頼む。俺は、この外道共を死んだ方がマシだと思うまでボッコボコにぶちのめすっ!!」
「ええ。おちょぼちゃんを悲しい目に遭わせた彼らを懲らしめてやりましょう」
二人にすでに見つかっているとも知らず、賊たちはそろそろと身を潜めて近づいてくる。
マロースの詠唱と共に、たちまち身動きできなることも知らずに。
「コアギュレイト!」
死なない程度にボコボコにしながら群雲はあまりの手ごたえの無さに疑問を抱いていた。
‥‥弱すぎるのである。
少なくとも彼らからは鬼の如くの所業を見せた邪悪さも、剣の腕も感じない。
これではいかにも小者と言う感じだ。
(どういうことだ)
縄でぐるぐる巻きした賊たちを木にしばりつけると目を覚ましたおちょぼと目があった。
「おちょぼ、怖くなかったか?」
おちょぼは気絶している賊たちをみてからこくりと肯いた。
「この人たち、死んでるの?」
「おちょぼちゃんが喋った!」
馨が喜びの声を上げる。
『死んでない』とうけあうとおちょぼは安心したように溜息した。
「おまえの村を襲ったのは、こいつらではないのだな?」
おちょぼがこくりと肯く。
「もっとこわいもの、なの。つのがはえた、おに、なの」
「鬼‥‥」
「そうだったのか‥‥」
どうやら村々を襲う真の山賊は人間ではないらしい。
「鬼の集団、か」
彦佐が呟いた。
「このこと、冒険者ギルドに報告すべきでしょう。もちろん、吉兵衛さんにも」
マロースがおちょぼを愛しむように抱きしめた。