屋根の上の三太

■ショートシナリオ


担当:Syuko

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 39 C

参加人数:3人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月22日〜12月25日

リプレイ公開日:2008年12月31日

●オープニング

 月道が開いたおかげで、それまで知らなかった異国の風習をこの日の本の人々が知る、というのは良いことだと思う。
 が、わけのわからない風習には途方にくれる。
 しかし、それがわが、坊ちゃん、嬢ちゃんの願いとあっては‥‥。

 話はお坊ちゃまが寺子屋で聞きかじってきた噂から始まった。

「は?くるしみます?なんですのん、それは?」
 坊ちゃんの言葉を、鈴はきょとんとして聞き返した。
 まだ奉公のために京に上って日の浅い彼女の仕事は坊ちゃん達のおもり役、『ねえや』なのである。
 それんしいても『苦しみます』とは、なんとも縁起が悪い。

「ちゃうって、く・り・す・ま・す」

 坊ちゃんは得意げに繰り返した。

「遠い異国では師走のくりすますっちゅう夜に紅いべべを着た『さんた』っちゅうお人が良い子に贈り物を授けて周るらしいんや」

「三太さん?」

 どこの三太さんや?と鈴は思いをめぐらす。
 この界隈に三太という名の男がいたやろうか。
 そして良い子に贈り物を配って歩くというのならどれだけ奇特な男やねんな、と。

「ってことは、うちにも来はると思うねん」

「は?」

 そう聞き返すと坊ちゃんは悪戯っぽく笑った。

「ええ子やもんなぁ、僕ら」
「うん、さんたさんがきっとええもん持ってきてくれはる」

「は、はあ」

「そやから鈴、そのさんたさんを探して、贈り物を頼んできて欲しいねん」

「はあ!?」

 良い子というんは自ら贈り物を無心したりはしないのでは‥‥という鈴の疑問は口に出されることはなかった。

「その三太さんちゅうお人はどこにおりますねんやろ?」

「知らん」

 私かて知りませんといいたいところだが、鈴は溜息をつきながらも『わかりました』と答えた。
 とりあえず、街へ出て、誰かに聞いてみようと思う。
 三太なる奇特な御仁が果してどこにいますのやら。

 だが、街に出て聞いてみてもそんな話を知る大人はいなかった。
 途方にくれた鈴の前を目立つ風体をした人間が通りかかる。
 金髪碧眼。明らかに異国のお人のようだ。

「あのお人に付いていったらなんぞ判るかも」

 その人物がくぐった店のような建物。
「ぼうけんしゃ、ぎるど‥‥」
 恐々覗いていたお鈴だったが、四半刻ほど迷った末、ええいとばかりに中に踏み込んだ。

「おや、いらっしゃい。初めてのお方やろか?」

「こ、ここは何の店ですのん?」
 店の中の様々な風体の様々な人々を見回して鈴は目を回しそうになりながらも声を掛けてくれた店?の者に聞き返した。

「ああ、ここはなぁ」
 説明を聞くうち、鈴の眼が喜びに輝いた。

●今回の参加者

 ea9455 カンタータ・ドレッドノート(19歳・♀・バード・ハーフエルフ・イギリス王国)
 ec0843 雀尾 嵐淡(39歳・♂・僧侶・人間・ジャパン)
 ec4989 ヨーコ・オールビー(21歳・♀・バード・エルフ・イギリス王国)

●リプレイ本文

◆「あなたが三太さんですか?」
 期待感に満ちた目で鈴に見つめられ雀尾嵐淡(ec0843)は『いや、俺は‥‥』と口篭った。
 かつてイギリスにいたことのある彼にはサンタクロースのおおまかなイメージはつかめている。
確かあれは白い髭を蓄えた恰幅の良い老人ではなかったか。
「ちゃうって。あんたのゆうサンタはんはうちの国の聖人さまでな、クリスマスの夜に子どもに贈り物を配るええおじいはんや」
 ヨーコ・オールビー(ec4989)の説明に鈴は目を丸くした。
 またあの「苦しみます」だ。
「ぎょうさんの贈り物を配るのでは、確かに三太さんの懐は苦しみます、ですねぇ」
 混乱する鈴にカンタータ・ドレッドノート(ea9455)が助け舟を出す。
「くるしみます、ではなく、クリスマスです。ボクの国の神が生まれた日をお祝いする祭りのことなんですよ。サンタは正しくはサンタクロースと言って、昔の聖人のニコラ神父のことだといわれています」
 サンタの起源には諸説あって、異教徒の血に染まったサトゥルヌスや、奇蹟を起こしたというニコラ神父がモデルだといわれている。
 が、ヨーコも自分もイギリス出身だし、雀尾も向こうに滞在経験があるので詳しい説明は必要ないだろう。余計に鈴が混乱する可能性がある、とカンタータは言葉を選んだ。

「噂になるちゅうことは、ジャパンにも聖夜際の風習は広まってきてんねんな。しかし詳しいところまではまだまだみたいや。ここはいっちょ本場もんとして、正しいクリスマスの伝道といこか☆」
 ヨーコの明るい声にクリスマスが苦しむどころか楽しいお祭りである、ということが伝わったのだろう、鈴は緊張をとき、微笑みを浮かべた。
「そのニコラ神父が、娘を三人も抱え持参金がないことを悩む貧しい男のために夜、こっそり施しを与えたという故事からサンタクロースの伝説が始まったのです」
「聖夜祭はジーザスという神の誕生を祝う祭りですが起源は一年のうちお日様が出る時間が最も短い日、『冬至』を境にお日様が出る時間が長くなっていく、つまりお日様が新しく生まれ変わる事を祝う祭りが聖夜祭に変わったと言われています。この日は家族へ送るプレゼント、つまり贈り物を用意し家族を愛する日でもあります」
 雀尾の言葉に、鈴は花祭りのようなもんかと考えた。
「ほんなら、その神さんの像に甘茶をかけたりするんどすか?」
「いやいや」
「ほんまやったら、クリスマスツリーゆうて、もみの木を家の中に立てて、飾りをつけるねん」
 鈴にとって『木に飾り』ときけばそれは七夕飾りである。
「もみの木どすか?笹やのうて?」

◆三人がかりで鈴にクリスマスの説明を終え、皆は打ち合わせをすることとなった。
「俺としては正面から乗り込んで贈り物を渡すお祭りにするというのをお勧めしますが」
 という雀尾にカンタータとヨーコはここは本場式に、と提案した。
「本場式と言うと煙突から、ということになりますか」
 が、ここジャパンには煙突を備えた家はほとんど見られない。
「暖炉もありませんしねぇ。でもその辺りはボクの魔法でカバーできると思います」
「うちは音楽担当ってことで」
「なら俺がサンタ役ってことですね。体格などは魔法で近づけるとして‥‥」
「あ、うちも仮装したい。テオにも赤鼻つけたろっと」
「僕はトナカイの角でもつけましょうかね」
「そやけど雀尾はん、すんなりプレゼント渡したらあかんよ」
「ボクもそう思います。善い子でいることを約束願ってからのほうがいいでしょう」
「できればここの坊ちゃんの友達にも夢を見せてあげたいですね」
「事前に子ども達の期待を盛り上げてもええんとちゃう?」
 ジャパンの子ども達の瞳が輝く様を想像し、わくわくする彼らであった。
「あのう、着物はこんな感じでよろしいでしょうか?」
 赤い無地の着物に教わった通り白い衿をつけ終えた鈴が不安そうに尋ねた。
 衣装は和風でサンタならぬ三太といった感じだが、カンタータの幻影でなんとかなるだろう。

 三人は鈴に案内されて子ども達が普段遊び場にしている寺の境内に向った。
 着ているものは貧富の差こそあれ、子ども達は皆寒さに負けず、隠れ鬼をして遊んでいる。
「はぁ〜い♪」
 明るく手をふる異国の女性に子ども達は目を丸くした。
 もちろん、都である京では月道を通ってやってきた異国のもの、異種族のものを見かけることは多い。
 けれど、親しく言葉を交わすには少々勇気がいるというものだ。
 ヨーコは髪で、カンタータはフードでとがった耳が隠れているため、エルフの血が流れた者であることは子ども達は気付かなかった。
 いや、耳が出ていたところで、子ども達は異国の人はそんな耳をしているのだろう、と思うに違いない。
 好奇心あふれる子どものこと、たちまち三人は囲まれてしまった。
 無邪気な質問にいちいち応えてやりながら、話題をクリスマスに持っていく。
「おねえさん達は、サンタに会うたことがあるんか?」
「なんや、あんたら、サンタはんを知ってんの?」
 生意気盛りの坊ちゃんの眼が輝いた。
「知ってるよ、寺子屋でいっぱい勉強してるもん」
 心持ち反らした胸で威張る坊ちゃんの頭をヨーコは『えらい、えらい』と撫でた。
「最近は、ジャパンにもサンタが来るらしいなぁ」
「ほんま!?ほんまに来るん?」
「ああ。サンタは二十四日の夜あたりに来るらしいぞ」
 雀尾が請け合うと子ども達はわぁっと歓声をあげた。
「やっぱりほんまやったんや!」
「でも日本は広いんやで。皆のとこ周っとったら夜が明けてしまうやんか」
心配げに一人が言うと、皆もああ、そうか、と顔を曇らせるのだった。
「大丈夫や。エエ子にしとったらくる、気前のいいおっさんや。君ら運がエエね。今年は京都に来るらしいで?」
「ほんまか?おねえさんらサンタの友達か」
「ええ。ボク達も子供の頃にはお世話になったものです」
「そうそ、うちらエエ子やったさかいな」

◆鈴が苦心して作ったリストを手に三人は支度にかかった。
 すべての贈り物の出処は坊ちゃんの父親である。このお店にとっては、たかが数人の子どもへの贈り物など痛くも痒くもないのだろう。
 鈴が心を籠めて包んだ贈り物をこれまた鈴が縫った白い袋に詰める。
 かわいい子ども達との一時で心が和んだ冒険者たちは明日、また寺子屋の教室を借りてクリスマスのご馳走を子ども達に振舞うことに決めていた。
 が、今はサンタ役を成功させることが大事である。
「まああ、雀尾さん、さっきと全然お姿が違います」
 ミミクリーの魔法で恰幅のよい白髭の老人の姿に変わった雀尾に鈴は目を丸くする。
 傍では、カンタータとヨーコが雀尾提供の美容用品を使用して仮装に余念が無い。
「ある国ではサンタは双子ということになっていて、赤いサンタとともに黒いサンタがいると伝えられているそうです」
「へぇ。黒いサンタなんておるんかいな」
「ええ。赤いサンタは良い子に褒美を与え、黒いサンタは悪い子を懲らしめるとか」
「まあ、大変。うちの坊ちゃんはたしかに悪戯っこですけれど、決して悪い子っちゅうわけでは‥‥」
「まあ、任せておいてください。坊ちゃんを脅かそうというわけではありませんから」
 心配する鈴を雀尾は安心させ、よいしょと袋を肩に担いだ。

 その夜、坊ちゃんは聞いたことも無い音楽に目を覚ました。
『♪救い主のお誕生♪
 ♪ハレルー♪ ハレルヤ♪』
 ごしごしと寝ぼけ眼を擦って布団の上で起き上がった。
「鈴、鈴はどこや?」
 傍で休んでいるはずのねえやを呼ぶが、鈴は居ない。
「ここはどこや?」
 いつもの自室とは違う様子にもう一度坊ちゃんは目を擦った。
 見たこともないような部屋の内装だった。
 赤茶色の石を積み上げた竈のようなものが部屋の中にあり、大きなもみの木がその傍に立っていた。
 もみの木には七夕の短冊のようなものが掛けてあり、鈴のヘタな字で『ぼっちゃんが元気にお育ちになるように』などと書かれてある。

 聞いたことも無い珍しい音楽と綺麗な歌声はずっと聞こえていて、ぽかんとその光景を見ていた坊ちゃんの目に竈の中から何かが飛び出してきた。
「ホーホーホー、メリークリスマス!
 それがヨーコの作り出した音や声、カンタータの作り出した幻影であることを坊ちゃんが知る由もない。
「あんた、サンタさんか?ほんまに来てくれたんか?」
 雀尾のサンタは福福しく微笑んだ。
 後ろで大きな鹿の角のようなものをつけた人が『善い子には贈り物を悪い子には左手の鞭が唸って撓るゥゥゥ〜』と歌っていた。
「メリークリスマス。良い子に贈り物ですよ」
 長身のサンタが坊ちゃんを覗き込んだ。
「鈴さんにお願いされてきました。あなたは良い子ですか?」
「良い子やもん!」
「それはよかった。ではこれからもお父上、お母上の仰ることを良く聞き、鈴さんにあまり我が侭を言わぬよう約束してくれますね?」
 雀尾の言葉に坊ちゃんはうん!と肯いた。
「では、これがあなたへの贈り物ですよ」
 やっと目覚めた妹とともに坊ちゃんが見送る中、雀尾のサンタと二匹のトナカイ+赤鼻のワンコは竈から吸い上げられるように出て行った。
 慌てて明り取りの窓の障子を開け放ったぼっちゃんの目に箒に乗って空を飛んでいくサンタの影が映った。
「ほんまや。夢やない、ほんまにサンタさんはおるんや」


 ヨーコとカンタータはフライングブルームで空を飛ぶ雀尾を見守っていた。
「雀尾さん、ご苦労様ですね」
「八頭立てのトナカイのそりとはいかへんかったけど、まあ、ええんとちゃうかな」
「ええ。充分幻想的だと思います」
「あ」
 二人は空を見上げた。
 白いものがひらひらと夜空を舞いながら落ちて来る。
「‥‥雪」
「積もるかなぁ」
 ホワイトクリスマスになるかもしれない。
「明日のクリスマス会のメニューにスープをいれましょうか」
 二人は顔を見合わせ微笑んだ。

「さぁて。残りの家もがんばろか〜」
「ええ、がんばりましょう」