退治てくれよう!
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■ショートシナリオ
担当:Syuko
対応レベル:11〜lv
難易度:普通
成功報酬:6 G 65 C
参加人数:6人
サポート参加人数:2人
冒険期間:12月20日〜12月25日
リプレイ公開日:2008年12月29日
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●オープニング
山賊に村を襲われ、ただ一人生き残った少女、おちょぼ。
冒険者たちの心配りにより少しずつ心を開いた彼女の証言により、怖ろしい事実が判明した。
おちょぼの村付近一帯を荒らしまわる山賊の正体は『人にあらざるもの』らしいのだ。
中でも首領の姿は怖ろしく、その頭には二本の角が生えているという。
しかも連れている配下ときたら、豚のような顔をした者や、赤や青の肌のした異形の鬼どもらしい。
おちょぼは江戸の伯母とその連れ合いにあたる吉兵衛夫婦に引き取られ心配はないものの、近隣の村々の住民たちには戦々恐々の日々が続いている。
「怖ろしや。皆、殺られてしまう」
あまりにも残忍なやり口にその地の代官の配下である獲り方たちも二の足を踏む始末。
「あなた、このままでは私の郷も滅びてしまいます」
「わかっている。私とて、このままでは商売上がったりだ」
女房おえんに泣きつかれ、吉兵衛は再び冒険者ギルドに依頼を出すことにした。
被害地域は街道からは外れているとは言え、山の道を閉ざされては、商いに差し障るし、そのうち街道筋まで荒らされる恐れもある。
地元の地主たちにも掛け合って、報酬金を出させることに話をつけてある。
皆で助けあわねば、この難局、とても乗り越えられそうにない。
「噂では、鬼どもは、おちょぼが住んでいた村を新たに根城に定めた様子。そりゃあ酷い荒らしようで。どうか、これ以上被害が出ないようにお頼み申します」
おえんの郷では全面的に鬼退治をしてくれる冒険者を支援するつもりだ。
以上のことを話し、ギルドの受付を済ませた吉兵衛はふと思い出したように付け加えた。
「ところでひとつ気になることがあるのです。おちょぼがただ一人助かったのにはわけがあったようで。怯えながら竈に隠れていたあの子を鬼の一匹が気付きながら見逃してくれたというのです」
「へぇ、鬼が」
「はい。なんでも肌の赤い鬼であったとか。確かに竈の中を覗きこんでおちょぼと目があったのに、泣くな、という仕草をして、素知らぬ顔で行ってしまったとか」
「鬼にも情けがある者もいるということなんでしょうかねぇ‥‥」
「かもしれません」
「なるほど。一応そのことも情報として書いておきましょう」
●リプレイ本文
◆大槌を振り上げる醜悪な鬼に王冬華(ec1223)は鉄扇を突きつけた。
「私が用があるのは赤鬼さんなのよね」
その碧の瞳は彼女の高揚を示すかのように輝いている。
十二形意拳の使い手、冬華が繰り出す蹴りは確実に鬼の機先を制していた。
膝から崩れ落ちた豚鬼を尻目に辺りを見回す。
「赤鬼さんはどこかしら」
背丈はそう変わらないが身幅は倍はありそうな青い鬼を岩に投げつけ、群雲龍之介(ea0988)は左拳を空に突き上げた。
「抵抗する鬼どもよ、この拳で退治てくれよう!」
幼子の気持ちを大事にしたい、その為にも早く件の赤鬼を探さなければ。
周囲はすでに冒険者達対鬼達の戦場と化している。
こうして、襲いくる鬼たちを地に投げつけ、仲間を助けながら赤鬼を探しているのだが‥‥。
群雲から離れた場所で小規模とはいえ、鬼達かぶっ飛ぶ爆発が起こった。
と、同時に群雲のすぐ傍で桃色の髪が華やかに舞う。御陰桜(eb4757)である。
「御陰殿か」
「かなり痛いわよ♪アレは」
楽しそうに言うと桜は微笑んだ。
「もっと広範囲のも試してみたいところだけれど」
「いや、それは‥‥」
今の規模でも数人の鬼が爆発をくらったはずだ。
「そうねぇ、この乱戦じゃ難しいかも」
「ああ。件の鬼もまだ見つかっていないしな」
また小さな爆発が起こった。
「磯城弥魁厳(eb5249)さんね」
磯城弥は爆発によってできた敵の隙を突いて攻撃を行っているようだ。
青い外套が素早く動き回っているのが確認できた。
「見事だ」
戦いの火蓋が切られると同時にヴィクトリア・トルスタヤ(eb8588)が魔法の巻物の力でなぎ倒した鬼もその後、磯城弥によって動きを封じられていた。
今回の件でも彼が先行して鬼の住処と成り果てたこの村に入り、様子を探ってくれたおかげで随分有利になった。
「群雲さん、御陰さん、お怪我はありませんか」
マロース・フィリオネル(ec3138)の声だ。
「接近戦の磯城弥殿はかすり傷は負うているかもしれんが、あの動きっぷりでは心配はなさそうだ」
「マロースさんとヴィクトリアちゃんがいてくれるからその点は安心ね」
癒しの魔法を操るマロースと癒しの扇を持つヴィクトリアが皆の回復役を買って出ていた。
彼らが安心して闘える所以である。
鬼をまた一人投げ飛ばした群雲の背後を突こうと近づく豚鬼をマロースはホーリーで攻撃した。
「二人とも、離れて。ふっ飛ばしちゃうから」
桜の声に二人は急いで鬼の傍から飛び退った。
爆発音がして周囲に風が広がる。
「御陰さん!?」
「あの人ならもう向こうにいる」
二人からかなり離れた場所に桃色の髪が日の光を受けて輝いていた。
「おちょぼちゃんの赤鬼はどこにいるのでしょうか?」
マロースの言葉に群雲は少し前から関わりを持つことになった幼子の顔を思い浮かべた。
◆七日ぶりにあった幼子は群雲とマロースの顔を見てうれしそうに笑った。
元来、明るい気質なのだろう。初対面のヴィクトリアを恐れる様子はない。
初めてこの子に会った時を思い出し群雲もマロースもそれを喜んだ。
伯父夫婦の話では、今では言葉数も他の子どもと変わらなくなったという。
「ただ、夜、魘されるのが可哀想で」
日が暮れて闇が近づくと怖い体験を思い出すらしかった。
「おちょぼちゃん、私たちのこと覚えていてくれたのですね」
マロースが手を差し伸べるとおちょぼは嬉しそうに小さな手を滑り込ませた。
「今日はね、お訊ねしたいことがあって来たのです。辛い事かと存じますが重要な事なので覚えている限りで教えて頂けませんか」
マロースが言うとおちょぼは少し怯えるように瞳を翳らせた。
「おちょぼ、俺たちは鬼退治をすることになったんだ」
そう群雲が言った途端、幼子の眼に涙が浮かび、たちまちぷっくりとした頬を転がり落ちた。
「‥‥やめて。お兄さん、お姉さん」
しゃくりあげながらそう言うとおちょぼはマロースの胸に顔を埋めてしまった。
「おちょぼ、俺たちが鬼なんかに負けるはずがないだろう?心配するな」
群雲があやすようにそう言ってもおちょぼは首を横に振るばかりだ。
「おちょぼちゃん、もしかして、助けてくれたという赤鬼さんのことを心配しているのではありませんか?」
マロースがそう尋ねると腕の中でおちょぼはうんと小さく肯いた。
「俺たちはその赤鬼の話を聞きにきたんだ。そいつが本当におちょぼを見逃してくれたのなら俺たちもそいつを助けてやりたいと思ってな」
「赤い鬼さん、殺されないの?」
「ああ。約束するよ。俺たちだっていい奴とは闘いたくない。話、聞かせてくれるな?」
「うん」
が、おちょぼは七歳。
見たことを的確に言葉にするのは難しいらしかった。
おちょぼの表現する赤鬼の様子は、皮膚が赤くて角があるという一般的な赤鬼のイメージと大差なかった。
それまで黙ってメモを取っていたヴィクトリアがかがみこんでおちょぼと目線を合わせた。
「おちょぼ君、私は鬼さんについてちょっと詳しいんですよ」
「ほんと?」
「ええ。たくさん御本を読みましたから。でね、この巻物を使ってあなたの頭の中の赤鬼さんの思い出を文字に表していいでしょうか?」
おちょぼは巻物をじっと見つめた後、おずおずと肯いた。
「少しも怖くないですからね。おちょぼちゃん」
ぎゅっとマロースに抱きしめられておちょぼはうんと小さく応えた。
「では、少しだけおちょぼちゃんの頭の中を覗きますね」
巻物が示した文字は僅かだった。
だが、それはおちょぼの頭の中に残っていた赤鬼の特徴を的確に現していた。
件の赤鬼は『左角が折れている』のである。
「一本角ではなくて元からあった角が折れているのですね」
「ええ。あえて左角と巻物が表していますから」
◆左角が折れた赤鬼。それがおちょぼが気にかけている鬼だ。
人に好意的な鬼なのだろうか。
先行して村の情報収集していた磯城弥、桜、冬華と合流した群雲、マロース、ヴィクトリアは、群雲が腕を奮った料理を囲んでいた。
「確かにオーガの中には人との共生を望む者もいると聞いたことがありますが」
ヴィクトリアの言葉に冬華は箸を持ったまま『うーん』と考え込んだ。
「でも、そんな性格の鬼ならなぜ山賊に入っちゃったのかな?」
「何にせよ、おちょぼちゃんが赤鬼を助けたいって思ってるのなら、その思いは大事にシてあげたいわねぇ?」
「説得できればいいが」
「できないときの覚悟は決めておいたほうがいいと思うわ」
桜の言葉に群雲は肯くと皆を見回した。
「赤鬼の説得が難航するようなら動きを封じてしまおう。御陰殿、ヴィクトリア殿、協力を頼む」
「動きを止めてその間に他の鬼を倒してしまおうというわけね」
「他にも赤鬼に同調する鬼が居たらその者達も助けてやりたいと思うが」
「ですが、人の味を覚えた鬼は救いようがないでしょう」
多くの書物を読破してきたヴィクトリアの言葉に皆は肯いた。
人を喰らう頭目とそれに同調して残虐の限りを尽くした鬼は許しておけない。
「磯城弥殿、鬼の頭数や村の様子などを話してくれ」
◆「人を襲うのを止めたい方はいらっしゃいますか?」
鬼にすら丁寧に話しかけるマロースに手傷を負った一匹の赤鬼がおずおずと近づいてきた。
マロースはすばやく鬼を一瞥した。
左の角が折れている。この鬼だ。
「すまない、俺は‥‥」
磯城弥が身を潜めてマロースを見守ってくれていることに心を強くしてマロースは鬼に語りかけた。
「あなたですね、以前、女の子を見逃してくれたのは」
「俺の言葉がわかるのか」
じつは指輪のおかげで鬼とも話せるのだが、マロースはただ肯いた。
「見るところ、あなたは心ならず私たちと戦っているとお見受けしますが」
「そのとおりだ。元は俺たちはこの辺りに平和に隠れ住んでいた」
人とあえて交わりはしなかったが、お互い縄張りを守っていた。
が、ある日やたら強い鬼が西方から流れてきた。
「そいつは人を喰らうんだ」
力に勝ったその鬼はたちまち周辺の鬼達を負かして配下にしていった。
鬼の中には安寧を望む者もいたが、少数派である。
言うことを聞かなければ殺される、だから。
「渋々従ってはいたが、あんな小せぇ子を殺めるなど俺にはできねぇ」
「あなたという優しい方に出会えてあの子は幸運でした。他にもあなたと同じような考えの方はいますか?」
「少しは。奴等は闘いが嫌いだ。今も、闘わないように物影に身を潜めているはずだ」
「では、あなたもそうしていてください。私たちは人食い鬼を倒さなければなりません。ヴィクトリアさん」
「ええ。少し寒いですがあなたを守るためです。我慢なさってください」
マロースの魔法が鬼を癒し、ヴィクトリアの魔法が鬼を氷に閉じ込めた。
この中にいる間、鬼の時は止まり、その身の安全は確保される。
赤鬼を保護したという知らせはすぐに仲間の知るところとなった。
後は、鬼達を一掃するのみ、である。
「王冬華、行きます!」
冬華の蹴りが炸裂する。
桜の春花に惑わされた鬼達はひとたまりも無い。
「樒流絶招伍式名山内ノ壱、椿!」
磯城弥は攻撃を組み合わせ独自に編み出した技を披露しつつ鬼達を始末して行く。
皆でかかられては人喰い鬼といえど為す術は無かった。
◆解凍された赤鬼他、数名の鬼たちも加わって、大石の墓標が立てられた。
花、酒に群雲の心尽くしの料理が供えられ、皆は頭を垂れ、人々の冥福を祈った。
マロースによって村は浄化され、鬼達が化けて出ることもあるまい。
鬼達が方々で集めた宝は冒険者たちの手に渡った。
また同族が悪用することのないように引き取って欲しいと赤鬼たちが願った為だ。
余計なものを捨て去って鬼達はまた山の奥でひっそりと暮らしたいのだと言う。
「郷の人たちと仲良く、とはいかないか」
冬華に桜が答えた。
「そうね、時間がかかるんじゃないかしら」
「共存、難しい問題ですね」
ヴィクトリアも考え込んだ。
「マロースさんはなんだか嬉しそうね」
桜がふふと笑いかける。
「ええ。赤鬼さんを助けたとおちょぼちゃんに報告できますから」
「あたしも会ってみたいわ、おちょぼちゃんに」
「ええ。是非ご一緒しましょう」
おちょぼのあどけない顔を思い浮かべてマロースは微笑んだ。