求む!駆け落ち支援

■ショートシナリオ


担当:Syuko

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:0 G 81 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:04月12日〜04月15日

リプレイ公開日:2009年04月22日

●オープニング

「お気の毒なお嬢様」
 前掛けの裾を目にあてる女の話を聞きながらギルドの受付人はさらさらと筆を走らせた。

「私は日本橋の呉服屋松高屋に奉公しております妙と申します。
私の仕事は主に奥向きでお嬢さんの身の回りの世話をすることなのですが
そのお嬢さんがじつにお気の毒なことになりまして‥‥」

 大店松高屋の一人娘お雪は花も恥らう十七歳。近所でも評判の美人である。
お雪には長太郎という幼馴染がいて二人は相思相愛、夫婦の約束を言い交わした仲であった。
 ところが松高屋は商売に有益な縁談をお雪に命じた。
 長太郎はしがない小商人。
 人柄は良くとも松高屋にとっては婿としてはお話にならない相手というわけだ。
 強引な性格の松高屋は嫌がるお雪に業を煮やし祝言の日までと座敷牢に入れてしまい、それに抗議し助けようとした長太郎は怪我を負わされてしまった。
 このままではお雪は好きでもない相手と強引に結婚させられてしまう。

「そこでお願いでございます。座敷牢からお嬢さんを救い出し、無事駆け落ちさせてあげてくださいませ」

 松高屋は娘が家出できぬよう浪人者を見張りに数名雇っている。

「なんとか追っ手を逃れてお嬢さんを向島のご隠居様のところへお届けしてほしいのです。
 ご隠居様はお嬢さんの母方のお爺さまでお年寄りでいらっしゃいますが話のわかるお方で若いお二人の味方でいらっしゃいます。
 それにご隠居様は松高屋の旦那様が煙たがっておいでになるお方ですから。
 じつは怪我を負われた長太郎さんもすでにそこで養生しておられます。
 お礼はこの通り、お嬢さんの簪をお金に替えて持って参りました」

 座敷牢は蔵を改造したもので家の庭にある。
 常時浪人が交替で見張っているが、その食事を運ぶのは妙の仕事である。
 意に染まぬ祝言は迫っており、もうあまり日にちがない。

「お嬢さんは長太郎さんの傷の具合を心から案じていらっしゃいます。どうぞ、よろしくおねがいいたします」

●今回の参加者

 ea0988 群雲 龍之介(34歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ec4989 ヨーコ・オールビー(21歳・♀・バード・エルフ・イギリス王国)
 ec5845 ニノン・サジュマン(29歳・♀・クレリック・エルフ・ノルマン王国)
 ec6156 シャールーン・エイーリー(30歳・♀・僧侶・エルフ・インドゥーラ国)
 ec6395 ニーナ・シーレン(19歳・♀・神聖騎士・人間・イスパニア王国)
 ec6398 坂東 沙織(34歳・♀・忍者・パラ・ジャパン)

●リプレイ本文

◆「じゃあ、松高屋の奥方はもう?」
 ニーナ・シーレン(ec6395)に松高屋奉公人のお妙は肯いた。
「はい。おかみさんがお亡くなりになってからは、私がお嬢様のお世話をさせていただいてきたのですが、今度のことは私の力ではどうしようもなくって。おかみさんが生きておいでになれば旦那様だってちょっとは物分りも良かったでしょうに」
 昔はそんな人ではなかったとお妙は前掛けで目尻を拭った。
「なるほど、奥方が亡くなって娘の幸せは裕福であることだと思い込んでしまったのじゃな」
 ニノン・サジュマン(ec5845)の言葉にヨーコ・オールビー(ec4989)も首を縦に振った。
「あるある。娘と父親の食い違い。父親は娘に良かれと思うてのことなんやろうけど、まるっきりの空回りや」

 坂東とエイーリーが刻限になってもギルドに現れなかったのを、『何か不測の事態でも起こったのだろう、先に依頼人に会いに行ってはどうか』という群雲龍之介(ea0988)の提言で皆は松高屋のお妙に会いに近くの茶店まで揃って出向いたところである。
「そういう事情ならここは妙殿に頑張ってもらわねばならないな」
「出来ることなら何でも致します。このままではお嬢さんが可哀想で」
「意に染まぬ祝言が近いということだから時間はあまりない。妙殿には見張りたちの人数や配置、食事や交代の時間を探ってもらいたい」
「座敷牢の雪殿にも作戦のあらましを伝えてもらわねばならぬのう」
「でも無理はあかんよ。怪しまれたらあかんから」
 ニノンに続けてヨーコの顔を見て、妙はしっかりと肯いた。
「大丈夫です。私はあの人達の食事の世話も手伝っていますし、お嬢様のお世話で蔵に近づくのを咎められる心配はありません」
「ならええんやけど」
 妙を気遣うヨーコに感謝の眼差しを向けて妙は頭を下げた。
「じゃ、屋敷と蔵の間取りを教えてもらえる?」
「他にも協力してもらわねばならないことも出てくるじゃろう。わし達はこれから向島へ行って、ご隠居と長太郎殿に会うつもりじゃ」
「雪殿にもいつでも屋敷を出れるよう心積もりをしておくよう伝えてもらいたい」
「お雪ちゃんの気持ちもそうだけど、長太郎さんの覚悟の程も確かめないと、ね」
 半端な覚悟じゃ駆け落ちなんて無理なんだから、とニーナは呟いた。

◆「しかし、上手く行きますかな‥‥心中を偽装するなど」
 まだ床についている長太郎の枕元で向島の隠居、つまりお雪の母方の祖父は心配げな顔を見せた。
 しかし、長太郎は怪我の痛みを堪え、布団の上で起き上がるときっぱりと言った。
「私はこの方達の考えに乗ってみようと思います」
 あくまでも駆け落ちは最終手段であり、お雪の為にもできるならば父親である松高屋に二人の仲を認めて貰いたい。
 その想いが冒険者たちが提案した『偽装心中』に心を動かした。
「ただ一つ気になることが。自分は多少の危険は厭いませんが、お雪ちゃんをそんな目に合わせるのは‥‥」
 冒険者達はお互いの顔を見合わせ肯きあった。
「そやけど、この作戦が上手くいかんかったらどうする?長太郎はん。あんた、駆け落ちする覚悟はあるんか?江戸にはおれへんようになるかも知れへんねんで?」
「その場合は致し方ありません。どこででもお雪ちゃんを幸せにしてみせます」
 はっきりと決意を見せた長太郎にヨーコは自分の胸をぽんと叩いた。
「覚悟があるなら、任したり!うちらがしっかりあんたら二人の恋愛成就を手伝ったるさかいな♪」
「実は種明かしをすると、実は二人に危険はないんだ」
 群雲の合図でヨーコとニノンがそれぞれ人形を取り出した。
「この人形は?」
「不思議な人形なんじゃ。魔法の力が働いておる」
「これを使って偽装心中をしてみせるってわけ」
「決行は明後日の夜。雪殿をここへ連れてきてからが肝腎だ」
 彼らは額を寄せ合うと段取りの説明を始めた。

◆決行の夜。
 手筈どおり松高屋の裏木戸の鍵がそっと外されるのを気付いた浪人達はいなかった。
 ご隠居が手に入れ、群雲達の手によって妙に渡された眠り薬が彼らの食事に仕込まれたからだ。
 尤も眠ったのは非番となった者たちだけで、座敷牢の蔵の前の見張り達は交代の者が来るまで食事をする予定になかった。
 茶に薬を仕込んで持っていこうかと妙は思いつめたのだが、それでは後々妙が疑われるとヨーコが反対した。
 裏木戸から屋敷に潜入した彼らの眼には蔵の前に立つ男が二人見えていた。
 怪しまれずに、庭を抜け、蔵の近くの浪人たちの控え室になっている座敷を確認する。
「よし、寝込んでいるな」
 群雲、ニノン、ニーナは浪人たちの帯で彼らを手早く縛った。
「ここまでで充分や。悪いけどあんたもちょっと眠ってもらうからな」
 ごめんな?と言うと、ヨーコはお妙に魔法をかけ、眠らせてしまった。
 これで万一の場合も松高屋がお妙を疑うことはないだろう。
「あとはあの二人をどうするかだな」
 腕に覚えがありそうな二人の浪人者は一人は肩に刀を持たせかけ、蔵の石段に座っており、もう一人はうろうろとその辺りを動き回っていた。
 座っているほうの男の帯に蔵の鍵がぶら下がっている。
「まかしといて」
 スリープを連打するヨーコにより二人の浪人はその場で眠り込んだ。
 ただし眠り薬ではないので何かのきっかけで普通の睡眠と同じく目覚める可能性が高い。
 慎重に浪人の腰から鍵を取ると群雲は蔵の戸を開けた。
 蔵の中は薄暗かったが、主の一人娘が暮らしているとあって、中は綺麗に整えられているようだ。
「ありがとうございます。本当に来てくださったのですね」
 噂通りの器量よしの娘がほっとしたように立ち上がった。
「向島まで送っていく」
「はい、お願いします」
「気をつけて。こいつらは眠っているだけやから」
「わかりまし‥‥あっ」
 暗がりの中でお雪が石段を踏み外し転びそうになるのを群雲が支えた。が、お雪のあげた悲鳴が魔法で眠っていた浪人たちを起こしてしまった。
「す、すみませんっ!」
「大丈夫だ。任せろ」
「ニノンさん、頼んだよ」
 頭をはっきりさせるように振った後状況を掴んだようで刀に手をかけた浪人たちからお雪を守るように群雲とニーナが前に進み出た。
「雪殿、早く!」
 箒を掴んだニノンがお雪に手を伸ばす。
「ほ、箒に乗るんですか!?」
「いいからしっかり摑まるんじゃ」
「は、はいぃぃ。きゃっ。きゃあぁぁ」
 戦闘を避け、塀を乗り越えるためにはある程度の高さが必要だ。
 当たり前の話だが明らかに空を飛びなれていないお雪の為に、ぎりぎりの高さまで上がるとニノンは向島に向けて箒を飛ばすのだった。
 お雪の安全を確保すると群雲とニーナは刀で襲い掛かる浪人たちをかわした。
 あまりおおごとにするつもりはない。気絶してくれればいいのだ。
「何の騒ぎだ!」
 騒ぎに松高屋やその使用人たちが起きだしてきた。
「なんだ、これは!」
 浪人部屋を見て、彼らが眠りこけているのを発見すると松高屋は大声を上げた。
「やばっ」
 ヨーコがスリープを再び連打する。
 浪人の手を素早く攻撃し刀を落とさせたニーナの横で群雲がもう一人の男を殴って気絶させた。
「退くぞ」
「了解や」
 追っ手はかかるかもしれないが浪人者の大半は薬で眠りこけている。
 ヨーコの魔法で寝てしまった松高屋は何事もなければ、明日の朝までぐっすり眠っているはずだ。
 ‥‥あとで起こす手筈だが。

◆「嘘だ、こんなことって‥‥」
 横たわる長太郎とお雪の遺体を前に松高屋はへなへなと崩れ落ちた。
 向島から馬で駆けつけた群雲に叩き起こされ、頭がはっきりしないうちにここに連れてこられた。
「ごめんなさい‥‥ちょっと目を離した隙に‥‥」
 ニーナの演技に松高屋は信じられないとばかりに首を振るばかりだ。
「若い者の恋心を犠牲にしてまで商売を拡大しようと、己の欲望を優先した結果がこれじゃ」
 苦々しげにニノンが呟いた。
 ご隠居も悲壮な顔つきで
「あんたが二人を追い詰めるからこんな悲しい事になったのだ」
と、娘婿を責めた。
「見てご覧。『来世で結ばれたい』と書置きが‥‥。不憫なことだ」

「ご隠居、中々の役者やなぁ」
 隣の部屋の屏風の陰でヨーコはほくそ笑んでいた。
「でも驚きました。あんなにそっくりに‥‥」
 お雪も長太郎も『人形』があまりに自分達に似ているのでまだ驚きを隠せないでいた。
「うん。粗忽人形ゆうてな。あんたらの着物も借りたからばっちりや」

「なんてことだ」
 頭を手で覆う松高屋の目から涙がぼたぼたと畳に落ちた。
「愛し合う二人の恋路の邪魔をして引き裂いたりするから。お雪さん、いい娘さんだったんだよね?駆け落ちして好きな人と暮らすことも出来たのにさぁ、きっとあんたと長太郎さんとの板ばさみになったんだよね」
「ううっ」
「ほんとじゃな。こうして娘と二度と会えぬより、二人の仲を認める方がずっとよい。そう思わぬか?松高屋殿」
 おいおい泣きながら松高屋は肯いた。
「生き返ってくれるならいくらでも認めるものを」
「聞いた?」
 ニーナが見回す。
「聞いたのう」
「ああ、俺も聞いた」
「わしも聞いたぞ」
 ニノンに群雲、ご隠居までが大きく肯く。
「松高屋殿、その言葉に二言はないな?」
「ないとも。生き返ってくれるなら何だって好きなようにしてやる」
「じゃと。ヨーコ殿」
「はーい。うちもしっかりはっきり聞いたで。このお二人さんもな」
 ヨーコが障子を開け屏風をどけた。
 立ち上がった二人を見て松高屋は目を回した。

◆「来月に決まったそうだな」
 ギルド付で届けられた文を手に群雲はたまたま来合わせたニノンに声をかけた。
「めでたいことじゃ。祝言にはわしらにぜひ出て欲しいとあるな」
「その頃身体が空いていれば、だな」
「皆、同じじゃよ」
 冒険者じゃもの、とニノンは笑った。
 だが、お雪と長太郎の幸せを寿ぐ気持ちは皆同じだ。
 今、この場にはいないニーナもヨーコももちろん。