【残酷な姫君】火鼠の皮衣の罠
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■ショートシナリオ
担当:Syuko
対応レベル:6〜10lv
難易度:やや難
成功報酬:3 G 4 C
参加人数:5人
サポート参加人数:-人
冒険期間:06月08日〜06月12日
リプレイ公開日:2009年06月17日
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●オープニング
◆依頼人 伴安麻呂の話
『今は昔、竹取の翁というものありけり。野山に向いて竹を取りつ、万のことに使いけり』
こんな出だしで始まるおとぎ話はご存知ですか?
竹取の翁に拾われたかぐや姫というそれは美しい女人の不思議な物語です。
え?何故、そんな話をするのかって?
私は街を通る駕籠の隙間から見てしまったんです。
世間で『今かぐや』と噂される美しい京の姫君の花の顔(かんばせ)を。
もしかしたら偶然私が見てしまった姫君はあの月道を司るという伝説の『かぐや』さまではありますまいか。
いやいや、まさか、そのような尊い方がこの江戸の街におられるはずはない。
だが、本当に、『今かぐや』と騒がれるのも無理はないと思われる美しさだったのです。
その日から寝ても冷めてもあの方の面影が私の心から離れることはありませんでした。
勿論、私のような男には手の届かない高嶺の花だということはわかっています。
ですが、姫君の宿に押しかける男たちを見ていると、負けたくないという気持ちがむくむくとわきあがっています。
たとえ万に一つでもというはかない望みを持って私は宿の周りを意味もなくうろつきました。
その折にふと小耳に挟んだのです。
『今かぐや』と呼ばれる姫君は婿取りのためにわざわざ江戸に下向してきたとか。
そしてその婿選びの条件として昔話に因んでか酔狂にも求婚者に難題を出しているというではありませんか。
無事難題を成し遂げた者に身分や財産を問わず嫁入りするとか。
私は飛びつきました。
失敗したとしても一目、姫君に会うことができるかもしれない、などと未練がましくも私は真剣でした。
残念ながら姫の顔をひと目でも見たいという私の願いは叶えられませんでしたが、申し込みをすることだけはできました。
私に与えられた難題は『火鼠の皮衣』を手に入れるというものでした。
そう、あの昔語りそのままの品です。
そんなもの、いったいどうすれば手に入るのか‥‥。
大体、それはこの世に本当に存在するのか‥‥?
あるとしてどんな色かたちをしているのか。
それに気になるのは、姫君の邸で順番を待っているときに小耳に挟んだ噂です。
『すでに幾人もの男たちがこの難題を巡って行方知れずとなっている』
しかも意気揚々と『火鼠の皮衣を手に入れた』と吹聴していたものまで邸に入っていったきり出てこなかった、とか。
手に入れたものが偽物だと判明し、それゆえに恥ずかしくて裏口からこっそり逃げ出したのではないかとも思われますが‥‥。
少し気になるところではあります。
どなたか、火鼠の皮衣をお持ちの方はいないでしょうか?
火鼠がどんな場所に生息している、という情報でも構いません。
◆安麻呂の家人の話
まったくうちの若君にも困ったものでございます。
当家にはそんな余裕など無いというのに。
そのような怖ろしげなわがまま者の姫君を奥方にお迎えになるなど、我々使用人には大迷惑です。
見聞を広めるために江戸に来てまさかこんな厄介事に囚われるとは(はぁ)
ですが、そんな若君のご無事をお祈りする気持ちもわたくしの誠の心でございます。
どなたか、若君に協力すると見せかけて、何とかその姫君を諦めるよう説得してはくださいませんでしょうか。
わたくしにはその姫君がとても胡散臭い気が致します。
●リプレイ本文
◆小料理屋八束、美人姉妹が経営するこの店に呼び出され依頼人、安麻呂は希望に胸を膨らませていた。
居並んだ冒険者たち、その顔ぶれをみれば世にも珍しい火鼠の皮衣といえど入手できるのではあるまいか。
「あたし、御陰桜(eb4757)よ、ヨロシクね♪」
と名乗って片目を瞑った桃色の髪の美女に安麻呂がぼわ〜っと見とれ思わず口をだらしなくあけてしまったのもその浮かれた甘い考えを示しているかのようだった。
見れば桜に限らず、そこにいる女性はいずれも菖蒲か杜若。セシリア・ティレット(eb4721)も齋部玲瓏(ec4507)もどっちを向いても美しい限りである。
依頼の成否とは関係なく『ああ、冒険者ギルドに依頼を出してよかった〜』などと暢気に喜ぶ始末であった。
もちろん、ギルドに伴った家人が自分の思惑とは違う愚痴を零していたことなど知る由もない。本当に暢気な若君である。
「大船に乗ったつもりで任せておけ。何せ私はデュラン・ハイアット(ea0042)だからな」
いかにも逞しそうな男性に挨拶され、それまで伸ばしていた鼻の下をきゅっと縮める。
「『今かぐや』とまで言われる美しい姫君か。絶世の美女と言われるのならば非常に興味があるな。ひと目見てみたくなる気持ちもわかると言うものだ」
などと言ってくれるデュランに親近感を覚え安麻呂はおおいに喜んだ。
「そうでしょう?男の夢ですよね」
「わかる、わかるぞ」
話を合わせてくれるだけとも知らず安麻呂はこれならばきっと、とはりきっていた。
「しかし、行方知れずとなっている人たちのことも気にはなりますね」
ディファレンス・リング(ea1401)の言葉にデュラン以外の三名は肯いた。
「念には念を入れて少し姫君の宿周辺を探ってみることに致しましょうか」
「もちろん、姫君を疑ってるわけじゃないのよ?そんなに美人なのならあたしも見てみたいし♪」
玲瓏と桜の提案に安麻呂も仕方なく肯いた。
姫恋しさに眼を背けてはいても心のどこかでそのことは引っかかっていたのである。
「では、私たちは火鼠のほうは追ってみるとするか」
デュランがぽんと安麻呂の肩を叩いた。
「私も火鼠探しにご一緒します」
とセシリアが名乗りをあげる。
「まずは冒険者酒場に行って情報を集めてみるか」
「あ、情報、その1、エチゴヤの福袋に入ってたっていう噂、聞いたことあるわよ♪」
本当のところ桜のバックパックに『それ』はしっかり入っているのだが、提供する気はさらさらない。そのことは仲間も了承済みだった。
自ら手に入れる気概も無くしてどうして恋など成就できるだろう。
かくして安麻呂はデュランとセシリアに連れられ、冒険者たちが屯する酒場へと出かけたのであった。
◆「さて、若君のことはデュラン様とセシリア様に任せておくとして、私たちは姫君の周辺を探ることにしましょう」
玲瓏は歩いていく三名を見送りながら上品に微笑んだ。
「きっとあちこち引っ張りまわされて音を上げるんじゃないかしらね♪デュランさん、遊ぶ気満々みたいだったもの」
桜の関心は専ら『今かぐや』の姫君なのである。
『今かぐや』の姫君の目的がいったい何なのか‥‥。物語のかぐや姫は結婚を嫌がって難題をふっかけていたわけだが、今回はどうやら違うようだ。
婿探しと称して自ら男たちを集めている節がある。
「無理難題を持ちかけ、何かの時が満ちるのを待っておられるのでしょうか。もしくは姫君はおそろしい魔物で、御邸に入ったきりの御方は、喰われてしまったのかも」
「私も引っかかっているのです。若君は諦めるよう説得するほうが良いのではないでしょうか」
そっちのほうは冒険の大変さをデュランとセシリアが存分に味合わせてやれるだろう、その後、説得すればいいと意見はまとまっていた。
「とにかく姫君の宿を探ってみるとしましょう」
◆「姫君が宿にしている邸というのはここですね‥‥」
では私は周辺で聞き込みをしてきます、と言い残してディファレンスが立ち去った後、桜と玲瓏は邸を探る算段を話し合っていた。
「衣を持参できた御方がわかれば、姫君の様子を伺えると思うのですけれど」
「エチゴヤの福袋に入ってたくらいだから可能性はあると思うけど」
だが、本来、火鼠は希少である。
昔語りには偽の皮衣を掴まされた憐れな男性もいたくらいだ。
もちろんお金を積めば、本物を手放してくれる冒険者もいるかもしれないが。
「偽物でも本物でも皮衣を持ち込んだ人間がいたとしてちゃんと戻ってこれたかどうかってことが問題よね」
「ええ」
「手っ取り早く会いに行くって言うのはどうかしら♪」
桜はにっこり微笑むと玲瓏に作戦を囁いた。
◆「より多くの冒険者から情報を集めるとしよう」
デュランは気軽にその辺りの冒険者たちに酒をふるまい話し掛けていった。
すでに出来上がっている男たちもいて、話がどんどん大きくなっていく。
「最近、火鼠の目撃談なんて聞いてないか?」
「富士の山あたりで見たっていう話も聞いたり聞かなかったり?」
「ふ、富士ってあの駿河とか甲斐から見えるあの富士ですか!!」
いわずと知れた日本一の高さを誇る山である。
目を白黒させる安麻呂にデュランはちょっと遠いけどな、とこともなげに言う。
「そりゃあ、火鼠といえば、火山にいるって相場が決まってるだろ?」
「さすがに富士山は遠いので、近場の温泉地でも探してみます?」
千里の道も一歩から、冒険の道も近場からとセシリアに微笑まれては安麻呂としてはコクコクと肯くしかなかった。
◆「ちょ、ちょっと待ってください〜」
ひーひー言いながら随分遅れて付いてくる若君の様子にデュランはほくそ笑んだ。
富士の山と比べるべくもない高さの江戸近郊の山ではあったが苦労知らずの安麻呂にはきついようだ。
この山では火鼠どころかお化け鼠にだって遭遇する可能性は低い。
慎重にもセシリアは不測の事態、この場合は火鼠との遭遇だが、に備えて装備を整えてはいるが、要は安麻呂に冒険の大変さを身をもって知らしめ、姫君への想いを諦めさせようと言う作戦である。
「こんなところで音を上げていては火鼠には行き着けないぞ」
「で、でもぉ」
はあはあ息を切らす若君は情けなくもギブアップ寸前に見えた。
「冒険ってこんなにも大変なんですよー。そういう難題を出す女性をまだ諦めませんか?」
セシリアに手を差し伸べながらそう言われると段々自分が何のためにこんな苦労をしてるんだかわからなくなってくる安麻呂であった。
(かなりびびってるな)
(ええ、もうぐらぐらですね)
江戸に残った仲間たちの調査で白と出ても、この若者にはそんなややこしい条件を出す姫君とうまくやっていく器量はあるまい。ここは諦めさせるが本人のそして家来達の為というものである。
◆「若君は?」
「筋肉痛で寝てる。あの分だと二日は動けないんじゃないか」
デュランの返事に一同は苦笑した。
姫君のことを直接調べるために邸に潜入するとなれば若君のような素人は巻き込まないほうがいい。
「で、何かわかったのか?」
「ええ。まず周辺への聞き込みですが‥‥」
ディファレンスの話では、やはり幾人かの男が行方知れずだというのが本当らしかった。
中には本物と思しき火鼠の皮衣を手に入れ持参した男もいたらしい。
「これは姫君が宿にしている邸に出入りしている商人に聞いたので間違いありません」
「つまり姫君は皮衣をすでに入手しているにも関わらず婿の募集を止めていない。ますます怪しいですね。御伽話をなぞったり、月道のかぐやさまに擬えて‥‥何かを企んでいる気がします」
『そこで私が直接姫君に目通り願おうと言うわけです』
いきなり現れた美形の若者にセシリアは目を丸くした。彼の傍には玲瓏がいる。
「あなたは?」
「セシリアちゃん。あたし、よ♪」
そう人遁の術で若者に姿を変えた桜なのであった。若い男性らしい清々しい香りまで漂っている。
「皮衣は持ってるし、この姿で邸に乗り込もうと思って。玲瓏ちゃんの三笠さまに加わってもらって男性の頭数をそろえたら、セシリアちゃんと玲瓏ちゃんは付き添いって事で」
「堂々と正面から乗り込む、か。いいな。俺もその姫君を見てみたいしな。邸の使用人を買収してそっと覗き見でもと思っていたが、邸に入ればこっちのものだ」
◆『なかなか今日は人数が多いではないか』
込み合っている待合室を覗き見て一人の『男』が嘲笑う。
『どうだ、うまそうな男が幾人もいるぞ』
傍らの姫君が艶やかな柄の袖で口元を覆いうっすらと笑うように目を細めた。
『私の話に乗ってよかったであろう。ここにいれば労せずして思う存分生き血を啜れるのだから』
だが、この時、『彼ら』はまだ知らなかった。
その美味しい獲物となるはずの若者たちによって自分達の計画の一部が頓挫することを。
「世にも珍しい火鼠の皮衣。こちらも命を掛けたのです。ひと目、姫君に会わせていただきたい」
『彼』は操り支配する使用人と交渉する『獲物』を品定めしてから
『会ってやれ』
そう姫君に命令する。
煩いことだが巷では噂にもなってきているようだしそろそろ潮時だろう。
狩場はまだいくらもある。手駒もまた‥‥。
そう考えて『夜叉』はにやりとほくそ笑んだ。
◆その日、五人の冒険者によって『精吸い』が退治された。
遭遇寸前で運強く逃れた『彼』の行方はようとして知れない。
操られていた男たちは散り散りとなり、もぬけの殻となった邸に佇んで安麻呂は失恋の憂き目を味わった。
しかし落ち込んでいるかと思えばこの若君、
「目に映らない恋に期待するより目に映る恋に期待してはいかがでしょう」
というディファレンスの言葉に目を輝かせた。
「そうですよね、世の中にはこんな素晴らしい美女がいっぱいいらっしゃるのだし♪」
などと見当はずれもいいところの期待感溢れる瞳を桜、セシリア、玲瓏に向けたのだった。