恋愛成就!あの人を探して

■ショートシナリオ&プロモート


担当:Syuko

対応レベル:フリーlv

難易度:易しい

成功報酬:0 G 41 C

参加人数:6人

サポート参加人数:2人

冒険期間:02月23日〜02月27日

リプレイ公開日:2008年02月29日

●オープニング

 ギルドに現れた父娘と思しき二人連れ。
恰幅の良い豊かな商人風で父親に元気の良い娘だ。年のころは十六くらいだろうか。
大きな瞳のなかなか可愛い娘である。
娘は好奇心いっぱいでギルドに出入りする冒険者たちを見ている。


「なぁ、お父ちゃん、うち、冒険者ギルドって初めてや。なんや色んな人がいてはるんやなぁ」
「これ、失礼やないか。ジロジロ見るもんとちゃう」
「そやかて‥‥」
「おお、わしらの番や。ええか、話が終わるまで静かにしとき」
「ほな、あとで越後屋さんと酒場にも連れて行ってや?」
「あほ。酒場はいかん。とにかく大人しゅうしとれ」

 頬を膨らませた娘を置いて商人は受付人に依頼を話し始めた。

「わしは上方で商いをやっとります、大戸屋いいますねん。これは娘のお静です。
依頼というのはこの子のことで。
この通り、初めての江戸にすっかり舞い上がってしもうて先日も天神さんの縁日で迷子になりましてなぁ。
それにも懲りんと、やれ、あそこに行きたい、ここがいいと聞きませんのや。
ところがわしも江戸には商いで来たんでそうそう娘にも付きおうてやれません。
そやかて一人でふらふら出歩いて迷子になっても困りますやろ。
そこで信用のできるお方に娘を頼みたいんですわ。江戸を見物させたってください。
費用でっか?そやなぁ、報酬はこんなもんでどないでっしゃろ?」

そういって上方の商人は指で報酬を指し示した。

「やれやれ、これで一安心や。って、なんや、お静がいてないがな。
お静ー!お静ー!!ほんま名前負けなお子や。一向にじっとしてないんやから」

 ぶつぶつ言いながら商人はギルドの外に出て行った。
お転婆な娘をもつのもなかなか大変そうだ。
そう思った途端、受付人はぎょっとして飛び上がった。

「なあ、お父ちゃんの依頼内容に付け加えたいことがあるんやけど」

外に行ったとばかり思っていたお静が悪戯っぽく目をくるくるさせて笑っていた。

「うちなぁ、天神さんの縁日である男の人に一目惚れしてん。初恋なんやで」

そう言って乙女っぽく恥らう姿は見ていて微笑ましい。
名前のように静かにしていればお淑やかそうで男心をそそるに違いない。

「そりゃあ男前なお人で、迷子になって困ってたうちに優しくしてくれてなぁ。
見て、こうして風車も買うてくれてん」

懐に差していた風車を手に取ると大事そうにそれを見つめてから、ふぅっと息を吹きかける。
くるくると風車が回った。

「めっちゃ男前で、すっきりした格好でなぁ。お香のええ香りがしてん。
お団子奢ってくれたり、気が利いたひとで、茶店の娘とも顔見知りやったみたい。
うちとしたことが、どきどきしっぱなしで名前も住んでる場所も聞くのを忘れてしもうて‥‥。
髪形や着物から見て町人やろうけど、道場とか通うてはる人やと思う。だって竹刀を持ってはったし」

思い人の姿が浮かんだのかうっとりとした表情を見せてから、お静は「あかん、目の前が桜色や」と呟いた。

「とにかく、そのお人を探すのを手伝ってほしいねん。もう一度会えたら絶対告白しようって思うてんねん」

やれやれと少々呆れながらも受付人は依頼を書き足した。

「費用?そんなんお父ちゃんが払う分でよろしく」

さすがは上方商人の娘、しっかりしている‥‥。


●今回の参加者

 ea7246 マリス・エストレリータ(19歳・♀・バード・シフール・フランク王国)
 ea8714 トマス・ウェスト(43歳・♂・僧侶・人間・イギリス王国)
 eb5301 護堂 万時(48歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 ec1298 一条 如月(31歳・♀・陰陽師・パラ・ジャパン)
 ec4417 新田 芳人(21歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ec4477 ベッカム・ディビット(34歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)

●サポート参加者

タケシ・ダイワ(eb0607)/ 呂 明信(ec2902

●リプレイ本文

◆「外で頂くおむすびは美味しいなぁ」
 土手に座り竹皮に包まれたおむすびを広げて一同は昼食を取っていた。
 宿に頼んでお静が用意させたものである。
 まだ風は冷たいが、陽射しは温かだ。

 護堂万時(eb5301)は昨日タケシ・ダイワに渡された地図を広げた。
 彼のおかげで初めての江戸の街も方角の見当がつくというものだ。

「天神辺りの地図はこうして手に入ったわけですが、どうします?
 まっすぐに向いますか?
 お静さんの父上の依頼では江戸の街を案内してほしいということでしたが」

「江戸城くらいは見せてやったらどうだね〜。政宗君が居座っているのは気に入らんが」

 トマス・ウェスト(ea8714)の提案にお静が嬉しそうに肯いた。
 会って早々ドクターと呼ぶように言われたがすぐに慣れたようだ。

「うん、うち、見てみたい。立派なお城なんやろ?」

「だが、京都にも御所があるじゃろう?」

 上方に興味があるらしいマリス・エストレリータ(ea7246)にお静は首を振る。

「うち、御所には上がったことないの。マリスさんは色んなところを旅してきはったんやろ?
 ええなぁ、羨ましい」

「上方ではどんな生活を?」

「朝から習い事で走り回ってます。でもようすっぽかしてお父はんとお師匠はんに叱られて」

「習い事は何を?音楽か何かじゃろうか?」

「琴と手習いとお花と‥‥。お花のお師匠はんがお香が好きでそれで少し教えてもろうたんです」

「なるほど。それで静殿はお香が気になったのでござるな。
 その若者は香に関係する職業の人と考えられるでござる」

 一条如月(ec1298)に護堂は肯いた。

「私もそう思います。まずはお静さんが迷子になったという天神付近を捜して見ましょう。
 香を扱う店があるかも知れませんし」

「茶屋の娘はその男と顔見知りっぽかったんだよね?だったら茶屋を先に探すほうが早くないかな?」

「私も新田芳人(ec4417)殿に賛成ですな。茶店の娘さんに話を聞いてみるのが良いと思いますが、‥‥ただ、見つけたところで上手く行きますかな」

 マリスは終わりのほうを小さく呟く。どうも気乗りがしない。
 見慣れぬ江戸にお静はすっかり舞い上がって恋に向ってまっしぐらだが‥‥。
(大丈夫なのか)
 皆、思いは共通なのか、無言で顔を見合わせる。

「と、とにかく、江戸城を見てから、天神に向おうよ」

 新田が皆の気を引き立てるようにそう言い立ち上がった。

「天神のほうは賑やかだとタケシさんも仰っていましたし、お静さんも喜ばれるでしょう」

「茶屋の娘に聞けばいいだけの話ではないか〜。さっさと向うとしよう〜」

◆「ところでその茶屋はどこにあるのだね〜?」
 天神につき、一応皆でお参りを済ませ、ドクターにそう聞かれてお静はきょろきょろするばかりだ。

「うち方向音痴やから。それにこの間と比べるとちょっと静かになってる」

「縁日が終わったんじゃな」

 マリスは参道を見渡した。人ごみでない分、探しやすいかもしれない。

「一度行った茶屋を覚えているくらいなら迷子になどならないでござろうからな」
 と一条が呟く。

「お静さん、何かその茶屋に特徴はありませんでしたか?門構えとか」

「えぇと、そうや、確か、茶屋の隣に二本の松がありました。
 梢が絡み合うようで夫婦松やって通りすがりの人が言うてはったなぁ」

「夫婦松ですね」

 護堂は地図を広げた。一条がそれを覗き込む。

「この辺りでは?街道に面していて松が点在している。茶屋らしき建物も並んでおりますし」

「ではこの辺りまで行って町の人に聞いてみるでござる」

 夫婦松が目印の茶屋は無事見つかり、早速皆は団子を注文した。

「わ、このお団子や。今日も美味しい〜」

「食べ物の味は覚えてるみたいだね」

 苦笑しながらも新田は茶屋の娘に若者のことを聞く仲間に注意を向けた。

「と、いうわけで、この子に親切にして頂いた方にお礼を言いたくて探しておりますが…」

「町人風で竹刀を持っていると思うのですがお心当たりはありませんか?」

「もしかしたら香に関係ある仕事に就いているかもしれないでござる」

「ほんで、めっちゃええ男。お姉さん、この間お話してたでしょう?」

 お静の上方弁に覚えがあったのか茶屋の娘は肯いた。

「ええ、その方なら心当たりがあります。
 道場に通ってらっしゃる様で、時々お土産にうちの団子を買ってくださるのです。
 でもここ二、三日はお見かけしませんねぇ」

「竹刀のことは少々気にかかってたんだよね。やはり道場に通っているのか。
 町人としては裕福なんだろうね」
 という新田にお静は肯いた。

「うん。あの時も気前良う奢ってくれたし」

 そしてちろりとドクターを見る。

「その視線はどういう意味だね〜?静君」

「だって、年長者やし」

「護堂くんがいるではないか〜」

「そやかて護堂さん、お団子食べてへんもん」

「しかし、七皿もきっちり空になっているではないか〜」

「えへへ、三皿はうちが食べました」

「‥‥我輩が全部払うのかね〜」

 財布から金を出すドクターにお静は
「わ、ドクター太っ腹。ご馳走さんです」
 と頭を下げた。

「この辺りにも道場は幾つかあるのでしょうか」

「今日はもう遅いのでは。道場も終わっているじゃろう」

「そうでござるな」

 マリスに一条も賛同する。
 今から帰れば日が沈む前に宿につけそうだ。

「なんや近づいてきた〜って感じやわぁ。皆様とご一緒できて静はめっちゃ楽しいです」

「それは良かったでござる。そうだ、静殿、よろしければ事の吉凶を占って進ぜましょうか」

「ありがとうございます!」

(う、なんと言ったものか)
 占いは前途多難と出ていた。が、期待感を溢れさせている静にそのまま話すのは忍びない。
 一条は何食わぬ顔で筮竹を再び操り、若者の行方を占うことにした。

「天神から西と出ました。道場はそちら方面を探すと良いでござるよ」

「はい!じゃあ明日はそこから探しましょう!」


◆翌日、一条の占いにより一同は西を当たってみることにした。
 まず地図を広げて護堂がダウジングペンデュラムを垂らす。

「わ、なんですのん?それ」

 興味津々のお静に護堂は丁寧に説明した。

「この振り子で目的の場所がわかるのです。ほら、このように」

「へぇ‥‥」

「どうやらこの辺りに手がかりがあるようですよ」

 と、地図の一部を指し示す。

「じゃあ、道場に向って出発だね」

 新田は辺りに抜かりなく気を配る。若者の道場通いが単なる趣味ならば問題はないのだが。

 道場に近づくとカンカンと木刀を打ち合う音がする。
 窓から中を覗いてお静は溜息をついた。

「いてへん。まだ来てはらへんのやろか」
 どうやら意中の若者は今日は稽古に来ていないらしい。

 やがて稽古が終わり、師範と思しき人物が引き上げていくと、お静は肩を落とした。

「ここと違うんかも」

 そのときである。

「何者!?」

 鋭い声で誰何され、あっという間に五人の門下生たちに囲まれてしまった。

「怪しいやつらだ」

 確かに見慣れぬ取り合わせではあったろう。

「私達は怪しい者ではないのじゃ。ただ人を探しているだけで‥‥」

 マリスはできるだけ穏便にことを収めようと説明した。

「人だと?」

「そうでござる。町人でこの道場に通う者はおりませぬか?拙者らはその者を探しているだけのこと」

「ふん、町人などこの道場にはおらぬ」

「香の匂いをさせた粋な男だというがね〜心当たりはないのかな〜?」

「香だと!?ではお前達、佐吉に関わりがあるのだな!」

「やってしまえ!」

 門下生たちはいきなり襲い掛かってきた。

「きゃっ」

 悲鳴をあげるお静を後に庇い、新田は霊剣を構えた。冷気がその諸刃の刀身から放たれる。
 大して強くなさそうな相手のこと、傷つけるつもりはないが、お静は守らなければならない。
 皆も身構えた。

「こうるさい輩だね〜。皆、ここは我輩に任せておきたまえ〜」

「話も聞かせて頂きたいですからほどほどにお願いします、ドクター」

「わかってるよ〜護堂君。コ・ア・ギュレイトォ〜!」

 ドクターの複数呪縛により門下生たちは動けなくなり、次々と木刀を取り落とした。

「さて、話を聞かせてもらいましょうかな」

 マリスに魅了されたのか門下生たちは頬を染めた。

「なるほど。この道場から追い出したんですな」

 武家の自分達より筋がいいことをやっかんでのことだった。

「でもこれでお静様の意中の人の名も、店の場所もわかりましたな」

「小間物屋だったのですね。ああ、ここのようです」
 小間物屋ならば香袋なども扱うのだろう。護堂は地図で店の場所を確認した。

「しかし、いよいよでござるな」

「うん、なんかむっちゃ振られるような気が‥‥」

 マリスと一条如月の囁きにお静を除く一同は同意していた。
 『玉』『砕』の二文字が皆の脳裏に大きく浮かんでいる。

◆突然訊ねてきた妙な取り合わせの一団の呼び出しに佐吉は目を丸くしたものの話を聞いてくれた。
 お静が熱心に告白しているのを皆は少し離れて見守る。

「初恋は実らないと言いますがうまくいけばいいのですがね」

 護堂の心配にマリスは首を振る。

「あれはどうみても大人と子どもと言うか、佐吉様は困っているようじゃな」

「気持ちの一区切りは必要でござる。結果はどうあれ、お静殿にはこれを機にいろいろな意味で成長して欲しいでござるな」

「ああ、やはり駄目だったようですね」

「玉砕したようだね〜」

 困ったようにうなじを掻く佐吉を置いてお静はわぁっと泣きながらこちらへ走ってくる。

「うわーん、振られたぁ」

「よしよし」

 一条に頭をなでられお静は泣きじゃくった。

「静殿、きっと新しい出会いがまた訪れるでござるよ」

「そうそう。お静様のことを思ってくれる良い人と巡りあえると思いますぞ」

「マリスしゃぁ〜ん、ひっく」

「お静さん、元気出して、僕がお茶とお団子奢ってあげるから」

「うわーん、新田さんが優しいー」

「わわ、余計泣いてしまった!」

 泣きながらもお静はしっかり一人前の団子を食したという。
 恋は実らなかったが、冒険者たちの情に触れ、江戸はお静にとって思い出深い街となった。