覆面忍者軍団がゆく 小悪党懲らしめ編

■ショートシナリオ


担当:橘宗太郎

対応レベル:1〜3lv

難易度:普通

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:09月30日〜10月05日

リプレイ公開日:2004年10月07日

●オープニング

 少し派手めの女が冒険者ギルドに現れたのは、昼下がりの事だった。
「おや、お嬢さん、ご依頼かね?」
 冒険者ギルドの親父さんは、久しぶりの笑顔を見せていた。何時もの愛想の悪さはどこにいったのか? 相手が美人なら、そういう事もない。‥‥少なくとも初対面では。
「ここに来る理由が他にあるってのかい? にーさん」
 随分と気の強い女だ。
 親父さんは、片方の眉をあげておどけると、紙と筆を取り出した。
「そりゃあ、あるわけもない。‥‥で、どういったご用件で?」
「実は、あたしの兄貴が悪い事をしているらしくてね。あたしと兄貴が、田舎からお江戸に出てきたのは、そうさね、二年ばかし前だろうか。まあ色々と苦労もあったけどさ、あたしの方はそれなりの暮らしが出来る様になったんだよ。しかし、兄貴は短気のくせに頭がないもんだから失敗ばかりでね、ついには小悪党になっちまったってわけさ」
 親父さんは、一通りの事を書き終えると、幾つかの質問をした。
「つまり、小悪党になっちまった兄貴を捕まえてほしいのかい?」
「違うんだよ。身内を牢屋送りになんてしたかない。もう二度と悪事に手を染める気にならないぐらい懲らしめてやってほしいのさ。取り返しのつかないところまでいっちまう前にね。最近、ひどい事に手を出しちまってるんだよ」
「懲らしめるというと?」
「なんて言ったらいいのかねえ。とにかく、もう二度と悪い事なんてやらない、と思ってくれればいいのさ。身内のあたしが言い聞かせるべきなんだろうけど、あたしの話なんか聞きやしなくてねえ。あたしも随分と人様に迷惑をかけてきた方だからさ」
「それで、ひどい事ってのは?」
「実はさ、兄貴が突然言い出したんだけどさ。仲間と一緒にとある医者の家に押し込んだと言ったんだ。あの事件じゃ、確か、お手伝いさんが殺されているんだよ。どうやら兄貴が殺したわけじゃないみたいだけど、このままじゃ何時か‥‥。情報をくれてやるから、兄貴を止めておくれよ」
「その兄貴のいる場所はわかるかい?」
「ああ、ここからしばらく行ったところにあるお屋敷にいるのさ。どうやら、そこの屋敷の主人が兄貴の親分みたいなんだ。ただの呉服屋だと思ったら、ひどいもんさ。兄貴の話からすると、仲間の数は大したもんじゃない。あの手際の悪さじゃあ腕も大した事ないだろうし」
「なるほど。証拠があれば捕まえられるかもしれないが、何を盗ったかなんてわかるかい?」
「いや、だから捕まえてほしくはないんだよ。兄貴の仲間を捕まえると、きっと兄貴の事も話しちまうに違いない。懲らしめるだけでいいんだ。それに、‥‥兄貴は出来るだけ痛めつけないでやっておくれよ。気も強くはないし、脅すだけで十分だよ」
 女はゆっくりと身をかがませた。すると、着物の隙間から胸の谷間がチラリと見える。
 親父さんは女の胸のあたりに視線を移し、すぐにまた女の顔を見た。何かの必死さを感じた。
(「大して自慢の出来る大きさでもなかろうによ」)
 親父さんは、軽くため息をついた後でコクリとうなづいた。
「最初からそのつもりですよ、お嬢さん」

「小悪党とはいえ悪い事はたくさんしているはず。本来なら罪人だから捕まえるべきなんだが、依頼人の意向には沿わないといけない。そこで、君達には、悪事を働いている依頼人の兄貴とその仲間達がいる屋敷に潜入し、彼等を懲らしめる任務をあたえる」
 冒険者達を前に、そう言った親父さんは、なぜだか楽しそうに見えた。大きい風呂敷を両手で抱えている。何が入っているのだろうか?
「この依頼では、出来るだけ顔を見られる事はないように。下手すると、冒険者ギルドの人間が押し込み強盗をした様に見られるからなあ。そこで、‥‥ほら、これを用意してやったぞ」
 親父さんが取り出したのは人数ぶんの黒装束と黒い覆面だった。満面の笑みで冒険者達にそれを手渡す。
「名付けて覆面忍者軍団作戦。覆面なんてすると、まるでこっちが悪者みたいだが、秘密裏にやってほしいからなあ。まあ、殺してしまってまずいのは依頼人の兄貴だけだから、手加減をする必要はない。特に呉服屋は痛めつけちまっていいぞ。前、あそこで一着買ったんだが、質が悪くて怒られたんだ。おかげで送る前より金がかかる様になっちまって‥‥あー、それじゃあ、よろしく頼む」
 何人かの冒険者は、親父さんの愚痴とネーミングセンスの無さにゲンナリしたが、当人は楽しそうなので不満も言えなかった。
 親父さんは、屋敷までの地図と屋敷の見取り図、それに依頼人の兄の人相風体が書かれた紙を冒険者達に渡してから、再度注意した。
「いいか、顔を見られるなよ。世間様から見れば、こっちが悪者なんだから。それに呉服屋の家族や使用人に騒がれたらすぐに逃げろよ。多分、呉服屋が悪事に手を染めてるなんてのは知りはしないからなあ」

●今回の参加者

 ea0269 藤浦 圭織(33歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea1057 氷雨 鳳(37歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea4183 空漸司 影華(31歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea5230 神威 空(31歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 ea5344 永倉 平九郎(32歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea6751 ミラルス・ナイトクロス(20歳・♀・侍・シフール・フランク王国)

●リプレイ本文

●覆面忍者軍団、参上!
 深夜、とある呉服屋のお屋敷の前に、正確に言うならば、お屋敷の隣家の屋根の上に、怪しすぎる六人の人影があった。
 雲の隙間から月明かりが射し込んだ、しかし、彼等の正体はわからない。皆、黒装束を着込み、覆面を被っている。‥‥まさに怪しさ爆発である。まさか、この全員が冒険者だとは誰も思うまい。
 彼等こそ、冒険者ギルドの親父さんの気まぐれで結成された『覆面忍者軍団』なのである!
「覆面忍者軍団なんて‥‥最高♪」
 やけに楽しそうにしているのは、永倉平九郎(ea5344)だ。とはいっても、覆面で表情が分からないので、その言葉が真実なのか悪い冗談なのかは分からない。
 しかし、どうやら冒険者達の何人は、この依頼を楽しみに来ている様だった。藤浦圭織(ea0269)も平九郎と同じく、
「顔を見られずに悪党をボコれるなんて、とっても楽しそうね‥‥」
 と覆面の裏でほくそ笑んでいたし、ミラルス・ナイトクロス(ea6751)も何かウキウキとしたものを抱いていた。ただ、ミラルスにはジャパン語が出来ないという問題があった。
 当然、先の二人の言った言葉も理解出来ないので、キョトンとしている。
(「ミラルス・ナイトクロス、正義のために只今参上!」)
 とりあえず、頭の中だけで名乗りをあげておくミラルスであった。
 氷雨鳳(ea1057)と神威空(ea5230)の雰囲気は、他の冒険者と少し違っていた。彼等は悪党の懲らしめる事自体に重点を置いていた。その道の仕事を専門にしているのかもしれない。
「おそらく、悪の根源は呉服屋にあるはずだ。私は、皆と別れて呉服屋の下へゆくぞ」
 氷雨鳳(ea1057)は、呉服屋を標的に定めていた。普段は女らしいというよりも、男らしい部類に入る彼女だが、黒装束では豊かな胸を隠す事が出来ない様だった。男性陣と胸の大きさに自信のない女性陣の視線が密かに向いていたのは、内緒である。
 神威は、熱心に見取り図を見ていた。月明かりに照らされた建物の位置を確認していく。しかし、彼にも問題があった。ミラルス同様にジャパン語が喋れないのである。
(「‥‥ここが、呉服屋の部屋か」)
 会話は出来ないので、見取り図の一室を指差し、氷雨に見せた。
「行ってくる。‥‥そちらも気をつけるのだぞ」
 氷雨は神威から見取り図を受け取り、皆よりも早く地面に降りた。彼女の姿は、すぐに闇夜に消えて行った。
「さて、特に問題もないみたいだし、打ち合わせ通りに行くわよ」
 空漸司影華(ea4183)の言葉を合図に、残っていた冒険者は順に地面に降りていった。
「ほら、ミラルスと神威も来るのよ」
 ジャパン語を理解出来ないミラルスと神威は状況が分からなかったが、影華に肩を叩かれると、コクンと頷いてから急いで下に降りた。
 会話が出来ないというのは、結構不便なものである。

●潜入! 悪党屋敷(小悪党懲らしめ編)
 悪党どもをボコボコにするべくやって来た冒険者達は、何の問題もなく敷地内に潜入出来た。番犬が飼われているわけでもなければ、罠が仕掛けられているわけでもなかったからだ。無用心だが、悪党は自分の家に盗みに入られるなどとは思わないものである。
 神威は、見取り図を思い出しながら部屋の配置を数えていった。
(「ひー、ふー、みー‥‥あれか」)
 彼は、指である一室を指し、皆にそれを伝えた。
「‥‥よし、潜入を開始だ」
 平九郎は小さい声で皆に話しかけた。大きい声を出すと、悪党どもに気付かれるかもしれないからだ。
「‥‥行くわよ。そーっと、そーっとよ‥‥」
 圭織は、片足を上げ、ゆっくりと上げた足を下ろした。彼女のスレンダーな足が地面に置かれると、砂の音が極小さく響いた。
(「そこまで音は立たないみたい」)
 小石を敷き詰めたりもしていない様である。
 ソロリ、ソロリ。冒険者達は、ゆっくりゆっくりと部屋との距離を縮めていった。
 ミラルスも、とにかく口を閉ざして、付いていってみる。
(「打ち合わせだと、その後突入ですよね」)
 彼女はきょろきょろと辺りを見回している。抜群の視力を活かして警戒しているのだ。
 飛んでいるミラルスはともかくとして、地面を歩いている冒険者達は、なぜだか皆『忍び足』が出来た。抜き足、差し足、傍(はた)から見れば強盗団にしか見えないのは内緒である。
 突然、パキッという音が聞こえた。
 圭織は、ビクッと肩を震わせた。
(「な、なによ。‥‥敵なの‥‥?」)
 皆は、一斉に後ろを振り返った。
 見ると、影華が足元を見ていた。どうやら、小枝を踏んでしまったらしい。
(「‥‥ど、どうしたらいいんだろ‥‥」)
 皆は息を止めて、しばらく固まっていた。
 ゴクリ‥‥影華は、思わず唾の飲み込んだ。
 特に、圭織を追い抜いて一番前を歩いていた平九郎はドキドキものである。
(「どうか、見つかりません様に‥‥」)
 しばらく時間が経ったが、部屋から音はしない。どうやら気付かれてはいない様子だ。
(「‥‥ごめん‥‥」)
 影華が両手を合わせて謝る。皆は、ちょっとだけ固い笑いを返した。
 ‥‥その後はミスをする事なく、悪党どものいる部屋の入口にまで到着出来た。
 平九郎が一人だけで前に進み出る。
 ギギ、ギギギィ‥‥、床板の軋む音が冒険者達の鼓動を早くしていった。
(「襖の滑りをしておいた方がいいはずだよね」)
 平九郎は、出来るだけ音を立てない様に、部屋の襖の下に油を注ぎ始めた。
 トクトクトクトク‥‥。油が溝を走っていく。
(「‥‥見廻りの来る様子はない」)
 神威は見廻りを警戒していたが、少なくとも近くにはいない様だ。
(「‥‥よし、これで大丈夫♪」)
 平九郎が準備が出来た合図をすると、皆は突入の準備をはじめた。
(「よーし、悪党ども、ボコボコにしてやるわよ☆」)
 二刀流の使い手である圭織は、日本刀と短刀をスラリと抜き放った。月明かりに、二本の刀身が怪しく輝く。
(「あたしの暗殺剣が通用するかどうか試してみる良い機会だわ」)
 空漸司流暗殺剣なる我流剣術の使い手である影華もゆっくりと日本刀を抜いた。はたして、彼女の華麗なる暗殺剣は見られるのだろうか?
 神威は、普段から黒い衣装を着ているので一見忍者にも見えるかもしれないが、実は武道家である。彼は手に金属拳を付け、ギュッと拳を握り締めた。
(「悪党どもめ‥‥成敗してくれるッ!」)
 冷静に見える彼だが、心の奥底では悪党どもへの怒りを燃えたぎらせていた。
 ミラルスも武器を用意している。彼女の小さい手には、小柄が握られていた。
(「懲らしめてやりますから!」)
 彼女も皆同様気合満点の様だ。
 正面突入組みが準備をしている間に、平九郎の姿はどこかにか消えていた。

●潜入! 悪党屋敷(巨悪懲らしめ編)
 氷雨は、一人だけ別行動をしている。
 彼女の標的は、ただ一人。
 悪党どもの親分格である呉服屋だ。
(「ふむ、この部屋で間違いない」)
 彼女は、屋根からスタッと呉服屋が寝ている部屋の前に降りた。
 氷雨は部屋の前に立つと、短刀を鞘から解き放った。

●やりたい放題? 小悪党懲らしめ本番
 カタン。
 カタン。
 カタンカタン。
 突然の音。
 部屋の襖が、勢い良く開けられた。
 冒険者達もすぐには踏み込めなかった。月明かりが射し込んでおらず、暗かったからである。
 暗くて依頼人の兄の場所が確認出来ない。
 目を凝らしている間に悪党達が火を灯してしまった。‥‥しかし、彼等に冒険者達の顔が見えるはずもない。なぜなら、『覆面忍者軍団』だからである!
(「な‥‥なんだッ!」)
 飛び起きた悪党どもは、侵入者達の姿に愕然とした。
 覆面をした黒装束の人が三人。同じ姿をした空飛ぶ小さい人が一人。
 怪しすぎる。
 どう見ても強盗団だ。
 しかも、空飛ぶ小さい人が今まで喋れなかった鬱憤を晴らすべく、ビシッと相手を指差して、態度の割に小さい声で
『たまとったらー』
 などと言ったものだから、悪党どもの額からは謎の汗が流れた。しかも、ゲルマン語。まさに外国人強盗である。
 冒険者達は各々の武器を持ち、部屋の中へと踏み込んだ。
 悪党も悪党なりに用意をしているらしい。枕の下から短刀を取り出す。相手の数は、五人だけだ。本当に大した数ではなかった。
『今の内に‥‥フレイムエリベイションッ!』
 ミラルスは、後方でフレイムエリベイションを使った。ミラルスの体を淡く赤い光が包み込み、俄然やる気がみなぎって来た。
「野郎ッ! 俺達の家に踏み込むとは良い度胸じゃねえかッ!」
 悪党(一)は、圭織に襲い掛かった。
 甲高い金属音が部屋が響く。見ると、彼女の左手に握られた短刀が、悪党(一)の短刀を押さえていた。
「新陰流の極意は、捨て身。それに‥‥上段からの一撃にあるのよッ!」
 上に掲げていた右手の日本刀を勢い良く振り下ろす。
「ぐはッ!」
 悪党(一)の左肩に日本刀の峰がめり込んだ。ゴリィ‥‥という気味の悪い音がした瞬間、悪党(一)の表情がニヘラニヘラとしたものから苦悶の表情に変わった。
 影華も悪党(二)との戦闘に入っていた。
(「この程度の相手ならッ!」)
「‥‥シュッ!」
 全身の筋肉が動き、口からは空気の音だけが漏れる。彼女は、暗殺剣の使い手。まだまだ喋る場面ではない様だ。
 彼女に操られた日本刀の峰は、正確に悪党(二)の脇腹を捉えていた。悪党(二)は激痛に短刀を落とし、恐れ戦いた顔を見せる。
 神威は、二人、悪党(三)と悪党(四)を引き受けていた。
 悪党(三)の短刀が彼の右の腕を浅く裂いた。両者に挟まれているためか、悪党(四)の攻撃も避けきれず、左肩の辺りに浅く赤い線が走る。
 しかし、神威に物おじる様子は無い。逆に怒りに燃えているのか、金の瞳を輝かせていた。
『罪には罰を‥‥お前達は、酬いを受ける時が来た』
 神威の鉄拳が、悪党(三)に飛ぶ。しかし、悪党(三)は身をよじって拳を避けた。
「何だ、大した事ない」
 悪党がそう言おうとしたまさにその時、二発めの拳が『みぞおち』に入った。続けて、膝蹴りも同じ箇所に叩き込む。
「‥‥ぐおッ!‥‥あ、があッ‥‥」
 悪党(三)もまた、戦闘意欲を失くす事になった。残るは二人。しかし、一人は今にも逃げ出しそうであった。おそらく彼が依頼人の兄だと思われる。
 悪党(四)は、勇敢にも一人で戦闘を続けていた。
「やられてたまるかッ!」
『‥‥あまい』
 彼の渾身の一撃は、神威に難なく避けられ、虚しくも空を斬った。
『正義の力を見せてやるのです! ‥‥バーニングソードッ!』
 悪党(四)に駆け込んでいた圭織の日本刀が、ミラルスの魔法でバッと燃え上がった。圭織は、燃え上がった日本刀を上段に構える。
「やあッ!」
 圭織の気合の入った一撃が、一直線に振り下ろされた。峰を使ったそれは、先程同様に肩の骨にヒビを入れた。
「‥‥く、くそ‥‥逃げるんだッ!」
 悪党達が一斉に逃げ出そうとしたその時、彼等の退路にスタッと降り立つ者がいた。
 平九郎である。どうやら、天井裏から廻り込み、敵の退路を断つ作戦だった様だ。
 彼は、喉の奥をクククと鳴らしている。悪党どもは、またの覆面忍者の登場に目を丸くした。
「な‥‥なんだ、てめえはッ!」
「お前等の後ろにいる連中の仲間さ」
 何時もと少し違った口調である。脅し口調というべきか。
「実は、親方から頼まれてねえ‥‥。手前らの押し込みは、俺ら本格盗賊の品位まで下げかねねーから調子に乗る前に消しちまえ、だとさ」
 手裏剣を取り出し、それをチラチラと彼等に見せる。
 黒光りしたそれは、傷を負った悪党どもを恐怖に陥れた。突然現われた敵に、悪党どもは意味消沈してしまい、その場にへたり込む。
「もし、またこんな真似をしたら、今度はこれぐらいじゃすまないわよ」
 圭織は燃え上がったのままの日本刀を悪党ども突きつけた。クスリ。覆面の上からでも、彼女の唇の危うい動きが見えた。
 その後、布団の辺りにチラチラとした炎を近づけたりしてみると、悪党どもは
「勘弁してくれ」
 と何度も謝った。焼き殺されてはたまらないと思ったのだ。
『二度と悪事を働くなよ』
 神威は、依頼人の兄に向かって念を押した。華国語なので意味は伝わっていないが、一応頷いてはいる。
『うーん、お話は出来ませんから‥‥えいッ!』
 ミラルスは会話が出来ないので、とりあえず悪党を蹴っておいた。
「ふぎゃッ!」
 悪党の哀れすぎる悲鳴があがる。
 騒ぎを聞きつけたのか、使用人達の声が近づいて来るのが聞こえた。
「あんまりにも騒がしい、何かあったに違いない」
 そろそろ時間が無いらしい。
 最後の脅しは、影華だ。
「今回は見逃してやるわ‥‥。だけど、これ以上盗賊として活動するつもりなら‥‥次は無いわ」
 彼女の刀が、悪党の胸の辺りをスーッと通り抜ける。パラリ、と服が斬れた。
 彼等はどうしようないといった様子で、何度も頷いた。
 悪党どもが顔を上げると、すでに覆面忍者軍団の姿はなかった。

●戦慄! 恐怖の脅し文句
 呉服屋‥‥正確には呉服屋とその妻は震え上がっていた。
 突然、短刀を持った謎の覆面男ならぬ覆面女が押し入って来たのだ。
 しかも、氷雨はいきなり呉服屋の喉下に短刀を突きつけ、
「‥‥動くと一生日が拝めなくなるぞ? そこの女も少し黙っててもらおうか」
 と言って一緒に寝ていた妻にまで脅しをかけていた。これでは騒げない。
「‥‥おぬし、どうやら悪さをしているらしいな? また悪さをするというのなら、日が拝めないどころか、地獄すら生ぬるいほどの苦痛をあたえるが‥‥どうだ?」
 呉服屋は、あんまりの脅し文句にすでに泣きっ面だ。
 使用人達の声が聞こえはじめると、彼女は
「‥‥よく覚えておけ」
 と言い残して、その場を後にした。
 その後、妻のすすり泣く声が漏れはじめた。
「‥‥あんた、あたしを騙していたのかい‥‥良い人の振りをして」
 どことなく、気付いてはいたのかもしれない。

●その結果‥‥悪党家族は崩壊、兄帰る
 後日、覆面忍者軍団の活躍は、少なくとも表の世界では話題にはならなかった。呉服屋からひっそりと柄の悪い連中が消えていたのが話題になった程度である。呉服屋が悪智恵を働かせたのか、あれは酒の上での喧嘩‥‥という事になったらしい。
 しかし、その成果はあった様で、依頼人の兄は悪事から手を引き、今は田舎に戻っていた。
 呉服屋の家族の仲が、極端に悪くなったらしいのが気がかりだが、結果としては良かった部類に入る。そして、覆面忍者軍団も惜しまれながら解散する事となった。‥‥また活躍の機会が来るかもしれないが。
 何はともあれ、一件落着である。
 『覆面忍者軍団』よ、お見事!