退魔褌
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■ショートシナリオ
担当:橘宗太郎
対応レベル:1〜3lv
難易度:やや難
成功報酬:0 G 78 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:10月18日〜10月23日
リプレイ公開日:2004年10月26日
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●オープニング
●魔物達の噂
奥深い山中。
暗がりで蠢く魔物達の姿があった。
『‥‥退魔褌』
魔物達は、その名前を聞くと一斉に嘆きはじめた。
『また退魔褌どもの仕業らしい‥‥様子を見に行ってきたが‥‥もはや再起不能だ』
『なんたる事だ。‥‥死んでも死にきれまい‥‥』
くぐもった唸り声に、何かの動揺が感じられる。
『我等とて、人に嫌われる側‥‥覚悟は出来ている。しかし、あの姿‥‥酷すぎる仕打ちだ。‥‥退魔褌‥‥恐ろしい奴等よ』
はたして、退魔褌とは‥‥。
●退魔褌
「‥‥ふむ」
その褌の締まりの良さに、ある冒険者は思わず息を飲んだ。
(「まさか、これほどのものとは‥‥」)
股間の擦れは感じるが、それが悪くはない。肌触りも褌とは思えないほど良かった。自ら封じ込めていた何かが奥から這い出る‥‥。冒険者は、そういう感覚に襲われた。
「親父さん、‥‥これが噂に聞く退魔褌なのか?」
親父さんは、その言葉に眉を顰(ひそ)め、
「‥‥それは、お前さんの活躍次第だ。退魔褌は、そのままでは、ただの具合の良い褌にすぎない。しかし、その褌一丁でお前さんが魔物を倒したら‥‥その相手が永遠の命を持っているとしても、受けた傷の大きさは計りしれないものがある‥‥。もちろん、その事実を知った魔物どもも恐れ戦くはずだ」
傷とは、誇りを傷つけるという意味のものだ。智恵があれば、誇りがなくても傷つくと思われるが。
「なるほど。ただの褌‥‥俺が、この褌を退魔褌にするのか」
「‥‥その通り。魔物どもは、俺達の住む場所からは消えないかもしれない。‥‥しかし、退魔褌がある限り、奴等は闇に生きるしかないのさ」
その言葉を聞いた冒険者は、静かに親父さんを振り返った。
「‥‥褌を見て逃げる魔物なんざ、傑作すぎる」
親父さんの目には、退魔褌を締めた冒険者の姿が、それ以前よりも何倍も逞しく見えた。
●傘化け退治の依頼
「君達は、まだまだ未熟。‥‥しかし、退魔褌は休む事など許されない‥‥」
親父さんは、冒険者達‥‥否! 退魔褌達の前に、一束の書類を投げた。
「江戸に蠢く魔物どもの数は、今だに掴めてはいない。しかし、その蛮行を許す理由があるはずもない。‥‥今回の獲物は、傘化け。‥‥報告では八匹‥‥江戸から少し離れた墓場にいる。‥‥君達にとっては、初めての褌戦(ふんどしいくさ)だ‥‥。墓場の地形は複雑で、連携がとり難い‥‥くれぐれも気を抜かない事だ」
退魔褌達には、依頼の内容以上に気になる事があった。
「‥‥親父さん、秋風は寒さに耐えるには?」
その問いに、親父さんは微かに笑みを浮かべた。
「言うまでもない。‥‥気合だ」
‥‥とりあえず、出かける前に服は着ていく退魔褌達であった。戦いに入る前に、褌一丁になればいいだけだ。
「その褌を締めを甘くすると、とんでもない事が起こる可能性がある。‥‥気をつける事だ」
親父さんの言葉が、退魔褌達の両肩に重くのしかかった。
‥‥‥退魔褌。
その真価は、いかほどのものか。
●今回の魔物
傘化けは、傘にとりついている妖怪です。墓場や野原などの人気のないところに現れ、集団で犠牲者を取り囲んで襲い掛かります。
●リプレイ本文
●退魔褌 〜準備〜
冒険者ギルド。
今、まさに冒険者達は『退魔褌』になる瞬間を迎えていた。‥‥性的主張が強すぎるので、女性はサラシも巻いている。
ファルク・イールン(ea1112)は、退魔褌を付けた瞬間に言い様の無い衝動に襲われた。‥‥股間の擦れが、悪くない。
(「よし‥‥一丁(いっちょ)、この俺が立派な退魔褌にしてやるぜ!」)
魔物への憎しみを超えた『熱い思い』が彼の奥底から湧き出しているのだ。
退魔褌を穿き、着替え部屋から出てくる冒険者達の顔は、より一層精悍さを増している。
郭培徳(ea7666)は、皆の褌の締め具合を確認していた。何時もの悪戯かもしれない‥‥否! 退魔褌の行動は、全てが誠実‥‥悪戯の気など消え失せている。そして、退魔褌の真髄は、その締め具合にあるのだ。
(「なんと! ‥‥素晴らしい締め具合じゃ‥‥」)
培徳(ばいとく)は、思わず息を飲んだ。
空漸司影華(ea4183)は、
(「脱げてしまったら恥ずかしい‥‥」)
という理由で、退魔褌を特別きつく締めていた。普段の勝気さからすると、少し意外かもしれない。しかし、その結果、彼女の退魔褌の締め具合は素晴らしいものになっていたのである。
(「‥‥む!」)
培徳は、阮幹(ea7062)(ぐえん・かん)の褌を見て、顔を顰(しか)めた。‥‥退魔褌ではなく六尺褌をしている。
それに気付いた親父さんは、彼女の姿を見て愕然とした。本当の問題は『褌』ではない。‥‥彼女が『ウサギ耳』だった事が大問題なのだ。
(「しまった! ‥‥予想外だ。ウサギ耳で、露出度が高いだと‥‥性的主張が強すぎる! これでは、全体の士気に関わる」)
実は、彼女が退魔褌を付けてないのは、理由がある。彼女は、一人で着替えをするのが苦手なのだ。そこで、
「幹、あんまり動いちゃ駄目よ」
影華が彼女の手伝いをしてあげる事になり、急いで退魔褌を装着した。ついでに‥‥任務を果たしてくるまでウサギ耳を没収する事に。
「え〜、そんなの嫌だよ」
と言っていた幹(かん)も、退魔褌を締めると、満更でもない様子である。
「ん‥‥ウサギ耳をとられたのは残念だけど、悪くないよ‥‥意外にだけどね」
『褌隊』なる集団に仮入隊している彼女にとってみれば、褌一丁も問題ではないはずだ。‥‥おそらくは。
小国生まれの秋雨皐月(ea6524)は、江戸以外で暮らしていた期間が長かったためか、
「サラシに褌のみが正装とは、江戸の組織とは奥が深い‥‥」
などと、ある意味で凄い勘違いをしていた。思い違いはしているものの、巨人族の彼女が退魔褌を付けている姿は尋常ではない迫力がある。
「まったくだよ。‥‥お江戸の冒険者は、変わり者ばかり」
普段おちゃらけている白井鈴(ea4026)の渋い返事が、退魔褌の質の高さを表しているかの様だった。しかし、その変化をおかしいとは思わない。退魔褌とは、渋く褌を穿きこなす集団なのだ。
範魔馬斗流(ea2081)は、以前も褌姿を披露した事があるらしい。
(「‥‥褌とはつくづく縁があるらしい‥‥それにしても、女子の褌姿か、なかなかのものだ」)
確かに、女性の褌姿を見れる機会は、さほどあるものではあるまい。しかし、馬斗流は、すぐに彼女達から視線を外した‥‥退魔褌に休む事は許されない‥‥楽しむのは、任務を果たした後だ。
退魔褌が一番しっくり来ているのは、矛転喪之起(ea3197)だろうか。巨人族である彼は、皐月と同じく迫力ある褌姿を見せていた。
(「‥‥民衆に仇なす妖め、拙僧がこの拳と退魔褌にかけて捻り潰してくれるわ!」)
彼の頭に、自らの子供の姿が思い浮かんだ。子供達が安心して暮らせる世界を作り出すため、魔物どもを許すわけにはいかない。
そして、出掛ける前に、‥‥きちんと服は着ていく退魔褌達であった。
●退魔褌 〜待伏せ〜
深夜。
退魔褌達は、傘化けが現れる墓場まで来ていた。墓石‥‥といっても、大きい石が置かれただけの古めかしい墓場だ。その表面には、苔(こけ)がびっしりと生えていた。
‥‥寒い。秋の墓場は寒い。服を脱ぎ捨てれば、すぐにでも褌一丁になれる様にしている退魔褌達にとって、最大の難関は、『寒さ』であった。
彼等には、それに対抗する素晴らしい案を持っている。『焚き火』だ。しかし、作戦は、囮班と奇襲班に分かれている。‥‥奇襲班は目立つわけにもいかず、墓石の間で、その寒さに震えた。深夜の墓場は、ひんやりとし過ぎている。
「焚き火‥‥あったかいね」
「うん。お祭りみたいで楽しいよ」
幹と鈴の二人は、墓石に隠れた六人を尻目にぬくぬくとしていた。
(「‥‥不覚ッ!」)
ファルクは、ブレスセンサーで傘化け達を探すつもりだったが、残念ながら彼等は息をしていないのだ。
パチパチ‥‥火の粉の飛ぶ様子を見ながら、じっくりと温まる囮班。しかし、彼等の安息の時間は長くはなかった‥‥。
カツッ! カツッ! 何かの音がする。木が何か固いものとぶつかっている音‥‥傘化けが現れた様だ。
傘化けの姿は見えないが‥‥バッ! 二人の退魔褌は、着ていたものを投げ捨て、その真の姿を現した。‥‥褌姿の男女が、焚き火に照らされる。そして、その後ろ‥‥墓石に隠れながら、服を脱ぐ六人の姿があった。
ついに‥‥墓石の間から、骨が折れ裂けたボロボロの傘が出てきた。幸い焚き火をしているので、ある程度までの視界は確保出来ている‥‥傘化けの数は、報告通りの八匹。‥‥褌戦(ふんどしいくさ)の開始だ。
●退魔褌 〜褌戦〜
焚き火をしていた二人に、傘化け達は襲いかかった。が、傘化け達は自分達が罠にはめられている事に気付いていなかった。傘化け達が囮班二人の直前にまで迫ったその瞬間、奇襲班六人は一斉に傘化けの後ろに回り、その褌をはためかせていたのだ。
傘化け達がいるのは墓石の間、集中して攻撃が出来ない。近接戦闘では、一人ないし前後二人の連携で片をつけるしかない。
寒さに震えながらも、墓石の間に傘化けの姿を確認した影華は叫んだ。
「‥‥魔物どもめ‥‥私にこんな格好をさせたことを後悔させてやる!」
何か間違っている気もするが‥‥とにかく羞恥心を魔物への怒りに変えているのは、間違いない様だ。‥‥怒りが高まるにつれて、体も温かくなってきた。
「やあッ!」
囮班を取り囲んだ傘化け達に、後ろから斬りかかる。ズバッ‥‥憤怒の一撃は、傘化け(一)の柄を深く傷つけた。しかし、傘化けに退く様子はない。続けて、もう一太刀、ボロボロの傘が、更にボロボロに刻まれていく。
(「‥‥今が勝機!」)
傘化け(二)に狙いを定めたのは、大槌を抱えた皐月だった。
「でぇぇぇぇいッ!」
すでに達人の域にまで達している彼女が、傘化け程度の相手を逃すわけもない。ドォン! ‥‥ゴシャッ。横殴りの衝撃に、傘化け(二)は骨の破片を撒き散らし、勢い良く吹き飛んだ。もはや、傘化け(二)は再起不能。近くにあった墓石まで削れている‥‥凄まじい威力だ。
馬斗流は、松明(たいまつ)に火を付けると、名乗り声を上げながら傘化け(三)に駆け込んだ。
「俺は、退魔褌・範魔馬斗流、魔を討つ刀なり!」
松明を傘化け(三)に向けて振り回す。松明で傘化けに火が付くか試してみているのだが、燃えるほど長い時間近づけていられなかった。
「とおッ!」
喪之起は、墓石を踏み台にして傘化け(四)に飛び掛っていた。墓石がゴロンと転がる。
「拙僧の一撃が避けられると思ったか? 甘いわ!」
‥‥ガッ、ガッ、ガッ! 一度踏んづけると、そのまま蹴り続ける。僧兵の割に滅茶苦茶だが、それも退魔褌としての意気込みの表れに違いない。
彼に踏みつけられた傘化け(四)は、骨をバキバキに折られ、再び起き上がる事はなかった。
「ワーハハハ!」
謎の笑い声が、傘化け(五)の後ろから迫ってきていた。笑い声を上げているのは、培徳だ。
傘化け(五)を何回も殴る。彼は笑い声をあげながら、鉄拳制裁を楽しんでいた。‥‥褌の締め具合を確認していた時点で、彼の奇行は分かっていた事だ。
傘化け達もやられるばかりではない、囮班へ攻撃を仕掛けている。二人は身構え、その攻撃に備えていた。
しかし‥‥、
「うわッ!」
鈴は傘化け達の攻撃を避けきれず、横から傘化け(七)の柄による一撃を受けた。ゴッ! 鈍い音がした後で、彼は左の脇腹に押さえた。傷はまだ軽いが、続けて食らっては堪らない。‥‥実は、彼は微塵隠れをしたかったのだが‥‥時間もないし、その衝撃で幹が巻きぞいになるので、難しかった。
「‥‥そんなんじゃ当たらないよ」
褌が、華麗に揺れる。
幹は、左右から迫る傘化け達の攻撃を上手く避けていた。囮としての役割も十分に果たしている。
皐月の勢いは止まらなかった。鈴を傷つけた傘化け(七)の後ろから攻撃を仕掛ける。
「抗う物全てを打ち砕く鉄槌を受けてみろッ!」
その巨体を活かし、大槌を軽々と持ち上げる。振り下ろされた鉄槌は、傘化け(七)の細い体を軽く粉砕していた。もはや、傘化けの残骸は、木屑としか言い様がなくなっている。
魔物への怒りに燃える影華も負けてはいない。
(「決して褌を穿きたかったわけではない。‥‥褌の字が読めなかっただけなのよ‥‥!」)
ザシュッ!
ポトリ、ポトリ‥‥彼女の攻撃を受けた傘化け(一)は、見事に柄を分断され、地面に落ちた。
囮役を引き受けていた幹も短弓を構え、反撃に出る。馬斗流の方を向いた傘化け(三)に狙いを付け、弦を絞る。
「おイタすると‥‥許さないよッ!」
トスッ! 彼女の矢が傘化け(三)の真芯を捉え、傘の骨が一本増えた。そのバランスの悪さは、傘にとって屈辱以外の何物でもなかった事であろう。‥‥もっとも、褌一丁の人達に倒される予定だから、もっと格好悪いのだが。
続けて、鈴も攻撃に転じる。彼は傘化け達の姿を見て、
(「うーん、傘の種類は大して違わないみたい‥‥面白くもない」)
などと思っていた。冷静すぎる見解である。
「たあッ!」
二本の手裏剣が、彼の手元から傘化け(三)に向かって飛んでいく。
それは小さい音を立てて、傘化けの体に突き刺さった。
更にファルクも、それを支援していた。
「俺の風の前に‥‥塵と消えなッ!」
彼の手から、真空の刃が放たれる。ウインドスラッシュだ。
その刃は、傘化けに僅かに張り付いていた紙を吹き飛ばし、真ん中の辺りに小さい傷を入れた。
馬斗流は、松明の火が効かない事が分かり、腰の刀を抜いた。
「俺のこの褌が、お前達の血を吸いたいと叫んでおるわ。‥‥覚悟しろ!」
その一刀は傘化け(三)の体を横一文字に斬り、骨と柄に深く一の字を刻んだ。バキィ‥‥中ほどから体が折れ、傘化け(三)は絶命した。
喪之起は、傘化け(八)に攻撃を仕掛ける。
「父の誇りを見せてくれるわ! 子供達の未来は渡さん!」
父の拳が唸りをあげて、傘化け(八)を襲った。その連打に、骨や張られていた紙が飛び散っていく。
今だに笑い続けているのは、培徳であった。
「‥‥ははッ! ‥‥わははッ!」
まだ飽きずに殴り続けている。息が途切れ途切れなのは、決して無理をしてるからではないはずだ。
すでに半数以上が、退魔褌達の餌食になっていた。
退魔褌達は、残る三匹を始末しにかかる。
ゴシャ!
ズシャ!
ドコッ!
筆舌に尽くしがたいほどの猛攻を受け、傘化け達は塵と化した。
‥‥月明かりが、彼等を照らす。
褌に描かれた退魔の文字が、月に挨拶しているかの様に輝きを増す。‥‥秋風に、彼等は鳥肌を立てた。
●退魔褌 〜空を飛ぶ褌〜
「どうだ、思い知ったか! 退魔褌をなめんなよ!」
ファルクは、片足を墓石の上に置き、勝利の雄叫びをあげた。
彼の褌姿も、勇ましいものになっている。風が彼の褌を静かに揺らしてた。
照れなど一片もない。まさに『退魔褌』だ。
突然、強風が吹いた。
パラリ‥‥何かの布が空を舞った。退魔の字が、焚き火の灯りを受けて妖しく輝く。
「これは、退魔褌‥‥まさか、外れたのか? 一体、誰のが‥‥」
皐月は神妙な面持ちで、空飛ぶそれ掴んだ。‥‥まだ温かい。
「なんだか‥‥スースーするよ」
幹が、驚いた顔をしている。どうやら‥‥退魔褌を飛ばされたのは、彼女らしい。
「‥‥え! あ‥‥見ちゃった‥‥?」
退魔褌により精神年齢の低さを隠されていた鈴であったが、この瞬間だけは、さすがに正気(?)に戻ったのか、少し顔を赤らめていた。本来の彼は、少年のごとき純朴青年なのだ。
男性陣の視線が、ついつい彼女に集まる。しかし、その体の気になるところは‥‥揺れ落ちる枯れ葉に隠されていた。‥‥残念だ。
「あーん! 見ないでよー!」
墓石の後ろに隠れる幹。退魔褌の締めが甘かった‥‥何たる不覚! 親父さんの恐れていた事態である。仲間の窮地に、影華は急いで駆けつけた。そして、すぐに退魔褌を締め直してやる。
「ごめんなさい。‥‥まさか、締め具合が足りないとは‥‥」
‥‥今度は、きつく締めておいた。
(「まさか、退魔褌が宙を舞うとは‥‥これこそ、役得に違いない」)
任務が終わり、その余韻を楽しむ馬斗流であった。
任務後の息抜きぐらいなら、良い。
倒してしまった墓石を起こした喪之起は、傘化け達の残骸を集めると、それを踏みしめた。
「‥‥貴様らは、拙僧に敗れたのではない。己の退魔褌を怖れる心に敗れたのだ!」
その言葉に、一同は深く感動した。そして‥‥寒かったので、傘化けの残骸を燃料に、しばらく焚き火を続けていた。
彼らの背後で、魔物達が噂する。
『‥‥く、様子を見に来てみたが‥‥傘化け程度では、やはり駄目だったか‥‥。褌一丁のみならず‥‥裸一貫だと!』
『さぞ‥‥無念だったに違いない。‥‥なんという仕打ちッ!』
様子見に来ていた魔物達によって、退魔褌の噂は、また広まっていく事だろう。
「退魔褌がある限り、お主等の悪事は成り立たんのじゃ! ワハ‥‥ゴホッ!」
夜空に、培徳の笑い声が何時までも響き渡っていた‥‥。
●退魔褌 〜締め〜
冒険者ギルド。
「‥‥終わったか。傘化け程度に手間取らなかったのは評価出来る‥‥しかし‥‥褌の締めは甘くしてはいけない。‥‥退魔褌の最大の弱点は、性的主張が強い事だ。周囲の関心を買い過ぎてはいけない‥‥注意力が散漫になるからな。以後、気を付けたまえ」
親父さんの忠告の本当の意味を聞き、退魔褌達は喉の奥をゴクリと鳴らした。まさか‥‥その事を危険視していたとは。
何はともあれ、傘化けに蹂躙されていた墓場には、再び平穏が訪れた。‥‥少し墓石が壊れたが、墓参りが出来なくなるよりはマシというもの。
『退魔褌』よ、お疲れ様。