●リプレイ本文
●すねこすりのいる町
お寝坊さん達が起きる時間。
小鳥のさえずりが、随分と前から響き渡っていた。
『すねこすり』を捕まえる依頼を引き受けた冒険者達も、昨晩遅くに泊まった宿の布団からモゾモゾと起き出している。
着替えを済ませて、宿の外に出ると、空気がひんやりと冷たかった。
焚雅(ea7662)は、大きく伸びをした。彼女の口調は、少しだけ変わっている。
「んー‥‥気持ちの良い朝じゃの〜☆ 朝食の焼き魚はなかなかじゃった」
意外と、身分の高い生まれなのかもしれない。
(「なんか、聞いた話だと、もの凄く可愛いのじゃ! 楽しみじゃの〜☆」)
もちろん、『すねこすり』に期待をしているのは、彼女だけではない。
今回の冒険者は、皆女性である。そもそも、なぜ彼女達は朝っぱらから元気なのか。
それは、『すねこすり』を捕まえられれば、『もふもふ』する権利が得られるからである。
彼女達は、思いっきり『もふもふ』したいのだ。
●どこにいるのか、すねこすり(前)
冒険者達は、『すねこすり』の捕まえるための行動を開始していた。
まず重要なのは、情報集めをする事だ。聞き込み役の冒険者達は、『すねこすり』が現れた場所を書き記し、最後にその情報を集め、『すねこすり』が出現する場所を特定するつもりだ。
氷雨鳳(ea1057)と空漸司影華(ea4183)は、以前からの友人らしく二人一緒に聞き込みをしていた。
「『すねこすり』という猫の様な獣を見ていないか? 人を転ばせて困らせているらしいのだが」
しばらく聞き込みを続けていると、氷雨の問いに明確に答えてくれる人が現れた。
「『すねこすり』に転ばされた事があるのか? ぜひ話を聞かせてくれ」
「あー、酒を飲んで家に帰る途中に‥‥いきなりゴロンとやられちまったよ」
「なるほど‥‥転ばされた場所なんて、わかるかしら? 出来れば、詳しく教えてほしいのよ」
影華は、氷雨の横で質問を続けながら、筆を走らせていった。空漸司流暗殺剣なる我流剣術の使い手も、今はただただ『もふもふ』をしたい女の子である。
「『すねこすり』を見かけたのか。‥‥転ばされた時に、何匹いたかはわかるか?」
「一匹かなあ‥‥暗くてよく見えなかったけど」
紅李天翔(ea0967)も同じく聞き込みをしていた。
なぜだか、後ろに天凛寺華弥(ea6371)も付いてくる。
「‥‥実は、書くものを忘れちゃいました」
(「天翔さんって、ちょっと怖い感じの人ですけど‥‥」)
長い時間に、たくさんの人に対して聞き込みをするので筆がないと不便なのだが、彼女は筆記用具を持っていなかったのだ。
「よくある事さ。一緒に聞き込みをすればいいだけだ」
天翔は、身を屈めて年下の華弥の頭を軽く撫でてあげた。両目の傷痕がちょっぴり怖いかもしれないが、落ち着きのある人なのだ。
ユウナ・レフォード(ea6796)は、聞き込みもそっちのけ(?)で、お店に飾られた茶器を覗いていた。興味津々といった感じである。
フランク王国生まれの彼女がジャパンにいるのも、茶器やそういったものに魅力を感じての事らしい。
(「あの色艶、とても素晴らしいです‥‥でも、予算が‥‥」)
しばらく茶器の辺りをウロウロしていた彼女であったが、誰かに後ろからヒョイッと持ち上げられた。
「‥‥何をしているんだ?」
後ろを見てみると、呆れ顔の天翔がいた。
そうして、ユウナも真面目に聞き込みをする事に。
●すねこすりは、ずんぐり足がお好き?
「‥‥うーん、しょ」
奉丈陽(ea6334)は、二本の『太めの棒』を運んでいた。
(「このぐらいの太さなら、人の足に見えると思うのですが‥‥」)
どうやら、彼女の作戦は、足に見せかけた棒にすり寄ってきた『すねこすり』を捕まえるというものらしい。
なんだか、お茶目さを感じる作戦だ。
●人間おきあがりこぼし?
「おじさん♪ この駕籠、借りていっていいですか?」
お色気で魚売りのおじさんから駕籠を借りてきたアミー・ノーミス(ea7798)は、その駕籠を利用して罠を作る気だ。
「これを、こうして‥‥」
作っているのは、大きい『おきあがりこぼし』。
転ばしても、転ばしても起き上がってくる達磨人形だ。もっとも、人形になるのは彼女自身だが。
駕籠の中心に拾ってきた大きい石を入れるだけ‥‥それで、完成だ。
●どこにいるのか、すねこすり(後)
少し暗くなってきた頃に、彼女達は再び集合をしていた。
影華と天翔が、書き記した内容を地図に反映していく。
「こっちは終わった。影華、そっちはどうだ?」
「よし‥‥これで、範囲が狭まったわ」
情報を集めてみると、酒場やそういう類の店の近くで、『すねこすり』に転ばされる人が多い事がわかった。木などで町の明かりが遮られ、人がたくさん通る場所に現れる様だ。
人数を分ければ何とか出来る範囲だったので、冒険者達はそれぞれの作戦で『すねこすり』を捕まえる事になった。
●すねこすりはんと(氷雨鳳)
深夜。
遠くから、酔っぱらい達の大声が聞こえてくる。
幸い月明かりはあるが、『すねこすり』が近く来ないと見えそうになかった。
ガサガサ‥‥。
草の揺れる音がする。
「なにッ!」
彼女は、飛び出してきた何かに足をすくわれた。とはいっても、元から転ばされる気だったが。
転びながらも、月明かりを頼りに手を伸ばす。
「‥‥きゅッ! きゅうーッ!」
‥‥彼女の手に、何ともいえない感覚がひろがった。
「お前、なかなか可愛いな‥‥」
持ち上げてみた『それ』は、白くて丸々とした猫だった。‥‥噂の『すねこすり』だ。
ギュウゥ‥‥氷雨は、『すねこすり』があまりにも可愛かったので、思わず抱きしめてしまった。
「きゅ〜‥‥」
●すねこすりはんと(天凛寺華弥)
華弥は、『すねこすり』を見つけてから、忍び足で近付く予定だった。
しかし、『すねこすり』は、暗い夜道に突然現れる。普通に見つけるのは、難しい。
(「うーん、おかしいですね‥‥」)
「‥‥わッ!」
辛抱強く待っていると、通りすがりの人が転んだ。
(「こう暗くては、よく見えません‥‥せめて、すねこすりの姿だけでも見たかったのですが」)
彼女が飛び出した頃には、すでに、『すねこすり』の姿は闇に消えていた。
「きゅー」
●すねこすりはんと(奉丈陽)
奉丈は、道の近くにある藪の中にいた。
(「なかなか現れませんね‥‥」)
彼女は、二本の棒をじっと観察していた。
「おーい、すねこすりさーん、足がありますよー‥‥」
夜道に向かって手招きをしてみるが‥‥何も来ない。‥‥何時まで経っても来ない。
二本の棒は、足には見えなかった様だ。
「‥‥きゅ〜?」
●すねこすりはんと(ユウナ・レフォード)
ユウナは、道の近くにある藪の中で、家に帰る町の人が転ばされるのを待っていた。
酔っぱらった町の人が、千鳥足で歩いてくる。
(「あの人、転ばされそうですけど‥‥」)
そして、突然転んだ。小さくて、丸っこい影が近くにいる。
コアギュレイトの詠唱をはじめるが‥‥
(「うー、これは‥‥間に合わないですね」)
詠唱をしている間に、影はどこかに走り去ってしまった。
「きゅーん」
●すねこすりはんと(空漸司影華)
影華は、上に着ていた法衣を脱いで、それを手に持った。
どこから来るのは見当がつかないが、とにかく自分を囮にして捕まえるつもりだ。
すると‥‥いきなり何かが足にぶつかり、思わず尻餅を突いた。
「イタタッ‥‥逃がさないわ!」
バッ! 法衣を大きく広げて、逃げようとする太っちょ猫の上に覆いかぶさる。
(「‥‥この感覚‥‥やった!」)
‥‥モゾモゾ。‥‥モゾモゾ。何かが法衣の下にいる。そのまま抱きかかえると、
「きゅ〜ん?」
『すねこすり』が法衣の隙間から顔を出した。
「これが‥‥すねこすり? なんて‥‥可愛いのよッ!」
頬をスリスリ。
「きゅ!」
●すねこすりはんと(焚雅)
雅は、道の真ん中に立って、『すねこすり』を待っていた。
(「よし、来るがよいのじゃ!」)
『すねこすり』のぞわぞわ攻撃に耐えるつもりらしい。
そして、突然現れた『すねこすり』にまとわりつかれて転ぶ雅‥‥。なんとか手を出してみるが‥‥、
「ま、待つのじゃッ!」
彼女の手は、『すねこすり』を触れる事が出来なかった。
「きゅう♪」
●すねこすりはんと(紅李天翔)
(「‥‥来る」)
天翔は、何かが近付く音を聞き取っていた。しかし、彼女はわざと倒されるつもりだ。
スネの辺りにモゾモゾとした感触が。
前のめりに倒れながらも、動く影に両手を伸ばす。
「ちょっと甘かったか‥‥あー、触りたかったのに」
彼女の手をスルリと抜けて、影はどこかに消えてしまった。
「きゅっきゅ〜♪」
●すねこすりはんと(アミー・ノーミス)
アミーは駕籠の上に乗っかりながら、足を地面スレスレに置いていた。
「ん‥‥あれ?」
気をつくと、丸っこい猫がアミーの足に体当たりをしていた。
駕籠が、グラグラと揺れる。‥‥しかし、『おきあがりこぼし』は転ばないのだ。
アミーは、そーっと『すねこすり』の首の後ろを掴んで持ち上げた。
「きゅ〜ん‥‥きゅ?」
ちょうど、そこに通りすがりのオジサンが通る。
「やった! さすが、脚を選ぶスネちゃん‥‥ちゃんと判ってるわね〜」
「きゅ〜♪」
オジサンとの美脚勝負に勝って喜んだのか、ニコニコ顔のアミー。
『すねこすり』が誰にでもまとわりつく(体当たりする)というのは、‥‥内緒だ。
●もふもふ・た〜いむ
捕まえた『すねこすり』を山にまで捨てに行く間、『すねこすり』を捕まえた冒険者達は、じっくりとその感覚を味わっていた。
「お前がどうしてもって言うなら、一緒に連れて行ってもいいんだぞ?」
氷雨は、胸の谷間に、思いっきり『すねこすり』を押し付けていた。
「きゅ〜! きゅう〜ん!」
豊かな胸の間にうずくめられ、『すねこすり』は窒息寸前である。『すねこすり』の感触は、『ふわふわ』で、とても気持ちが良い。彼女は、はにかみ顔で撫で続けた。
「スネちゃん、かわいいですね〜、ほら、ほらほら」
エジプト生まれのアミーは、猫を敬っている‥‥はずなのだが、扱いが完全にペットである。『スネちゃん』は、あんまりだ。
「きゅ? きゅ〜ん! きゅきゅ〜♪」
彼女に『かいぐりかいぐり』されてしまった『すねこすり』は、気持ちいいのか、体をねじってバタバタと手足を震わせていた。
「きゅ‥‥きゅう!」
その鳴き声だけでメロメロになってしまっているのは、影華だった。
(「か、可愛すぎる‥‥」)
もう、卒倒してしまいそうである。猫好きの彼女には、頬摺りをするたびに「きゅ!」と言うのが楽しくてたまらない。
(「あー、飼いたいー!」)
影華のみならず、誰もがそう思っていた。しかし、残念ながら飼えないのだ。
『すねこすり』達は、人を転ばせ続ける宿命を持っている‥‥人と一緒に住むのは、難しい。
それはともかく‥‥さすがに三人だけが『もふもふ』するのは、気が悪い。
『もふもふ』中の三人は、ちょっとだけ他の人に貸してあげた。
「うわー、ここ気持ちいい」
天翔は、『すねこすり』のふわふわの尻尾を触らせてもらった。
「なんて可愛いお耳なんでしょ〜か☆」
奉丈は、『すねこすり』の耳を撫で撫でした。
「変わった体付きをしておるの〜」
雅は、『すねこすり』の体をツンツンを突付いた。
「ほら、ゴロゴロ〜♪」
ユウナは、『すねこすり』の喉の辺りをゴロゴロと鳴らさせてみた。
「ふふ‥‥随分と丸い体ですね」
華弥は、『すねこすり』のお腹の肉を引っ張った。ぶよーん。
とにかく‥‥皆で三匹を『もふもふ』しまくった!
●ばいばい、すねこすり
人里離れた山に到着。
別れを惜しみながら、『すねこすり』を山に置いていく冒険者達。‥‥彼女達の胸がキュンと痛む。
「きゅう〜ッ!」
冒険者達が背を向けると、『すねこすり』達は彼女達を転ばし、元気よくどこかに去っていった。
「きゅ〜♪ きゅっきゅっきゅ〜ん♪」
『すねこすり』達の楽しげな鳴き声を聞きながら、ごろごろと山肌を転がる冒険者達、‥‥なぜだか幸せそうだ。
●その結果‥‥もふもふ出来た
無事『すねこすり』に触ってきた冒険者達は、冒険者ギルドの親父さんに報告をしに行っていた。
「私は捕まえる事が出来ませんでしたが、皆で『もふもふ』してきましたよ♪」
「‥‥俺も触りたかった‥‥」
ユウナの悪気のない自慢話に凹む親父さん。
「とーっても、気持ちよかったのじゃ☆」
「‥‥そうか‥‥」
雅の無邪気すぎる一言が、また親父さんを傷つけていく。ユウナ同様に悪気がないだけに、何も言い返せない。
「あれに触れないのは、もったいないですよ。‥‥かわいかったです‥‥」
「‥‥」
感触を思い出しているのか、ウットリ顔の華弥の追撃で、更に凹む親父さん。
「‥‥冒険者ギルドで飼おうにも、あれは人を悪気なく転ばすからなあ‥‥」
‥‥親父さんは、遠い目をしていた。
(「あの子達は、元気だろうか‥‥餌に困らなければよいが」)
天翔は『すねこすり』達の事が心配そうだった。
彼女は、宿の食事の余りを『すねこすり』達にあげたりしていた優しい人なのだ。
(「スネちゃん‥‥」)
アミーも同じ様子である。
(「転ばす人がいなくなって、寂しく思ってないでしょうか‥‥」)
‥‥あの暴れん坊達なら、きっとうまくやっているはずだ。
氷雨と影華は、二人で外に出ていた。
「影華、つくづく縁があるようだな‥‥今度、一緒に飯でも食わんか?」
「その通りね。‥‥私も、ちょうどそう思っていたところよ」
二人の仲は、だんだんと良くなっている様に感じられる。
(「すねこすりの事も少しはわかりましたし‥‥よかったです」)
奉丈は、モンスターの事を知るのが好きだ。
『すねこすり』に触れられたのが、彼女には嬉しかった。
さて、何かを忘れている気がするが‥‥皆で『もふもふ』出来たから、問題ではない‥‥はず。
町の酔っぱらいが今日も愛らしい『すねこすり』達に転がされているのを、温かく見守るのみだ。
何はともあれ、『もふもふ』出来た。
『すねこすりはんたー』よ、お疲れ様。