少女と子犬

■ショートシナリオ


担当:橘宗太郎

対応レベル:1〜3lv

難易度:易しい

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:08月09日〜08月14日

リプレイ公開日:2004年08月11日

●オープニング

 誰かにとって、それは輝いて見えたのかもしれない。
 それこそが、唯一の輝きだったのかもしれない。
 他人にとってはどうでもよくて、本人にとっては大事にすべきもの。
 小難しくいわなければ、宝物。
 そして、この物語の中では、誰かの失くし物。

 少女は、とある町の隅っこで泣いていた。
 彼女にとって幸いだったのは、母が子を大切に思っていて、父がそれなりの金持ちだったいう事だ。
 少女は、家に帰って両親に泣きついた。
「あの犬が、どこかにいってしまったの」
 彼女は、両親から町で見かけた子犬を飼う許可を得ていた。雨の日に出会った捨て犬だ。震えてばかりで吼えもしない犬っころに、気の弱い彼女も愛おしさを覚え、
(「飼ってあげたい」)
 という気持ちになったのだ。しかし、一緒にいれたのは、ほんの少しの間だけであった。彼女に飼われる事になった子犬は、あまり吼えないだけで、行動まで大人しいわけではないらしい。
 子犬は、三日経っても、戻っては来なかった。
 彼女の父は、娘があんまりにも悲しむので、娘と共に冒険者ギルドを訪れた。子犬の捜索を頼むためだ。
 随分と簡単な依頼に思えたが、問題があった。
 少女は人見知りをする性質で、なかなか人に話をしてくれないのだ。両親は仕事が忙しく、彼女の話をよく聞いてやる時間がないらしい。
 少女の父は、
「よろしくお頼みします」
 といって、頭を下げた。少女は、黙りこくって何も言わない。
 よく考えると、子守りの依頼でもある。

●今回の参加者

 ea0348 藤野 羽月(27歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea0443 瀬戸 喪(26歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea1856 美芳野 ひなた(26歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea2775 ニライ・カナイ(22歳・♀・神聖騎士・エルフ・ロシア王国)
 ea3900 リラ・サファト(27歳・♀・ジプシー・人間・ビザンチン帝国)
 ea4063 霧生 壱加(30歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea4599 燎狩 都胡(26歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea5428 死先 無為(32歳・♂・忍者・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

 子犬探しの依頼を引き受けた冒険者達は、依頼者の家を訪れていた。外は日差しが強く、暑くてたまらなかったが、この家の中は、さほどでもないようだ。大きい家なので、通気が良いのかもしれない。
 家の中はひどく忙しい様子で、依頼者はなかなか出てこずに、しばし待たされる事になった。
 冒険者が暇をしていたかというと、そうでもなく、彼等は、出されたお茶を飲みながら、打ち解けた様子を見せた。特に、美芳野ひなた(ea1856)と死先無為(ea5428)は、ひなたが無為を「お兄ちゃん」と呼んでいるほど仲が良かったので、応対をしていた依頼者の妻を微笑ませた。
「遅くなりまして」
 奥から現れた依頼者は、一人の少女を伴っていた。今回の依頼では、彼女の子犬を探してあげる事になる。容姿は良いが、どこか暗さのある少女だ。
「これが、私めの娘にございます」
 少女は、背中を押されて冒険者達の前に出たが、挨拶もせず、黙っていた。冒険者達が挨拶する前に、依頼者は次の言葉を言った。
「私めは、忙しくて、なかなか構ってやる時間が作れません。どうか、宜しくお願い致します」
 依頼者はそう言って、とっとと奥に行ってしまった。その妻も、仕事があるのか、それに続いた。
 少女は、寂しそうにそれを見送る。少女にとって、これが日常なのかもしれない。
 皆は、彼女にそれぞれの挨拶をしたが、答えはなく、少女は戸惑った表情を見せた。
 リラ・サファト(ea3900)は、気の弱い少女の事を気遣って挨拶をしなかった。その代わり、静かに踊り出し、それを挨拶の代わりにした。彼女は、踊りというアプローチで少女に関心を持ってもらおうとしているのだ。
 少女は、その踊りを珍しく思ったのか、リラから視線を外さなかった。そして、踊りが終わると、冒険者達に視線を合わせはじめた。どうやら、関心をもってくれたようだ。
 次に、無為がちょっとした手品を見せた。
「よく見ててください。‥‥ほら、こっちの手に移ってしまいましたよ」
 左手に持っていたコインが、何時の間にやら右手に移ったのを見て、少女は目を丸くし、
「どうやったの?」
 と、不思議がった。やっと喋ってくれたのだ。
「ええっと、とりあえず、ワンコちゃんよりも、まず、君のお名前聞いていーい?」
 打ち解けてきた感じの少女に、燎狩都胡(ea4599)は名前を聞いてみた。
 ひなたもそれに関心があるらしく、自分の名前を名乗って、その返答を待ったが、少女はひどく表情を暗くした。ワンコという言葉で、犬の事が頭に浮かんだのだ。
 藤野羽月(ea0348)は、少女の様子を見て、優しく状況を説明してあげた。
「心配する事はないですよ。私達は、あなたの子犬を探してあげるために来たんですから」
 その言葉を聞いた少女は、少しだけ明るさを取り戻し、
「はやく犬と会いたい」
 と言った。
 都胡が、
「はやく見つけて、ぎゅーってしてあげたいね」
 といって少女を元気付けると、少女はこくりと頷いた。
 少女の緊張がほぐれてきたようであったので、ニライ・カナイ(ea2775)は一枚の絵を取り出した。
「実は、子犬の絵を描いてきた。これに特徴を描き込めば、見つけるのも容易になるはずだ」
 彼女の絵を見て、一同は噴出した。落ち着いた雰囲気のある彼女が、
(「とんでもない」)
 と思われるものを描いていたので、余計に可笑しかった。
「これが、右の前足でしょうか?」
 絵を指差す瀬戸喪(ea0443)の疑問に、ニライは、なかなか答えなかった。そして、
「尻尾だ」
 という言葉を呟く。その言葉を聞いて、皆が再び笑ったので、ニライは、内心、ちょっとだけ恥ずかしがった。
 しばらくすると、彼女には道中で聞いてきた声と違った声が聞こえた。
 少女が、小さい声で笑っているのだ。ちょっとばかりディフォルメしすぎたニライの絵が、面白かったらしい。
 笑い終わると、少女は皆の問いを聞いてくれるようになり、犬の特徴を話し始めてくれた。しかし、あんまり長く喋っていると恥ずかしいらしく、次第に言葉が途切れ途切れになってしまったが、ひなたが、
「ゆっくり、ゆっくりでいいですからね」
 と言ってあげたので、ゆっくりながらも、しっかりとした様子で喋り続けた。
 喪は、ニライと同じく、少女が話す子犬の特徴を絵にしていた。
「特徴としては、色ですね。体のほとんどが白色で、四本の足が長靴の様に黒くなっている犬というのは、なかなかいないと思います」
 彼は、それ以外の特徴も含まれた絵を仕上げて、皆に見せた。上手いというほどでもないが、子犬の特徴をよく捉えた絵だ。これなら、役に立ってくれるかもしれない。
 ちなみに、ニライの描き足した絵は、どうだったかというと、やっぱり笑われた。
 早速、喪の描いた子犬の絵を利用して、子犬を探す事となった。
「では、子犬の居場所を探してみますね」
 捜索の始めに、リラは金貨を取り出し、サンワードの魔法を使った。子犬の特徴はある程度わかっているので、もし子犬が日のあたる場所にいるとすれば、距離がわかるはずだ。リラの体を淡い光が包み込む。
 太陽に子犬の居場所を聞いてみた結果、子犬はそこまで遠くには行っていない事が分かった。 
 漠然としていてよくわからないが、どうやら町の中にはいそうなので、冒険者達は、それぞれの行動を開始した。喪が、気を利かして、何枚か同じ絵を描いていてくれたので、別れて行動する事が出来たのだ。
 羽月とリラ、それに喪は聞き込みをしてみるようだ。残りの者は、少女と一緒に行動する事となった。

 少女と行動を共にした一行は、子犬が拾われた場所に行く事になった。道中では都胡が、少女の手を取り、
「僕も、ワンコとかニャンコとかが、だーい好きなんだ」
 などといった話をして、彼女を和ませていたので、少女が不安に駆られる事はなかった。
 その途中、方向音痴のひなたがよくわからない方向に行くアクシデントが起こったが、無為が
「そっちじゃないですよ」
 と呼びかけて、ひなたを止めてあげた。
 それからは問題もなく、子犬がいた空地に到着した。
 皆は辺りを探したが、犬のいた様子はあれども、いる様子はなかった。
「どうやら、この辺りにはいないようですね」
 無為の言葉の一同は頷き、更に広い範囲を探してみたが、いる様子はなかった。
 聞き込みに期待するしかなさそうだ。

 羽月とリラは、一緒に聞き込みを行っていた。
 人通りの多い場所を選んだはずだが、なかなか子犬を見かけたといってくれる人はいなかった。
「見かけたという人は、なかなか現れませんね」
 羽月の言葉に、リラは
「一緒に頑張れば、きっと見つかりますよ。‥‥頼りにしています」
 と返した。羽月は、ちょっと間を置いた後で、その言葉にしっかりと頷き、再び聞き込みに精を出した。
 喪は、二人とはちょっと離れた場所で聞き込みをしていた。
「貴方の事を、もっと詳しく聞かせていただけませんか?」
 彼の聞き込みの仕方は少し変わっていて、聞き込む相手が女性だと、ナンパをしていた。必ずしも彼が女好きというわけではなく、少女のために、子犬の居場所を探してあげる手段として使っているようだ。
 しばらくすると、子犬の目撃者が現れた。釣竿を持った老人だ。
「どこで見かけたんですか?」
 羽月の問いに、老人は
「川原にいたよ」
 と答えた。
 同じ頃、喪も若い女性から同じ答えを聞いていた。
 二つの答えが一致した事を確認した三人は、
(「間違いない」)
 と思い、子犬の居場所を知らせるため、皆の下へと急いだ。

 合流した一行は、川原に来て、子犬を探したが、移動してしまったのか、なかなか見つからなかった。
 日が暮れてきた頃、突然、誰かの歌声が響いた。
 歌っているのは、ニライだった。彼女は、故郷の歌ではなく、ジャパンの歌を歌っている。
 どこか聞き覚えのある歌だ。どうやら、童歌の類らしい。
 普段の彼女とは違い、その様子は、どこか楽しげで、穏やかに見えた。
 ニライはいったん歌を歌うのを止め、少女に話しかけた。
「一緒に歌ってみないか? 子犬も気がつくかもしれん」
 ニライの言葉を聞き、少女は恥ずかしがりながらも一緒に歌い始めた。恥ずかしそうに、小さい声で、一生懸命に。
「あ! あそこに、わんちゃんがいますよ」
 相変わらずよく分からない方向を探していたひなたの声が、二人の歌声を止めた。
 川原とは少し離れたから、子犬がやってきたのだ。
 喪の描いた絵とよく似ている。体が白く、四本の足が黒い子犬だ。描いた喪自身も
(「似ている」)
 と思える出来である。どうやら、彼の絵は、とても役に立ったらしい。
 少女が、
「そこにいるの?」
 と問いかけると、子犬は飛んで走ってきた。少女は子犬を拾い上げ、
「心配をかけては、いけないよ」
 といって抱きしめた。どうやら、彼女を嫌っていたわけではなく、単純に彼女の家の場所が分からなくなっていたらしい。

 依頼者は、冒険者達に報酬を渡すと、またすぐに家の奥に行ってしまった。夜も忙しい商売をしているらしい。少女は、子犬探しをしてくれた冒険者達としばらく話していたが、眠くなったのか、目を擦り始めた。すると、彼女の母が
「もう遅いので」
 といって彼女を家の奥に連れて行ったので、冒険者達も帰る事にした。
 大きい家を出た冒険者達の上から、子犬の声が聞こえた。見上げると、子犬を抱えた少女が、二階から手を振っている。
 彼女は、最後に
「また一緒に遊んでね」
 と皆に声をかけた。
 少女も、少しは明るくなれたようだ。