FAVORITE(お気に入り)
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■ショートシナリオ
担当:橘宗太郎
対応レベル:1〜4lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 0 C
参加人数:5人
サポート参加人数:-人
冒険期間:12月02日〜12月07日
リプレイ公開日:2004年12月10日
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●オープニング
●お気に入りのカップ
パリのどこかにある食べもの屋。
ガシャンッ!
突然、何かの割れる音が響き、客達の視線が一斉にそこに集まった。
「‥‥どうしてくれるんだッ!」
見た目の怖い男が、怒りに身を震わせていた。
男の目の前に、紅茶がぶちまけられている。
そして、その紅茶が入っていたカップの破片が床に散らばっていた。彼の近くには、
「ごめんなさい」
と言って、慌てて破片を拾い集める少女がいる。
(「‥‥俺のお気に入りなのに‥‥」)
そう、それは彼がわざわざ何時も持ち歩いていた『お気に入りのカップ』だったのだ。
長身で、髭で、顔が厳(いか)つくて、筋肉質で、なんだか怖い感じの彼がそういう事を思っている。‥‥わけだが、目の前の少女はそれに気づく余裕さえ無かった。
ただ彼が自分を脅している様にしか感じない。服だって、濡れたわけではないのだし。
(「‥‥あたしに、わざとカップを割らせたのね‥‥。このお店を乗っ取る気に違いないわ」)
目の前の男が悪者だと勘違いした彼女が、慣れた様子で手に取ったのは箒(ほうき)。
大きく振り上げ、皆がそれを見上げる。そして、
「えーいッ!」
‥‥それは男の頭に叩きつけられた。
ズテーン。
大きい音を立てて倒れる男。
「おい、お前さん‥‥それはちょっと‥‥」
店主は、少女の粗暴さに頭を抱え、皆はシーンと静まりかえった。店主と常連連中は、男がそのカップを大事そうに持ち続けているのを、知っていたからだ。
少女がそれに気づかなかったのは、ガサツだったからに違いない。
周りの静けさから事態の悪化を感じ取った少女は、足下を見た。
カップに描かれた、微笑んだ天使の顔の何パーツかが見える。彼女には、それが悪魔の微笑みに思えた。
(「またやっちゃった‥‥」)
●無ければ作ろ
後日。
男の傷は何ともなかったが、心の傷は深かった。
『お気に入りのカップ』を割られた上に、無実の罪で叩きのめされるとは。憤死(ふんし)してもおかしくない事態である。
『箒使い』の少女が、彼の小綺麗で狭い家に
「すみませんでした!」
と謝りに来ても、彼は憮然(ぶぜん)としていた。
「もー、いいよ」
と言いながらも、少女を責める男。
「あれは、大事なものだったんだ。子供の頃、両親に貰ってから二十年‥‥何時も一緒だった。まさか‥‥ああいう運命を辿るなんて」
彼は、かなりがっくり来ている様子である。
彼の視線の先には、カップの破片が積み重ねられていた。微笑んだ天使が、またも少女を見つめている。
じとー。
落ち込む少女。
しばらく静寂が続いた‥‥。そして、彼女が言い出したのは、
「あたしが、新しいお気に入りを作ります!」
という言葉。
そうは言ったものの、彼女にそんなものを作る技術や愛嬌があるわけもなく、この件は冒険者ギルドに持ち込まれたわけである。
「代わりに作ってほしいのよ。‥‥手作りが一番だと思うんだけど、あたしが何か作ろうとすると、何時もなんでか途中で壊れちゃって‥‥あはは」
乾いた笑い声の次に聞こえてきたのは、
「でも、手伝いぐらいは出来るから!」
という、やけに気合いの入った言葉だった‥‥。
●リプレイ本文
●食べ物屋にて情報集め
人生は、晴れもすれば曇りもする。そして、ときどき雨。
パリの空は、今日も青い。
お日様が、微笑んでいる。
太っちょ猫達が、窓から入る日に抱かれながら寝ていた。
本日は、そんな日。
「せっかくだから」
と言って、集合場所の原っぱから『箒使い』の少女を連れ出したのは、ティラ・ノクトーン(ea2276)。
シフールに袖を引っ張られる少女。もちろん、箒を抱えている。
ティラは、『お気に入りのカップを割られた男』の情報を集めるため、少女が働いている食べ物屋に行きたいらしい。
逆の道から歩いてくる女性がいた。マミ・キスリング(ea7468)である。フランク生まれだが、ジャパン人とのハーフらしく、マミは磨魅(まみ)とも書く。
彼女も、男の情報を集めるには、ここが適当だと判断したらしい。
「あ、磨魅だ」
ティラの声に気付き、振り返る磨魅。
「あら、ティラ殿。それに‥‥」
軽く苦笑いをする磨魅。そういえば、少女に名前を聞いていなかった。
「あたしの名前は、フォリーっていうの」
その言葉に反応して出てくる店主。
「フォリー。あの人には許してもらったのか」
「それが、まだ‥‥」
やれやれ、という様子の店主。しゅんとするフォリー。
「ねえ、フォリーさんが怒らせた人について教えてよ」
ティラは、立場の悪いフォリーを救ってあげるべく、すぐに質問をした。
「何が聞きたいんだい。今は、フォリーが手伝ってくれないから忙しくてね。あまり聞いてやる時間もないんだ」
慌てた様子で手伝いをはじめるフォリー。
磨魅も、その横から質問をする。
「出来れば、壊れたカップの絵柄なんか教えていただけると嬉しいのですが」
「言うのは難しいなあ。カップの色は白で、描かれた天使は一人。嘘くさいぐらいの笑顔だったよ」
ティラは、男の物に対する好みについて聞いてみた。
「その人は、どんなものが好きそうだったのかな?」
「食べ物の事かい」
「違うよ。たとえば、僕なら面白そうなものが好きとか、そういうのだね」
店主は、それにはピンと来た様で、
「そういえば、フォリーが割っちまった天使のカップもそうだけど、犬や猫に飯をあげたりしていたし、意外と可愛らしいものが好きなのかもなあ」
と答えた。
その他、色んな事を聞いたが、重要と思える情報はそれぐらいだった。彼等は馴染みの店の店主とその常連であって、男の友人ではないのも大きかったかもしれない。
「有難うございました」
と磨魅が頭を下げ、店主が話をしている時間に客の相手をしていたフォリーをティラが連れてくる。
「ほら、いくよ」
「それじゃ、気をつけてな。うちのフォリーをよろしく頼むよ」
忙しそうな一行を見送りながら、
(「あの磨魅とかいう女の子の方が、うちの箒娘より良さそうだなあ。‥‥胸も大きいし」)
ふと、そんな事を思う店主であった。
●雑貨屋に買い物へ
この依頼は、『物』を作る依頼である。
何か作らなければいけない。とはいっても、最初から最後まで自分で調達するのは億劫(おっくう)だ。
ティラ、磨魅、それにフォリーの三人は、雑貨屋で買い物をしていく事にした。
そこには、冒険者仲間の先客がいた。
「ああ、おまえ等か」
三人の挨拶に素っ気無い返事を返したのは、アヴィルカ・レジィ(ea6332)。
彼女は手に金属で出来た『小さい輪』を持っていた。
「‥‥糸に通せば、ネックレスになる」
どうやら、彼女は簡単なネックレスを作るらしい。
「わ〜、面白そうだね♪」
ティラは、ネックレス作りにも興味が出てきている様だ。
「‥‥ティラは、何を作るんだ?」
「僕は、研ぎ石(とぎいし)に何か彫ろうと思っているんだよ」
「研ぎ石は硬いからな。その体で削れるかどうか‥‥木の板に何か彫るというのは?」
言われてみると、研ぎ石は硬すぎる気がする。ティラは、自分でも彫れる小さい板を買う事にした。
「フォリー殿。これなんか、どうですか?」
磨魅は、フォリーにあるカップを見せていた。
天使が描かれているカップだ。壊れたカップと同じものを男に渡してあげられれば、と思っているらしい。
「そっくりだと思うわ」
と答えるフォリー。もちろん、『ガサツ』な彼女がそれをはっきりと覚えているはずはない。
「ちょっと出かけてきます」
なぜだか、原っぱとは別方向に歩き出す磨魅。他に買い物でもあるのだろうか。
とにかく、買い物をすませて原っぱへと急ぐ四人であった。
●原っぱで、お説教
原っぱで留守番をしていたエリクシア・フィール(ea6404)は、原っぱに四人が来ると‥‥正確にはフォリーが来ると、彼女を呼び、お説教をしはじめた。むしろ、彼女は、そのためだけにここにいるといった感じである。
たしかに、フォリーがまた『おいた』をしても困るのだが。
「私はエリクシル・フィールと申します。あなたは、もう少し落ち着いた方が良いと思われますが‥‥」
(「いきなり、何なのよ」)
突然の言葉に、ムッとするフォリー。
「もし貴方が落ち着きたいと望むのなら、手をお貸ししますよ?」
(「何なのよー、この女は」)
ムカ〜。
あまりに率直すぎるエリクシルの言葉に腹を立てるフォリー。
二人の相性は、かなり悪そうである。
今にも箒を振り上げてしまいそうなフォリーに、アヴィルカが素晴らしいアドバイスを伝える。
「‥‥素振りをしてみなさい」
構える少女に、アヴィルカから更に一声。
「‥‥広いところでね」
てくてく。
てくてくてく。
すこし離れるフォリー。
ぶぅん!
その軌跡の後をなぞる様に、パラパラと草が落ちた。
(「な、なに、この感じ‥‥すっきりしたわ!」)
アヴィルカを振り返るフォリー。
「‥‥その感じ」
頷くアヴィルカ。
アヴィルカの名案により、箒の犠牲者発生は避けられた。
そんな事をしている内に、ティラがエリクシアから借してもらったナイフで木の板を彫りはじめた。
しゅっ。
しゅっ。
ざしゅっ。じゅばっ。ばしゅっ。
なんだかよくわからない模様が出来上がった。
「天使の羽だよ♪」
言われてみれば、そうかもしれない。細かいところまで再現するのは、難しかった様だ。
ティラの後ろでは、彫りものに興味をもって近づこうとするフォリーを、懸命に抑えるエリクシアがいた。
「ほら、駄目ですよ」
ぱっ。
箒を取り上げるエリクシア。
「ああっ、そんな‥‥」
途端に元気を失くすフォリー。‥‥部屋の掃除が出来なくなる事が不安になったに違いない。
「いいですか、女性というのはですね‥‥」
エリクシアは、くどくどとフォリーにお説教をすると、ティラが
「まあまあ」
と言ってから、フォリーに声をかけた。
「話は変わるけど、もしも自慢の箒を折られちゃったら、どう思う? 僕は、自分のオカリナが壊されちゃったら泣くに泣けないよ」
ティラは、愛用のオカリナを大事そうに撫でている。
「‥‥絶対許せない」
フォリーは、ぶんぶんと首を横に振った。
「お気に入りのカップを割られた男の人だってそう感じたはずだよ。‥‥思いやれる様にならなきゃね」
「‥‥うん」
フォリーの小さい返事が、ティラの耳に入った。にっこりと微笑むティラ。
(「そっか‥‥相手がどんな気持ちでいるかわからないと、許してもらえないよね‥‥」)
お気に入りのカップを割ってしまった事が、本当に大変な事だったと今更ながらにわかるフォリーであった。
「根は良い子なのだから‥‥そろそろ箒を」
アヴィルカにそう言われて、エリクシアの手に握られていた箒は、フォリーの下に返された。
「あたしの箒っ!」
箒をギュッと抱きしめるフォリー。かなり変わった娘さんである。
「わかったわ。あたし、大人しくしてる。‥‥これも、思いやりよね」
エリクシアは、微笑みながら彼女に言った。
「それこそ、女性のたしなみですよ」
アヴィルカは、糸に『小さい輪』を通し、ネックレスを作っていた。
フォリーは、それをじっと見ている。
「出来たには出来たけど‥‥何か足りない気がするな」
確かに、出来たネックレスは、どうも地味である。
「これ、付けたらどうかな?」
ティラが差し出したのは、先ほど自分が作った、天使の羽らしきものが描かれた小さい板である。
たいして大きいものではないし、あっても良さそうだ。
そうして、『天使の羽のネックレス』らしきものが出来上がった。
‥‥なんとなくは、可愛い感じではある。
●どっちつかずの結末
さて、ここまで活躍のなかったアルフレッド・アルビオン(ea8583)。
彼が何をしているかというと、『お気に入りのカップを割られた男』の家に来ている。
男の方からも歩み寄りがなくては、この依頼の達成は難しいと考えたからだ。
商売道具の聖書を小脇に抱え、ノックする。
コンコン。
ドアから顔を出したのは、見るからに怖そうな男。もっとも、大した事はないのは話で聞いているので、どうという事はないが。
事情を説明すると、とりあえずは中に入れてくれたが、まともに聞いてくれる様子は無さそうである。
「主はこう仰せです。恨むな裁くな疑うな、故に人は自ら罪を覚えると」
その言葉を聞いて、不機嫌そうにする男。
「‥‥理想論ですよね、ソレって」
という言葉が続くと、男もさすがに意外そうな表情を見せた。
「人によっては、ふてぶてしいのも居ますし‥‥でも、あの子の場合は大丈夫でないですか。あの子も反省している様ですし、ここは一つ『俺様の余裕』を見せてやるのは?」
その言葉を聞いた男は、げんなりした。
(「それが出来るなら、とっくにしている」)
「悪いが、そろそろ‥‥」
と男が言い出しかけた時、また訪問者が現れた。
磨魅である。
一人入れてしまっているので、仕方なく中に通す。
「長年大事にしてきたものを壊された辛さと怒りは、分かるつもりです」
彼女は、懸命に言葉を繋げた。
「ただ、それで彼女を一生責め続けて、事態は解決するでしょうか? ‥‥今度は、貴殿が彼女の心を壊すかも知れませんよ」
『壊す』という表現が、男の心に刺さる。‥‥しかし、納得は出来ない様だ。
男が、顔の皺を増やしながら考え込んでいる時、更なる訪問者達が。
『新しいお気に入りのもの』を作ってきたフォリーと冒険者達だ。
「あの、本当に、なんて言ったらいいかわからないんですけど‥‥」
部屋に入った途端、涙を流すフォリー。相手の気持ちを考えられる様になって、堪らなくなってしまったらしい。
「これ、作ってきたんです‥‥あたしが作ったものじゃなくて‥‥」
そんな彼女が置いたネックレスと、磨魅が買ってきたカップを見て、
「‥‥そんなものはいらない」
と言い放つ男。‥‥被害者は自分だと思っていたのに説教をされて、機嫌が良くない様だ。
「こだわってた気持ちは分るけど〜♪」
ティラはメロディーを使って、何とか男の気を静められないかと思ったが、どうやら失敗してしまったらしい。
‥‥訪れる静寂の時間。
フォリーがすすり泣く声だけが小さく響いていた。
「ただ、また店には行くよ。‥‥自分で作るのは面倒くさいから」
突然の言葉に、驚くフォリー。
「あ、あの‥‥」
「‥‥悪いんだけど、もう出て行ってくれ。忙しいんだ」
「そんな風に‥‥」
文句を言おうとするエリクシアをフォリーが制する。
「いいのよ。お店に来てくれるだけでも‥‥嬉しいし」
出て行く途中、アヴィルカの視界に、割れたカップに描かれた天使が入った。
天使の顔は、どこか穏やかで、
(「‥‥悪くないな」)
普段無愛想な彼女の顔を、ほんわかとしたものに変えていた。
●その後
後日。
フォリーと男は仲直りをしたのかはよくわからない。
ただ、男はフォリーの働く店には再び訪れる様になったらしい。
フォリーの箒で人をはたく癖は、アヴィルカの素振り作戦によって何とか抑えられているそうだ。
‥‥フォリーの首に、あのネックレスがあった。彼女の『新しいお気に入り』だそうだ。そして、磨魅が買ってきたカップは‥‥何時か男に渡すために取ってあるらしい。