絵描きが富豪になるとして

■ショートシナリオ


担当:橘宗太郎

対応レベル:1〜4lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 20 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月15日〜12月20日

リプレイ公開日:2004年12月18日

●オープニング

●富豪リューリク
 パリに生きる青年リューリクは、富豪である。
 ただし、一代で財を築いたタイプではなく、先祖からの受け継いできたタイプの人物だ。
 しかも、彼がその位置に登れたのは、偶然であった。
 祖父が死に、父が死に、兄が死んだ。
 それだけの事だが、最後の、兄の死が彼の偶然である。
 リューリクは若い、まだ二十歳を過ぎたばかりだ。その彼より五つばかり上の兄が、いきなり死んでしまうなど、誰が考えるだろうか。
 先日亡くなった彼の兄の死因は、ごく単純なものだった。
 酒に酔い、階段を踏み外して、そのまま意識が戻らず。随分と、あっさりとした死だった。
 リューリクはその事を何とも思わない。‥‥元々腹違いであったし、何時も見下されていたからだ。 
 リューリクは少年の頃になると家を出て、自由に暮らしはじめた。その頃には、すでに母は亡くなっていたが、父は金を送るぐらいの事はしてくれた。
 彼はほとんど稼ぎのない絵描きになったが、生活には困らなかった。送金が続いていたからだ。
 何年かして、何時も運ばれてくる金が来なくなったので家に寄ってみると、父が死んだどころか、兄も死んだのだという。
 その時は、父の死を知らせなかった兄に、
(「そんなに私が嫌いだったか」)
 という思いを抱くだけだった。
 彼がパリの外れにある自宅に戻ると、父の執事がいた。正確には、兄の執事だった人だ。
 リューリクは会釈をする彼に挨拶をせず、今まで描いてきた絵を触った。女性の絵もあれば、子供達の遊ぶ姿を描いたものもある。
 彼は、人を描くのが好きだった。
「もはや、当家を救えるのは、リューリク様のみにございます」
 という執事の言葉に、リューリクは、しばし間を置いて答えた。
「父上から貰ったものは、今の生活より大きい」
 こうして、リューリクは新しい当主となり、富豪と呼ばれる人の仲間入りをしたのである。

●商売に必要なものは?
 リューリクにとって、その財を維持するための商売は容易いものではなかった。
 富豪といえども、商売の根本である『交渉』の席に立たなければならない。
 筆と共に暮らし、気の合う仲間にしか心を許さなかった彼には、それが苦痛であった。
(「面白くもないのに、なぜ笑えるか」)
 ニコニコとしていられるわけもなく、眉間に皺を寄せて相手の話を聞く。年老いた老人がそれをするのならばいいが、若い彼がすると印象が悪かった。
 それに、彼には実績もないのだ。
 執事は、その様子を見て、影で嘆息を吐いた。
(「このままでは、嫌われていく」)
 そう感じた執事は、リューリクを教育する事にしたが、彼は一向に耳をかさなかった。
「今更、変われるわけもない」
 と言う彼の眉間の皺は、深くなるばかりである。
 そこで、執事はまったく関わりのない人達に、リューリクの教育を頼む事にした。
 それが、今回の依頼を引き受けた冒険者達である。一般の人よりも、リューリクが興味を持つと思ったのかもしれない。
「リューリク様は、自由に暮らしてきたためか、なかなか愛想の無い人でございまして。しかし、それでは商いに不便。なんとか、愛想を良くさせたいのです」
 冒険者ギルドを訪れた執事の表情は暗く、疲れ果てている様に見えた。

●今回の参加者

 ea1560 キャル・パル(24歳・♀・レンジャー・シフール・ビザンチン帝国)
 ea1999 クリミナ・ロッソ(54歳・♀・クレリック・人間・神聖ローマ帝国)
 ea4324 ドロテー・ペロー(44歳・♀・ファイター・人間・ノルマン王国)
 ea4795 ウォルフガング・ネベレスカ(43歳・♂・クレリック・人間・ロシア王国)
 ea5362 ロイド・クリストフ(39歳・♂・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ea7504 ルーロ・ルロロ(63歳・♂・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ea7569 フー・ドワルキン(55歳・♂・バード・エルフ・イスパニア王国)
 ea9249 マハ・セプト(57歳・♂・僧侶・シフール・インドゥーラ国)

●リプレイ本文

●館の中での事
 パリにある大きい館。
 その館の主人リューリクは、憂鬱であった。
(「面白くもない」)
 商売を、そう思っている。
 そんな彼を一人の老人が訪ねてきた。フー・ドワルキン(ea7569)である。
 とりあえずフーの面会を許したリューリクであったが、彼の物言いに顔を顰(しか)めた。何の『交渉』かと思えば、
「芸をお見せしたい」
 と言い出したのだ。
「暇ではない」
 と追い払おうとするリューリクを見て、フーは嘲笑した。
「此処の主人は芸術を愛すると聞いていたのだが、噂のみのお人らしい」
 そう言われると、曲りなりにも絵描きをしていたリューリクも引き辛い。
「なるほど。言われる事はもっともだ。‥‥お手並みを、見せていただく事にしようか」
 言い方は丁寧だが、リューリクは眉間に皺を寄せたまま、フーに何かをしてみる様に促(うなが)した。
 フーの横笛の演奏を聞いて、ますます彼の眉間の皺が深くなっていく。
 それは、フーの演奏が口ほどには上手くなかった事もあるし、楽しませるどころか、逆に気持ちを落胆させる選曲をしていたからでもある。
 鎮魂歌や葬式のための曲など、ついこの前に父と兄の死を知ったリューリクが聞いて面白いはずもない。
 リューリクは、一拍、手を叩いて演奏を止めさせた。
「礼の無い道化は、我が家に必要ない」
 というリューリクの言葉に対し、
「おやおや‥‥これこそが貴方が望んだ、今の貴方に相応(ふさわ)しい曲のはずですが?」 
 との言葉を返したフーは、リューリクの言葉を待たずに背を向け、家の門へと歩き出していた。
(「何のつもりだ」)
 リューリクは不機嫌な様子で、身支度を始めた。
 彼は、時折、館を離れる。
 執事の老人は、二階のベランダからリューリクの背中を見ていた。リューリクは、また出掛ける様だ。
「リューリク様は、何時も相談をしてくれなくて困る」
 執事が振り向くと、妙齢の女性が立っていた。クリミナ・ロッソ(ea1999)である。
「リューリクさんも、不安なのかもしれません。そんな時に、あなたがしっかりしていなくてはどうにもなりませんよ」
 彼女がこの館に来てから数日が経過していた。その間に彼女は、随分と執事を労(ねぎら)っている。
 クリミナが家の事を手伝ってくれるので、執事はここ数日安息の時を得ていた。体の調子も、良くなっている様だ。
 執事が驚いたのは、クリミナが冒険者とは思えないほど作法を知っていた事だ。そのせいもあって、リューリクも、彼女の事を手伝いだと思って疑わなかった。
「堪(こた)えるお言葉です。クリミナ様には大変良くしてもらって‥‥なんとお礼を申し上げればよいのか」
「お気になさらず。これも、務めですから」
 微笑んで答える二回りも年下の女性に、執事はなぜだか圧倒される気持ちであった。

●子供の絵を見る
 ロイド・クリストフ(ea5362)は、誰もいない家の中で、子供が描かれた絵を見ていた。その他にも、色んな人物達が描かれた絵が飾られている。
 リューリクが昔住んでいた家だ。
(「どれもこれも‥‥奴に似てねぇな。あてが外れたか」)
 奴とは、リューリクの事だ。
 彼は、リューリクにもしや隠れた妻子がいるのではないかと思っていたが、描いた絵を見る限りでは、そういう事は無さそうである。
 外に出たロイドは、近くを歩いていた老婆に声をかけた。
「この家に、リューリクって奴が住んでいるはずなんだが、最近どうしてるか知らねぇか?」
「ああ‥‥最近めっきり見なくなっちまったけど、来た時から変わらず、この辺の人達を描いているよ」
「この辺っていうと?」
「この辺さ。この通りをしばらく行ったところにある酒場のお嬢さんなんかは、よく描いて貰ってるみたいだよ」
 その事を聞いたロイドは
「ありがとよ」
 と一言老婆に礼を言うと、老婆が指差した方向に歩き出した。

●馬車に揺られて
 ドロテー・ペロー(ea4324)は、執事に馬車を用意してもらっていた。
「やあッ!」
 自ら手綱を引き、リューリクが昔住んでいた家を目指して颯爽とパリを駆け抜ける。
「‥‥まだ着かないのか?」
 幌(ほろ)から顔を出したのは、ウォルフガング・ネベレスカ(ea4795)。ドロテーがリューリクの絵を何点か持っていきたいというので、自身も同じ場所に行こうとしていた事もあり、付いてきた。
 本来なら、男性の彼が手綱を握るべきであろうが、ドロテーの方が馬術に長(た)ける。
 ドロテーは、進路に気を配りながらも、リューリクの事が気になっている様子だった。
「もうすぐだと思うけど。‥‥ウォルフガングは、リューリクって子をどう思う?」
「俺と似ている気がする。俺も、『愛想』が無いからな」
 言葉通り、ドロテーの意見を聞き返す愛想は無い。
「人を描くのが好きだなんて、きっと本当は心優しい人なんじゃないかしら?」
 赤い髪をなびかせるドロテーの後姿に、
「人嫌いならば、わざわざモチーフに人なぞ選ばん」
 と同意の言葉をかけるウォルフガングであった。

●友人の絵描きを訪ねる
「ここに来れば、リューリク殿の事を聞けると思うての」
 マハ・セプト(ea9249)は、リューリクの友人だという絵描きの下を訪れていた。
 事情を聞いた絵描きは、筆を置き、目の前に立つ女性を下がらせると、老シフールに椅子を勧めた。
 絵描きは思い出す様に語る。
「あれと出会ったのは、三、四年前だ」
 話をよく聞いてみると、リューリクの芸術に対する考えが見えてきた。
 金銭面で不自由の無かったリューリクは、パトロンを見つける必要がないため、商売っ気がなく、近所の子供や女性ばかりを描いていたらしい。
「つまりは、金持ちを相手にしていなかったのじゃろうか?」
「そうなる。儲からんのも、道理さ。庶民を描いたところで、なかなか金にならん」
 リューリクは自身の売り込みなどは積極的にしてこなかった様だが、マハは印象としてリューリクが決して人嫌いではないと思った。

●パリの外れにある家
 キャル・パル(ea1560)は、リューリクが昔住んでいた、パリの外れにある家に来ていた。
 正確には、その近くの木の上だ。
 なかなかリューリクが来ないので、ひなたぼっこ気分になり、ウトウトしていた頃。
 家に近づく足音が聞こえてきたので、彼女は視線を下に移した。
 リューリクが歩いている。
 慣れた様子でドアを開け、中に入って行くリューリク。
 キャルが窓から中の様子を覗いてみると、自分の描いた絵を見ている様だった。
 キャルがしばらく窓の辺りをウロウロしていると、リューリクもその様子に気付き、窓を開けて
「何か用があるのかい?」
 と問うた。
「お兄さん、このお家の人〜?」
「そうだよ」
 思っていたほど、リューリクは不機嫌では無さそうだった。無邪気な様子のシフールに、警戒心を抱いていないのかもしれない。
「何だか面白そうな感じがしたから、キャルつい覗いちゃったんだけど〜‥‥お兄さん、何してる人なの〜?」
「ここで絵を売っているんだ」
「絵描きさん〜?」
「残念ながら、有名ではないけどね」
 キャルは窓から家の中に通され、椅子の上にちょこんと座りながら、自分の話をした。
「何時か、宝石の猫さん(ジュエリーキャットの事)と一緒に旅をするのが夢なんだ〜☆」
 リューリクもその話に頷(うなず)きながら、満更でもない表情を浮かべる。ジュエリーキャットをペットにしたいという、少し変わった発想が面白いらしい。
 しばらくキャルとの談話が続いていたが、ドアをノックする音が聞こえたので、リューリクは彼女に断って席を立った。
 ドアを開けてみると、一組の男女が立っていた。先ほどまで馬車に乗っていたウォルフガングとドロテーである。
 女性の方はともかく、男性の雰囲気から彼等がお客ではない様に感じ、リューリクは怪訝(けげん)そうに彼等を見つめた。
「ウォルフガングだ。執事から話を聞いて、ぜひ絵を拝見したいと思ったんだが」
「‥‥そちらの女性は?」
「ドロテーよ。執事さんに頼まれて、絵を運びに来たの。仕事場に飾って置いた方がやる気も出るだろうって言われて」
 どちらも執事の紹介らしいという事なので、とりあえずは奥に通してくれた。
 ウォルフガングは、絵を手に取りながら、絵の背景の話などと織り交ぜつつ、『猟師』の話をしていった。意外だが、粗暴に見える彼は口が達者である。
「相手の言葉にしっかりと耳を傾け、異論があれば話し合い、失礼があれば心から詫びる」
 会話の根本が、彼の言葉にあった。
「人は、誠実な態度で接すれば十分信頼は繋がる」
 リューリクは、ウォルフガングの物言いというよりも、外見との違いに驚いている様子だった。絵の話を時折混ぜている事もあって、興味深げに聞いている。
「信頼が繋がれば、自然と『人』の奥深さに気付かされる」
 ウォルフガングは、その言葉の最後に、「不思議なものだ」と付けくわえた。『信頼が繋がる』という表現は、彼独自のものだが、リューリクは何となく分かる様に感じた。
 笑顔以外にも、『交渉』に使えるものはある。
 今日は、訪問者が多い。
「お主かの、以前その辺で人物画を書いておったのは? 良い絵を書くと聞いたからの」
 と言って、リューリクを訪ねてきたのはマハだった。
「わしの似顔絵を書いてもらいたいのじゃが、どうじゃな?」
 仕事ならば、とリューリクは引き受けてくれた。お礼は
「気持ち程度」
 でよいそうだ。相手が老人だと思って、気をつかっているのかもしれない。
 筆の走る音が、実に軽快に響き渡っている。
 描けるのが、心なしか楽しそうにも見えた。
(「おっ、顔が柔らかくなったの」)
 マハから見ても、彼は明るくなっている様に思えた。
 リューリクがそれを描き終える頃、更なる訪問者があった。ロイドである。
「リューリクさんはいるかい?」
 ロイドは、リューリクの常連客から聞いた情報を元に、リューリクに色んな事を聞ければと思っていたのだが‥‥。
 彼は、
「亡くなったリューリクの父に、時々様子を見てやってくれと頼まれた友人の倅(せがれ)だ」
 と名乗った。
 リューリクは、やけに遠まわしな事から、彼の言い方を不審に思った。
 ためしに、その父の友人の名前を聞いてみたが、ロイドが言ったのは、少なくとも彼の記憶にはないものだった。
「悪いが、貴方を信用は出来ない。お帰りください」
 リューリクは眉間に皺を寄せながら、ドアを閉めた。様子を見てやってくれと言われたのなら、本人が一度見に来るか、手紙ぐらい寄越してもいいものだと思ったのだ。
 こうなると、彼は機嫌が悪い。
 今日、二度めの道化との出会いである。ひどく腹立たしい。
「すみませんが、今日はこの辺で‥‥御代の方は、結構ですので」
 似顔絵を描き終わり、さっさと出て行く準備をし始めるリューリク。
「馬車を借りてきたから、送るわ」
 ドロテーは、急いで何枚かの絵を抱え込んだ。ウォルフガングも横から支えてやる。
「良い絵をありがとうの、お若いリューリク殿」
 リューリクの背中にお礼の言葉をかけるマハは、どこか寂しそうだ。
(「やれやれ、惜しいところだったんじゃが‥‥」)
 完成間近で、いきなり線が太くなった自分の顔を見て、ため息をつくマハ。
 その似顔絵を見て、キャルは
「いいな〜。あたしもマル(ペットのロバ)と一緒に描いてもらいたかったのに〜」
 と無邪気に微笑むのであった。

●館の主人の気持ち
 リューリクはドロテーの操る馬車に乗り、館まで戻ってきていた。
「リューリク様、難しく考え過ぎですよ」
 仏頂面で椅子に座るリューリクの肩を、クリミナが揉んでいた。
「もっと肩の力を抜かなければ」
 気持ち良いが、それが表情には出て来ない。
 その彼の顔を、
「絵を勉強中なのよ」
 と言ったドロテーが描いていた。ウォルフガングは、皆とは離れて、リューリクの絵を部屋に飾っている。
 何時の間にか、執事が話相手を連れてきていた。ルーロ・ルロロ(ea7504)である。
「何やら機嫌が悪そうじゃのぉ。ホッホッホ〜」
 と、ふざけた挨拶。
 『ドルゲ』の通り名を持つ老泥棒が、こんな館まで何の用かと思えば、何の事はない。彼も、遠まわしに『説教』をしに来ただけだ。
 さて、ここで普通ならルーロを追い出しにかかるはずであるが、どこからともなく歌声が聞こえてきた。
「あの声は、誰が?」
「ここにいるルーロ様の付きの者です」
 聞いていると、なんだか気持ちが落ち着いてくる。
(「これで、少しは役に立てるはず」)
 物陰に隠れたフーが、メロディーを使ってリューリクの気を静めているのだ。
 ルーロは、
「こんな辛気臭い館など、売っ払って好きな絵を描けば良いではないか?」
 と言い、更に、
「使用人達へは、手当てを渡して次の勤め先を斡旋してやれば良かろう?」
 とまで言った。
「むう‥‥」
 そこまで痛烈に言われると、リューリクに返す言葉がない。
「執事の話では、面白くもないのになぜ笑えるかと言っていた様じゃが‥‥お主の父君もそう思っていたのかもしれんのぅ‥‥」
 押し黙るリューリクに、ルーロは言葉を続けた。
「じゃが、父君は笑った。そのお陰で今のお主がおり、屋敷の者も暮らしていける。それだけは覚えておく事じゃ」
 リューリクはその言葉を聞いてさえも、黙っていたが、しばらくすると口を開いた。
「悪いが、皆出て行ってくれないか」
 彼は、
「しばらく一人でいたい」
 と続けた。
「仕事のイロハが分からぬのなら、執事の爺さんに話を聞いて父君のマネをすることじゃ。直ぐに止めればただの真似じゃが、十年続ければ真似ではなくなる。‥‥一生続ければお主の物じゃ」
 ルーロは、帰り際にそんな言葉を投げかけて帰った。
 クリミナも、
「一人で背負おうとはせず、近くにいる誰かに頼るのも悪い事ではないですよ」
 と執事を頼る様に言い残して、その場を去った。
 最後に、ドロテーが
「これを見てくれれば」
 と言って、似顔絵を残していった。似顔絵とは名ばかりの、今の彼とは違った優しい笑顔が描かれていた。
(「‥‥下手な絵だ」)
 自分の笑顔に、なぜだか涙がこぼれた。
 周りを見ると、飾られた絵が、皆、笑顔だった。

●後日
 冒険者達は館に招かれ、執事から紅茶をご馳走になった。
 香りも良く、皆はそれを長く楽しんでいたが、キャルだけはすぐ飲んでしまい、後でそれを残念がった。
 リューリクはというと、相変わらずムスッとはするが、少しは笑う様になったらしい。また、執事が言うには、
「特に、ウォルフガング様の言葉を聞いて、物の見方が変わったそうです」
 との事だ。

 今日も、パリに笑顔の花が咲いている。