HEのイゴール君は適当だ

■ショートシナリオ


担当:橘宗太郎

対応レベル:1〜4lv

難易度:易しい

成功報酬:4

参加人数:7人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月21日〜12月26日

リプレイ公開日:2004年12月27日

●オープニング

●僕は、適当に生きている
 どこか屋根裏。
 ハーフエルフの少年イゴールは、寒さに凍(こご)えていた。
(「しょせん、僕なんて嫌われ者なのさ」)
 誰からイジめられたわけでもなく、そう思っている。
 人に無視される事はたくさんあるが、大都市パリに暮らしているためか、特に目立ってイジめられた経験は無い。
 そんなものとは関係なく、両親がどっか行ってしまった事も関係なく、
(「しょせん、ハーフエルフさ」)
 ハーフエルフである事が、彼のコンプレックスなのだ。
 その割には、中途半端に尖(とが)った耳を隠そうとしなかったり、本当に『適当』である。
 しかし、その彼の悩みは、重大であった。
(「‥‥仕事見つからないし」)
 仕事が無い。つまりは、お金が入らない。
 金が無ければ、食うものにも困るわけである。
 ぐぅ〜。
 お腹が鳴る。
(「寒いし、このままじゃ死んじゃうよ」)
 翌日、彼はよくわからない行動に出た。
 冒険者ギルドに、依頼を出しに行ったのである。
「何かください」
 その一言だけ。
 適当すぎる依頼に、驚きの表情を浮かべる冒険者達であった。

●今回の参加者

 ea3454 フェリア・アルノート(31歳・♀・ファイター・人間・ノルマン王国)
 ea7504 ルーロ・ルロロ(63歳・♂・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ea7551 アイリス・ヴァルベルク(30歳・♀・クレリック・シフール・フランク王国)
 ea8223 竜崎 清十郎(34歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea8602 ギム・ガジェット(31歳・♂・ファイター・ドワーフ・フランク王国)
 ea9248 アルジャスラード・フォーディガール(35歳・♂・ファイター・ハーフエルフ・インドゥーラ国)
 ea9784 パルシア・プリズム(27歳・♀・レンジャー・ハーフエルフ・イスパニア王国)

●リプレイ本文

●イゴール君を訪ねる
 パリの街に、軽く雪が積もっている。
 この街の何人が、今も寒さに凍えているのだろうか。
「何かください」
 という『適当すぎる依頼』を引き受けた冒険者達は、冒険者ギルドにいた。
 とりあえず、受付の人にイゴールのいる場所を聞いてみる一行。
「ああ、ハーフエルフの‥‥今さっき追い出しちゃったよ。何か、ここに住み着きそうだったからさ」
 どうやら、近場にはいるらしいので、少し探してみる事にした。
 イゴールを探す途中、フェリア・アルノート(ea3454)がこんな事を言った。
「それにしても、本当によくギルドはこんな依頼を受けたよね」
 一同も、それに頷(うなず)く。言われると、
(「よくもまあ‥‥」)
 という気がしないでもない。しかし、同時に思う事もある。
「まぁ、それを受けた私が言うのもなんですけど‥‥」
 彼女は、両手に自分で作った『ある物』を持ちながら、苦笑いをした。
 この依頼には、報酬もない。普通の人なら、引き受けはしないが‥‥それだけ依頼を引き受けた彼等の人が良いという事だろうか。ある意味で、『聖人』の様でもある。
 パルシア・プリズム(ea9784)は、イゴール事を
(「なんて可哀想な子なんでしょう‥‥」)
 と思っていた。と同じぐらい、自分も可哀想に思っているのは内緒だ。
 自分の事を『駄目女』だと信じて疑わない悲劇のヒロインは、ヘアバンドで耳を半分隠している。見た限りでは人間だと思ってしまいそうだが、実はハーフエルフである。
 同じハーフエルフのイゴールに、何か思うところがあるらしい。
 昔、同じ様な経験があるのかもしれない。‥‥むしろ、今でもある意味で共通点がある気もするが。
「きっと、周りからの愛が足りなかったのよ」
 というパルシアの言葉に、竜崎清十郎(ea8223)が反応する。
「結局、そういう事なのかもな」
 両親の寿命の違い、短い期間に燃え上がった恋の結果。やる気のないタイプのハーフエルフをそういう風に感じた清十郎は、それを一応の結論だと思っていた。
 そして、こうも思っている。
(「‥‥客商売には向かないな。ハーフエルフは」)
 清十郎の見方は、間違ってはいない。大都市のパリであれハーフエルフは比較的嫌われる立場にあり、それは、この依頼に参加したハーフエルフの冒険者達が耳を隠している事からも分かる。
 種族間の禁忌に触れている事もあるし、『狂化』が手に余る事もある。客商売は、やはり適してはいないと思うのが正解である。
 もっとも、実力主義社会の冒険者の中では気にする者も少なかろうが。冒険者の中で、『変わり者』は元から多いのだし。
 アルジャスラード・フォーディガール(ea9248)は、前述の耳を隠したハーフエルフの冒険者の一人だ。彼は、フードで耳を隠している。
「何があったかはわからないが‥‥勇気づけてやりたいな」
 ハーフエルフとして自分なりの生き方を見つけたアルジャスラードは、まだ人生の迷い道にいるイゴールに対し、そんな事を思うのだった。
 それに、童顔なのでわかりにくいが、彼はハーフエルフとしても『それなり』の年齢である。
 人生の先輩として、わかるところがあるのかもしれない。
(「そんなにやる気のない奴なら、性根を叩き直してやりたい」)
 と思っているのは、ギム・ガジェット(ea8602)。イゴールの態度に不満がある様だが、その気持ちは外から覗(のぞ)く事が出来ない。
 ギムは鍛冶の達人なのだが、今日はそれ使ってプレゼントを作ったわけではなさそうだ。 
 彼は、おそらく誰よりもイゴール君のためになるものを持ってきている。
 ルーロ・ルロロ(ea7504)は、ロバの『ゲルゲ』を連れている。よくわからない名前だが、この老人の裏の名前を聞けば意味が通じるはずだ。『ドルゲ』。老いてはいるが、現役の泥棒である。
「無料(ただ)で物を貰う癖がついても困るが。‥‥まぁ、今回だけという事でな」
 泥棒がプレゼントをしにくるのも、おかしな話だが‥‥この老人の場合、『罪滅ぼし』というよりも、仕事は仕事という職人気質なものがあるのかもしれない。それか、もっと『大物』を狙っているという事だろうか。
 皆の上を飛んでイゴールを探していたアイリス・ヴァルベルク(ea7551)が、声をあげた。
「ん‥‥?」
 彼女の視線の先には、原っぱで寝っ転がっている‥‥というより、むしろ倒れている人がいた。耳の形から、ハーフエルフの様に思える。
 アイリスが一人離れていくので、皆もそれを追っていく。
「‥‥起きなさいよ」
 げしッ!
 アイリスがいきなりイゴールの身体を踏みつけているのは、ご愛敬といっていいものなのかどうか。
 ビクッと反応したところから、どうやら生きてはいる様だ。

●イゴール君にプレゼント
 冒険者達は、顔を真っ赤にしながら雪をゆっくりと溶かしているイゴールを見下ろしていた。
 アイリスに踏んづけられて意識を取り戻したイゴールは、しばらくすると、むくりと起きあがった。
 寒いのか、ひどく震えている。
「‥‥皆で僕をいじめるんだ」
 ‥‥まさかの一言に、一瞬だけ言葉を失う一行。いや、さして気にしていなさそうな男もいる。
 ギムだ。
 彼は、あまり感情を出す方でもないらしい。
「寒いだろうからな」
 と言って投げてやったのは、『防寒具』だった。
 イゴールは有り難そうにそれを着込む。
「あ‥‥もしかして依頼を引き受けてくれた‥‥」
「冒険者だ。ここにいる皆も、色々と持ってきてくれた」
「ああ、本当に有り難う! 寒くて、寒くて、堪(たま)らなかったんだ」
 先程とは一転して、ニコニコと嬉しそうなイゴールに更なる贈り物が差し出される。
(「本当だったら、大好きな人と一緒に寒い年末を二人で暖め合う関係に‥‥」)
 などと妄想しているパルシアが持ってきたのは、『ヤギネックレス』だった。まさに、珍品なわけであるが‥‥イゴールは珍しさを理解出来ていない。
「わあ、ピカピカしてる」
 とりあえず、ヤギのプレートを首にぶらさげてみるイゴールであった。
「好きな人が出来れば、強く生きれるわよ」
 と声をかけるパルシア。‥‥かなり夢見がちな発言に、
「うん、好きな人をいっぱい作るよ」
 と返すイゴール。そんな彼の言葉を聞いて、パルシアは
(「いっぱいですって? まだ若いのに、泥沼の恋愛なんて‥‥!」)
 と妄想で顔を赤くした。
 清十郎は、無料で色んな物を貰えて有頂天のイゴールに、『獅子のマント留め』をあげた。これも、珍しいものである。しかし、彼はただ『あげるだけ』では意味がないとも考えている。
 彼は、イゴールに少し説教をしてやる事にしていた。
「死にたくなければ、職を探せ。ついでに頭も使え。それが出来なきゃ、空腹で死ぬだけだ」
 確かに、何時までもこのままでは、イゴールに明るい未来があるはずもない。
「‥‥わかってるけど‥‥」
 シュンとするイゴールに、彼は言葉を続けた。
「ボロ布一枚でも、靴磨きの仕事は出来る。ようは、やる気と知恵だ。‥‥そして、最後に頼りになるのは自分だけ」
 『自分だけ』と言ったのは、孤独を愛せという意味ではなく、一人で生きろという意味で言ったのだと思われる。
 それは、彼が
「体は、清潔にしておけ」
 と彼にアドバイスをしてあげた事から、間違いない様に思えた。
 相手がただ言いたい事を言っているだけではなく、自分の事を思って言葉を選んだ事がわかったのか、イゴールは『獅子のマント留め』を握りしめ、
「はいッ!」
 と大真面目に返事をした。‥‥かと思えば、近寄ってきたルーロに目を輝かせている。正確には、ルーロの持っている物にだが。
「コレで弓の技術を覚えて仕事をするもヨシ、森で猟をしながら暮らすもヨシ」
 そう言いながら手渡したのは、ショートボウ‥‥だけではなく、なんと『シルバーアロー』もあった。
 銀を手にして‥‥プルプルと震えるイゴール。
 ‥‥と思ったら、嬉しそうに触っている。ただ、感動していただけの様だ。
 どうやら、銀は『狂化』には関係ないらしい。
 ルーロは、もう一つプレゼントを持ってきている。
「暖を取る為の火打石じゃ。くれぐれも‥‥火付けなどには使うなよ」
 冗談めかして渡した火打石だが、普通のものではない。なんと、これまた珍品『エチゴヤ印火打石セット』だった。実に、太っ腹である。
 さすがに、百年どころか、百八十年近く生きているだけあって、懐が深い。
「うわあ、有り難いなあ‥‥本当、皆さんには良くしてもらって」
 イゴールは、暖が取れると聞いて喜んだ。
「金にして、しばらく暮らすのもよいかもしれんが‥‥清十郎が言った様に職を探した方がいいかもしれんのう。人と関わるのが面倒なら、猟師なんかもよかろう」
 ルーロの言葉聞いて、イゴールは悩んだ。人と接しなくて良いなんて、『楽』そうである。
 アルジャスラードは、同じハーフエルフだけあってか、言う事が率直である。ちなみに、彼がイゴールに渡したのは『寝袋』だ。
「何時までも人が世話してくれるわけじゃないぞ、今のおまえは『ハーフエルフだ』と言う理由でただふてくさってるだけじゃあないのか? なんで、頑張って『正体を隠す』努力をしない」
 それを言う彼の言葉が、真実味を増したのは彼が被っているフードを取った瞬間だった。
 イゴールも、目を見開いて彼の姿を見る。
「俺も、お前と同じハーフエルフだ。だが、俺は必死に生きている。野垂れ死ぬか、頑張って前に進むのかは、これからのお前次第だけど‥‥これだけは覚えておいてくれ」
 アルジャスラードは、少し間を置いてからその言葉を口にした。
「俺達の様に必死に生きてるハーフエルフもいる事をな」
 彼がそう言っている後ろで、パルシアが複雑そうな表情を見せている。
 彼女も、ヘアバンドで耳を隠したり、少なからず努力しているハーフエルフの一人だ。
 ハーフエルフが冒険者として立派に生きている、その現実がここにあった。
「‥‥」
 イゴールは言葉を返せなかった。ただ、ひたすら頷くだけだった。
(「努力しても‥‥」)
 と思うところもあったが、同じハーフエルフが皆と混じって暮らしているのを見ると、無理でも無さそうに思えてくる。
「‥‥踏むなら、やっぱり『アレ』の方がいいんだけど」
 アイリスは、考え込むイゴールの背中にフワリと降り立った。彼女は、カエルをいじめるのが趣味らしいので、『アレ』とはカエルの事かもしれない。‥‥確かに、イゴールでは役不足だ。
 そして、こういう事を言う。
「自分を認めて欲しいという願望であるから、その耳を隠さないのではないの?」
 そう言われると、そういう気にもしてくる。アイリスは、更に言葉を続けた。
「何もしなければ、何も起こらないわ。今、物を貰っても、何も思わず使えばただの使っただけのもの。そして、すぐに無くなるわ。‥‥そうなったら、あなたはどうするの?」
「‥‥ん〜‥‥どうすれば‥‥」
「あなたは、今こうして人の前で話す勇気があるのだから‥‥後は、自分で考え、動き、仕事を見つけなさい」
 彼女は、その言葉を贈った。それが、彼女が思う何よりのプレゼントだ。
「まぁ、『アレ』に比べればよくないけど、‥‥まぁまぁだったわね」
 また空へ戻るアイリスの『アレ』という言葉が気にならないほど、イゴールは真剣に悩んでいる様だった。
(「‥‥考えろ、かあ‥‥」)
 イゴールは、皆の話を聞いて昔よりは将来を考えられる様になっていた。なんとなく、イメージが出来はじめている。
 ただ、それが固まるのはもう少し後の様だ。
 フェリアは、イゴールのために『簡易テント』を持ってきた。
「あと、これ‥‥」
 そう言って取り出したのは、『パンに蜂蜜で甘みをつけたお菓子』だった。
「聖夜祭には必要ですし、些細な物だけど‥‥」
 しかし、貧困の中で生きるイゴールにとって『甘み』は特別なものだった。
「美味しいッ!」
 凄まじい勢いで、パンをパクついている。
「皆さんのぶんもありますから」
 世の中で話題になった『聖夜祭』とはあまり関係なかったが‥‥ささやかなお祝いになった。フェリアは思いの他料理が上手く、何種類かのパンはとても美味しかった。
「まったく、気のきかん小僧じゃ」
 寒くなってきたので、ルーロがあげたはずの火打石で、火を起こす。彼の前では、イゴールが両手にパンを持ち、嬉しそうにしていた。
(「まぁ、たまにはこんなのもよかろ」)
 幸い、雪は降ってこない。
 しばらく暖まれるだろう。
 『焚き火』の近くでは、向かい合った面は温かく、背中を向けた面は冷たい。
(「たまには、人と一緒にいるのもいいな‥‥」)
 イゴールは、なんともなしにそう思った。
 隣に座っていたギムが、彼の手にチーズを差し出す。
「何日かぶんの食料も用意しておいた。ゆっくり、考えるといい」
「‥‥うん」
 こうして、ハーフエルフ少年と『聖人』の様な冒険者達の一日は過ぎていったのである。
 イゴールにとって、それは『聖夜祭』の様に穏やかなものになった。

●後日
 イゴールは、冒険者達に言われた通り、仕事をしていた。
 ルーロがくれたショートボウを使って猟師をしているのである。
 ‥‥が、冬はあまり獲物がいないので、稼ぎはよくないらしい。
 ギムが置いていってくれた十五日ぶんの保存食を食べながら、生き抜いているのだそうだ。
 ちなみに、イゴールは、今だ『貰ったもの』を大事に持っている。
 これからも、きっと大切にしていく事だろう。