濡れた手に、長い白髪

■ショートシナリオ


担当:橘宗太郎

対応レベル:1〜4lv

難易度:難しい

成功報酬:1 G 20 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月29日〜01月03日

リプレイ公開日:2005年01月06日

●オープニング

●貧民街の夜
(「まったく」)
 そう思っている。
 パリの貧民街の一角に暮らし、寒空の中、外で客待ちをする女はそう思っている。今日は、月明りでさえ穏やかではない。
(「嫌な客ばかりだ」)
 その行為自体に嫌悪感があるわけではないが、やはり相手に寄る。
 今日は、嫌悪感を抱く相手ばかりだった。
 正確に言うなら、さほど顔も態度も、性格も良くない男ばかりだった。‥‥何時もの事だ。
(「またか」)
 女の目に、遠くから来る客の姿が見えた。
 足取りが重く、様子がおかしい。何らかの障害を抱えているのかもしれない。
「‥‥」
 女は目の前に立った男を見下げた。
 顔はよく見えないが、皺(しわ)が作る影から、老人の様に思えた。
 女が自らの『値段』を言う前に、老人は口を開いた。
「その服が、欲しい」
 女は、そのままの意味だとは思わなかった。季節はそうするには寒すぎるし、女はこの仕事を楽しんでいるわけでもない。
「あたしだって、相手は選ぶんだ。爺さん‥‥帰んなよ」
 老人は、しばらく黙っていたが、瞬(まばた)き一つすると、また似た様な事を言った。
「ああ、服だ。君じゃなくて、服だよ。‥‥その温かそうな服さ」
 揺れる月明りが老人を照らした。
 老人が右の脇を押さえている。そして‥‥焦げ茶色の服の右側が、黒く変色していた。
「ひどく‥‥寒いんだよ」
 そう言うと、老人はガックリと膝をつき、目の前に突っ伏した。
「爺さん、ちょっとッ!」
 女が慌てて駆け寄る。
 汗と血が、彼女の手を濡らした。

●この街の連中よりはマシさ
 簡素な一室。
 貧民街で客待ちをしていた女は、老人を自分のベットに寝かし、看病をしていた。
 彼女はその途中に老人が多額の金を持っている事を知ったが、それを盗ろうとは思わなかったし、その事を無理に聞こうとは思わなかった。
 すでに老人は意識を取り戻している。ベットの硬さには面食らったが、文句を言える立場でもない。
「メリー、悪いが‥‥この部屋を買い取らせてもらえないか? 君に迷惑がかかっては困る」
 女の名前は、メリーというらしい。
「どうせ、あんたの世話をするから一緒だろ。なんだよ‥‥誰かに追われているのかい?」
「‥‥」
 老人は、黙り込んだ。自らの血の色が薄く残る長い白髪が、彼の顔の前で揺らめいている。
「まあ、いいさ。退屈していたんだ。冬になってから、客も悪くなる一方だし‥‥もう歳なんだよ」
「‥‥まだ若いのに、歳などと」
「それよりも、あんたの事を話してよ。‥‥あたしだって悩みを話したんだしさ」
 しばらくの沈黙の後、老人は口を開いた。
「私の名前は、オドマン。商売をしていたが、問題があってね。ここまで逃げてきたんだ」
「それだけじゃわからないよ」
「私も詳しくは分からないんだよ。ある男から、武器を運んでくれと頼まれてね。普段は、野菜なんかを運んでいるんだが‥‥割が良かった」
 オドマンがモゾリと動くと、金属が擦れ合う音が鳴った。
「金に釣られたってわけか」
「一人身の老人ほど無理をするものだから」
 メリーは、乾いた唇に指をなぞらせながら、言った。
「あー‥‥その男ってのを探せば?」
「男は、私の使用人達と一緒に殺されたよ。同業者でね。‥‥だから、誰がやったかわからない。また襲われたら、どうすればいいか」
「そうなると‥‥冒険者にでも頼むしかないわね。あんた、金はありそうだしさ」
「頼りになるのか?」
「さあ、よくわらないけど。ただ‥‥この街の連中よりはマシさ」
 その場に、貧民街に暮らす者が一人でもいればこう言っただろう。
「違いない」
 それが、彼等の生きる世界であり『面白味』でもある。

●今回の参加者

 ea4532 レティシア・ハウゼン(25歳・♀・神聖騎士・人間・ノルマン王国)
 ea5067 リウ・ガイア(24歳・♀・ウィザード・シフール・イスパニア王国)
 ea7504 ルーロ・ルロロ(63歳・♂・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ea8284 水無月 冷華(31歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea8553 九紋竜 桃化(41歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 ea8646 ラドラム・バルシュタイン(70歳・♂・ナイト・ジャイアント・フランク王国)
 ea9248 アルジャスラード・フォーディガール(35歳・♂・ファイター・ハーフエルフ・インドゥーラ国)
 ea9803 霧島 奏(41歳・♂・忍者・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●待ち伏せの準備
 年末のある日、昼間。
 護衛の依頼を受けた冒険者達は、貧民街に入っていた。
 その寒さからか人通りは少なく、顔を赤くした女達が遠くから見てくるだけだった。
 とある建物の前で、一同は立ち止まった。
 アルジャスラード・フォーディガール(ea9248)は、手でフードを押さえながら上を向き、
「‥‥依頼人がいるのは、ここだ」
 と言った。アルジャスラードがフードを押さえるのには、二つ理由がある。まず単純に寒いから。そして、彼がハーフエルフだからだ。
 ハーフエルフはパリでも少なからず嫌われる立場にある事から、当然の事の様にも思える。その事を気にせずに生きられる場所は、遙か遠いロシアの地のみであろうから。
 霧島奏(ea9803)は、何が面白いのか、皆の後ろで笑みを見せていた。
 その表情に気づいた水無月冷華(ea8284)が、霧島の様子を気にする。
「霧島殿は、何がそんなに面白いのですか?」
 霧島は、クックと喉の奥を鳴らすと、
「何でもありませんよ」
 と返した。
 冷華は不思議そうに彼を見ていたが、その頃にはすでに他の皆は建物に入っていて、ルーロ・ルロロ(ea7504)の
「何をボ〜ッとしておるのじゃ」
 という言葉を聞いて、急いで建物の中に入った。
 八人もいれば、音もうるさいもので、床が軋(きし)む音が妙に気になった。
(「何事か」)
 と思う住民達であったが、顔を出すだけで、それ以上は何もしなかった。『野次馬』とやら以外に、なる気はないらしい。
 ‥‥それが、この街らしいともいえるが。
 さて、オドマン老人とメリーの二人であったが、さほど事態を気にしている様子はなかった。
 メリーは無言のまま冒険者達を通したし、オドマン老人も、
「狭いところで悪いが」
 と非礼を謝っただけだった。彼が語ろうとしないので、自然と冒険者達の方から話す事になった。
 まず、レティシア・ハウゼン(ea4532)が話しかけた。
「オドマンさん、私どもも聞くところを聞いておかねば用心の仕様がありません。ぜひ、襲われた時の事をお聞かせいただきたいのですが」
 彼女の言葉に、オドマンは苦笑いを返した。
「真に不用心な事でしてな。この街の方に荷物を運んでる途中で襲われたのです。少し頭を回せばよかったのでしょうが。‥‥同業の誘いは、なかなかね」
 リウ・ガイア(ea5067)が横から口を挟む。
「襲われた場所を、もう少し詳しく教えてくれないか? もしかしたら、相手の手がかりが掴めるかもしれない」
「ああ、どこだったかな。少しばっかり遠いところだ。メリーにも、話したんだが‥‥あっちの方が詳しいのでね」
 場所を冒険者達に譲り、窓枠に腰を降ろしていたメリーは、眠そうな両目を薄らと開けながら答えた。
「あー、よくはわからないけどさ。あんた等が来た道を、そのまま行くと、左の方に妙に人気のない脇道があるんだよ」
 ラドラム・バルシュタイン(ea8646)も、壁に背中を預けながら、
「お嬢ちゃん、皆がさっきから言っているが、詳しく言ってくれないと困るんだ。冒険者といっても、何でも出来るわけではないからね」
 と喋り出す。彼の声が何時もと比べ多少緩やかになったのは、孫の様な年頃の娘を可愛く思っているからだ。根が優しい性質なのだろう。
「広い横道で、そこはヤバい連中しか通らないところだよ」
 メリーからその事を聞いたリウは、一礼すると、そこへ向かって飛んでいった。
 冷華は、二人の身柄を移す事を提案した。
「おそらく、お二人に部屋を移動していただいた方がよろしいでしょう。オドマン殿の所在は、相手方の知るところと思われます」
 九紋竜桃化(ea8553)は皆の話を静かに聞いていたが、気になる事があったのか、口を出した。
「しかし、部屋を移動するにしても、動きが気取られそうですわね。何とかならないのかしら?」
 屈強な肉体を持ちながらも、同時に豊かな胸を維持する桃化の魅力というのは、なかなか見ないタイプのものであって、メリーは興味津々といった感じで彼女を見た。
 桃化は、色気も剣術同様に強さの内と考えているので、そういうところからこういった魅力を持つに至ったのだと思われる。
 その言葉を聞いたルーロは、何でか楽しそうに声あげた。
「そういう事なら、ワシに任せておけ」
 そう言うと、ドアから顔を出し、辺りの様子を窺いながら部屋を出て行った。
 しばらくすると、彼は戻ってきて、静かにドアを閉めると、ニヤッと笑った。
「‥‥三つばかり右の部屋が空いておったのぅ。ワシが見た限りでは、監視がいるわけでもなさそうじゃ」
 実は、彼の本業は泥棒で、『ドルゲ』という裏の名前を持つ。
 冒険者に限って、そういった事が得意であってもおかしくはない。武器を手にする以上に、異性を口説くのが得意な者もいるのが冒険者なのだから。
(「おや、同業者がいる様ですね‥‥」)
 霧島だけは、ルーロの技術に精通するのか、クックと喉を奥を鳴らした。彼もまた危うい生業を持つ一人だ。
 ルーロは、
「それでは、移動しましょう。ご安心ください。二人の事は、必ずお守りしますわ」
 桃化のその言葉に、メリーは何ともいえない顔をした。言葉が頼もしくないのではなくて、問題がある。
「あたしは構わないんだけど、この爺さんはなかなか重くてね。運ぶのが大変で、ここまで引き摺ったんだよ。それじゃ、物音が立っちまうしさ」
 桃化は自分が運んでもよいと思ったが、それでは男性であるオドマン老人に悪いと思った。
 その事に気付いたのか、ラドラムが進み出る。
「仕方ねぇ、俺が運んでやろう。お前たちを危険な所に置いたまま戦うわけにはいかんのでな。‥‥危険な目にはあわせないって約束する」
 ラドラムはオドマン老人を背負うと、ゆっくりとドアを開け、ルーロの言った部屋に向かっていった。メリーも、足音を立てない様に、それに付いていく。
「さて、それじゃあ、待ち伏せしやすい様に辺りを片付けておくか」
 アルジャスラードは、テキパキと部屋を片付けはじめた。
 意外な事に、彼は家事が得意だ。技術だけでいえば、今いる女性冒険者達よりも、幾分か家庭的である。
 こうして、依頼人オドマンとメリーを隠した冒険者達は、息を潜め、長い時間、敵の侵入を待つ事となった。
 その間、レティシアはオドマンとメリーがいる部屋を訪れ、しばしの談笑をしていた。
「女のくせに、とか言われるのが嫌いなんですよ」
「そう? あたしも、駄目なのよ。女のくせにとか言われるの。男なんて大した事ないのにさ」
 メリーの話す事は、特に男性に対して率直で、
(「そんなものか」)
 と思わせるものが幾つかあった。もっとも、一般の『それ』とは違うので、参考にしてもよいものかどうかは分からないが。
 その内に、レティシアから話す事はなくなり、メリーが一方的に話すだけとなった。メリーも、暇を持て余していたのだろう。
 オドマンは、その横で静かに寝息を立てている。男が積極的に聞く話題でもない。

●襲撃者を罠にかける
 深夜。
 冒険者達の何人かも、眠気が隠せなくなってきた。
 作戦としては、敵を一人以外捕まえ、逃がした一人の後をつけて黒幕を見つけるというものだ。
(「そろそろ、来てほしいものだが‥‥」)
 リウは、すでにオドマンの依頼人と使用人達の殺害現場から戻ってきていたが、特に証拠などは掴めなかった。
 ただ血の跡が今だに残っていただけだ。もちろん、死体などあるはずもなく、どこに消えたのかはよくわからなかった。
 周囲の人に話を聞いたとしても、進んで話そうとはしなかっただろう。幾らかの金を掴ませれば、何とかなったかもしれないが。
 建物の中の明かりは、さすがというべきか、薄暗く灯っている。深夜に家を出る者もいるのだろう。
 賊が侵入して来たのは、すぐに分かった。
 突然、足音が響いたからである。おそらく、階段を上がっているのだろう。
 オドマンとメリーが隠れている部屋にいたルーロはブレスセンサーを使い、相手の数と位置を確認している。
(「六‥‥七、八か」)
「‥‥八人じゃな、もう来るぞい‥‥にゃお〜(敵が来た事を知らせるための猫の鳴き真似)」
 小声でそう言うと、彼は窓から手を出して、待ち伏せをしている皆に指で敵の数を教えた。
「‥‥‥」
 桃化が無言で手を振り、了解を合図をする。
 冒険者達が待ち伏せをしている部屋に踏み込んだ襲撃者達であったが、すぐさまの反撃に一気に勢いを失った。持っていたショートソードを身構える暇もないほどだった。
 待っている間に、レティシアはホーリーの魔法を詠唱を終えている。
(「牽制ぐらいには」)
 彼女は、先頭の襲撃者(一)を狙った。
「ホーリーッ!」
 威力としては、大したものではないが、牽制としては十分に効果があるものだった。
 リウも、牽制用にグラビティーキャノンの魔法を唱え終わっている。
(「‥‥ようやく来たか」)
「グラビティーキャノンッ!」
 襲撃者の内の三人を巻き込んだそれは、先頭の襲撃者(一)を転がし、絶対的有利な状況を作り出した。同時に壊されたドアの破片が散る中、桃化が斬り込んでいく。
「ジャパンの華、桃化参ります。‥‥賊の方々、覚悟なさいませッ!」
 日本刀を振り上げ、転んだ襲撃者(一)に強烈な一刀を見舞う。転んでいては、すでに達人の域に達する桃化のスマッシュEXを避けるのは難しい。
 受け止める事も出来ず、襲撃者(一)の絶叫はすぐに響き渡った。
 彼の左腕から鮮血が上がり、傷口を押さえながら、また転がった。すでに、戦意を失っている様だ。他の襲撃者達は、冒険者達のあまりの早業に驚きを隠せない。
 冷華が、すかさず襲撃者(一)にアイスコフィンを発動する。
(「今なら」)
「アイスコフィンッ!」
 見事な連携の末‥‥襲撃者(一)の身体が瞬時に凍り漬けになった。ここまで上手くいくとは、当人達も思わなかったかもしれない。
 呆気ないほどの早業で仲間一人を捕らえられた襲撃者達は、さすがに適わないと見たのか、逃げ去ろうとしたのだが、階段の近くにも冒険者がいた。
「ここは通さんぞッ!」
 巨漢のラドラムが立ちはだかったのである。更に、その後ろには部屋から出てきたルーロが‥‥なぜだか変な仮面(グレートマスカレード)をしている。ある意味で、襲撃者達に多大な衝撃を与えたのは言うまでもない。
(「なんだ、この爺さん‥‥」)
 と思っていると、その爺さんがウインドスラッシュの魔法で攻撃してくる。
「ホッホッホ〜、詰めが甘いのぅ。お若いの」
 退くも出来ず、進むも出来ぬ状態である。
 更に、その後ろから霧島が相手に近づいていた。
「‥‥逃がさないよ」
 物陰からいきなり接近し、スタック状態に持ち込んだ襲撃者(四)にスタッキングPAを叩き込んでいく。
「ぐぅッ!」
 小さい声が、建物に響いた。その頃になると、そこら中の部屋から顔を出す者が現われ、この状況を興味深げに覗いていた。彼等に楽しもうという気はあっても、止める気はサラサラない。
 しかし、敵が自分達の総合力と比べ、さほどでもない事が分かった以上、冒険者達に勢いがある。
「くらえッ!」
 待ち伏せをしていた部屋ではアルジャスラードが拳を振り上げ、左から右へのコンビネーションを決めていた。
 顔目がけてやってくる左右の拳を受けきれず、顔を赤くしながら後退する襲撃者(二)。
 襲撃者達は、もはやこの場をいるのは危険だと判断した。
 そして、そうなれば一番簡単なのは階段に立つラドラムを倒して外に出る事である。
 襲撃者達の攻撃は一斉にラドラムに集中し、さすがのラドラムも受け止めきれず、いたるところに傷を負い、後退した。
 その間を抜けて、襲撃者達は階段を降りていった。
(「‥‥これで、何とかなるじゃろ」)
 ルーロは霧島のスタッキングから抜け出すために下がるのが遅れた襲撃者(四)に高速詠唱でウインドスラッシュを叩き込み、足下の傷を負わせた。
 血をたどれば、追う事も簡単になる。
「予定とは違うが‥‥霧島殿、行くぞ」
「はい。懲らしめてやらねばなりませんからね‥‥」
 霧島とリウが、急いでその跡を追った。
「すまない。‥‥敵を止められなかった」
 たくさんの小さな傷を負ったラドラムはそう謝ったが、これは大した問題ではなかった。なぜなら、すでに冷華が
「心配しないでください、一人をアイスコフィンで固めておきました。煮るなり、焼くなり好きに出来ますよ」
 という事で、襲撃者を一人捕まえていたからである。最悪ではないし、瞬時に一人捕まえたのは『上出来』である。
「じっとしていてくださいね。今、治療しますから」
 レティシアがリカバーを使って、ラドラムの怪我を治してやる。
 頑丈な身体が幸いして、彼女が治せる程度の怪我しか負ってなかった。
 物音がしなくなったのでメリーも顔を出し、
「もう大丈夫なの?」
 と聞いた。
 一同は、言葉に詰まった。
 それは、リウと霧島の活躍に寄るからだ。
 見ると、何時の間にか戦いを見ていた住民達が顔を引っ込めている。
 ‥‥まるで、見せ物の様だった。
(「リウ様と霧島様が頼りですわね‥‥」)
 桃化は、刀をしまいながら、そう思った。
 返り血を浴びた桃化の姿が、メリーにはどこか印象的で、
(「ジャパン人とはこういうものか」)
 という妙な勘違いを起こさしていた。もちろん、悪い意味ではない。
 その後ろで、ルーロは妙な仮面を気にいったのか。
(「やはり格好いいのお‥‥賊どもが恐れ戦いておったわい」)
 などと思っていたりした。むしろ、彼が持っている『簗染めのハリセン』の方が気になるが。
 そこは、あえて誰も言わなかった。
 部屋の中では、アルジャスラードがグラビティーキャノンで壊れたドアの破片を片付けていた。
(「まったく、これじゃ豚小屋だ」)
 そう思っても、片付けてくれる人というのは少ないのだが‥‥彼は、『面倒見』が良いのだ。
 一方、霧島とリウはある建物の前にいた。周囲のものより、綺麗な建物だった。
「これですかね‥‥?」
「ああ、これに違いない。あとは、ここの主人をどうするかだな」
「居場所がわかれば、何とでもなりますから」
 霧島のクックという小さな笑い声が、夜空に響いた。

●その結果
 霧島とリウの追跡は成功し、襲撃を仕掛けた真の犯人のいる場所が判明した。
 その事により、オドマンは運び屋仲間の伝手を得て、その人物との接触に成功した。
 『捕らえた部下を返す』という事で、この一件は忘れられる事になり、貧民街で暮らしにくくなったメリーはオドマンの家に世話になる事になったらしい。
 彼女にとって、『小さな幸せ』かどうかは‥‥わからない。