大男の逃避行、小男の裏と表
|
■ショートシナリオ
担当:橘宗太郎
対応レベル:1〜4lv
難易度:難しい
成功報酬:1 G 44 C
参加人数:4人
サポート参加人数:-人
冒険期間:01月15日〜01月22日
リプレイ公開日:2005年01月23日
|
●オープニング
●男は、苦笑いをする
貧民街は、年越しの喧騒の後、また何時もの日常を取り戻していた。
他者から見れば興味深いものだが、暮らす者にとって面白くもない、現実の生活だ。
その外れ。
深夜。
焚き火をして、暖をとっている男達がいる。極端な二人である。一人は背が高く、一人は低い。
「凍える様だ。神様がいるんなら、俺にこそ、ご加護をあたえてくれるべきだと思うね」
背の高い男がそう言うと、背の低い男は笑った。
「どこの詩人が語る言葉だ」
「ああ、まったくその通りだ。俺は、こんな場所には相応しくないよ」
「何様のつもりだ」
彼等が、この場所にいる理由は何だろうか。
彼等の運が悪いから。
それは違う。正解は、彼等が人を待っているから。
彼等が凍えていると、少し派手めな女が彼等の目の前で止まった。
「あんた等‥‥また、なの?」
「ああ、下っ端は辛いね。何時も、使いっ走りだ」
大男が、苦笑いをして答える。
「まあ、いいけど‥‥また随分と薄着ね」
女は大男を見て言った。確かに、もう一着着込んでも良さそうなものだ。
「こいつは、鈍いんだよ」
小男がそう言って、大男を見上げる。
彼等が女の案内など引き受けるのは、必ずしも彼等が下っ端だからというわけではない。単に、仕事をきちんとする男達だからである。
「あんた等の親玉は、しつこいから嫌いだよ」
女の愚痴に、大男が苦笑いを続ける。
「あんたが、綺麗だからさ」
大男の言葉を聞いた女の、屈託のない笑い声が夜空に響き渡った。
●男は、友の身を案ずる
何日か後。
冒険者ギルドに、小男の姿があった。
彼は、誰にも聞かれぬ様にひっそりと話し出した。
「あー、そのだね。‥‥ある組織、いや、俺もそこの人間なんだが‥‥とにかく、その追手から逃げている奴がいるんだ。逃げたのは、古くからの友達でね。随分と、酷い事もやっていたが‥‥まあ、それは、やる気の表れさ。根は良いやつなんだ」
聞いてみると、大男が女と逃げてしまった、という事らしい。
「あのデカブツが突然いなくなって‥‥俺にもよくわからない。誘われただけなのか、別なのか。昔から気まぐれで、本音も話さない奴だったし。あー、とにかく、俺の上にいる連中の誰かの女と逃げたのさ」
わからない、小男はそういった様子だった。逃避行とやらに、理由がいるのか、いらないのか。小男にしてみれば、いるという事なのだろう。
「俺もさ、酷いやつなんだ。色んな事をやった。だけどよ、あいつだけは見捨てたくないんだ。俺に優しくしてくれたしさ」
小男は頭を深く下げて、貯め込んでいた稼ぎを前に出した。
「すでに上の連中は、気付いちまっててね。場所も、何となくわかってるみたいなんだ。俺が聞いた話だと、すでにパリから出ている‥‥今から追いかけるとなると、この町あたりか。何とか、頼むよ」
その様子は、彼の人生とは裏腹に、人に共通する何かを強く感じさせた。
●リプレイ本文
●二人の行方
(「この町ですね」)
シアルフィ・クレス(ea5488)は用意された馬車には乗らず、自らの馬を使ったため、他の者よりも早く大男と女がいると思われる町に来る事が出来た。
彼女が先行して二人を捜し出し、後に合流する手はずである。
シアルフィは、大男と女の容姿などを小男から聞いていた。
(「すぐに見つかるの良いのですけど」)
そう思うシアルフィであったが、その思い通り、二人の所在はすぐにわかった。小男から情報を聞いていたのもあったし、大男が目立つ容姿だったのもあるだろう。
「‥‥という感じの方を探しているのです。もしご存じなら」
「ああ、その二人なら‥‥二、三日前に見かけたよ。この道を真っ直ぐ行ったところに宿があるんだ」
町外れにある宿に泊まっているのだそうだ。
とにかく急いで宿に向かい、宿の主人に部屋を聞く。
部屋の場所は聞けたものの、ドアを叩いても出てくる様子はなく‥‥。
(「簡単には出てきてくれないみたいですね‥‥。仕方ありません」)
シアルフィは、とりあえずは宿を監視する事にし、後続の到着を待った。
●小男と大男の再会
シアルフィより少しばかり遅れて町に到着した三人の冒険者達は、小男を一緒に連れてきていた。
「お手を‥‥」
そう言ったのはアリエス・アレクシウス(ea9159)。
「ご苦労をかけます」
そして、彼女に手を差し出したのがヨシュア・クルシオ(ea9157)。ヨシュアという名前だけ見ると男性にも思えるが、死んだ兄の名前を継いでの事らしい。
アリエスは、そんなヨシュアに忠誠を誓う女騎士である。
(「シアルフィ様、大丈夫かしら?」)
アーデリカ・レイヨン(eb0116)は、シアルフィの心配をしていた。アーデリカはシアルフィの家のメイドだ。
彼女の心配は、すぐに晴れた。
シアルフィが駆け寄ってきたからだ。
「シアルフィ様、どうなさいました?」
「すでに二人を見つけていますから、急いで」
シアルフィにそう言われて、駆け出す一行。
‥‥二人は、まだ部屋にいるようだ。小男が声をかけてみる事にする。
「‥‥おい。出てこいよ。俺だ」
小さい物音の後で、ささやく様な声が聞こえてきた。
「お前か‥‥他の奴等は何者だ?」
「冒険者だよ。‥‥心配するな」
幾つかのやり取りの後、大男はやっと出てきた。
特に感動的な再会というわけでもなく、お互いに仕方がないなといった具合である。
「話をしている暇はありません。急ぎましょう」
言っている事と違い、ニコニコと緊張感のないヨシュア。
「そうですね。追っ手が来ないとも限りません。アーデリカから近くに教会があると聞いておりますから」
シアルフィに言われ、状況が良く見えないまま準備をはじめる大男。アーデリカは、教会に一時的な保護を頼みに行っている。
「ほら、おまえも早くしろ」
アリエスが奥の方で縮こまっていた女を呼び、早く来る様に促す。女も少し不満はある様だが、何も言わなかった。
舞台を教会に移す間、一行は人の気配を感じていた。
シアルフィが二人を難なく見つけたという事は、追っ手達にとって容易に居所が掴める環境にあったという事である。
‥‥『追っ手』は迫っている様だった。
●教会にて
辺りは大分暗くなっている。
冒険者と依頼人の小男、それに大男と女は教会に入っていた。
‥‥教会の人達は騒動になる前に逃げてしまっていたが。ただし、追っ手にとってみれば教会が踏み込みにくい場所である事には変わりがない。
小男はしばらく外の様子を窺(うかが)っていたが、舌打ちをすると
「‥‥来ている」
と皆に追っ手の存在を知らせた。
しかし、冒険者達に焦った様子はない。
『それ』も予想の範疇だったからだ。問題は、ここからである。
「じゃあ、アーデリカ様とわたくしは、ここに隠れていますね」
ヨシュアが物陰に隠れると、アーデリカもそれに続いた。
「シアルフィ様、お気をつけてくださいね。アリエスさんも」
シアルフィとアリエスの二人が馬車に乗って追っ手を引き付け、その間に二人を逃がすという作戦だ。
「では、行ってまいります」
「無理をしてはいけませんよ」
アリエスは、ヨシュアに一礼すると馬車へと向かった。
「アーデリカ、皆様の事を頼みましたよ。見つからないようにしてあげてください」
シアルフィは、冒険者として経歴の長いアーデリカを頼りにしているようだった。
小男と大男、それに女も物陰に隠れる。
シアルフィとアリエスはすでに教会の外だ。
「‥‥大丈夫でしょうか?」
アーデリカは、二人の事を少し心配したが、
「きっと大丈夫ですよ。シアルフィさんもアリエスさんも強いですから」
ヨシュアはニコっと笑って彼女を元気づけた。
●追っ手を罠にかける
『追っ手』といっても、今回の依頼の場合、優れた暗殺者ではない。
闇夜を見通せる目や手段があるわけでもなく、馬車の音に反応してしまった。
それに、数が多いわけではない。
「ちゃんと追って来ている様だ。もう少しゆっくり走ってくれ」
アリエスの要求に応え、シアルフィは操っている馬車の速度を落とした。
「そうですか。安心しました‥‥あの人達を逃がしてあげるためにも、もう少し離さなくてはいけませんね」
「ああ。‥‥出来れば一言文句でも言って見送ってやりたかったが、それは無理そうだな」
しばらく後で、馬車は動きを止めた。
馬に乗る追っ手が現われたからだ。四人ほどの集団に取り囲まれ、剣を抜こうとする二人であったが‥‥その必要はなかった。
「こいつ等は囮(おとり)だ!」
薄暗い月明りに照らされた二人の顔が、追っていた二人とは明らかに違ったし、二人組は二人組でもカップルではなく女性同士であったからだ。
あっさりと引き返す追っ手を見て、アリエスは
(「きっちりとシメてやりたかったんだが」)
と思った。
「ちょっと予想とは違いますが、十分に時間は稼ぎましたし、きっと上手く逃がしてくれていますよ」
シアルフィは、チェーンヘルムを脱ぎ、その金色の髪を月下に晒した。
「そうだな」
アリエスも同意する。
信頼している仲間達が失敗するとは思えなかった。
●遠くへ逃げろ
馬車が止まる少し前。
貧民街の悪人達から逃げ出した二人は、その事情を少しだけ話していた。
「俺は、この人を守ってやっているだけさ」
「‥‥あたしが、逃げたいなんて言ったもんだから。まさか、本当に連れ出してくれるとは思わなかったけどさ」
恋人というわけでもなく、大男はただの付き添いで来ているだけらしい。
小男は、彼の言葉を聞いて呆れた様子だった。
「よくやるよ」
何も言う気にならないといった具合だ。
さて、そろそろ逃げ時である。
「お二人には、馬に乗って逃げてもらいます」
ヨシュアはそう言って、シアルフィの馬に乗るように促した。
「手綱を思いっ切り握ってくださいね。あなたも、彼に抱きついたまま話さないように」
アーデリカは馬術などわからないが、とにかく落ちないように注意してあげた。
「ああ‥‥ありがとう。助かったよ。‥‥捕まったら、ひどい目にあっていた」
「助かったわ。ずっと故郷に帰りたかったから‥‥すごく遠いけどね」
大男と女がお礼の言葉を言うと、ヨシュアとアーデリカはニッコリと微笑んだ。
小男は、大男と目を合わし、何も言わないまま頷いた。‥‥それだけだった。
二人を送り出した後、何も音がしなかった。シアルフィとアリエスがうまく追っ手を引き付けてくれたらしい。
蹄の音が、小さくなって‥‥聞こえなくなった。
ヨシュアとアーデリカが、お互いを見合わせて口を開く。
「ところで〜‥‥あの二人、恋人同士になるんじゃないかしら?」
「あ、私もそう思いました」
「そうですよね。考えてみたら、好きでもない相手を命がけで逃がしたりもしないでしょうし」
「そうそう‥‥それでー」
という他愛のない会話が延々と続く中、小男はこれも呆れ顔で聞いていた。もっとも、彼は二人が逃げれた事を喜んではいたが。
(「まあ、二人が幸せになるんならいいか‥‥それにしても」)
‥‥話が終わらないヨシュアとアーデリカであった。
●その後
ある程度距離を稼いだので、大男と女は馬を降りた。
二人は
「ほら、もういいよ。主人の下へお帰り」
と言ってシアルフィの馬を自由にすると、疲れた様子で地面にへたり込んだ。
「‥‥さて、これからどうするか」
「運が悪ければ‥‥まだ追ってきそうね‥‥」
大男と女の苦労はまだまだ続くかもしれない。
しかし、行方をわかりにくくした事から以前よりはずっと気が楽になった。
「まあ‥‥なんとかなるさ」
小男の方はというと、大男の手助けをしたのがバレてしまったので彼は彼で、どこかに身を隠したそうだ。
‥‥苦労人である。