蛙の泉
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■ショートシナリオ
担当:橘宗太郎
対応レベル:1〜3lv
難易度:普通
成功報酬:0 G 65 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:08月11日〜08月16日
リプレイ公開日:2004年08月14日
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●オープニング
とある町。
町から少しばかり離れた場所には、泉がある。
泉から湧き出る水は、古くから町の人の生活用水として使われ、長い間、親しまれてきた。
しかし、その日の早朝、町の若者が泉に水を汲みに来てみると、泉に大きい何かが浮かんでいる。
よく見ると、大蛙である。大きい体を水に沈め、頭のテッペンから鼻の辺りまでを水の上に出している。
しかし、近くには、この泉以外に水を汲める場所はないので、若者は恐る恐る泉に近づいた。
すると、大蛙が大きく飛び跳ねた。大きい水飛沫が上がり、その雫の幾つかが若者の顔を濡らした。
(「怒っているのかもしれない」)
と思った若者は一目散に逃げ帰り、町の皆に
「あれは、大変に恐ろしい化け物だ」
と言った。そして、それを聞いた町民達は震え上がってしまい、誰も大蛙を退治しようとは言い出さなかった。
しばらくは遠くまで水を汲みに行っていた町民達であったが、いかにも不便である。そこで、町の大人達が数人で泉を見に行ったところ、大蛙は今だ泉に居座っていた。大蛙が水から顔を出すと、やって来た町民達は恐れおののいて町に逃げ帰った。大蛙は追いかけてはこなかった。どうやら、泉が気に入ってしまったらしい。
町で商売を営む老人は、この事態を重く見て、あまり金に余裕がない町民達に代わって冒険者ギルドに
「大蛙を泉から追い出してほしい」
と、頼みに来た。また、彼は
「泉の水は、町の人全てに使われるものなので、何とか泉を汚さない様にしてほしい」
とも言った。大蛙の血で泉を染めたりはしないでほしい、といっているのだ。
以前より質の悪い水は飲みたくないものである。
●リプレイ本文
冒険者達は、老人に案内され、大蛙が居座っている泉の前に来ていた。
泉のある場所は、その周辺だけとても涼しく、どこか爽やかに感じる場所だった。イボイボのついた大きすぎる蛙がいる以外は。
大蛙は、水の上に顔を出し、じーっと冒険者達の様子をうかがっているが、どうやら泉から動く気はなさそうだ。
冒険者達は、皆、地面を掘る道具を持っていた。皆で穴を作る予定なのだ。また、余裕のある者は、柵を作るための材料を持っていた。
高川恵(ea0691)とリューグ・シーヴァ(ea5306)の二人は、こういった事態を予測していたのか、スコップを自前で持ってきていたのだが、他の者達は地面を掘る道具を持ってこなかった。しかし、貴藤緋狩(ea2319)と六道寺鋼丸(ea2794)、それに黒羽司道(ea5831)の三人が気を利かして町の人から掘る道具を借りてきてくれたので、皆で一緒に作業を出来る事となった。柵を作るための材料も、町の人が
「あの化け物を追い払ってくれるなら」
といって用意してくれたものだ。
実のところ、体の小さいイシス・キャストライト(ea5764)だけは、体に合う道具がなかったので、仕方なく『しゃもじ』を借りていた。
「‥‥役に立てなくて、ごめんなさい」
彼女はちょっと落ち込んだ様子で皆に謝ったが、皆は笑って許してくれた。
「うーん、結構重いですね」
エルフの月志摩楓(ea1715)も、あまり力に自信はないが、積極的に力仕事を手伝うつもりのようだ。
彼等は、泉の近くに穴を掘り、そこに水を貯めて大蛙の新しい住処にさせる計画を持っていた。
恵には、提案があった。
「緩やかな傾斜になっている方が、水を引きやすいはずです」
もっともな事だったので、皆は恵の提案通りに、泉から見て、ちょっと傾斜になっている場所に穴を作る事にした。
ここで活躍したのは、鋼丸とリューグのジャイアントコンビだ。彼等は、その巨体を活かし、他の者達よりも速い速度で、どんどんと穴を広げていった。
「あ、なんか大きい石があるみたい」
鋼丸の動きが止まった。スコップの先で小突いてみると、コン、コンといった音が返ってきた。鋼丸は、なんとか除けないかと頑張ってみたが、よほど大きいのか、無理だった。
今回依頼を受けた冒険者の中で、一番の力持ちであるリューグが、
「俺なら、やれるかもしれない」
と言って、思いっきり岩を叩いた。‥‥彼の手には、ジーンとした感覚が残った。
「‥‥これは、難しいかもしれない」
リューグは、手をプラプラさせた。
「俺に任せろ」
力自慢の二人にちょっとだけ遅れを取っていた緋狩であったが、
(「やっと出番が来たか」)
といった感じで、颯爽と岩の前に進み出る。
彼は、スコップを上段に構え、一気に振り下ろした。その瞬間、大きい音が鳴り響いた。彼は、バーストアタックを使ったのだ。
見ると、見事に岩が割れている。
彼が振り返ると、皆から歓声が上がった。作戦の穴を埋める、見事なアイデアである。
皆が割れた岩を穴から取り出すと、大蛙が余裕をもって入れるほどの穴が出来ていた。
「それでは、水を入れてしまいますね」
恵は、クリエイトウォーターの魔法を使った。彼女の体を青い光が包み、その後、彼女の手前から水が湧き出してくる。残念ながら、さほど多い水量ではなかったが、何とか池らしきものは出来た。大きめに穴を作ってしまったので、穴の下の方にしか水がない。しかし、時間はある。恵は、穴がいっぱいになるまでクリエイトウォーターの魔法を唱え続け、何度か失敗はあったものの、やっと穴を池にする事が出来た。
「では、柵作りに移るとしようか」
司道の言葉に促され、柵作りがはじまった。
柵の材料は、町の人達が来てくれなかったので少なめに思えたが、恵、リューグ、司道の三人が通常馬を連れてきていたので、それなりの数を運ぶ事が出来た。馬達は、ちょっと離れたところに繋いであったが、取ってくるのにさほどの時間はいらなかった。
「私が、材料を取ってきます」
摩楓は、積極的に材料運びをこなし、力仕事に向かないながらも、皆を一生懸命サポートした。
そうして、池の周りを囲むための柵が完成した。
「‥‥あの、やっぱりやるんですか?」
イシスは、不安げに聞いた。なぜか、彼女の腰には縄が巻きつけられている。そして、その先を司道が握っていた。
司道は、とぼけた様子で答える。
「適任は、おぬししかおるまい」
どうやらシフールであるイシスが、大蛙を新たな住処へと誘うための餌代わりになるようだ。蛙の食べ物に、虫が含まれるからだろうか。羽があるので、虫に見えない事もないかもしれない。
その近くにいた摩楓も、マイペースに
「頑張ってください」
などと言っている。
「‥‥はい」
彼女は、ちょっとしょんぼりしながら大蛙の近くまで飛んでいった。力仕事で活躍出来なかった事もあり、気の弱い彼女は断れなかったようだ。
「‥‥か、蛙様? こちらですよー‥‥」
大蛙は、目玉だけイシスに向けているが、動く様子はない。
「‥‥わ、私は、とっても美味しいんですよー・・‥?」
大蛙に動く様子がなかったので、イシスは仲間の方を振り向いた。その瞬間、大蛙の口が開かれた。
摩楓が大蛙の動きに気づき、
「気をつけてください!」
と言ったが、間に合わない。
大蛙の口から長い舌が飛び出し、イシスの体に巻きついた。‥‥大蛙とは、シフールを飲み込んでしまほどの大きい蛙なのだ。
「‥‥わ、わ! 助けてくださーい!」
イシスの悲鳴に反して、この計画を考えたらしい司道は嬉しそうだった。
「かかったか!」
司道は、力一杯命綱を引き寄せたが、大蛙が重過ぎてなかなか動かない。
(「かかったのは驚きであるが‥‥重過ぎる」)
大蛙の舌がビョーンと伸びて、イシスに巻きついたままだ。まだ口の中には入れられていないが、食べられる寸前である。
一同は、急いで命綱を握り、引っ張った。
イシスを食べようと、大蛙は、ぴょんぴょんと前に飛び跳ね、泉から出てきた。イシスは、後ろに引っ張られ続けているので、何とか食べられずにすんでいる。段々と、作った池が近づいてきた。
「来い!」
緋狩は、イシスがつながれている命綱を離し、何とか素手で大蛙の動きを止めようとした。
「うわっ‥‥とっと!」
しかし、体格の差があって、押しつぶされそうになり、横に逃げた。
ついに、イシスは引っ張っていた皆のところまで来てしまった。皆の前に、大蛙がズデーンと落っこちてくる。イシスを飲み込もうと、あんぐりと口を開けた。
「えーい、こうなったら!」
その瞬間、鋼丸が大蛙の口の中に手を突っ込んだ。口に違和感を覚えたを覚えた大蛙は、たまらずにイシスに絡ませた舌を引っ込める。
(「‥‥今の内に!」)
やっと舌から開放されたイシスは、急いで飛び上がった。大蛙が口に手を入れられたのに驚いている内に、どんどん高度を上げ、大蛙の飛べない位置まで飛び上がる。
(「隙あり!」)
大蛙が上を向いているのを見た緋狩は、後ろから大蛙に体当たりをした。すると、驚いた大蛙は、大きく飛び跳ね、大きい水飛沫を上げて池に飛び込んだ。皆で作った池だ。大蛙は、イシスが怖がって届かないほど上までいるので、水の上に顔を出し、ずっと彼女を見ている。
「よし、今の内に柵で周りを囲むんだ」
リューグは、手の筋肉をプルプルと震わせながら、重い柵を立て、池の周りを囲み始めた。
皆で協力して柵を地面に打ち付けていく。
結構時間はかかってしまったが、大蛙は池から出ようとはせず、無事に柵で池を囲む事が出来た。
「さあ、あの池は今のままでは枯れてしまいますから、もう一頑張りしましょう」
恵は再びスコップを取り、泉から池までの道を作り始めた。皆もそれに習って道を作っていく。
そして、泉から池に水が流れ込む様になった。
「やっと一段落だ」
司道は、スコップを放り投げ、腰を下ろした。皆も、クタクタになっている。
「おーい、、もう降りてきても大丈夫だよ」
鋼丸が空に向かって声をあげた。
イシスは、大蛙が怖くてなかなか降りてこられなかったらしい。
柵に囲まれた大蛙を前に、町の人達は首を捻った。
「こう見ると、何も恐ろしい化け物ではないなあ」
柵の間からじっくり見てみると、何か愛嬌がある様にも感じる。
大蛙は、以前よりも大人しくなっていた。実は、冒険者達が人間に慣れさせるために餌付けしていたのである。とはいっても、普通の食べ物は、この大蛙の好みではないらしく、虫を捕まえて食べさせた。
冒険者達は、大蛙を必死に弁護してあげた。
恵は、
「こんなに大人しいんです。大切にしてあげれば、きっとこの泉を守ってくれるはずですよ」
と言った。他の冒険者も、それに同意する。
「確かに、こんなに大人しいのなら、害は無さそうだ。当分は、このままにしておいてみるよ」
どうやら、町の人達は、この大蛙が必ずしも危険ではない事を理解してくれたらしい。
また、緋狩は
「餌を忘れないように」
と忠告し、町の人達はその事を約束をした。
皆は、大蛙と大分馴染んだ様子だったが、イシスだけは最後まで食べ物扱いされていたらしく、近寄らなかった。
最後に、リューグが、
「穏便に終わって良かった」
と言うと、町の人達を含めて皆で頷いた。
冒険者達が金を受け取って去ると、泉と池の付近には、シフールの方は近寄らないでください、との看板が立てられた。
大蛙は、その後、池の柵が壊れても外に出る事はなく、過ごしやすい住処で、人から餌を貰い続けるという幸せすぎる生活を送っているらしい。