●リプレイ本文
●孤児院にて
この依頼を無料で受けてくれた心優しい冒険者達は、貧民街の孤児院に到着していた。
すでに冒険者達は子供達に囲まれている。
「わーい」
騒ぐ子供達。
「わーい」
大笑いをする子供達。
「わーい」
「お、お願いだから落ち着いて‥‥」
子供達に引っ張られるどころか、引きずられるフェリーナ・フェタ(ea5066)。
体力の無い彼女が、ピジーの看病を引き受けたのは、懸命だったように思える。
幼馴染みのカンター・フスク(ea5283)は、引きずられる彼女を見かねて、さりげなく助けてあげることにした。普通に助けてあげないところが、どうも素直ではないが。
「今日は、僕達が食事を作るんだ。何か、リクエストなんてあるかい?」
それを聞いた子供達は、カンターの周りに集まり、思い思いのリクエストをする。
「お肉いっぱい入れてー」
「冷たいのは嫌だー」
うるさい限りである。
「ありがとう。カンター」
「ああ」
当のフェリーナはやっとのことで解放され、カンターも少しだけホッとした様子を見せた。
子供達のリーダーであるコルマンの相手を引き受けたラファエル・クアルト(ea8898)は、ハーフエルフというだけあって、
「ハーフエルフだー」
「いけないんだー」
と子供達にからかわれていた。‥‥が、彼は特に気にしている様子はなく・・・・更に
「あら、あなたがコルマン君? よろしく」
言葉が女性にも思えたので‥‥『そういった人』だと思われ、コルマンが怖がってしまった。
「うわー、逃げろー!」
コルマンが逃げると、他の数人も彼の周りから離れていく有様であった。
この依頼には、『ショコラガールズ』なるグループが参加している。フィニィ・フォルテン(ea9114)、イザベラ・ストラーダ(ea7273)、シャミー・フロイス(ea8250)の三人だ。歌って踊れるアイドルグループとして飛躍を目指す彼女達、今回も何曲か披露してくれるようだ。
イザベラが先頭を切って子供達に挨拶をする。
「こ〜んに〜ちわ〜! お姉さんはぁ、パリの『ショコラガールズ』っていうグループでぇ、歌と踊りをやってるイザベラって言います。よろしくね〜!」
という何とも子供向けな言葉に、
「は〜い」
素直に答える子供達。そして、また騒ぎ出す子供達。
一方フィニィは、何とか子供達をなだめようとしていた。
「ほら、静かにしなさい」
と叱ってみるが、子供達はお構いなしである。
(「これは結構大変ですね‥‥」)
と痛感するフィニィであった。ちなみに、彼女もラファエル同様ハーフエルフだが、髪で耳を隠しているのでわからない。
シャミーは子供達に人気があった。その理由はグループの人気ゆえ‥‥ではなく『飛べる』からである。それだけで、彼等には面白いのだ。
「飛ぶのって、難しいの?」
「シフールなら誰でも飛べるのよ」
空飛ぶシャミー目がけて、ぴょんぴょん飛ぶ子供達。
付いて回る子供達を見て、シャミーはニコニコと、何時も通りの笑顔を見せた。
『ショコラガールズ』には、もう一人忘れてはならない人物がいる。マネージャーの紅茜(ea2848)だ。とはいっても、今回はマネージャーとして活躍するのではなく、『パン焼き職人』として活躍するつもりである。
当然、彼女はパンの材料を持ってきていた。
「今日は、美味しいパンを焼いてあげるね」
パンが全ての基本。パンの美味さで、他のメニューも生きるのだ。
「パン食べたいー」
『パンの材料が入った袋』に手を伸ばして引っ張る子供達。
「うぅわ! あんまり引っ張ると破れちゃうよー」
茜も、子供達にもみくちゃにされそうであった。
ターシャ・リトル(ea7165)も茜と同じく食事の用意をしてあげるつもりだ。彼女は、カンターと茜の手伝いにまわるつもりらしい。
「ねえ、ごはん?」
と言って、ターシャの持ってきた『食事の材料が入った袋』を引っ張る子供達。身長もさほど変わらないので一進一退の攻防である。
「ごはん、はやくー」
思えば、ピジーが倒れている間は食事を作ってくれる人がいない。子供達は、飢えているのだ。
「うん! すぐに作ってあげるからね!」
ターシャが笑顔で返事をすると、子供達も大喜び。
さて、これからは各自の分担にわかれての行動となる。
●ピジーさんを看病する
幼馴染みのカンターの活躍(?)もあり子供達から無事逃げることが出来たフェリーナは、ピジーさんの看病をしに孤児院の一室に入っていた。
「どうも、ずみまぜん。ごどもだぢが、ごむりをいっでじまっで」
鼻を真っ赤にしたピジーが、そこに寝ていた。
確かに、聞いていた通り美人である。‥‥鼻水をたらしていなければ。
「まずは鼻かもうね。せっかく綺麗なのに台無しだよ〜」
フェリーナが優しく鼻をかませてやる。
「ああ、スッキリしまじだ」
次は、手元の桶の中に布を入れ、彼女なりによく絞ってから、ピジーの額に置いてあげた。水を入れた桶を自分一人で持っていくのは辛かったので、食事の水を汲みに来たカンターに手伝ってもらった。
フェリーナは、ピジーに大事なことを伝えようとしていた。
「たまには、自分の体をいたわることも大切だよ。あの子達には、キミしかいないんだから」
ピジーは、シュンとしてしまったが、その言葉に続く
「キミの代わりには誰もなれないの」
という言葉を聞くと、うなずいた。そして、ピジーも話し出す。
大事な言葉なので、要点だけ綺麗に話すと、
「わかりました。私一人が我慢すればと思っていましたが、私一人動けなくなったことで子供達への負担は途方もないものになってしまいました。以後は、もっと自分を大事にしようと思います」
とのことだった。
「うん。それが良いと思うよ」
フェリーナも優しげな笑みを見せ、その言葉にうなずいてあげた。
●ご飯を作ってあげる
急務は、ご飯作りである。
それ以上のものはない。
子供達は、お腹が減っているのだ。
茜は外で、パン作りを開始している。パン焼き窯がないので、石を積んで適当に作ってみた。
「パンだ」
「パンちょーだい」
と、パンのタネを見るだけで寄ってくる子供達数人。
「すぐ出来るからね。どんなパンがいいかな?」
あらかたの準備を終え、茜がパンを形を整えているのを見た子供達の顔は興味津々だ。
「どんなのでもいいの?」
「うん、出来るよ。じゃあ、一緒に作ってみる?」
と聞いてみると、子供達は適当にパンの形を変えはじめた。
「ねえ、お姉ちゃんの顔のパン、作ってみたよ」
「へへへ‥‥照れちゃうなぁ」
照れくさそうにパンを見た茜であったが、デザインはともかく‥‥あからさまに実物より太っている。
(「‥‥こうしちゃえ」)
縦に伸ばしてスリムにしておく茜であった。
家の中の台所では、カンターがシチューを作っていた。
ターシャも、その横でシチュー作りを手伝っている。椅子の上に乗って、やっと台所に立っているターシャは、色々と不便だ。
「カンターさん、その包丁とってー」
というターシャの願いを聞き、
「ジャンプして取れないのか?」
と少し意地悪をしてみるカンター。でも、すぐに取ってあげる。
「ありがとう。小さく切っておいた方がいいかな?」
「ピジーは病人だから、小さく切っておくべきだな」
カンターとターシャの後ろで、野菜などを取ったり鍋の火加減を見たりしている子供達がいる。
カンターが、二人ほど料理に興味がありそうな子供を連れてきたのだ。
最初、
「キミ達はまだ子供だから、すべてを自分達だけでこなせとは言わない」
とカンターが説教をはじめたので、嫌な顔をする子供達であったが、
「毎日毎日、キミ達の世話をしてくれているピジーが病気になった時くらい、彼女のために何かをしてあげようとは思わないのか?」
と言われると、言葉に詰まり、そのまま手伝いをしているのだ。
「お料理って楽しいよね?」
ターシャは、子供達にそう聞いてみた。
「うん!」
子供達も、やらせてみるとこういうことは意外に楽しめるものだ。
「その調子だよ♪」
椅子の上から頭をナデナデ。
子供達の笑顔を見ると、ターシャは嬉しくてたまらなかった。
その横のカンターも、悪い気はしていないようである。
●子供達の世話をする
『ショコラガールズ』のメンバー達は、子供達に自分達の曲を聞いてもらうつもりだ。
「はーい、こっちよー」
イザベラが子供達を手招きをする。
お腹が空いてはいるものの、やることもない子供達は、呼ばれるとすぐに集まってきた。
「タラッタラッタラッタ♪ 狐のダンス〜♪」
イザベラが踊りを見せてみると、面白がって真似をしてみる子供達。『掴み』は、それなりのようである。
雰囲気に飲まれて、とりあえず騒ぐだけにする子供達。
「皆は、どんな歌が好き?」
フィニィは、子供達にどんな歌を歌ってほしいか聞いてみた。
子供達がリクエストする曲を、簡単に歌ってみるフィニィ。
彼女の歌は、本当に上手だったので子供達から拍手喝采が送られた。
「ほら、一緒に歌って」
皆で歌ってみることに。フィニィがリードしてあげれば、まあまあの出来だ。
「よく出来ました」
頭を撫でられた子供達は、嬉しそうに笑った。
シャミーは、二人から少し離れたところで子供達に追いかけられていた。
あいかわらず大人気である。
「わー、捕まえろー」
‥‥少し違っているが。
(「うー、掃除する暇ないわね」)
シフールは、子供達に大人気(?)なのである。
パンの香ばしいニオイや、シチューの美味しそうなニオイがひろがる中、『ショコラガールズ』のコンサートをすることに。
「さあ、皆一緒に歌って踊ろうよ!」
イザベラの一声と共にはじまったコンサート。子供達も、ワイワイ騒ぎ出す。
「ショコラガールズ、踊りま〜す」
シャミーが空中で踊りはじめると、やはり空中に手を伸ばす子供達。
相当気になるらしい。
「次の曲いきますよー。皆、この曲知ってるー?」
フィニィも、一生懸命に声を出して子供達にアピールする。歌っているのが、本当に楽しそうだ。
「る〜♪ る〜るる〜♪」
それに、彼女の歌声は誰よりも良く『通った』。
「はーい、皆、手をブラブラさせてー」
イザベラは子供達に簡単な踊りを覚えさせる‥‥というよりも、健康のためになればと思って、身体の動かし方を教えていた。
ブラブラ〜。
ブラブラ〜。
『奇妙な一団』の完成である。
「皆、一緒にー!」
「はーい!」
その後、貧民街で静かに暮らす人達から『ウルサイ』との突っ込みが入るまで、コンサートは続いた。
●コルマン君と遊ぶ
皆が楽しい時間を過ごしている頃、子供達のリーダーであるコルマンの実情はそれとは違った。
ラファエルが彼を捕まえているのだ。コルマンも半泣きである。ラファエルは、逆にニコニコ。
「うわー、離せー! 男好きの変人めー!」
「何言ってるのかしらねー。私は別に男なんて好きじゃないわ」
「‥‥本当?」
「よく勘違いされるのよねぇ」
ラファエルのため息を聞き、急に大人しくなるコルマン。
大人しくなったので下に降ろしてみると、全力でラファエルから離れ‥‥また全力で戻ってくる。
「よくも騙したな‥‥くらえっ!」
全速力でのドロップキック。身長が低いため、胸ではなく‥‥そう、位置でいえば‥‥男性の『急所』目がけてである。
まさに『人生の危機』を前にして、ラファエルの対応は冷静であった。
がしっ!
(「‥‥な、なんだとぉ?」)
足を受け止めて、コルマンをぶら下げている。ぱっと手を離すと、ゴテッと音を立てて落ちるコルマン。
「あら、さすがガキ大将、イイ蹴りね〜。組み手でもして遊ぶのをご所望かしら?」
挑発されて、コルマンも攻撃をしてみるが‥‥本気で避けるラファエルにあたるはずもなく(大人げない)‥‥疲れてヘバってしまった。
ラファエルは立ったまま声をかける。
「コルマン、いい? 男は、女の子や自分の大切なものを守るために強くなるの。ピジーさんが大変な時は、守ったり、助けたりするのがカッコイイ男って奴よ?」
もはや格闘技の師匠となったラファエルの言葉に、大きくうなずくコルマンであった。
●その後
日も陰ってきた頃。
皆で茜、カンター、ターシャの三人が作ってくれたご飯を食べた。
「はぁ〜い! おまたせ! 焼きたてパンだよぉ!」
パンを作ったのが茜である。
「今日は特別美味しくできた。期待してくれ」
シチューを作ってくれたのは、カンターと
「皆、喧嘩しないでね」
出来たシチューをよそってくれているターシャだ。
「うわ、これ美味しいよー」
「わー、変なパン。これ作ったの、誰?」
などと言いながら、変わった形のパンやシチューを特に味わいもせずかき込む子供達。彼等にとって、食えれば問題ないのだ。‥‥もちろん、味も美味しいので笑顔である。
ピジーの部屋には、ターシャがご飯を届けてくれた。
「これ、カンターさんが届けろって」
「うん、ありがとうね」
フェリーナに、やわらかく煮込まれたシチューを食べさせてもらったピジーも、ちょっとずつではあるが元気を取り戻していった。
「あんまり散らかしちゃ駄目よ」
子供達の食べ散らかしは、やっと子供達の興味の対象から外れたシャミーがちょっとずつ掃除してあげた。
フィニィは、食事中も子供達に囲まれて
「また歌いたいの? じゃあ、こんなのどうかしら?」
歌をせがまれていた。よほど、気にいられたらしい。
イザベラも踊りを真似されたりしていた。
「もうちょっと振りを大きくすれば良くなるわ。‥‥そう、そうよ」
結構、子供達には覚えられているらしい。
ちなみに‥‥コルマンは
「パンチはこう?」
「そうそう。筋がいいわよ〜」
まだラファエルに鍛えられていた。
その後。
コルマンや他の子供達も家事をするようになり、ちょっとだけピジーの負担も楽になったらしい。