●リプレイ本文
●猫屋敷の前
冒険者達は、猫屋敷がある場所に到着していた。
猫達の様子はというと、地面を這(は)いながら冒険者達の靴をおっかなびっくり攻撃したり、毛を逆立てて遠くから威嚇したり、逆に擦り寄ってきたり、様々であった。冒険者達を警戒して、屋敷から出てこない猫もいる。
「にゃあ〜」
「おだまり、あんたたち!」
アンジェット・デリカ(ea1763)は、猫を追いはらい、立ったまま編みものをしていた。態度とは裏腹に、器用にこなしている。
「お義母(かあ)さん、何をしているんですか?」
ミルフィーナ・ショコラータ(ea4111)はアンジェットの周りを飛びながら、その様子を興味深そうに見つめた。アンジェットを『お義母さん』と呼ぶのは、彼女をそう呼ぶほどに慕っているからだ。アンジェットにしても、ミルフィーナを娘のように思っている。
「編みものだよ。ネズミに似たやつを作って、猫達を引き付けるんだ。それはそうと、ミル、張り切りすぎて猫の玩具(おもちゃ)にされないようにするんだよ」
「はい。‥‥ちょっと怖いけど、頑張ります」
ミルフィーナが下を向くと、数匹の猫が彼女目がけて何度も飛び上がっていた。身体が小さいので、(「大したことがない」)と思われているらしい。
(「ああ、こんなに素敵な場所があるなんて‥‥」)
セフィナ・プランティエ(ea8539)は、猫を愛している。猫屋敷の前に来てから、
「うふふふふ‥‥」
と怪しく微笑み続けていた。
彼女は、すでに一匹の猫を抱いている。
「にゃにゃ〜?」
猫言葉でキョトンとする猫に話しかけながら、セフィナは幸福の時間を味わっていた。
捧徳寺ひので(eb0408)は、親しい人が見えないことから、少し落ち込んでいる様子だった。
猫に話しかけてみる。
「猫さん、猫さん、ひの、初めてのお仕事です」
ひのでの言葉がわかるはずもなく、首をかしげる猫。
「お仕事、うまく出来るかな? 宝石、見つからなかったらどうしよう‥‥」
ぐすん。
依頼の失敗をかんがえると、涙腺が緩むひので。弱気になっているひのでに、セフィナが声をかけてあげる。
「ひのでさん、一緒に猫の餌を作りませんか?」
「はい、ひの、頑張ります!」
声をかけられ、元気を取り戻すひので。
二人は、泥棒猫に材料を奪われながら餌を作った。
ルーシャ・スコーフニルグ(eb0726)は、猫だ。正確には、猫になるつもりだ。
ミミクリー使いの彼は、ある真実をしっている。
ミミクリーで変身しても、身体の大きさは変わらないのだ。それを猫といってよいのだろうか‥‥これは『大問題』である。しかし、彼は最高の答えを見つけ出していた。
(「ミミクリーを使えば、相当大きな猫になるだろう。‥‥よし、ちょっとぐらい攻撃されても動じない肝の坐(すわ)ったデブ猫だという事にする」)
完璧すぎる答えであった。
まさに『デブ猫』なら言葉通り‥‥だと思われる。
(「猫さんは、大好きですが‥‥」)
本多風露(ea8650)は、野良猫達を少し懲らしめてやった方がためになると思っていた。
(「ここで厳しく躾けておかなくては、後日、本当にひどい目にあってしまうかもしれませんしね」)
真面目に考えている彼女も、ルーシャ同様『何か』おかしい。
その手に握られているのが、『ハリセン』というのがどこか間違っているようにも思える。
ハリセンの威力の無さを利用して、猫を傷つけまいという配慮なのかもしれない。
フィーラ・ベネディクティン(ea1596)は、干し魚を持ってきていた。
そのニオイにつられて、寄ってくる猫を抱き上げる。
脱出しようと背中をくねらせる猫を見て、あまりの可愛さに
(「あ〜、猫さん飼いたい〜☆」)
と思うフィーラであった。
(「野良になって行き場がなくなって集まったんだろうけど。‥‥かわいい☆」)
思いっきり抱きしめた。
クリミナ・ロッソ(ea1999)は、今回の依頼人リューリクと面識がある。
(「出来れば、リューリク様に猫達をひきとって欲しかったのですけれど」)
猫の数は三十匹ほどだと聞いている。
(「‥‥これだけ多いと、無理でしょうね」)
とても飼える数だとは思えず、クリミナは苦笑いをした。
彼女は、なぜかハタキを用意している。それなりの年齢にある彼女がそれを持つと、それは妙に似合っていた。
●猫達と話してみる
まず、ミルフィーナが猫達と話をしてみる事にした。
どうするかというと、『テレパシー』の魔法を使うのである。
「猫さん、なんで泥棒さんをしているんですか?」
『なにか、ちょーだい!』
会話がなり立っていない。猫は、人間と普通に話せるほど賢くないのだ。
違う猫に聞いてみた。
「猫さん、なんで暴れているんですか?」
『よるにゃー!』
両手を振り回し、威嚇する猫。
とにかく、猫がお腹を空いているという事と、何割かの猫は人が好きではないという事がわかった。
それとは別に彼女は困っていることがあった。猫達が自分を狙って追ってくるのだ。何とかしなければならない。
そこで、彼女はある魔法を使うことにした。
(「オイタしちゃ駄目ですよ」)
「チャーム!」
猫達は途端に飛ぶのを止め、やけに大人しくなっった。ミルフィーナは安心して地面に降りたが、
「あわわ!」
猫達が馴れ馴れしく飛びかかってくるので、『肉球タックル』で潰されそうになった。
「‥‥ミル、大丈夫かい?」
アンジェットに助けてもらった。
●猫達を集める
セフィナは餌を作っていたので、すでに猫達に囲まれていた。というより、先述の通り、作ってる途中に材料を盗まれていたからだが。
彼女にとってみれば、これ以上の幸福はない。ちなみに、彼女はテレパシーで猫と話しているミルフィーナを羨ましそうに見ていた。そして、猫達に潰されたミルフィーナを見て、それ以上に羨ましそうにしていた。‥‥とにかく、猫が好きなのだ。
もはや、抱きしめた猫を離さず、餌を作っている間もそのままだった。
「猫さんを甘やかしすぎちゃ駄目ですよ」
と言いつつ、顔はウットリ。
ひのでと一緒に作ったグチャグチャの肉だんごを片手で猫達にあたえると、猫達は喜んで食べる。そして、もう一度肉だんごを握ると、ある事に気が付いた。
(「減ってますね‥‥」)
片手が肉だんごにふさがれ、更に片手が猫にふさがれている。その隙に猫達が肉だんごを食っているのだ。さすがに泥棒猫である。
「にゃうぅぅッ!」
近くで、数匹の猫達がお互いを威嚇していた。
「け、喧嘩しちゃいけません。ほら、仲良く食べてくださいね」
肉だんごをいっぱい投げると猫達は大人しくなった。そして、周辺がすごくきたなくなった。
(「宝石を盗んだ猫さん、いないみたいですね。‥‥それにしても、あの猫さん、かわいい♪ あ! この猫さんも♪」)
セフィナは、たくさんの猫に囲まれホクホク顔であった。
フィーラも、餌で猫達を集めていた。彼女は、干し魚を持っている。
寄ってくる猫数匹。
先頭の猫の喉元をちょこちょこっと触ってみる。
「ぐるる〜」
と気持ちよさそうに喉を鳴らす猫。
しかし、他の猫達は干し魚が目当てである。そのニオイに惹き付けられ、もの欲しそうな顔から‥‥
「みゃーッ!」
フィーラの持っている干し魚に飛びつく。
「あ‥‥」
見事に、干し魚を奪われるフィーラ。彼女は、ウォーターコントロールで猫達を懲らしめようとも思ったが、
(「さすがに、猫さんが可哀想かな」)
気温が低すぎて、下手をすると猫が死んでしまうかもしれないので止めておいた。
(「しょうがない猫さん達」)
干し魚に群がる猫達を見たフィーラは彼等が食べおわるまで待ち、彼等と遊ぶことにした。猫も彼女がただ見てるだけだったので、警戒してはいないようだ。
「もうこんな事しちゃ駄目だよ。‥‥ね?」
「‥‥にゃ?」
猫達を抱えながら、ささやかな教育をするフィーラであった。
もう半分以上の猫は屋敷から出てきていたが、今だ十匹ほどの猫達は屋敷から出てこなかった。その中に、宝石を奪った泥棒猫がいるはずだ。
●猫屋敷に入る
(「皆が猫をひきつけている間に潜入です」)
ひのでは、猫屋敷の裏口から潜入しようとしていた。
‥‥しかし。
入った瞬間。
バキバキ。床が軋(きし)む音。
「にゃ〜♪」
と鳴き声を真似てみるが、お世辞にも似ていない。
「うにゃぁぁおぉぉぉ!」
(「うぅ、猫さんなんて怖くないです」)
ひのでは、気付いた『暴れ猫』に威嚇され、泣きべそをかいた。
そこに、猫パンチを一発。ちなみに、攻撃用の猫パンチというのは肉球を使っての一撃ではない。同時に『ツメ』も繰り出すのだ。
結構痛い。
「うわーん!」
その言葉を聞いたクリミナは、ハタキを持って駆けつけた。そして、ハタキを使って何をするかと思えば‥‥。
パタパタ。
「にゃっ!」
パタパタ。
「にゃぁぁぁぁっ!」
『猫じゃらし』のように動く、ハタキの羽に猫は興奮していた。
何か惹き付けられるものがあるに違いない。猫パンチを連発している。
「ひので様、大丈夫ですか? ご無理をなさらないでくださいね」
「だ、大丈夫です」
クリミナの後ろに隠れるひのでであった。
ハタキに気を取られた猫。
クリミナはその隙にひのでにハタキを渡し、詠唱をはじめた。
(「少しの間、大人しくしていてくださいね」)
「コアギュレイト!」
見事、猫の動きを止めることが出来た。
また、正面でも戦端が開かれていた。
「来たね。‥‥舐めんじゃないよ」
屋敷に入り、暴れ猫達の視線に気付いたアンジェットは編んでおいた『ネズミ』をバラまいた。何匹かは飛びついたものの、残りの猫達はまだ『やる気』のようだ。
(「こいつ等は、腹は減っていないようだね。‥‥それなら」)
アンジェットはネズミとは別に編んでおいた袋を用意した。
シュタタタッ!
「うにゃあ!」
一匹の暴れ猫から必殺の『飛び猫パンチ』が繰り出される。
「甘いッ!」
ボスッ。袋の中から聞こえる小気味の良い音。猫が飛び上がったところを見計らって、アンジェットが袋を差し出したのだ。
「にゃあ!?」
ジタバタ、ジタバタ。
袋の口を閉じ、暴れる猫を閉じこめた。
(「手荒な真似は、ミルがかなしむんでね」)
しかし、まだまだ暴れ猫達はいる。
足下に猫パンチをしてくるのが地味に痛い。アンジェットも、蹴りとばすわけにもいかず、苦労をしているようだ。
もう一人、猫達との戦いに身を置いている人がいる。
猫の躾(しつけ)をしにやってきた風露である。
「やあっ!」
「ふぎゃあ〜!」
バチンッ!
ハリセンでお仕置きをする風露。
まさかの直接攻撃に、人間は気弱なものだと思い込んでいた暴れ猫達は怯んだ。
「性悪な猫は生皮を剥いで三味線という楽器の材料になるが、良い猫は可愛がられて長生きをして最後は猫又となる。‥‥三味線の材料になりたいのは、どの子ですか?」
などというジャパンの話で脅しをかけるが、当然猫達に通じるはずはない。
勇気ある一匹が、ハリセン娘に猫パンチを見舞おうと近づく。
バチーン!
「‥‥にゃ!?」
ハリセンの一撃をくらって、あえなく撃沈。‥‥と思ったが、
(「‥‥え?」)
突然、床が抜け風露が転んだ。踏み込みの際に、老朽化したところを踏んでしまったらしい。
天井からも、ホコリが振ってくる。
咳き込む一同。その隙に逃げる猫達。
「ごほ、ごほ。‥‥どうやら、二階に逃げてしまったみたいですね」
風露は、床から足を抜き、天井を見た。見ると、隙間から空まで見える。何人も上にあがれそうにはない。
それを見たアンジェットは、後ろにいるルーシャに声をかけた。
「あんた、ひとつ、ここのボス猫になる気はないかい?」
「‥‥?」
「ひたすら攻撃を耐えて、気合の入った威嚇をすれば一発で大人しくなると思うんだけどね」
「出来ないこともないが‥‥いいだろう。猫には変身するつもりだった」
というわけで、これ以降はルーシャが新ボス猫となるべく一人で奮戦することに。
ミミクリーで『デブ猫』に変身して、二階に上がったルーシャだが、明らかに猫達に不審がられていた。
猫の視線からしてみれば、人間より凶悪そうである。
猫達にしてみれば、テリトリーを奪われないために集中攻撃で倒すしかない。
『でかすぎだにゃ!』
ボカッ!
『痩せろにゃ!』
ドカッ!
猛攻を受けるルーシャ。猫パンチどころか、クリンチからの猫キックまでお見舞いされる有様であった。
(「好き勝手してくれる。‥‥イテテ」)
ある程度の攻撃を耐えたルーシャは、大きく鳴き声をあげて相手を威嚇した。
まだ元気なのに驚いて、後退する猫達。‥‥いや、一匹ひいていない。
基本が黒で右目の回りが白い猫‥‥執事から聞いていた泥棒猫に似ている。
(「これがボス猫か」)
「にゃ、にゃ、にゃ、にゃ、にゃ、にゃ、にゃあ!」
『連続猫パンチ』をひたすら耐えるルーシャ。
何時の間にか、その攻撃は止んでいた。立ったままのデブ猫のプレッシャーにボス猫が負けてしまったらしい。
攻撃してこなくなったので、二階を探してみる。
(「ここには、宝石はないみたいだな‥‥」)
三階に上がると、赤い光が目に入った。
(「あれか」)
まぶしさに耐えながら近づいてみると、赤い色の宝石が無造作に転がっていた。
ルーシャはそれをくわえると、猫達に見送られながら、皆の下に戻っていった。
「よく出来ましたねー」
「‥‥!」
猫のまま、ひのでに褒められた。
「ああ‥‥猫さん達とこのままいられたら」
セフィナは、今だ猫の楽園の中でウットリしていた。
帰り際、
「元気でいてくださいねー」
ミルフィーナは猫達の食事を作り、置いていってあげた。
●その後
依頼達成後、リューリクの館に招かれた。
「リューリク様、実はお願いしたい事がありまして」
クリミナは、無理を承知でリューリクに猫達を引き取ってくれるようにお願いした。
「わかった。ここでは飼えないが、引き取り手が見つかるまでは預かっておこう。‥‥最近は儲けているのでね」
意外にも、承知してくれる。
「ありがとうございます。頑張っていらっしゃるようですね」
その言葉を聞いたリューリクは、少しだけはにかんだ。
「あの‥‥この子もいい?」
フィーラが猫を隠して連れてきていたので、皆が笑った。付いてきてしまったらしい。
最後に、執事が紅茶を入れてくれた。とても美味しかった。
その後、猫屋敷から猫達の姿は消えた。
大人しい猫達の引き取り手は現われたが、暴れ猫達は人に懐かなかったので、リューリクの館で自由気ままに暮らしているらしい。