●リプレイ本文
●一日め
聯柳雅(ea6707)、ゼフィリア・リシアンサス(ea3855)、ラテリカ・ラートベル(ea1641)の三人は、ロロから詳しい情報を聞くため、警備隊の詰所を訪れていた。
最初はしぶられていたが、ゼフィリアが
「これを」
と言って、お金を渡すとロロのいる場所を教えてくれた。
「例の事件の事が聞きたければ、そこに書類がある」
ロロは仲間達との打ち合わせに忙しく、書類を指差した。
「これか‥‥」
柳雅は羊皮紙をめくり、表情を曇らせた。
殴り書きされていて、なんとなく察する事もできなかった。
「‥‥読めるか?」
ゼフィリアも内容を読もうとしてみるが、柳雅と同様に読み取れない。
「う〜ん‥‥読めないです。ラテリカさんは、どうです?」
「見てみますです」
ゲルマン語に慣れ親しんでいるラテリカは、何が書かれているか理解出来た。
「これを見てみるとですね、犯人は中肉中背‥‥髪は金、目の色は薄く、髪の長さは普通、他のも普通‥‥と書いてありますです」
「標準の枠から外れないわけだな。犠牲者が出た場所は書いてあるか?」
柳雅が横から質問してみる。
「え〜と、‥‥あっ、後ろに書いてあったです」
ラテリカは、五人が殺害された場所をあげていく。
「あのぉ〜、地図をお借りしてもよろしいですか?」
ゼフィリアに、ロロは手振りだけで『了承』の意志を伝えた。
ラテリカの言った場所を照らし合わせてみると、犯行場所はバラバラで、前の場所からはある程度離れた場所で『殺し』をする事がわかった。
帰り際、ラテリカは警備隊員から衣装が盗まれていないか確認したが、そういう事はなかった。また、ゼフィリアは目撃者に再度話しを聞きにいったが、特に変わった情報はなかった。
貧民街。
冒険者達は変装をして、街の中に溶け込んでいた。
スターリナ・ジューコフ(eb0933)は、『ボロ着』を着て、道ばたにうずくまっている。
(「何時も通りの格好をしていると、体を売らないと不自然に見られてしまいますからね‥‥」)
彼女は、その言葉通り不自然に見られない努力をしていた。顔と肌に泥を塗っているのである。普段、上品かつ若く見られる彼女の容姿を、そうする事によって隠しているのだ。
(「それにしても‥‥」)
身体の悪い振りをしているため、病気に見えるのか誰も声をかけてくれない。
寒さが身に染みて、思わず身体が震えた。
(「あっちは、どうなっているのでしょうか?」)
後ろをチラリとのぞいてみると、マート・セレスティア(ea3852)が路上生活をしている子供達と揉めていた。
「なんだよ、お前!」
「よそ者は、どこか行け!」
「冷たい事言わずにさ、仲間に入れてくれないかい?」
子供達に周りを取り囲れるが、ニコニコとして、気にした様子のないマート。
「お前等は下がってろ。‥‥俺が痛い目に遭わせてやる」
人一倍体格の大きい子供が、前に出る。ボス格のようだ。
拳を振り上げて襲いかかってくるが、
「‥‥なにッ!?」
マートが避けると‥‥壁に拳があたった。激痛に顔を歪め、涙目になって地面に転がるボス。子供達が、ボスを救おうとして、マートに迫る。
すると、
「待て! 俺の負けだ‥‥仲間に入れてやろう」
「へへへ。よろしく〜!」
ボスは起きあがり、マートを迎える事にした。
パルシア・プリズム(ea9784)は、物乞いに変装していた。彼女の周りには冒険者の姿が見られない。
彼女は一人で行動した方が不自然さが出ないと考え、『単騎』で行動しているのだ。
酒場の目の前に座り、お金を入れてもらうための器を用意して、ボーッとしている。
チャリーン。
ほうり投げられるお金。
(「あぁ、やっぱり私って不幸に見えるのでしょうねぇ‥‥」)
普段から自分を駄目女と思っている彼女は、何人かが器に入れてくれたお金を見て、そんな事を思った。
しかし、実は彼女、この場所に『場所代』を払っているので、収入にはなってなかった。
竜胆零(eb0953)は、スリの真似事をしていた。
(「あの人とか、たくさん持ってそうだけど」)
実際に『盗る』気があるわけではないが、道を通る人を見ながら、相手を物色する振りをしている。
スリとはカモの多い場所でやるものなので、貧民街のみならず、人の多い場所で活動をしていた。
(「貧民街に近いと、やっぱり通る人も違うな。スリも、やっぱり多いみたいだし‥‥。日も陰ってきたし、そろそろ移動するか」)
夜は、周辺の見回りをする事にしている。
ユージィン・ヴァルクロイツ(ea4939)は変装などせず、普段通りの格好で貧民街を歩いていた。
パンをかじりながら、あからさまに派手な格好で出歩くユージィンを、街の人達や街のお客達は好奇の目で見ている。
「やあ、お嬢さん。聞きたい事があるんだよ」
パンを片手にもったまま、街角に立っていた女性に話しかけるユージィン。手間をとらせない程度にくだらない談笑をした後、
「この辺で、路上生活者が殺される事件があったはずなんだよね。何か知ってる事があったら教えてくれないかな?」
その女性に微笑みかけ、殺人事件の事について聞いてみた。
「あんた、随分と派手だけど、どこの人間なのさ? まあ‥‥あの晩に殺された女は皆が寝た後も仕事をしていた‥‥知ってるのは、それぐらいかしら」
この日の夜は、酔っぱらい同士の喧嘩以外、何の事件も起きなかった。
●二日め
マートは路上生活をしている子供達と仲良くなっていた。
「最近この辺りも物騒で危ないみたいだからさ、みんなで一緒に寝ないかい?」
一緒に集まって、共に寝るほどである。人が集団でいるところに犯人が現れるとは思えないが、子供達を守るという意味では役立っていた。
ラテリカは、マートのいるグループに接触を図っていた。マートが、
「友達だよ」
と話すと、何とか話を聞いてくれるようになった。
彼女は、自分の立場や目標をちゃんと説明して、子供達の協力を得たいと思っている。本当は一緒に遊びたくもあったのだが、彼等は彼等で遊ぶより『生活』する事に手いっぱいのようだった。
最初は子供達も不審がっていたが、
「私は、冒険者を‥‥」
ラテリカが冒険者と聞いた途端、
「すごいなー」
「強いの?」
と褒めはじめ、熱心に話しを聞き始めた。冒険者という存在が、物珍しいのだ。
「皆さんの力を、ラテリカに貸して下さいです」
ラテリカは、少し言いにくそうにしながら、子供達に友人が殺されたりしていないか聞いてみた。
「ここにはいないけど、別の場所なら殺された奴がいるはずだよ。‥‥確か、一人で暮らしてる奴がやられたって言ってた」
ボスは真面目な顔をして、殺人事件に関する情報を話した。
ラテリカは、子供達に一礼し、
「皆が安心してくらせるように頑張るですね」
と言って、その場を離れた。
スターリナは、警備隊員に取り調べを受けていた。
「‥‥‥」
喋れない振りをして、身振り手振りで話すスターリナ。
だが、よく見ると、どちらも囁きあっている。
警備隊員の正体は、実はゼフィリナである。
「それで、何か情報は入りました?」
「‥‥という情報がありました」
ゼフィリアは、警備隊の衣装を借りて、取り締まりの振りをして、皆に情報を伝えていた。貧民街の警備隊員が街を歩くのは不自然ではなく、ラテリカが子供達から聞いた情報も、ユージィンが女性達から聞いた情報も、彼女が伝達役となって伝えていた。
竜胆は、貧民街で怪しい人物を探している最中
「ふぁ〜‥‥」
と言って欠伸をした。
(「人を見るだけでも、意外と疲れるものだな‥‥」)
朝から深夜まで動いているので、疲れと眠気がたまっている。
(「なんだか悪そうな人はいっぱいるし、犯人捜しも結構大変だ」)
犯人にこれといった特徴がないだけに、目星をつけるのはなかなか難しいようだった。
ユージィンは、あいかわらずの格好で貧民街を出歩いていた。
あいかわらず進展のない調査をしている最中、人気のない場所で、ある男と視線が合い、彼の身体に緊張が走った。
その男はよく見かける乱暴者達とは、雰囲気が違った。無表情で、何か冷たいものを感じさせる。陰に隠れて、姿はよく見えなかったが。
(「金髪、中肉中背‥‥ごく普通の人だけど、気になるね」)
警備隊の格好をしていたゼフィリアに、ユージィンは声をかけた。
「あの辺りは、パルシアが夜にうろついている場所なんだよね。彼女の実力なら一人でも大丈夫だと思うけどさ、やっぱり万が一って事もあるから」
「そうですねぇ。警備隊の格好だと警戒されてしますかもしれませんから、後でラテリカさんにテレパシーをお願いしましょう」
柳雅は、物陰から見張りを引き受けていた。そして、
「‥‥うぅ〜ん」
と言って、伸びをする。
(「‥‥ねむたい‥‥」)
他の冒険者よりは、まだ平気だと思えたが、急に眠気が襲ってくる。
三日間だけでも、深夜まで起き続けているのは大変に思えた。
それは、他の冒険者も同様である。
●三日め
深夜。
特に、時間を問わずに行動をしている冒険者達には辛い時間になっていた。
パルシアは、昼間じっと動かない方針だったので、多少なりとも寝る時間がとれている。
パルシアは、足を引き摺っている‥‥振りをして、犯人に襲われるのを待っていた。
しばらくそうしていると、男が歩いてくる姿が見えた。今日、ラテリアからはテレパシーで、
「その付近に怪しい人が出たのとですね、一人でいる人が狙われると聞いたです」
と伝えられている。
パルシアは足を休める振りをして、壁に寄りかかりながら相手の様子をうかがった。暗くてよく見えないが、彼女の目は男が手を後ろに回しいるように見えた。
そして、男の間合いに入った途端。男が何かを振った。
ハンマーが寄りかかっていた壁を抉り、破片の幾つかが彼女の頬をかすめた。横にステップを踏み、直撃はまぬがれている。
暗がりの中で、男は一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに武器を握り直した。
男の攻撃が、またも空を斬る。
パルシアは、
(「この軌道‥‥スタンアタック?」)
と感じた。
パルシアは、袖から縄ひょうを取り出し、男に向かって投げた。あたった感触はあるものの、男に怯んだ様子はない。
戦闘技術は同程度ながら、決め手に欠いている。一人で戦い続けるには、分が悪い。
スターリナが襲われた時に叫べと言っていた言葉を、そのまま叫んだ。
「放火魔だ!」
ゴッ。
「あっ‥‥くっ‥‥」
男のスタンアタックをくらったパルシアは意識を失った。
続けざまの一撃を避けきれるはずもなく、左腕に傷を負い、鮮血と共に地面に転がる。が、その瞬間、近くの建物の明かりがついた。
点々と明かりがつきはじめると、男は闇に溶け込むように消えていった。
すぐに騒ぎを聞きつけ、他の冒険者達もやって来た。
(「これぐらいなら、まだ治療出来ますね」)
「‥‥リカバー!」
ゼフィリアが、パルシアをリカバーで治療してあげる。
他の冒険者が、犯人追跡の手がかりを探してみたところ、
「ねえねえ、血の跡があるよっ!」
マートが犯人の血らしきものを発見した。
「マーちゃん殿に追跡してもらって、その後を追うとしよう。パルシア殿は、動けるだろうか?」
柳雅の言葉に、パルシアはうなずき、
「まかせてよっ!」
マートは喜び勇んで血の後を追っていった。隠密行動に優れる彼には、それ相応の追跡技術も備わっているようである。
しばらく追跡してみると、血の跡は途切れていた。
「ムーンアロー使ってみるです」
ラテリカが、ムーンアローを使ってみる事に。
(「十日前に子供を殺した男」)
「ムーンアロー!」
矢は、通ってきた道の途中にあった路地裏に向かい、飛んでいった。
「待てー!」
楽しそうに矢を追いかけるマート。路地裏に入った途端、彼の
「ひゃーっ!」
という楽しそうな声が聞こえてくる。
他の冒険者達がすぐに駆けつけると、その声を出した理由がわかった。犯人の男の攻撃を、マートが楽しそうに避けているのだ。
「ひゃっほー、こっちだーい!」
『死ぬか生きるか』の事なのに、緊迫感がまったくない。
冒険者に背を向け、逃げようとする男であったが、『疾走の術』をかけていた竜胆が路地裏の逆側にまわっていた。
「弱者を殺すばかりか、死体までいたぶるなんて‥‥正直、気分が悪い」
当然一人の側を突破するべき‥‥だが、
「‥‥!」
彼のハンマーは、またも空を斬った。
「ここは通さないよ」
竜胆は回避に集中し、男の攻撃を難なくかわしている。
囲まれても、男は抵抗を続けた。
冒険者達も決め手に欠いている。大きな傷を負わせられない。
「やれやれ、まいったね‥‥これじゃ、コッチが怪我しちゃいそうだよ」
ユージィンは、クルスソードを地面に置くと、ホーリーフィールドを張った。その近くで、
(「誰か怪我しないと良いのですけれど」)
ゼフィリアもリカバーの準備をしている。
(「眠らせれば大人しくなるです」)
ラテリカは、スリープの魔法を唱えたが、抵抗されて思った様に出来なかった。
(「このままでは、ラチがあかないな‥‥」)
柳雅は後方に周り、ナックルを外すと、
「くらえ‥‥爆虎掌ッ!」
爆虎掌を繰り出した。
背中に受けた激痛に、顔を歪める男。
パルシアも同様に後方から隙を突く。
(「さっきのお返しッ!」)
シューティングPAEXで、縄ひょうの刃を男の身体に突き刺した。
男は、何とか脱出を試みたい。見ると、スターリナが下がっている。
男は活路を求めて、スターリナに向かっていった。
(「‥‥かかった!」)
彼女に向かって剣を振り上げようとしたその瞬間、全身に激痛が走った。
「な、何をしたんだ‥‥?」
スターリナのライトニングトラップだ。
「あなたが何故道を外れたかは、興味はありません」
がっくりと膝をつく男を見下ろし、スターリナは言った。
「己の為した事の結果を、その身に受けなさい」
男は地面に突っ伏し、‥‥動かなくなった。
死ぬまでは至らず、男は警備隊に連れていかれた。
●その後
火事騒ぎを起こした事から警備隊には迷惑がられたが、ロロとしては満足だった。
連続殺人犯の動機は、『病で伏せていた母親のために薬を用意出来ず、死なせてしまった』ところからはじまっていたらしい。それから、『貧乏人に生きる価値はない』というところに達した。
「貧しくても頑張って生きようとする‥‥そういう人間が、無意味に感じたのかもしれないな」
ロロは、最後に冒険者達にお礼を言った。
「子供達の事を気にかけてくれたのには感謝する。‥‥立派だった」