●リプレイ本文
●雪だるま大戦
パリ近くの雪原の上で、『雪だるま大戦』が勃発しようとしていた。
チームは、年齢によって分けられている。
『チーム10代』は、ヴィグ・カノス(ea0294)、ラテリカ・ラートベル(ea1641)、ランディ・マクファーレン(ea1702)、レジエル・グラープソン(ea2731)、レシオン・ラルドフォール(ea2632)の五人。
『チーム20代』は、ほ〜ちゃんこと無天焔威(ea0073)、夜黒妖(ea0351)、シン・ウィンドフェザー(ea1819)、紅茜(ea2848)、ノーテ・ブラト(ea7107)の五人。
エルフのラテリカの年齢に関しては何か間違っている気もするが‥‥本人が
「ラテリカ、まだ子供ですもんね」
と言い張るので、この様になった。
とにかく、両側に分かれて雪玉と氷玉を作りはじめる両陣営。
気合を入れて雪を固めている‥‥生真面目なのか、それとも何か『企み』があるのか。
そして、
「それでは‥‥はじめ!」
ついに『雪だるま大戦』の火蓋が切って落とされた。
「よ〜し! チーム20代、ふぁいとぉ!」
久しぶりの雪合戦に闘志を燃やす茜が、雪玉を握りしめた。
「手加減無しでいくよぉ!」
記念すべき第一投を‥‥投げた!
わらわら逃げ出すチーム10代。
ひゅーん‥‥ぽすっ。
「あら‥‥?」
雪の上に雪玉が落ちる音は、無音に近く‥‥かなり虚しかった。
(「雪遊びなど、4歳の冬以来だな‥‥」)
などと思い出に浸っていたランディも、雪玉を握りしめ、チーム20代目がけて投げる。
先程のチーム10代と同じく、わらわら逃げ出すチーム20代。
「‥‥失敗か」
‥‥ぽすっ。雪玉は、誰にも命中せずに落ちた。
このように、『ほんわか』進むと思われた雪合戦であったが、次の一投でその雰囲気が一変する。
「やる以上は、負けるつもりは無いな‥‥」
氷玉を握りしめ、標的を見定めるヴィグ。
雪合戦に対するヴィグの真剣さは、並ではなかった。
(「序盤の内に、どれだけ数で優位に立てるかで、かなり変わってくるはずだ」)
と、冷静に分析するほどである。
びゅんっ!
手から放たれた氷玉は勢い良く飛んでいく。
‥‥ドスッ!
「はぅあ!?」
茜の鳩尾(みぞおち)に命中した。雪玉ならばともかく、氷玉は、その何倍も硬い。しかも、シューティングPAEXを使うほどの『極悪ぶり』である。
「うぅ〜‥‥ひ、ひどすぎるよぉ‥‥」
どばーっと茜の瞳から流れ出す涙。
‥‥ぱたっ‥‥。
ヴィグの本気すぎる一撃を受け、倒れる茜。
シーン、とする一同。
(「‥‥狙い通りだ」)
さりげなくそう思ったヴィグ。冷徹すぎる。
「ふがふが‥‥困ったの〜」
老人が、悶絶している茜を遠くまで引き摺ってから雪合戦再開。
ノーテは、茜が悶絶する様を見て、
(「童心に返って楽しみたかったのですが、それどころではなかったですね」)
と感じていた。
しかし、彼は童心を忘れない。
(「よし、ここはミミクリーで‥‥この雰囲気を」)
「ミミクリー! ‥‥墓掘人スノーマン参上!」
手足を生やした『雪だるま』になる‥‥とても変だ。
ドス、ドス、ドス。
「たあ!」
どてっ。
雪玉を投げるついでに転ぶ雪だるま男。
‥‥ぽすっ。雪玉は、雪の中に埋まった。
「‥‥む?」
ラテリカは、ランディの影に隠れていた。
(「雪だるまさんは重すぎたです」)
その近くには、たくさんの手形がついた雪だるまが転がっていた。どうやら、動かそうと努力してみたらしい。
「えへへ、影から攻撃ですっ」
ランディの腰のあたりから顔を出し、雪玉を投げる。
ひゅーん。
‥‥どしゃ。
雪だるまの頭でくだける雪玉。
「うわっ!」
雪だるまが、じたばたと暴れる。
ノーテだ。
そして、なぜだか嬉しそうに転がり出すノーテ。‥‥どっかに行ってしまった。
「やったです」
ランディの後ろに隠れながら飛び上がるラテリカ。
レシオンは、迷っていた。
(「ココは、まだ攻撃するべきじゃないな‥‥」)
様子見である。
(「まずは、敵の動きを把握しなくては‥‥」)
彼は、次からの攻撃に全力を注ぐ気のようである。
シンは、チーム10代を見返してやろうと気合を入れていた。
「へっ‥‥若さなんぞ、経験の前では役に立たんって事を証明してやるぜ」
氷玉を握りしめ、
「くらぇいッ!」
ぶん投げる。
ゴーンッ!
木にあたった。
ぼたぼたぼた。
‥‥木の下にあった雪だるまの頭が、三角になった!
黒妖は、チーム20代の劣勢を感じている。
(「よーし、俺が頑張らなきゃね!」)
「まだまだ若いもんには負けないぞー」
若さをアピールするチーム10代への制裁をくらわすため‥‥氷玉を投げる!
「当たれー、当たれー‥‥にゃ?」
ボスッとチーム10代側に置いてあった雪だるまを貫通し、穴が空いた。
「‥‥‥」
なんだかシーンとする一同。氷玉は危険すぎる。
「何だか、かわいそです‥‥」
それを見て、なんだか泣きそうになるラテリカ。
「うー、ノーテに穴をあけちゃった」
黒妖が両手を合わせて、ノーテの冥福を祈る。‥‥死んでないが。
「いくよー」
焔威は両手に雪玉を握っていた。
ぽいっ。
ぽいっ。
ヴィグに命中する。
しかし、その『音』がオカシイ。
ゴンッ!
ガゴンッ!
氷玉ともまた違った、オカシイ音がする。
(「‥‥なんだ?」)
ヴィグが痛みをこらえながら下を見ると、雪の中に『石』があった。
「‥‥‥」
石を拾い、焔威をジトーッと見るヴィグ。この事態にも怒らないところが、彼らしい。
「それは〜、禁断兵器石玉!」
ジャパンの禁断兵器‥‥石を雪でカモフラージュしただけという実戦用(?)武器である。
楽しそうに手を振っている焔威。
「‥‥そうか」
しばらく沈黙が続いていたが、後ろに下がって観戦をはじめるヴィグ。‥‥冷静すぎて、ちょっと怖い。
投擲技術研究家レジエルは別の意味で冷静であった。
(「せっかくの雪合戦ですし、同時に研究と練習も、ぼちぼちやってしまいましょうか」)
そう言って、あらかじめ考えておいた投雪玉練習をはじめるレジエル。
最初は、サイドスローである。
ぶぉん。
手から雪玉がはなたれた。
しゅるるるるぅ。
回転音と共に、黒妖に襲いかかる。
雪玉を避けようと、一生懸命身を低くしていたのだが、むしろ雪玉のコースは‥‥。
ぐしゃっ!
「うぎゃ!?」
黒妖の顔に命中。
顔一面にひろがる雪。
「冷たい〜」
レジエルは、更なる研究に熱意を見せている。
(「なるほど、なかなか良い精度ですね」)
チーム20代、いきなり3人の退場者を出し、窮地に陥った。
チーム10代は、まだ1人しか減っていない。‥‥早くも、年長者に暗雲が立ち込めてきたか。
「ただのショボイ雪玉なんぞに用なぞないわっ!」
焔威は、近くにあった雪だるまの頭をガシッと掴み、
「うおりゃ〜!」
全力で転がした。
ゴロゴロゴロ‥‥勢い良く転がっていく雪だるまの頭。
ついに『雪だるま』が雪合戦に投入されたのだ。
「うおお! 若僧どもめ、雪だるまの下敷きにしてくれるわ!」
シンは、雪だるまを丸ごと押し飛ばす。‥‥頭はもげたが。
「いけー!」
ゴロゴロゴロ‥‥でかい、積もった雪を吸収して、でかくなっていく。
「どうやら、これは真剣勝負らしいな」
(「皆、手抜きなどはしていないらしい‥‥」)
ランディが氷玉を握りしめ‥‥思いっきり投げた。
びゅーん。
ボスっ。
またもや、犠牲になった雪だるまが。
「またノーテが死んじゃった‥‥」
冗談なのか、天然なのかよくわからない黒妖。
状況を見ていたレシオンも、ついに攻勢に出る。
「見えた! ここだぁ!!」
ばしゅあぁぁぁ。
低空を走る狙いすました一投。
そして‥‥。
失速し‥‥ぽとっ。
「うぅわ!」
何時の間にか復活した茜が作っていた『スモール雪だるま』の頭になった。
「せっかく、作ってたのにぃ」
頬を膨らませ、抗議する茜。‥‥よく見ると、茜を中心にたくさんのスモール雪だるまがあった。
レジエルの研究はまだ続いている。
(「よし、今度は上からいってみましょうか」)
オーバースローで雪玉を投げつける。
‥‥が、今度は外れた。
「ん〜、イマイチですね」
ラテリカが、転がってくる雪だるまにアタフタしていた。
「はわわわ」
それでも、何とか氷玉を投げた。
「や〜っ」
‥‥雪だるまにタンコブが出来た。
ゴロゴロゴロ‥‥。
2個の雪だるまはチーム10代をすり抜けていった。‥‥何体かの雪だるまを破壊しながら。
ぜーぜー。
はーはー。
チーム20代は、二人とも雪だるまを投げて、へばっている。
(「‥‥勝機!」)
レシオンは雪だるまを転がし、一気に片をつけるつもりだ。
「くらっえぇぇぇぇぇ!!!」
雪だるま(頭)が、へばっているチーム20代に襲いかかる。
更にランディもそれに続いて、雪だるまを投げる。
(「いけるか‥‥?」)
ゴロゴロゴロ‥‥。
雪だるまのコースは完璧だ。
(「う〜‥‥ラテリカ、雪だるま作りたいです」)
ラテリカは、茜がスモール雪だるまを作ってるのを見て、かなり羨ましそうであった。
‥‥ので、雪玉はとんでもない方向に飛んでいた。
「そろそろ、あれを‥‥」
レジエルは、今度はアンダースローで投げた。
ひゅーん。
ぽすっ。
「やはり雪というのは、なかなか扱いが難しいですね‥‥」
ランディの投げた雪だるまが、シンをとらえた。
(「こうなれば、焔威を盾に」)
と思っていたが、すでに見切られていたのか、場所が遠すぎる。それ以前に、
「人の行動が理解する‥‥特定の人間に限定するならともかく‥‥いんや、限定したとしても」
などとよくわからない事を焔威が呟きはじめていたので、そういう行動に出る気分になれたかは謎であるが。
ベシャン!
ゴキペキ‥‥。
「うっ‥‥ぐっ‥‥あっ‥‥ぎゃっ‥‥」
シンの声にならない声が響き渡る。
雪だるまが通り過ぎた後、彼は完全に雪に埋もれていた。動かないので、またお爺さんが引きずって退場させた。
(「‥‥想像以上だな」)
思わず、そう思うランディと一同。
ヴィグは、後ろから戦力分析をしていた。
(「あちらは、残り一人か。それに比べ、こちらはまだ余力がある‥‥よほどの事がない限りは、負けようがないな」)
確かに、確立からいえばチーム20代の勝率は限りなく低くなっているように思えた。
しかし、この後に『奇跡』が起こる。
「伊達に年くっちゃいないんだよ〜」
焔威の雪だるま攻撃が、雪だるまを投げてへばっていたレシオンとレジエルを捉えたのだ。
「うわっ、レシオンさん、そっち行ってくださいよ」
レジエルは、だんだんと巨大になっていく雪だるまを目の前にしていた。もちろん、レシオンも近くにいる。
「‥‥無理だ。雪だるまが意外に重くて‥‥うぐっ‥‥あっ‥‥うっ‥‥」
ベキバキ‥‥ペキパコ‥‥。
「ぐはっ‥‥ごっ‥‥むっ‥‥がっ‥‥」
ペシャッ!
ペシャンコになる二人。
「はっはっは〜、実力、実力〜」
ニンマリとする焔威。
これで、2対1。勝てない勝負ではなくなった。
しかし、雪合戦する人数が少なくなった事から膠着化しはじめ、退場者達は好き勝手にしていた。
「成仏してね‥‥なむなむ」
黒妖は、雪でノーテの墓を作っていた。
手足の生えた、よくわからない雪だるまだった。
茜は、レシオンにスモール雪だるま作りを手伝わせていた。
「もぉ〜、可愛く作ってよぉ!」
「可愛く作ってるつもりなのだが‥‥こんなものか?」
そんな事をやってると、ノーテが帰ってきた。
「‥‥ただいま」
なぜだか顔にアザがある。それに寝癖も何時も以上に酷い。
「暇つぶしに近所の子供達を驚かしに行ったんですけど、ボコボコにされまして‥‥」
と言うノーテ。なんでも、ミミクリーで雪だるま(手足つき)に変身して子供達を驚かそうと思ったのだが、
「化物をやっつけろー!」
というかけ声と共に反撃を受けたらしい。‥‥『村人総出』で。
「あ、ノーテ生きてたんだ」
キョトンとする黒妖。
「墓は掘るものです」
自分の墓を見て、なんとも言えない顔を見せるノーテであった。
レジエルは、ヴィグの横に座ってワインをチビチビ飲んでいる。
「なかなか当たらなくなりましたね」
「あっちは、さっきから雪だるまばかりを投げているから‥‥まあ、大丈夫だろう」
などと、観戦モードの二人であった。
シンは、
「こらー、しっかりしろー。こんな場所で人間雪だるまにされたら死んでしまうぞー!」
と焔威に野次を飛ばしていた。
すでに、雪合戦の時間は終わろうとしている。
ラテリカが雪だるまの影に隠れながら、
「えーいっ」
とはなった雪玉が、焔威の白い髪の上に落ちた。
「あぁ〜、駄目か〜。一人で三人までは倒せたんだけどね〜」
焔威が髪の雪を振り払い、雪の上に大の字になる。
チーム10代の勝利だ。
「やったです」
「ああ、相手側が人間雪だるまにされるまで‥‥カマクラでも作って待つとするか」
喜び合うラテリカとランディの二人。
老人が勝利宣言をする。
「勝者10代! よし、それでは‥‥」
●人間雪だるま
(「‥‥極寒‥‥」)
雪原の上に、五体の人間雪だるまが立っている。雪だるまの頭の真ん中に、彼等の顔があった。
寒くて、声の出ないチーム20代。
鼻水だーだーの上、それが凍っている。カチンコチンだ。
チーム10代は、ランディの作ったカマクラの中で、ヌクヌクしていた。
「カマクラというのは、雪中の戦において‥‥」
と、何か騙され気味のランディであったが、カマクラの出来は良かった。
「あったかです」
焚き火にあたり、ホクホク気分のラテリカ。
「一曲、披露しようかな」
レシオンは、横笛を吹いて、皆の気分をなごませていた。
「ご老人、一杯どうですか?」
レジエルは少し酔いがまわったのか上機嫌で、老人の相手をしていた。
「うがー! こんなことやってられるかー!」
外の様子がおかしい‥‥シンが雪だるまから手足を出して暴れている。
「ヴィグ君、やってくれたまえ」
「‥‥了解した。大人しくさせればいいか?」
老人から『始末』を頼まれたヴィグはシューティングPAEXで、人間雪だるまの『急所』に氷玉を命中させた。‥‥涙を流しながら倒れるシン。
倒れたシンは、雪だるまの頭を持ち上げられなかったラテリカが作った『寝雪だるま』に並べられた。
チーム20代は、薄れゆく意識の中、雪だるまと茜が作ったスモール雪だるまが仲良く遊んでいる幻影を見た。
雪だるま達は、‥‥幸せそうだった。