●リプレイ本文
●ピクニック(到着前)
『ピクニック依頼』を引き受けた冒険者達は、出掛ける前にそれぞれの準備をしていた。
クリス・ラインハルト(ea2004)と捧徳寺ひので(eb0408)は『お出掛け用のドレス』を選びにパリの仕立て屋を回っている。オラース・カノーヴァは二人の付き添いをしていた。
あまり気にいったものがなかったので、仕立て屋を生業にするカンター・フスク(ea5283)を作ってもらおうという事になった。
カンターのところまで送り届けたオラースは、
「あんた等、無理だけはするなよ。‥‥いいな?」
と言って戻っていった。カンターは、『ふりふりの付いた、体型が目立たない、ふわふわのドレス』を作ってあげた。
ティアナ・フェアリー(ea3639)は、友人達に囲まれていた。
「春になりましたし、きっと、食べられる植物も出てきていると思いますよ」
フェイテル・ファウストは、食べられる植物の特徴を書いたものをティアナに渡してあげた。
北条彩はイノシシ用の罠を作り、
「イノシシ、獲れるといいですね」
と言って、ティアナに差し出した。
セフィナ・プランティエは、
「イノシシさんは暴れると怖いですから、お気をつけてくださいましね」
イノシシの生態について話をしてあげた。
フェリーナ・フェタ(ea5066)がティアナを呼びに来たので、三人はティアナを送り出した。フェイテルを見たフェリーナが、なぜか、ちょっとだけ浮(うわ)ついていた。
里見夏沙とバルバロッサ・シュタインベルグが見送りきた。
夏沙は、
「春の風景を楽しめるといいな」
と言い、シモーヌ・ペドロ(ea9617)とすこしの間談笑していた。
「たまには、こういう依頼もいいかもな」
バルバロッサは、皆の荷物をまとめておいてくれた。
皆が集合すると、親父(ドーカン)さんは歩き出し、皆でその後ろを付いていった。
キャル・パル(ea1560)は、親父さんの肩に乗って、後ろの皆を応援していた。
料理人の井伊貴政(ea8384)は、たくさんの料理道具を持ってきていたので、ちょっと大変そうだった。
●ピクニック(昼食まで)
親父さんに連れられ、山に到着した冒険者達。
天気も良く、ポカポカして、あったかい。
草は優しくて、花は笑顔を絶やさなかった。
昼食の時間まで時間がある。
貴政と『極食会の一員』カンターが、昼食担当だ。
なぜだか、二人はお互いの『料理している姿』を見ている。どうやら、技を盗み盗まれ、技術の向上が出来れば、と考えているようだ。その内に、二人の視線が合い、二人は微笑みあった。
「それ、食べやすくて良さそうですねー」
貴政がカンターの料理を見てそう言った。野菜の葉とスライスした薫製肉を、同じくスライスしたパンの上に乗せている。
カンターは薫製肉をスライスする手を止めて、その一枚を貴政に味見してもらった。
「獣臭さも消えてるし、食べやすいですねー」
「昼食は、軽めにしようと思ってね」
(「フェリーナも、疲れたみたいだし」)
カンターの視線の先に、彼の幼馴染みであるフェリーナがいた。彼女は、草のベッドの中に、その身をしずめていた。‥‥疲れたのか、そのまま寝てしまったようだ。
ぐったりしているのかと思いきや、なぜだか楽しそうである。
「ん‥‥置いていかないで‥‥」
寝言を言いながら、なんだかモジモジしている。
その表情は、ちょっと『甘えてる』感じであった。
「うん‥‥ありがと‥‥フェイテル‥‥」
何の夢を見ているか聞きたかったが、あんまりにも幸せそうなので、皆はほっておいてあげる事にした。
「‥‥‥」
(「なかなか、来ませんね」)
ティアナは頑張って大きな『落とし穴』を掘り、その上に彩にもらったイノシシ用の罠を仕掛け、じーっと罠にかからないか見ていた。
ぼーっと待っていると、のそのそと中くらいのイノシシがやってきた。
鼻息を荒くして、くんくんとニオイをかぐイノシシ。
落とし穴の上に、エサが置いてあるのだ。そして、エサに近付いた途端‥‥ごてっ。
罠にはまり、じたばたするイノシシ。ちょっと可哀想だったが、
「おとなしく胃の中に入ってもらいます」
と言って、大きな石を落とした。
「ぶぎゃっ!」
動かなくなるイノシシ。‥‥重くて運ぶのに苦労した。
シモーヌは、料理の手伝いをしたり、食器を用意をしたりしていた。
「あー、コレ銀食器ではないデスカ? シモーヌめは銀駄目デスヨー」
金属製品を見つけ、おっかなびっくり、ジロジロ見るシモーヌ。‥‥銀ではない事を確認してから、作業を続けた。
怪しい言葉の使い手である彼女。なんだか『慣れない感じ』がして、可愛らしいのだが‥‥。実は、その裏側で
(「下手に信用されても困るけど、頑張らないと食べていけないもんねー」)
などという思いを持っているのである。表裏が有りすぎである。
もし彼女の本音を聞ける機会があるとすれば、『メイドさん』という職業の幻想を見事に打ち砕いてくれる事であろう‥‥たぶん。
そして、内心はどう思っていようと、彼女は一生懸命お仕事をしているのである。
ひのでとクリスは、カンターに作ってもらった『ふりふりドレス』を着ていた。二人で、歌の練習をするらしい。
「ドーカンさん」
ひのでは、ドレスを自慢したいらしく、昼寝をしていた親父さんを揺り起こしていた。‥‥目をこすりながら、起きる親父さん。
「む‥‥」
「このドレス似合ってますか? 変じゃないですか? ‥‥間違った着かたしてませんか?」
ひのでにドレスが似合っているか聞かれ、とりあえず頷(うなず)く親父さん。
「ひの、これお気に入りなんです。カンターさんが作ってくれて、クリスさんとお揃いなんですよっ!」
と言って、大喜びのひので。
「ひのでちゃん、こっち、こっちっ! 風がよく通ってて気持ちいいですよ」
クリスが、ひのでを呼んだ。どうやら、良い場所を見つけたようだ。
クリスは、大きな岩の上にいた。ちょうどそこだけ空間が空いていて、風がよく通っている。肌にそっと触れる風が、心地良かった。
「気をつけてくださいね」
ひのでの手をとり、二人で岩の上にちょこんと座る。
クリスがひのでのために、『ノルマン森の詩』を歌ってあげる事に。
「じゃあ、僕が歌うのを真似してみてください!」
竪琴の調べが、風に乗って伝わっていく。
(「あっ、動物さん達が見にきてる」)
ひのでは、一生懸命クリスの真似をしていると、木の上や草の影から山に住む小動物達が顔を出しているのに気付いた。
二人が詩を歌い終わり、皆のところに戻ろうとすると、固い殻を割られた木の実が落ちていた。『動物達からの贈り物』だと言って、二人はそれを食べた。特に美味しくもなかったけど‥‥なんとなく顔がほころんだ。
昼食の時間も近くなったので、皆は集合しはじめたが、キャルだけなかなか見つからなかった。
マントにくるまって、小さくなって寝ていたからだ。草に隠れて、よく見えなかった。
「‥‥宝石の猫さん‥‥待って、キャルとあそぼ〜♪」
ジュエリーキャット(宝石の猫)を追いかけてるのか、ゴロゴロ転がるキャル。
「‥‥ほら、こっちだよ〜‥‥よくできました〜☆」
ジュエリーキャットとじゃれあってるのか、やはりゴロゴロ転がるキャル。
本当に‥‥幸せそうである。すやすや寝ている表情とは、また違った表情だ。
草がモサモサ動いていたので、やっと発見された。
(「宝石の猫さん‥‥」)
キャルは、起こされると同時にジュエリーキャットが見あたらないのを、残念がった。
それ以前に起こされていたフェリーナは、起こされたのを、かなり残念がった。たぶん。
さて、昼食の時間。
カンターが作ったパンに野菜と薫製肉を乗せた料理と、貴政がデザート用に作った桜餅(さくらもち)が用意された。
シモーヌが食器の用意などをしてくれたので、すぐに食事にありつけた。
「ジャパンには珍しいお菓子がいっぱいあって、羨ましいね」
出来上がった桜餅も食べながら、カンターは感心した。甘すぎず、美味しい。
「でも、ノルマンでは、材料費も、材料探しも大変なんですよー。今回は、親父さんがもってくれましたけど」
ジャパン料理を作るのは、材料を探す手間と材料費がかかる。貴政も、完全に同じ材料は用意出来なかったし、桜の葉の塩漬けさえも高価だった。
「ちょっと味は違うけど、美味しいですっ!」
ひのでは、故郷の味が懐かしいのか、桜餅をぱくぱく食べていた。
カンターがハンカチをナプキン代わりにかけてくれたので、ひのでのお気に入りのドレスは汚れないで済んだ。
(「伸びる〜」)
その後ろで、キャルが桜餅の伸び具合と格闘していた。‥‥ちぎって食べる事にした。
「‥‥‥」
モシャモシャ。
親父さんは、カンターの料理が気に入ったのか、黙ったまま二つめに突入していた。
(「うーん、忙しいなー」)
どっちの料理も評判が良かったので、シモーヌは忙しくはたらいていた。
こうして料理が食べ尽くされ、昼食は終わったのであった。
●ピクニック(夕食まで)
親父さんは昼寝を続けたかったが、許されなかった。‥‥キャルとフェリーナの話し相手になったから。
特にキャルは、親父さんにどうしても伝えたい事があるらしかった。
「キャルが、パリのシフールさん達の間で使われているご挨拶教えてあげるよ〜」
更に、
「キャルに続いて言ってみてね〜」
と念を押すキャル。
真剣(?)な眼差しに頷く親父さん。そして、キャルが言った言葉は‥‥
「しふしふ〜☆」
「‥‥‥」
無反応の親父さん。どう答えていいかわからず、口を開けている。
「しふしふ〜♪」
隣にいるフェリーナは、ニコっと笑って真似をしている。
しばらく言わないでいると、キャルが悲しそうな顔をした‥‥。
「‥‥しふしふ〜‥‥」
なんだか、恥ずかしそうにする親父さんであった。
「これでパリのシフールさん達と仲良しになれるね〜」
キャルは、親父さんの周りを飛んで喜んだ。
フェリーナは、ジャパンの話を聞きたいようだ。
「ドーカンさんは、ジャパンではどういう事をしていたのかな?」
「んー、そうだなあ‥‥まあ、今やってる事と大して変わらない事をしていたよ」
それから、いろいろ聞いたり話してみた。親父さんは、ジャパンの冒険者の事も話してくれた。
「ジャパンには、みょーな冒険者がいっぱいいたなあ‥‥まあ‥‥その基準が変人となると、イギリスには適わないが」
「そーなんだ‥‥。イギリスって、変態さんの王国だったんだね」
変人が変態にランクアップしても、あえて否定しない親父さんであった。
「貴政さん、蕎麦(そば)のお湯、沸かしておきました!」
クリスは、食事を作る手伝いをしている。もちろん、作っているのはカンターと貴政。そして、新たに料理班に加わったティアナであった。
「料理といえば、これです」
ティアナの料理は豪快だ。イノシシを丸ごと焼いている。
そのままだと焦げそうなので、イノシシに棒を通し、グルグル回していた。
「この焼き加減を見よ!」
ぐるぐる。
ぐるぐる。
とりあえず、焦げすぎないようにずっと回していた。
カンターはスープを、貴政は蕎麦を作っている。クリスは、
「丸焼き、楽しみにしてますっ!」
炎の近くにいるティアナの汗をふいたりして、ちょこまか動いてる。
クリスがお手伝いに回ったので、
「休んでいいよ」
と言われたシモーヌ。
(「ちょっと眠いなー」)
と思っていた事もあって、
「では、すこしの間だけ休ませていただきマス」
と言ったまま、すやすやと寝息をたてた。
態度とその内側で思っている事は違うかもしれないけど、きちんと仕事はするし、立派なメイドであるのは間違いない。
それに、春なのだから、眠くもなる。きっと、良い夢を見られた‥‥はず。
(「よし‥‥これで出来上がりですっ!」)
ひのでは、花の冠(かんむり)を作ろうと頑張っていた。
一つ出来たので、更に二つ、三つと増やしていく。
「クリスさぁ〜ん!」
クリスに駆け寄り、花の冠を差し出す。
「ひのでちゃん、ありがとう!」
お互いに冠をかぶせ合い、なんだか満足した様子の二人。
「なんだ、二人して‥‥」
カンターがすこし二人の姿をからかったりもしたが、最後には
「二人とも、お姫様みたいだ」
と言ってあげたので、二人は喜んだ。
ひのでは、親父さんの頭にもかけさせ、それからずっと親父さんは頭の上のものを気にしていた。‥‥が、ちょっとは気に入ってたらしい。
「天麩羅(てんぷら)を作ってみませんか?」
突然、貴政にそう言われたカンター。興味があるので、やってみる事に。
山菜を揚げてみる。西洋人から見て、『ちょっと変わった揚げもの』といった感じであった。
「これなら、一人でも出来そうだ‥‥。珍しい料理なのかな?」
「ジャパンだと油が貴重なので、なかなか出来ないんですよー」
天麩羅は、ジャパンの高級料理なのだ。
さて、夕食。
ティアナのイノシシの丸焼きと、カンターのスープと、貴政の蕎麦(天麩羅入り)が出された。
蕎麦は材料自体が珍しかったので、ちょっとしかなかった。
「桜餅‥‥そして、蕎麦がリクエストでしたからね」
クリスとひのでのリクエストに答えてくれた貴政。料理人の鏡である。
貴政の蕎麦は、ジャパン人達の口に入れてみると、本来のものと違った感じがした。が、そこは料理人。それなりに頭を使って、美味しくしてあるのだ。
ずずず‥‥皆で美味しくいただいた。
イノシシの丸焼きは、難敵であった。美味しいのだが、何しろ量がおおい。
「‥‥‥」
親父さんは、さりげなく食い気のありそうなクリスとひのでの皿にイノシシ肉を多めにおいていった。
カンターのスープは、じっくり煮込んだためか、肉や野菜が柔らかくて、とても美味しかった。これほどの料理は、なかなかお目にかかれない。
「うん、綺麗になったよ」
ひのでが食べ散らかすので、フェリーナが口もとを拭いてあげたり。
クリスが残さず食べようと頑張って喉を詰まらせ、カンターがいそいで水をもってきてあげたり。
なんとか全てを食べおわり、お腹のふくれた一行。
シモーヌは、
(「皆、食いすぎー」)
と思いながら、後片づけをした。
ティアナに
「平和な依頼で楽しかったです。親父さん」
と言われる親父さん。
「もう食べられないよ〜」
親父さんの肩に、お腹がいっぱいになったキャルがつかまっている。
親父さんも、あんまり表情には見せないが‥‥それなりに満足した様子だ。
最後に、山を降りながら、『夜空の色』を楽しんだ。
ピクニック、お疲れ様。