●リプレイ本文
●サバイバル開始
小さい島に漂着した冒険者達は、それぞれ『役割分担』をして『生活基盤』を整えることとなった。
●沼の守護者の本領
デューシンス・ダーエ(ea5203)とエルド・ヴァンシュタイン(ea1583)は、水探しに出掛けていた。
デューシンスは、
(「森や生い茂った木があるのなら、水源がどこかにあるはずだ」)
と考え、エルドと共に島の奥へ奥へと進んでいた。
エルドは、はじめての場所なのに、やけに慣れた様子である。森の特性を理解しているのか、ひたすら進み続けている。猟師としてある程度の実力を持ったデューシンスも、この場では彼の後に付いていく感じになっていた。
「やれやれ、こんな事ならパイプくらい持ってくれば良かった‥‥」
エルドは愚痴(ぐち)を言いながら、木の枝にバーニングソードをかけて草を薙ぎはらっている。本物の火を使ったら『火事』になって一大事だが、魔法の火なので問題はなく、蔦(つた)の多い場所を進むのに役立った。
「‥‥ん?」
『ぬめり』を感じ、足下を覗(のぞ)いてみるエルド。
「どうかしたのか?」
と後ろから話しかけたデューシンスも、異変に気づいたようである。
地面が湿っている。しかも、雨の『ぬめり』ではない。それと同時に、彼等は『気になるもの』も見つけていた。
「エルド、どうやらモンスターがいるようだ」
「ああ、ただのカエル‥‥だとよいのだがな」
カエルの‥‥大きい『足跡』がある。
それをたどってみると、案の定‥‥小さい泉と、そこを占拠しているジャイアントトードがいた。デューシンスを手で制し、エルドが詠唱をはじめる。
(「可哀想だが、どいてもらうしかないか」)
「‥‥ファイヤーボムッ!」
爆発音と共に転がり、ノタノタ逃げていくジャイアントトード。『何も無い』状況の中では、威力の高い魔法の存在は大きい。
水がわき出している綺麗な箇所を見つけ、デューシンスが軽く口に含んでみる。‥‥飲めるレベルだ。
「うん、これなら平気だ。これで飲み水は確保出来た」
「あとは食べ物か‥‥まさか‥‥」
ジャイアントトードが残していった足跡を見ながら、表情を暗くするエルドであった。
●狩人の憂鬱
ミケイト・ニシーネ(ea0508)とヘルガ・アデナウアー(eb0631)は、森で食べ物集めをしていた。
木の上からは、毒を持ってるのか持っていないのか分からないヘビが二人が見つめ、地面では怪しい色をしたカエルが飛び回っている。‥‥二人には、それが食べられるのかどうか分からなかったが、『肉』になるのは、その程度の生物しかいないらしい。
カモフラージュ用に『葉っぱで作った露出度の高い服』を着ているのは、ヘルガだ。奥に進んでいくエルドに
「この服、どうかしら?」
と言ってみるも、
「急ぐ」
といった意味の言葉を、やんわりと言われただけだったのは、内緒である。そして、彼女の『眼中』にドーカンさんがいなかったのも、内緒だ。
遭難後、
「ドーカンはん、どーか(ん)しとったんかぃな?」
といった冗談を言い、ドーカンさんどころか皆に『スルー』されてしまったミケイトであったが、ここでは『納得出来る言葉』を言った。
「冒険者たるモン、どんな状況でも生き抜く力くらいあった方がえぇし、ここは我慢やで〜」
「そうね。ちょっとの我慢なら‥‥」
さて、『覚悟』は決まったものの、毒を持った種類がいる可能性も有り、素手では危ない。
ヘルガは、罠を作って獲物を捕まえようとしていた。
木そのものを利用し、『しなり』を使った罠を作っている。
そして、その結果‥‥ベシャッ‥‥という嫌な音が。
(「‥‥うっ‥‥」)
あまりの威力に『ペシャンコ』になっているカエルを見つけ、思わず顔をそらすヘルガ。‥‥『戦場用の罠』は思っていたより威力が高いらしい。
「ミケイトさん、ミケイトさん‥‥!」
あまりの惨状に、ミケイトを引っ張ってくるヘルガ。‥‥泣きそうである。
「‥‥どうしたらいいのかしら?」
「確かに見た目は微妙やけど、食べ物は大事にせな。どんな時でも、獲物は獲れる時にきっちり獲るんは重要やで〜?」
とりあえず葉っぱで包んでおくミケイトであった。
さて、そのミケイトはというと、蔦と木の枝を使って『簡易スリング』を作っていた。
最初は、『石』が上手く投げられないのに手間取っていたが、元々射撃の技術が高いこともあって、慣れてきた。
ゴテッ。
落ちてくるヘビ。
‥‥とりあえず、ヘビやらカエルやらを『たくさん』捕まえるミケイト。
気になる事が一点。
「コレ食べられるんやろか?」
「毒々しい色をしているのが心配ね‥‥」
●エトワール大活躍
カエルやヘビと格闘している者達がいる中で、『窮地』を救おうと頑張っている冒険者がいた。
エトワール・モル(ea2479)である。
(「皆さんが一日一食ぐらいは食べれるようにしないと」)
というわけで、クリエイトハンドを使って、『食事』を作っている。
さて、持てる力の限りを使って作ってみると初日にして『24食』。三食9人ぶんにはちょっと足りないが、昼寝をすれば『増産』は可能であり、彼女一人で三食ぶんを補ってしまえる事になる。
一日一食という数は、大幅にクリアした。
(「思いの他、いっぱい作れましたね。わたくしでも役に立てる事があって良かったです」)
そうしている内に、泉を発見してきたデューシンスとエルドが戻ってきた。
二人に食事が確保出来たのを褒められて、
「いっぺんに作りすぎちゃいました」
と、照れるエトワール。
24食ぶんもあれば『山盛り』である。デューシンスとエルドが住処になる『洞窟』に行くついでに、持っていってくれる事になった。
(「どうせなら、もっと作ってしまった方が良いですよね」)
さらに『山盛り』にするため、昼寝をしに安全な場所に出掛ける事に。
「‥‥ああ、こんなに良い天気なら、大物の洗濯もできるのに‥‥」
こんな事態になっても、どこかホンワカとしたエトワールであった。
●海は静か
空腹で倒れている(寝ている)ドーカンさんを引っ張って、高台で水平線を見ているのはシモーヌ・ペドロ(ea9617)だ。船が通りかからないかと見ているが、そういう様子は今のところ見られない。
ヘルガが置いていった『ペシャンコ食材』を見ながら、
「ヘビやカエルも食べられマス」
と何か悟(さと)った様子の彼女。どうやら、こういう状況は『慣れっこ』のようだ。
(「盗賊や怪物は当然、オーガ達と負けたほうが喰って喰われる日々‥‥」)
いきなり、『何か』を思い出しているシモーヌ。あまり良い『故郷』ではなかったのかもしれない。
この島のどこにいても聞こえる『静かな波の音』が、彼女にはなんともいえず心地良かった。
「ここにいれば嫌な偏見も、食料を分けてもらえない事もないし、天国‥‥」
ボソッと呟いた途端、ドーカンさんが寝返りをうった。
「オオウ!? オヤジさん様‥‥?」
やけに焦るシモーヌ。
つんつん。
木の枝でドーカンさんを突いてみる。『無反応』で、安心する彼女。
その内に、
「ああ、シモーヌ様、こちらでしたか」
エトワールもやってきて、
「ちょっとの間、お休みさせてください」
と言って寝てしまった。
「おやすみでアリマス」
二人の寝息を聞きながら、ぼんやりと水平線を見つめる‥‥やはり船は通らない。
「それにしても、見事に‥‥骨までグチャグチャになってマスネ」
なんとなく暇なので、『カエルの干物』を作りはじめるシモーヌであった。
●釣り糸ぶらぶら
ニルナ・ヒュッケバイン(ea0907)は、手製の『釣り竿』を使って、魚を釣ろうとしていた。
そのためには服の一部を裂かねばならなかったし、さほど出来の良い『釣り竿』も作れなかったが。
「釣れませんね‥‥」
長い時間、釣り糸をたらしていたが、エサを取られるばかりで上手くいかない。
(「魚はいっぱいいますし、道具が悪いのかもしれません」)
と思い、コアギュレイトを使って直接捕まえることに。
浜辺からでも、それなりの大きさの魚がいるのが見えた。
(「あの魚なんか美味しそう」)
「‥‥コアギュレイトッ!」
尾びれの動きを途端に止める魚。
ぷかぷかと浮かぶ魚を拾い上げていると、横からヒョイッと顔を出したのは夜黒妖(ea0351)。住処になる洞窟を見つけてきたのは、彼女だ。‥‥といっても、山肌らしきものが見えていたから、そこをたどっていっただけだけだが。
暮らしやすそうな、奥行きのない洞窟を選んだ。
「だいぶ暮らしやすくなってきたよ」
枯葉を敷き終えて、手が空いたのでやって来たらしい。それに、エトワールが十分な食料を確保してくれたのもある。
「まともな食べ物だ」
と魚を見て『猫』のように目を細めて喜ぶ黒妖。‥‥しかし、気になる事もあるようだ。
「せっかくニルナとの依頼だったのに‥‥なんでこんな事になっちゃったんだろう」
と言う黒妖を、
「なってしまったことは仕方がないですし、頑張りましょうよ」
と言って元気づけるニルナ。
ほんちょっとの間だけ、浜辺で二人っきりの時間を過ごす。
黒妖は、ニルナに膝枕をしてもらいながら、
「ふふ‥‥」
というニルナの忍び笑いを聞いた。そして、なんとなく
(「こういうのも、たまにならいいかな‥‥」)
と思うのだった。
●生活基盤
『予想外』だったのは、このサバイバルで必要になる食事が、エトワール『一人』でまかなえてしまった事である。また、森林の中で行動をするのに適した技術を持った冒険者が多いのも幸いして、動きもとりやすかった。
もう一人大きい役割をした人物がいる。エルドだ。
「火がないと不便だろうからな。入用なら言ってくれ」
その言葉通り、クリエイトファイヤーを使える彼は、着火役として非常に役に立ち、雨で濡れることがあっても衣類がすぐ乾かせるため、病にかかる者もいなかった。
『生活基盤』は、すでに揃ってしまったらしい。
冒険者は、実に気の抜けたサバイバルに突入した。
ヘルガは再度エルドにアタックを試み、心細そうに
「あたし達、帰れるのかしら?」
と言ってみたが、やはり反応が薄かったり。
一生懸命手伝いを頑張るシモーヌが、ミケイトとヘルガが獲ってきたヘビやカエルを食べながら、
「美味しいデスヨ」
と真顔で言っていたり。
ニルナが獲ってきた魚を焼いていた黒妖が
「‥‥焼きすぎた」
「ふふ、焦げちゃいましたね」
焦がしてニルナに笑われたり。でも、なんだかんだで食べたり。
「依頼人ですもの」
と言って、エトワールが美味しい木の実を持ってきてくれたり、親切にしてくれたりするので、ドーカンさんが、ますます寝たり。
生活に『余裕』があったので、冒険者達はエルドとデューシンスが見つけてきた泉で身体を洗ったりする姿も見られたり。
ドーカンさんがエルドに、『のぞき』を止められたり。
あまり水が好きではないミケイトは、すぐに戻ってきて、
「水遊びなんて、何が面白いんやろ‥‥」
とボソッとつぶやいていたり。
すっかり生活に慣れてきたデューシンスが
「サバイバル生活と言うのは何と言うか‥‥色々面白いものだな」
と言っていたり。
そんな間に、道具を作ったりして三日め。
ドーカンさんがウルサイので、『洞窟探検』に出ることになった。
●洞窟探検
いない間に船が通りかかっても困るので、ニルナだけは旗をもって海を見ている事となった。
「頑張ってきてくださいね」
「そっちもね」
ひしっと抱き合うニルナと黒妖。
それはともかく。
『やけに長い洞窟』に見つけてから、エルドは、クリエイトファイヤーで、太い木の枝に火を着け、灯りをつけた。
長い時間歩くこととなったが‥‥
「‥‥船だ!」
なんと、船の姿が見えてきた。洞窟の中に、だ。
進んでみると、いきなり開けた空間が現れ、一行を光が包み込んだ。‥‥一人を除いて。
「‥‥ぐはっ」
どこからともなく樽(たる)が降ってきて、直撃を受けるドーカンさん。‥‥倒れた。
実は気づいた人もいたのだが、あまりにも痛そうで、受けてくれなかった。
「ドーカン様、しっかりなさってください」
エトワールが駆け寄って、リカバーを詠唱する。
「くっ、不意打ちとは‥‥何者!」
デューシンスの問いに、
「オラは、ここの番人だあ」
と、船の上から答えるのは‥‥マッチョな男だった。ついでに『葉っぱ』だ。
(「イギリス人!?」)
おそらくそう思った冒険者が、数名。
「ここは、オラ達、イギ‥‥なんだっけ、とにかくオラ達のアジトだ。誰だか知らないが、オラ達に逆らうと痛い目にあうぞ」
‥‥どう見ても一人だったので、
「あんたみたいなヘンタイが、たくさんおるわけないやんか!」
とミケイトが突っ込んでみる。
「むぐ‥‥皆、どっかいっちまっただ!」
怒ったのか、また樽が降ってくる。
(「やらせないよ」)
「‥‥大ガマの術ッ!」
黒妖が大ガマを使って、受け止める。‥‥というよりは、大ガマを『盾』にした。
がこっ。‥‥ごろごろ。
なんだか痛そうにする大ガマ。
(「たとえ尖らせただけの木の枝でも‥‥」)
なんとも『便利』なエルドだが、ここでも活躍の機会を見せる。
「‥‥バーニングソードッ!」
シモーヌが持ってきていた太めの木の枝に付与する。
「シモーヌ、いきまース!」
思いっきりぶん投げるシモーヌ。
ドスッ!
「うがっ!」
不安定な軌道を描きながらも、突き刺さる木の枝。あの肉体からして、直接戦闘能力はかなりのものらしいが、‥‥どうも『回避』は苦手のようだ。
樽が降ってこないので、エルドはミケイトの木の枝にもバーニングソードを付与‥‥成功!
ミケイトも‥‥投げた!
(「うちも気張らな!」)
ひゅーん。
ドスッ!
転げ落ちていく『葉っぱマッチョ』。
「ほら、しっかり。‥‥大丈夫かしら?」
ヘルガに支えられながら、起きあがったドーカンさんが、一言。
「あー‥‥これだ‥‥この海賊船に乗って帰るんだよ」
ごく自然に出てきた言葉に‥‥ポカーンとする一同であった。
どうやら、この『天然の港』は海賊のアジトだったらしい。
●エルドの手記
あの後、俺達は海賊船に乗って帰ることが出来た。
『葉っぱマッチョ』はエトワールに治療されると、事情を話し、操船もしてくれた。
壊滅した海賊団の帰りを待ち続けていたようだ。葉っぱも、着るものがなくなったかららしい。
俺達にとって幸いだったのは、黒妖が海賊船に残っている資金を『独り占め』しようとしているドーカンさんを見つけて、皆にきちんとした『報酬』が出た事だ。
何はともあれ、‥‥無事にパリに戻れて良かった。