にわとり騒動
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■ショートシナリオ
担当:橘宗太郎
対応レベル:1〜3lv
難易度:普通
成功報酬:0 G 78 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:08月16日〜08月21日
リプレイ公開日:2004年08月19日
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●オープニング
男には、夢があった。
鶏(にわとり)の肉の美味しさを世に知らしめる事だ。彼は、鶏肉こそ最高の食材だと思っている。
ジャパンでは、家畜を食べる事自体が嫌われるため、鶏肉の需要は、月道や冒険者ギルドの影響の強い大都市に限られていた。更に、
「鶏を食べている」
と聞いた老人や教養人からは、良い顔をされない。あまり、好ましいものではないのが現状だ。
男は、そういった事態を打開すべく、智恵を絞った。そして、
(「子供ならば、きっと喜んでくれるに違いない」)
と考えた。
子供ならば、既存の文化に囚われる事なく、鶏肉の美味しさだけを評価してくれるはずだ。そして、その美味しさを知った子供達が大人になれば、きっと受け入れられていくに違いない。すくなくとも、彼はそう思っていた。
男は、思い立ったその日から、たくさんの鶏を育て始めた。食用としてだ。
彼は、納涼夏祭にあたって、鶏料理の出店を出そうと思っていた。江戸の子供達に、鶏肉の味を知ってもらえれば、と思っているのだ。
しかし、事件が起こった。
その日の深夜、男は、鶏達の騒がしい鳴き声を聞き、飛び起きた。鶏達の下に駆けつけた男は、
(「やられた!」)
と思った。
多量の血と羽が、月明かりに晒されている。どうやら、野犬にやられてしまったらしい。近くには山があり、どこからか流れてきた何匹かの野犬が住み着いているので、そこからやってきた可能性が高い。
その後も野犬達は鶏を襲い、徐々にその被害は増えていった。男の家の周辺には他の家がなく、更に鶏を放し飼いにしていたので、野犬達は好き放題しているのだ。このままでは、商売にならない。
落胆する彼に、一人の子供が駆け寄り、
「おじちゃん、鶏、食べれなくなっちゃうの?」
と聞いてきた。子供は、ちょっと前に、男から焼いた鶏の肉を食べさせてもらい、その味を大変に気に入っていたのだ。
その言葉を聞いた男は、
(「この子のためにも、何とか鶏達を守り抜かなければ」)
と思った。そして、彼は急いで冒険者ギルドに向かい、
「何とか、野犬を退治してほしい」
と頼んだ。
彼の話では、野犬の数は多くはないが、とにかく逃げ足が速いらしい。
工夫をする必要がありそうだ。
●リプレイ本文
昼、冒険者達は鶏(にわとり)を食べるため‥‥ではなく、野犬退治のために依頼者の下を訪れていた。
彼等の足を何匹かの鶏が突付いた。
(「‥‥肉‥‥」)
冬呼国銀雪(ea3681)はジーッと自分の足を突付く鶏を見ている。
銀雪の熱い(?)視線の先に気づいた炎白龍(ea0627)は、近くにいた鶏を抱え上げ、
「一匹をもらっていいかい? 皆に鳥料理を食べてほしいんだ」
と依頼者に聞いた。
(「食べたい!」)
そう思い、いち早くその言葉に反応したのは、月詠御影(ea3107)。その他の者達も、ちょっとした反応を見せる。どうやら、食い意地が張っている者が多いようだ。
冒険者達の期待たっぷりの眼差しを見ては、依頼者もそれに答えるしかなく、
「この依頼が、うまくいったのなら」
と言って、その事をしぶしぶ了承した。
冒険者達の士気は、食い意地のせいもあって大分上がったようだ。
彼等は、何組かに分かれて、それぞれの作業を始めた。野犬が襲ってくる深夜までに、準備を万端にしておくためだ。
山田菊之助(ea3187)、陣内晶(ea0648)、御影の三人は柵を作る事にした。柵の中に餌を置き、入ってきた野犬を閉じ込めて一網打尽にするという作戦だ。つまり、罠である。
また、晶と御影が依頼者に手伝ってくれるように頼んだので、依頼者も彼等の手伝いをしていた。一人で鶏を育てているだけあってか、それなりに器用な様だ。
材料をどうするかという話になったが、菊之助が
「近くに山があるのだから、そこから運んでくれば問題ありません」
と言ったので、皆で木材を切り出し、何とか材料を調達出来た。
また、同じく菊之助が
「野犬に跳び越えられないために、柵の背を高くした方がよいかもしれません」
と言ったので、柵の背を高くする事にした。なかなか気の利く人物である。
そうして、柵作りが始まった。設置する場所は決まっていなかったので、まだ地面に打ち込みはしない。
柵を作っている途中、場を和ませるためか、晶が
「これを思いついた人は、なかなかの柵士‥‥」
などといった駄洒落を言ったが、面白いものではなかったので、皆の手は止まらなかった。依頼者だけが笑っている。依頼者のツボには入ったようだ。
御影は、柵の入り口の部分を作っていた。罠となる部分である。
「こうしておけば、すぐに野犬を閉じ込められるよ」
縄で柵の入り口を持ち上げる形にし、縄を切るとすぐに柵の入り口が落ちるといった作りだ。
藤野羽月(ea0348)は、近くから藁を持ってきて案山子作りをしていた。野犬達が人の姿を怖がると聞いていたので、人の姿を真似たものでも効果があると考えたのだ。
(「‥‥簡単なものでは見破られてしまうかもしれん‥‥」)
羽月は、出来るだけ人間に近いものを作ろうとしているらしく、色々と工夫していた。その内、それなりに人間に見える案山子が出来上がった。
リラ・サファト(ea3900)は、一生懸命に鶏達をまとめようとしていた。
彼女は依頼者から事前に話を聞いて、鶏が『飛べる』と知っていたので、鶏を驚かさない様に、ゆっくりゆっくりと鶏達を集めていった。
「結構、数がいますね‥‥」
彼女が辺りを見渡すと、まだたくさんの鶏がいた。
冬呼国銀雪(ea3681)は柵の設置などには直接関わる事なく、植物を集めていた。
「よし、出来上がりだ」
彼は野犬の嗅覚を駄目にする事を考え、集めた植物を磨り潰し、鼻への刺激の強い液体を作成した。
彼は鼻を摘みながら、それを小ビンに注いだ。
天鳥都(ea5027)は、家の周囲を回っていた。罠を設置するに適した場所を探しているのだ。彼女は、罠を作っていた御影からどういった場所が適しているのかを聞いていたので、悪い場所を選ぶ事はなかった。
「この辺が、罠を張るにはよさそうですね」
彼女は野犬の侵入路を考え、更に茂みの多い場所を選んだ。
茂みに隠れながら野犬の侵入を待つつもりだ。
罠を設置する場所を決めた都は、柵を作っている皆の下へ急いだ。
罠となる柵は都の選んだ場所に設置出来たが、問題は鶏達であった。リラ一人では、なかなか全ての鶏をまとめる事が出来なかったのだ。そこで、皆は彼女を手伝い、なんとか日が落ちる前にほとんどの鶏をまとめる事が出来た。
皆が餌をどうするか悩んでいると、突然、一匹の鶏が飛び降りてきた。
冒険者の多くは、こう思った。
(「こいつでいいや」)
こうして、不運な鶏は囮にされてしまったのである。
「どうやら、後は待つだけのようだな」
長い作業が終わり、疲れたのか、羽月は地面に腰を降ろした。すると、
「お疲れ様です」
という声が聞こえ、その横からリラがお盆からお茶を差し出した。見ると、晶もお盆にお茶を持っている。
「お茶は眠気を覚ましてくれるそうですから、飲んでおいた方がいいですよ」
晶の言葉に従い、皆はお茶を飲んでおいたが、はたして効果があるのだろうか。
深夜、冒険者達は罠の近くの茂みに隠れていた。一日ぐらいの徹夜は平気と思えたが、夜も深まってやはり何人か虚ろ虚ろとする者が現れた。何人かは夕方に仮眠をとったが、昼寝とまではいかなったので、眠くなっているようだ。
「ほら、寝てはいけませんよ」
都は夜の間、彼等を起こし続けていた。
「‥‥肉や、あたしの肉や‥‥えへへ‥‥」
などと寝言を言っていた御影と何人かが都に揺り起こされたのは、朝も近くなった深夜の頃の事だった。
都は寝ないで起きていたらしいが、徹夜に慣れているのか、まだ平気そうだ。
都以外は眠そうにしていた。何とか耐えているといった具合だ。お茶を飲んでなかったら、危うかったかもしれない。
リラは多少なりとも風向きを察知する事が出来たので、皆を野犬に気づかれないような方向に誘導していた。都が良い場所を見つけてくれたおかげで、隠れる茂みはいっぱいあった。
また、晶は事前に
「泥を塗っておいた方が臭いをごまかせますよ」
という提案をしていた。良い作戦だったので、皆は泥塗れになった。ちょっと見かけは悪かったので、皆はお互いを見合わせて笑った。
しばらく経った頃、都が呟いた。
「どうやら、こっちの方にやってきてくれたみたいですね」
何人かは同じタイミングで気づいていたようで、何時でも飛び出せる格好を作っていた。
鶏を集めた方は、羽月が作った案山子が寝ずの番をしている。
しばらくすると、月明かりに照らされて六匹の野犬が現れた。羽月が努力して作った案山子の効果はあったようで、迂回して回ってきたらしい。
野犬達はクンクンと臭いを嗅ぎ、柵の手前まで来ると、歩みを止めた。しかし、鶏の姿を見かけると一斉に中に入った。
鶏の悲鳴が上がった。が、食べられてはいない。菊之助が鶏のために内側にも柵を作っていたのだ。
菊之助は野犬達が柵に入ったのと同時に駆け出し、自らも柵の中に入った。
「頼みます!」
菊之助の言葉に応じて、御影は罠の縄を切った。
「閉じるよ!」
大きい音を立てて、柵の入り口が塞がれる。
しかし、その前に菊之助の足をすり抜けて一匹逃げてしまった。
「あっちの方に逃げた!」
白龍の声が響いた。逃げた野犬を指差している。
「くらえ!」
銀雪は、柵に入らなかった野犬が逃げていく方向に向かって小ビンを投げた。ガチャンという音を立てて小ビンが割れる。
投げた本人が
(「ちょっと可愛そうかな」)
と思うほど野犬は悶え苦しみ、走る速度が極端に落ちた。しかも、何かに引っかかった様子で動きを止める。ロープが張られていた。銀雪が仕掛けておいた罠だ。
外に出ていた冒険者達は、悶え苦しむ野犬に一斉に飛び掛った。
少し悪い気もしたが、皆は
「みねうち!」
と言って暴れる野犬を殴った。
「うちらよりも、ええもん食いよって!」
ちょっと遅れて追いかけてきた御影がスタンアタックで気絶させ、何とか取り押さえる事が出来た。
「くさいな」
羽月は、鼻を摘んでいた。見ると皆同じ様にしている。銀雪の作った臭い液体が近くに撒かれているせいだ。
皆が鼻を押さえてやってくるので、銀雪は謝ったが、彼も鼻を押さえているので、なんだか間抜けであった。
皆が鼻を押さえている頃、一人苦労している人がいた。
菊之助である。彼は、五匹もの野犬に囲まれて手一杯であった。野犬は、逃げる場所がなくなって逆に凶暴になっていた。オフシフトを使い、サイドステップを踏みながら何とか回避しているが、長く保ちそうにない。
「悪いのですが、手伝ってくれませんか?」
柵の中から声が聞こえたので、皆は急いで柵によじ登り、その戦いに参戦した。人間の数が多くなったのを見ると、野犬達は途端に逃げ始めた。とはいっても、柵の中をだが。
こうして、野犬とのドタバタ劇はしばらく続き、やっとの事で全ての野犬を捕まえる事が出来た。
「さあ、出来たぞ」
遅い朝、白龍が焼き鳥などの簡単な鶏肉料理を作ってくれた。依頼者が約束を守って、一匹譲ってくれたらしい。
皆は、それを口に放り込むと、笑顔を見せた。単純に、鶏肉が美味しかったからだ。
冒険者達が鶏肉に舌鼓を打っていると、依頼者と親しい子供が遊びに来た。彼は、都から焼き鳥を一本貰い、
「ありがと!」
と言って、それを口に入れた。美味しそうに食べている。
皆は、笑顔を返した。
依頼者は冒険者達の活躍のおかげで、無事に鶏肉料理の出店を出す事が出来るようになったそうだ。きっと鶏肉は子供達に気に入られ、たくさんの笑顔を作ってくれる事だろう。
ところで、野犬達はどうなったかというと‥‥子供の笑顔に変わってしまったらしい。