●リプレイ本文
●海賊船との出会い
ドーカンさんの海賊船まで、ベッドやらテーブルやらを荷車に乗せて引っ張ってきた冒険者達。
「ほう、これが海賊船か」
と言って、旗に描いてあった髑髏を見上げていたのは、メフィスト・ダテ(eb1079)
(「意外にシッカリした造りだ」)
海賊船は、オンボロにはなっているものの、多少『大型船の指揮』が出来るメフィストから見ても、
(「これなら、すぐにでも出航出来るな」)
と思えた。
どうやら、彼はこの船を改装し終わったら、動かしてみたいらしい。
冒険者達の存在に気付いたのか、甲板からドーカンさんが顔を出す。マッチョ男も一緒だ。
「しふしふ〜☆」
と元気の良い挨拶をしたのは、シフールの仲良し二人組、キャル・パル(ea1560)と燕桂花(ea3501)だ。
その瞬間、ちょっと動きの止まるドーカンさん。
久しぶりに会えて嬉しそうにしているキャルの視線と、期待いっぱいの桂花の視線に浴び、小声で
「‥‥しふしふ〜」
と返す。‥‥恥ずかしそうだ。
「ほら、ニャルも、しふしふ〜☆」
キャルは、愛猫のニャルを連れてきている。
「ニャルは、宝石の猫さんになるんだよ〜」
猫がジュエリーキャットに進化するとは聞いた事がないが、面白いので、とりあえず
「ふむふむ」
言っておくドーカンさんであった。
桂花は、海賊船の周りを飛び回り、
「あたいはしふしふだから、皆が手が届かなそうな場所を担当するね〜」
と宣言していた。彼女はもう一つしたい事があって、
「キャルちゃん、あとで探検しよ〜☆」
後でキャルと一緒に海賊船の中を調べてみるようだ。
「元海賊船の改造ですか」
ウェルナー・シドラドム(eb0342)は、海賊船に触れながら、
「何となく、男の浪漫いうものを感じますね」
と呟いていた。
今日は、剣ではなく箒(ほうき)を持っている彼。どうやら、まずは掃除をするようだ。
海賊船に触れて汚れた指を見ながら、
(「これも修行のためと思えば、まったく苦になりません」)
と思い、気合を入れている。
ウェルナーと同じく箒を持っていたのは、サーシャ・ムーンライト(eb1502)。
(「やはり、この格好の方がシックリ来ますね」)
冒険者以外にもメイドを生業としているらしく、メイドをしている時の服を着ている。
彼女は部屋のコーディネートもしようと思って家具を買ってきたのだが、何やら大改装になり、
「費用は大丈夫でしょうか?」
ドーカンさんの財布を心配していた。‥‥が、現在、海賊の資金を得て『割とお金持ち』なドーカンさんは、まだ平気なようだ。
また、彼女もペットの鷹ラスフォルトを連れていて、
「キャル様の猫を食べてはいけませんよ」
などと言って頭を撫でたりしていた。
「フリーダム! フリィーダーーーム!!」
と大声をあげていたのは、アンジェリカ・リリアーガ(ea2005)。
「フリーダムな発想で素敵なデコ帆船を作ろー☆」
どうやら、個性的な船にしたいらしい。しかも、その『フリーダム』の度合いは、並ではない。
「船首に一角獣の様な角を付けて〜、ノコギリみたいな翼も☆ これって浪漫だよね〜☆」
何やら楽しげなアイデアが有るらしい。‥‥浪漫は浪漫でも、ウェルナーの言う『男の浪漫』とは、かなり違っているようだが。
「かったりィな‥‥」
「‥‥なんでオラの横にいるんだ?」
突然、横に人が立っていてビックリするマッチョ男。同じくマッチョのキュイス・デズィール(eb0420)である。
「気にするんじゃねェ」
「‥‥!」
と言って、キュイスにお尻を叩かれるマッチョ男。キュイスが嬉しそうなのは、彼がある意味で『本物』だからである。
「まあ、仕事だしな‥‥」
キュイスのニヤニヤとした表情を見て、何とも言えないプレッシャーを感じるマッチョ男であった。
「‥‥じゃ、あとは頼んだから」
と言って寝てしまったドーカンさん。
さて、どんな船が出来上がるのだろうか。
●海賊船カスタマイズ
担当場所は、サーシャ、ウェルナー、キャルの三人が船内。
メフィスト、キュイス、桂花の三人が船外。
(「あたしは自作は出来ないから、船大工達に頼もんじゃお〜☆」)
‥‥アンジェリカは、楽しげな顔でどこかに出かけてしまった。
サッ。
サッサッサッ。
箒を使いこなし、部屋の掃除をしているのは、サーシャとウェルナーだ。
長い間、掃除をしてなかったのか、掃くだけでも一苦労である。
「ウェルナー様は、お掃除が得意なのですね」
サーシャが意外そうな顔をしていたので、
「こう見えても家事は得意なんです」
軽く笑って答えるウェルナー。
両手利きという事もあり、器用なのかもしれない。
ウェルナーは、ギュッと雑巾を絞ると、床を拭きはじめた。
(「これも我が身鍛えるため。頑張らなければいけませんね」)
修行の一貫として捉えているからか、念を入れた掃除が続き、部屋は見る見る内にピカピカになっていった。
そして、サーシャよりもウェルナーの方が掃除をする速度が速かったため、
「サーシャさん、ここは僕一人で大丈夫ですから、部屋のコーディネートの方をお願いします」
掃除が終わった部屋から、サーシャがコーディネートする事になった。
「もしお手が空いていましたら、手伝っていただけますか?」
もちろん、サーシャ一人で運べない家具もあるので、その時はウェルナーに手伝ってもらう。
(「清潔感のある部屋にしましょう」)
船長室のベットに真っ白いシーツをひき、本棚やランタン、調度品を置いていく。
シンプルながら、なかなか品の良い部屋になりそうだ。
「ん〜、ここは何てお部屋にしようかな〜」
キャルは、部屋のドアの前で悩んでいる様子だった。
「船長室は親父さんのお部屋にしよ〜☆」
名前が決まったのか、船長室のドアに『親父さんのお部屋』と書くキャル。
他の部屋の名前も次々に決まり、
「大部屋は、みんなのお部屋。武器庫は、大事なお部屋。宝物庫は宝石の猫さんのお部屋にするね〜☆」
新しい名前が書かれていった。‥‥何やら、最後だけだけ妙なコダワリが見られるが。
「にゃ〜?」
とりあえず、『宝石の猫さんのお部屋』を占拠するニャルであった。
さて、船外はというと‥‥。
メフィストと桂花が船の塗装を、キュイスが甲板の掃除をしていた。
ロープに吊られながら、潮風を浴びているのは、メフィストだ。船の外側を塗装している。
ちょっと前に、桂花と一緒に
「色はどうしたらいい?」
「好きな色があったら教えてね〜☆」
とドーカンさんに聞いたのだが、
「んー、適当でいいよ」
と言われてしまったので、元の茶色から、少し明るくした色を使った。
(「慣れない作業をするのも、なかなか疲れるな」)
ペタペタ。
ペタペタ。
それだけの作業だが、これが意外に疲れるのだ。
それに、なかなか船のサイズも大きいため、当分は作業が続きそうだ。
「ぎゃっ!」
突然、マッチョ男の悲鳴が響いた。
「‥‥なんだ?」
ロープに吊られたメフィストからは、確認出来ないので、仕方なく作業を続ける。
「悪ィ、悪ィ」
掃除をしていたキュイスが、床を水で綺麗にする振りをして、マッチョ男に水をかけたのだ。
「風邪引くから取り敢えず脱げ」
「な、何するだあ!」
と言って、強引にマッチョ男の服をムシりとるキュイス。
「まあ、おまえ暇だろ? ついでだ、一緒に掃除を手伝え」
と言われ、掃除道具を渡されるマッチョ男。キュイスの雰囲気が『アレ』すぎて、プレッシャーを感じ、断れない。
「‥‥‥」
キュイスの視線が、甲板よりマッチョの男の裸体に釘付けだったのは、言うまでもない事である。
桂花は、塗るのが難しい箇所をペタペタ塗っていた。
たまにムラが出来ているが、彼女は細かいところまで気にする性格ではない。
「一気にやろっと。そ〜れ☆」
飛び回りながらドンドン塗っていく桂花。
マストの上まで飛ぶと、なぜだか動きが止まる。
(「‥‥イタズラしちゃお〜☆」)
何か思いついたようだ。
「しふしふ団参上ッ!」
と小声で呟きながら、本当に『しふしふ団参上!』と小さい字で書き込んだ。
「‥‥ふふふ☆」
満足そうにして、作業を続ける桂花であった。
マッチョ男に見つかったら樽(たる)でも投げられそうだが、
「ちょっと届かねぇな、肩車をしろ」
キュイスがマッチョ男を引き止めている。‥‥というより、彼の『趣味』だが。
お昼時になると、メフィストが
「飯にしよう」
と呼びかけ、食事をすることになった。
「すぐ出来るからね〜☆」
港なので、魚だけはすぐ手に入り、『しふしふなコックさん』である桂花が魚を焼いてくれた。
「そういえば、アンジェリカさんはどこに?」
ウェルナーが皆にそう聞いたその時、空を飛んでいたキャルが
「アンジェリカさん、帰ってきたよ〜」
と言った。
見てみると、何やら大きな荷物を引きずっている。
木製の翼のようなものと、何やら大きい角のようなものを持ってきたようだ。
「いいでしょ? 陸海空全てを制覇したっぽいカンジ〜♪」
「‥‥う〜む」
複雑な表情を返すマッチョ男と冒険者達。
「格好いいね〜」
「うんうん」
シフール二人組だけは、なぜか反応していた。
「ねぇ、付けていいよね☆」
とアンジェリカに小悪魔な表情で言われ、そもそもどんなものなのかよく分からなかった事もあり、付けてみることに‥‥。
「回転する一角獣の角のようなものって頼んだけど、回転は無理だって言われちゃった‥‥」
どうやら、回転する角が欲しかった様子のアンジェリカ。しかし、翼の方は上手くいったようで、
「でも、ノコギリみたいな翼は注文通り作ってもらえたんだよ♪」
と喜んでいた。
「お手伝いしますよ」
掃除が終わったウェルナーと、
「まあ、忙しくもねぇしな。‥‥おまえも来い」
実際は暇そうにしていたキュイスとマッチョ男が手伝うこととなり、何とか取り付けが完了。
「うわぁ〜、これぞ浪漫だよね〜☆」
こぼれんばかりの笑みを見せ、感激した様子のアンジェリカであった。
「こちらは、終わりました」
その内に、サーシャが担当していた部屋の内装も終わり、
「何とか終わったよ」
「終わったよ〜☆」
メフィストと桂花の塗装も完了した。
出来上がったのは、螺旋状の角とギザギザ翼を持った『謎の船』だ。
どこかのお話に出てくる、角を持った魚のようでもある。
●さよなら、ギザギザウイング
「むむ」
起き上がり、桂花が作った焼き魚を食べながら、出来上がった船を見るドーカンさん。
「生まれ変わった船の初航海をしたい」
とメフィストに言われ、
「んー‥‥いいよ」
と軽く答える。
しかし、その後、『衝撃の発言』が。
「あー、あのさ、マッチョ君。船動かすのに‥‥このギザギザな翼みたいなの邪魔だな‥‥」
「え‥‥!?」
もちろんアンジェリカは動揺。
「わかっただ」
ベキベキベキ‥‥。
器用にロープをつたったマッチョ男が、ものの見事に翼をもぎとっていく。
「ああぁ〜、浪漫がぁぁ〜!?」
『浪漫』を壊され、凹むアンジェリカ。
(「‥‥さようなら、あたしの浪漫‥‥」)
でも、航行の邪魔にならなそうな船首の『角』だけは残った。
海賊船に見えなくなったのは良いが、船ではなくなったのは問題である。航行出来ないのでは、船ではない。
「帆を張れ」
というメフィストの声を聞き、不慣れながらも帆の用意をするウェルナー。
バッという音と共に、帆が張られる。
バサバサバサ。
「メフィストさん、準備出来ましたよ」
(「これぞ、男の浪漫ですね」)
本人も、この雰囲気はマンザラでもない。
いよいよ出航だ。‥‥といっても、ちょっと海に出て、すぐに帰ってくるだけだが。
「武器庫がなくなってるだあ!」
マッチョ男は、変わってしまった部屋を見て愕然(がくぜん)とした。
実は、サーシャが『快適な生活空間』を目指してしまったようで、宝物庫を調理場、武器庫を食堂兼談話室にしてしまっていたのだ。大部屋も、従来のものより清潔感に溢れ、明るい照明が綺麗だった。
「こうした方がドーカン様が過ごしやすいかと思いまして」
と悪びれないサーシャ。彼女は絵を描くのに忙しい。
「これじゃ、戦えねぇだあ‥‥」
もはやサーシャを怒る気もなくし、がっくりと落ち込むマッチョ男。
すかさずキュイスが傷心のマッチョ男を元気付けている。
「らしくねェ。元気だせ」
‥‥振りをして、やっぱりオサワリをしていた。
「んー、あー‥‥客船にでもするか」
ドーカンさんは、むしろ上の方が気になっていた。
『しふしふ団参上!』‥‥ではなく、髑髏の旗が『そのまま』なのはマズイ。翼がなくなってしまったので、外見上、色が明るくなったのと角を付けただけという事になり、海賊船らしさが完全に消えたとはいい難いのだ。
しかし、メフィストに指揮され海に出てからの冒険者達は楽しそうだったので、
(「まあ、いいか」)
ドーカンさんはポリポリと頭をかき、『親父さんのお部屋』のベッドで寝た。色んな物が置いてあったが、邪魔にならず、ドーカンさんは気持ちよく寝られたそうだ。
さて、キャルと桂花の探索の成果は、というと‥‥。
がさがさ。
がさがさ。
「あったよ〜☆」
「見つけた〜☆」
隠し部屋はなかったものの、サーシャがドーカンさんに捨ててよいのかチェックしてもらおうと纏めて置いた『捨てるもの』の中から、二つの『海賊の眼帯』を発見し、
「キャルちゃん、海賊さんみたいだよ〜」
「しふしふ海賊団!」
二人で海賊団ごっこをしていた。
結局、旗はどうしたかというと、
「こんなもので良ければ、どうぞ使ってください」
サーシャが描いたラスフォルト(鷹)の絵をドーカンさんが貰い、それを旗に描いたらしい。