江戸納涼夏祭 忘れられない女性(ひと)
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■ショートシナリオ
担当:橘宗太郎
対応レベル:1〜3lv
難易度:普通
成功報酬:0 G 78 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:08月24日〜08月29日
リプレイ公開日:2004年08月28日
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●オープニング
夢ばかりを見ていたのは、何時だったか。
忘れられない思い出を、もう一度。
それが、老人の願いだった。
ある絵師は、せっかちで有名だった。
絵が出来れば人に売り、売れなければ破り捨てた。
しかし、彼はある一枚の絵だけは人に譲らず、ずっと持ち続けていた。若い頃に描いた、女性の絵だ。艶やかで、どこか寂しそうで、とても美しい女性に見える。
最近、絵師はめっきりと老け、ひどく衰えて見えた。まだ初老と呼ばれる年齢だが、死期が近いのかもしれない。
彼には、何人かの弟子がいた。ある日、彼は弟子の一人を呼び出した。
「私は、もう長くはない」
そう言った絵師は、突然、女性の絵を広げた。
「この絵は、若い頃、私と恋仲だった女の絵だ。彼女と私は、夫婦になる約束をしていた‥‥」
絵師は、悲しそうに話を続けた。
「しかし、あの頃の私は貧乏だった。鳴かず飛ばずで、人に金を借りながら暮らすほどだったよ。‥‥そして、私は彼女と別れる決心をしたんだ‥・・一人前になって、彼女に迎えてやれる様になるまでは」
その言葉を言い終えると、老人は思い込んだ様子でしばし黙っていたが、また口を開き始めた。
「‥‥だが、私が一人前になる前に、彼女は別の男を見つけてしまった。‥‥私は、自分の不甲斐なさを恥じ、せめて彼女の幸せを祝えればと思って、一枚の絵を描いたのだ。それが、この絵だ。‥‥色々考えている内に、渡すのが随分と遅れてしまったがね」
男は昔の思い出を言い終わり、本題を切り出した。
「昔から付き合いのある友人から聞いたのだが、彼女は、毎年、家族で納涼夏祭に出かけているようだ。私が今更会いに行って、彼女の幸せを邪魔する真似はしたくない。‥‥しかし、せめてこの絵だけは彼女に届けたいのだ。‥‥理由はわからないが、私の人生が終わる前に、この絵だけは彼女に渡したい‥‥死を意識するようになって、その思いは高まるばかりなのだ」
絵師は、弟子に、何とか絵を昔の恋人に届けてほしいと言っているようだ。
「納涼夏祭には、たくさんの人が来るはずです。私一人では、とても探し出せると思えません」
そう言った弟子は、ある提案をした。
「冒険者ギルドに手伝ってもらってはどうでしょうか? 彼等なら、何とか見つけ出してくれるかもしれません」
絵師は、少しだけ迷った様子を見せたが、ゆっくりと頷いた。
「それでは、早速行ってまいります」
絵師から金を受け取り、絵師の部屋から出た弟子の後ろからは、絵師の咳き込む声が聞こえた。
●リプレイ本文
朝方、冒険者達は絵師の下を訪れていた。
絵師は、冒険者達を自室に通し、昔の恋人の絵を渡した。
レダ・シリウス(ea5930)は、何やら悩んだ様子で絵師の絵を覗き込んでいたが、思い出した様に質問をした。
「出来れば、探し人の家族や行きそうな場所の事も教えてほしいのじゃが」
「‥‥よくは聞いておりませんが、夫に息子夫婦、それに孫もいるようで。‥‥おそらく、この辺りからさほど離れた場所には行かないと思います。‥‥この辺りは、彼女にとって故郷ですから」
聞いてみると、絵師の昔の恋人は、今は遠くに住んでいるらしい。納涼夏祭に出かける際は、昔を懐かしんで、この辺りを回ってみるのだそうだ。
レダのおかげで、随分と捜索範囲が絞れる事となった。
絵師の昔の恋人が描かれた絵を持った冒険者達は、絵師の家を出て、捜索を開始した。
晴れた青空の下、江戸納涼夏祭は賑わいを見せていた。
出店が立ち並び、たくさんの人が来ている。『この辺り』と言われたが、手当たり次第に探しても、なかなか絵師の昔の恋人を見つけられそうにはなかった。
鳳夜来(ea2727)は、
(「家族の中で、絵に似た人がいるに違いない」)
と考え、人探しに適したサンワードの魔法を使えるリラ・サファト(ea3900)に話しかけた。
「老いた姿を想像するよりも、そのままの姿を探してみる方がいいかもしれない。きっと、家族の中で似ている者もいるはずだ」
リラはその言葉に従い、絵そのままの姿をサンワードで探してみる事にした。
リラは金貨を一枚取り出し、サンワードの魔法を使った。彼女の体を光が包み込み、太陽からの返事が返ってくる。
「‥‥どうやら、そう遠くない場所にいるみたいです。残念ながら、方向まではわからないのですが」
夜来の予想は、的中していたらしい。
リラが、辺りをチョコマカと動き回り、サンワードで絵と似た人を探してみたところ、どうやら『この辺り』というのは間違いない事だけは分かった。
「これだけ多いと、なかなか見つけられないな」
貴藤緋狩(ea2319)は、目を凝らしながら絵に似た女性を探していたが、背の高い彼でも、この人込みの中で人探しをするのは難しそうだった。
蒲原恭助(ea0295)が、突然、声をあげた。
「そこのお嬢さん、よければ私とご一緒しませんか?」
皆は期待したが、‥‥依頼とは関係のない女性だった。どうやら、ナンパ癖が出てしまったらしい。
「女性ですから、背も高くはないでしょうし、探し出すのは難しいかもしれませんね」
神楽聖歌(ea5062)の言葉に、皆は頷いた。
「この辺りで見世物をやれば、見に来る可能性はある」
藤野羽月(ea0348)は、どこかで貰ってきたらしい焼き鳥をくわえながら、そう言った。
どうやら、彼等は何かを見せて客を呼び、その中に絵師の昔の恋人が入っていれば、と考えているようだ。
大神総一郎(ea1636)は、皆とは別行動だった。神社に行き、
「能楽の公演に協力してほしい」
と頼みに行っていた。が、
「私達も、忙しい時期ですから、人手が必要でして」
と言われて断られてしまった。
事情は察してくれたようで、能楽の衣装だけは貸してくれた。
夕方、皆は、能楽の舞台の準備に大忙しだった。祭りに忙しい神社の人が協力してくれなかったので、全て自分達でやらなければならなかった。絵の女性を探す暇もないが、普通に探してもなかなか女性を見つけられそうにないので、頑張るしかなかった。
(「御座ぐらい敷いておかないと」)
夜来が、近くから御座を借りてきてくれた。立ち見よりも、随分と人が来やすくなった。
夜になる前に、何とか即席の舞台が出来上がった。
音楽もないし、素人まじりだが、何とかなるだろうか。
何人かは、能楽を手伝う予定だ。
リラと羽月が前座をする事になった。羽月が『天女の羽衣』の朗読をし、リラがそれに合わせて踊った。
羽月は、ジャパン語にある程度精通していたので、読み間違える事なく、流れる様に言葉をつづった。
「ある男は、水浴びをしている天女を見かけました」
リラは、ゆったりと、体を洗い流している様に踊った。
「男は、置いてあった天女の羽衣を拾いました。それに気づいた天女は、返してくれるように頼みます」
リラは言葉に合わして踊り方を変えていた。技術としては決して高くなかっただろうが、ビザンチン出身の彼女の踊りは珍しく、人目を引いた。
「男は、天女の願いを聞き届ける事はなく、羽衣を隠し、彼女を妻にしました」
彼等は気の合った様子を見せ、それは、しばらく続いた。
「そして、男は天女と会う事も出来なくなったのです」
羽月の最後の言葉に、リラは倒れこむ様に舞って物語の悲哀を表した。
舞台の周りから拍手が起こった。ジャパンの物語とビザンチンの踊りという珍しい組み合わせは、好評だったらしい。
能楽の公演が始まった。
総一郎は舞台に立ち、静かに舞い始めた。何か落ち着いたものを感じる。
演目は、『井筒』。伊勢物語を題材にした能楽である。
能楽は、十年ほど前に出てきた新しいジャパンの文化である。準備が万端でなくとも、まだ物珍しさは残っていた。
僧と女が出会い、物語が進むと、女が話から、昔話に入った。女役をしている総一郎の台詞の中で、特に印象に残ったのが、
「風吹けば、沖つ白波、たつた山。夜半にや君が、ひとり越ゆらん(風が吹けば沖に白波が立つ龍田山。それほど危ない場所を、あなたは、夜中に一人で越えてゆくのですね)」
といった歌だった。遠くいる女の下へ浮気に出かけ続ける夫の道中を、妻が心配して詠んだ歌である。その歌を聞いた夫は改心し、妻の下へと戻るのだ。
更に物語は進み、最後は、昔話を話した女が井戸を覗き込み、その姿を伊勢物語に出てきた夫と重ねる。
こうして、音楽もない、声と足の音だけが響く能楽が終わったが、評判は悪くなかった。ただで見れたのも、大きかったのかもしれない。難しくて、悩まされる物語なのだが、ほとんどの人は楽しむためだけに見ていたようだ。
江戸の人は、人だかりが好きなのである。
視力に優れる緋狩は、次々と席を立つ観客を見渡し、声をあげた。
「いた!」
彼の視線の先には、絵とよく似た若い女性がいた。リラと羽月、何より総一郎が頑張ったのは、無駄ではなかったらしい。
女性は、もう帰ろうとしており、人込みに紛れて見えなくなってしまいそうだった。
「聖歌! 近くに、絵によく似た人がいた! あっちだ、あっち!」
聖歌は、緋狩の指差した方向に駆け出した。彼女は、公演中も舞台の辺りを捜索していたので、比較的近くにいた。
「そこのあなた、少し待っていただけませんか?」
何とか若い女性を見つけ出した聖歌は、若い女性に声をかけた。
若い女性はキョトンとして何も言わない。しかし、その女性と一緒に止まった人がいた。
「孫に、何かご用でもおありですか?」
絵師と同じ年頃の女性だ。
「いえ、実はあなたの方に。先程の公演を見ていただいて、大変に嬉しく思いまして」
聖歌は、皆が来るまで場を取り繕った。‥‥歳は違うが、若い女性同様、絵に似ている。おそらく、この人が絵師の昔の恋人だと思えた。
他に家族は見受けられない。先に宿にでも戻っているのだろうか、この際はちょうどよかった。
「おや、可愛いのがいるね」
シフールのレダは、人込みの上を飛んでくる事が出来たので、誰よりも早く聖歌に追いついた。
彼女は、絵師の昔の恋人の肩にチョコンと座り、
「実はな、私達は冒険者で、あなたの事を探しておったのじゃ」
と話しかけた。
「こんなお婆さんに用があるのかい?」
「そうじゃ、この依頼はあなたの昔の恋人だった絵師の依頼で‥‥」
レダは、絵師の昔の恋人の耳もとでそっと事情を話した。
「‥‥そうなのかい。あの人は、きっと怒っていると思っていたけど、許してくれていたんだね」
絵が寂しく描かれたのは、彼女の後ろめたさから来ていたのかもしれない。
絵師の昔の恋人の言葉に、その孫は首を傾げた。
「いいんだよ。あんたには、関係のない話だからね」
祖母の神妙な言葉に、何かを察したのか、孫娘はそれ以上聞かなかった。
皆も人込みをかきわけて、絵師の昔の恋人と、その孫娘の下へ来ていた。
「これを‥‥」
夜来は、絵師から渡された絵を差し出した。彼は、絵師から伝言を預かっていた。
「幸せそうで、良かった。絵師は、そう言っていた」
絵師の昔の恋人は、その言葉を聞くと、少し目に涙をためながら、絵を受け取った。
「‥‥有難う、と伝えておくれ」
その言葉は、夜来によって絵師に伝えられる事になる。後に、絵師はその事を聞いて、満足そうに頷いた。
こうして、冒険者達は何とか絵を届ける事が出来たのである。
まだ続きがある。
(「絶対、ものにしてみせる!」)
恭助は、美しい孫娘をナンパしてみたが、背丈の問題で簡単に振られた。‥‥この話は、あんまり関係ない。
緋狩は、なぜか絵師の弟子の格好をしていた。何時の間にやら、絵師の弟子に借りてきたらしい。
「実は、先生が絵のモデルを探してるんだ」
彼は、孫娘の方に話しかけた。どうやら、絵師に、もう一度絵を描いてもらうつもりらしい。
「ぜひ、君みたいな美しい人に絵のモデルをしてもらいたい」
孫娘は、戸惑った様子を見せたが、絵師の昔の恋人が、
「描いてもらうといいよ」
と言ったので、承諾してくれた。
緋狩が絵師の絵のモデルになってくれる様に頼んだ、絵師の昔の恋人の孫娘は、その次の日に絵師の下を訪れ、一枚の絵が完成した。
絵師は、それを描き終え、昔の恋人の孫娘に渡すと、静かに息を引き取った。
新しい絵は、昔の絵と共に、絵師の昔の恋人の家に飾られているらしい。新しい絵は、寂しさがなく、逆に昔の絵を元気づけるような、明るい絵だという。