宝ものと一緒に隠れんぼ

■ショートシナリオ


担当:橘宗太郎

対応レベル:1〜3lv

難易度:易しい

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:09月04日〜09月09日

リプレイ公開日:2004年09月07日

●オープニング

 男の子は、家に帰りたくなかった。
 家に帰るのが嫌だったわけではない。
 宝ものを手放したくない。その思いが、人一倍強かっただけだ。

 とある町。
「あの子は、どこにいってしまったのかしら」
 男の子の母親は、そこら中を歩き回っていた。
「どうやら、あちらの方にもいないようだ」
 父親も、同じくそこら中を歩き回っていた。
 一日中探し続けているが、一向に見つかる気配がない。家出のようだ。
 男の子は、何不自由なく育てられていた。団子屋を営む両親の稼ぎは悪くなく、欲しいものはある程度は買ってもらえた。
 それを知っていた町の人達は、男の子が家出をしてしまったのを不思議がった。
 男の子がいなくなってから一週間が過ぎ、両親の表情は曇る一方だった。しかし、町の人達は彼の身は心配していなかった。
 なぜなら、男の子は隠れんぼの名人だったからだ。彼は、よく両親の目を盗んで店の商品を食べていた。それを一度も見つかった事がないのだから、大したものである。
 最近、食事の準備をしていると、何時の間にか用意した食べ物が減っているという事件が頻発していたので、皆は
(「ああ、男の子はまだ近くにいる」)
 思って、心配するどころか子憎たらしく思っている。
 団子屋を息子夫婦に譲り、隠棲していた男の子の祖父は、さすがに一週間も戻ってこないとなると、孫の心配をし始めた。
 悩んだ末、男の子の祖父は、冒険者ギルドに、男の子を両親の下へ連れ戻してくれるように頼みに来た。
「どうやら、息子夫婦が猫を飼いたいという孫を叱りつけてしまいましてなあ。やんわりといってやればよいものを、短気なものです」
 どうやら、男の子は猫と一緒に過ごしたいがために家出をしてしまったらしい。何時の間にやら、拾ってきたようだ。
「息子夫婦も今は懲りてか、猫を飼ってもよいと思っているらしいのですが、孫はすばしっこくて、どこにいるかもわかりません。町を回って、猫を飼ってもよいぞと呼びかけてはいるのですが、どうやら、こちらの言葉を信用していないようで」
 祖父は、コホンと咳をした。
「孫は悪ガキでございますから、多少手荒にしてしまって構いません。縛り上げてもよいので、息子夫婦の下へ戻してやってください」
 祖父は金の入った巾着袋を置き、冒険者ギルドを去った。
(「しばらくは、酒をひかえねばならんなあ」)
 彼にしてみれば、依頼料を奮発してしまったらしい。優しいお爺さんである。

●今回の参加者

 ea0348 藤野 羽月(27歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea3358 大鳳 士元(35歳・♂・僧兵・人間・ジャパン)
 ea4387 神埼 紫苑(34歳・♀・志士・パラ・ジャパン)
 ea5344 永倉 平九郎(32歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea5879 紫 霄花(24歳・♀・僧侶・シフール・華仙教大国)

●リプレイ本文

 昼食前、少年が隠れんぼを続けている町に到着した冒険者達は、それぞれの行動を開始していた。

 藤野羽月(ea0348)、永倉平九郎(ea5344)、紫霄花(ea5879)の三人は、少年のお爺さんの家に寄っていた。
「出来れば、隠れている子供について教えてほしいんだ」
 平九郎は少年のことを聞いてみた。
 お爺さんは、少しばかり暗い表情を見せる。三人を疑っているわけではなく、孫を心配しているのだ。
「あれは、息子夫婦の一人だけの子でしてね。両親が忙しいものだから、ちょっとスネているんですよ」
 霄花は少年の特徴について聞いた。
「男の子の特徴を教えてほしいの」
「孫の特徴ですか。そうですな」
 お爺さんは、団子をつまみながら、一つ一つ思いつく少年の特徴を言っていった。そして、羽月はお爺さんが言っていく少年の特徴を絵にしていった。
 しばらくすると、一枚の絵が出来上がった。
「あんまり上手く描けていないなあ」
 その絵を見た平九郎は、そう言った。人物画というのは、結構むずかしいらしい。
 お爺さんもそう思った様で、
「大人に見つかって逃げていくのは、あの子ぐらいだから、すぐ分かると思いますよ」
 と言ってくれた。悪ガキといえば、その少年ぐらいらしい。
 羽月は絵が描くのを止め、今度は質問をしてみた。
「その子の行きそうな場所を聞きたいのだが」
「大して遠くには行っていないはずです。ここら辺で隠れ場所になりそうなところを幾つか教えておきましょうか。私も昔は悪ガキでしてね、同じ様なことをしていたんですよ」
 平九郎は地図を借りることを提案した。
「地図を貸してくれない? 地図に印をつけておけば探しやすいと思うんだ」
「ああ、簡単なものでよかったら」
 お爺さんは羽月の質問に答えていった。そして、お爺さんの答えは平九郎によって地図に描き込まれた。
 こうして、ある程度の範囲に捜索範囲を絞ることが出来た。
 三人は他の二人と合流するため、お爺さんの家を出ることにした。
「羅文、あなたはお留守番ね」
 紫霄花(ea5879)は買っていた驢馬の羅文をお爺さんの家に置かせてもらった。確かに、ジャパンの子供に驢馬は怖いかもしれない。

 大鳳士元(ea3358)と神埼紫苑(ea4387)の二人は、少年の両親の団子屋を訪れていた。
 両親は忙しいらしく、お客が減るまで待たされた。
「あの子のために、出来る限りのことはしてきたはずなんですけど」
 少年の母は、落ち込んだ様子でそう語った。父親も同じ様子だ。
「私も妻と同じく息子を大切にしてきました。それがこんなことになってしまって」
「気を落とさないで。きっと戻ってくるから」
 紫苑は両親を元気づけた。
 士元は交友関係について質問をしてみた。
「そうそう、なーに、子供一人ぐらいすぐに捕まえてやるよ。そういえば、その子に親しい友達なんてのはいるかい?」
「近所に何人か」
 紫苑も同じ事を思っていたらしく、横から質問をする。
「その子達がどこにいるか分かる?」
「ええ、ここからちょっと行ったところで何時も遊んでいますよ」
 隠れている少年の交友関係を調べ終わった二人が外に出ると、他の皆が待っていた。
 情報を交換した冒険者達は、隠れている少年を手分けして探すことにした。平九郎が借りてきた地図のおかげで、捜索する場所が重なる可能性はなさそうだ。
 少年は戦闘能力はないので、集団で探すよりも個別で分かれていた方が見つかりやすい。良い作戦である。

「見つからないなあ」
 シフールの霄花は空を飛んで捜索をしていたが、少年の姿は見つけられなかった。
(「猫の特徴も聞いておけばよかった」)
 何匹かの猫を見かけたが、少年の猫かどうかはわからなかった。
 何人かの人が空を飛ぶ霄花を不思議そうに見上げた。

「団子屋の子供を見かけなかったか?」
 羽月は、周辺で聞き込みを行っていた。
「あの子は、最近見かけたことがないねえ」
 どうやら、食事を食べられるという被害にあった家でも、姿は見たことがないらしい
(「おそらく、人から見えにくい場所を移動しているに違いない」)

 士元と紫苑の二人は、少年の友人達に会いに行っていた。捜索に協力してもらうためだ。
「彼の両親も困っているし、その子を探すのに協力してくれないか?」
 士元の言葉に、少年の友人達は困った顔をした。
「無理だよ。アイツは隠れんぼをすると、何時も最後まで見つからないんだ」
 最初はしぶっていた友人達も、紫苑が
「もし、お姉さん達より先にその子を見つけたら、お父さんお母さんには内緒でお駄賃あげる」
 と言うと、喜んで協力した。子供は単純である。

(「もうお昼だし、来るなら来ると思うんだけど」)
 平九郎は、少年に食事を食べられた家の一つに張り込んでいた。
 ガサガサ、ガサガサ。
 何かの物音がした。
 軒下から少年が顔を出した。こんなことをしている子供は、この町では一人しかいない。
「ほ〜ら、見つけた。隠れんぼは、もう終わりだよ」
 少年はその声にビクリとした。
 少年は、
(「やばい」)
 と思ったのか、一目散に逃げ出した。どうやら軒下を移動してきたようだ。
(「しまった。逃がしちゃった」)
 体の小さい子供の方が狭い場所での動きが速く、平九郎は取り逃してしまった。

「子供がいたよ!」
 平九郎の大声を聞いて、皆が集まってきた。
「この子も、逃げていく少年を見かけたと言ってるよ」
 紫苑の側には、ニンマリとしている子供がいた。お駄賃をあげる代わりに、捜索を手伝っていた子供だ。
 霄花は空を飛んでいたこともあって、もっと正確に位置を確認していた。
「その話からすると、あの家に逃げて行ったはずだよ。たぶん、空き家だと思う」
「よし、じゃあ捕まえるとするか」
 士元は少年が隠れていると思われる家の近くに行ってから、デティクトライフフォースを使った。
 近くに生き物がいれば分かるはずだ。
 一度では分からなかったが、二度三度と使ううちに、二体の生き物がいるのが分かった。大きさからして子供と猫だと思える。
「なあ、そろそろ隠れんぼは終わろうぜ? そのうち、忘れられるぞ?」
 士元の呼びかけに空き家の中にいる者達は答えない。
 霄花は故郷である華国の童歌を歌ってみた。家族を懐かしんでくれれば、と思ったのだ。すると、誰かの泣き声が聞こえてきた。
(「わかってくれたのかな?」)
 しかし、その次には慌しい足音が聞こえてくる。どうやら嘘泣きだったらしい。
(「逃げようとしている」)
 と思った冒険者達は、一斉に空き家に踏み込んだ。
 すると、やっぱり少年は逃げようとしていた。すでに裏口から出ている。
「うわあ!」
 空き家を出て隣の家との塀を登ろうとする少年の足に、いきなりツタが巻きついた。紫苑がプラントコントロールを使ったのだ。
「今のうちに!」
「わかった!」
 地面に落ちた少年を、羽月が急いでロープで縛り上げた。
「大人しくしてくれ」
 ツタに動きが奪われているので、羽月は簡単に少年を縛り上げることが出来た。
「はなせ! はなせよ!」
 冒険者達に捕らえられた少年は、縛られたまま暴れた。取り押さえている羽月も思わず顔をしかめる。
「ったく‥‥手間かけさせやがって。ちっとは先のことも考えろ」
 少年は士元の言葉を気にする様子もなく、プイッと顔を横に向けた。
 霄花は、少年に猫を飼ってもよいことを再び伝えた。
「ほら‥‥、お父さんもお母さんもお祖父ちゃんも心配してるし。猫を飼ってもいいって言ってたよ」
 少年は思い出した様に猫を探した。どこに行ってしまったのだろうか。なぜか平九郎もいない。
「イテテ、暴れるな」
 しばらくすると、平九郎が猫を片手に戻ってきた。猫にやられたのか、ひっかき傷を作っている。猫は、少年と一緒で捕まるのが嫌いらしい。
 その傷を見て皆が笑った。すると、隠れんぼを終えた少年も笑った。
 冒険者達が猫と一緒にいさせてくれるのがわかったのか、少年は暴れるのを止め、大人しく両親の下へ戻ることを約束した。

 少年は、猫と一緒に両親の下に連れて行かれた。お爺さんも、そこで待っていた。
「手間をとらせて、悪かったねえ」
 お爺さんは、何度も頭を下げながら、それを嬉しがった。
 やっと開放された少年は、両親に囲まれると涙を流した。久しぶりに帰ってきたので、思うところがあったのだろう。
 平九郎は捕まえた猫を少年に渡し、両親に
「この子にとって、この猫は宝物なんです」
 と言ってあげた。両親も、
「はい、飼ってあげることにします。もう、この子を手放したくはないですから」
 と言って改めて猫を飼う許可を出した。
 士元は少年の頭をなでながら、猫を大切にしてあげるように言った。
「いいか? そこまでその連れ合いが大事だったんなら、責任持って面倒見ろよ、な」
 羽月も同じ意見だ。
「そうだ。ちゃんと、大事に育ててやらないといけない」
 少年が大きく
「うん!」
 と頷くと、羽月も頭をなでてやった。
 霄花はお爺さんに、どぶろくをあげることにしていた。
「いいの、これは個人的な好意だから受け取って」
 彼女にも、色々と思うところがあるらしい。
「そんな、ご面倒をかけた上に、親切までしてまうわけには」
 お爺さんは最初は断ったが、
「いいの」
 と再び言われると、笑顔で受け取った。

 お爺さんからお金を受け取った帰り道。
 冒険者達は、団子をくわえていた。士元と霄花が、少年の両親が営む団子屋で団子を買おうとしたのだが、恩人ということで、タダでいっぱいくれたらしい。
「美味しい」
 紫苑はそう言って次の団子を口に入れた。

 その後、少年は家族に迷惑をかけることはしなくなった。一緒にいた猫も随分と可愛がられている。
 お爺さんは、霄花のあげたどぶろくを気に入ったらしく、孫に酒を買いに行かせるときは、何時もどぶろくを頼む様になったそうだ。