●リプレイ本文
冒険者ギルドから洞窟探検の依頼を引き受けた冒険者達は、お宝が眠っているとされる洞窟の前まで来ていた。
「ここかしら?」
藤浦圭織(ea0269)は地図をひろげて位置を確認していた。彼女は、地図を見ながら
(「お宝ざっくざっくなんだろうなあ‥‥」)
との期待をつのらせていた。依頼に成功したとしても、冒険者ギルドのものになってしまうのは彼女にとって少し残念だったかもしれない。
リアン・デファンス(ea6188)は周囲の様子を見渡して、
「どうやら、ここで間違いはないようだが」
と言った。見える光景からして間違いではなさそうだ。
紫城狭霧(ea0731)は、洞窟の入口を前に少しだけドキドキしていた。
(「洞窟探検ははじめてですが、大丈夫でしょうか‥‥」)
おそらく冒険に参加した何人かは同じ気持ちだと思われる。
茘茗眉(ea2823)は、
(「わかれ道がたくさんあるらしいし、目じるしを持っていかないと迷ってしまうかもしれないわね」)
と思って、エ窟に入る前に小枝を拾い集めていた。彼女はそれ以外にもチョークを持ってきている。どうやら帰り道は彼女の案内に頼ることになりそうだ。
「おたから♪ おたから♪」
と言いながら、やけに張り切っているのは永倉平九郎(ea5344)だ。
しかし、彼が本当に張り切る理由は『おたから』ではない。ナンパをしないでも個性ある四人の女性達に囲まれているという幸運が嬉しいのだ。彼は、まさにハーレム状態だと思っていた。確かに、洞窟の中では女性と運命の出会いがあるとも思えないので、幸運だといえる。
彼女達も彼に期待していた。
平九郎が先頭に立って罠を解除してくれるらしいからである。
冒険者達は、平九郎を先頭に洞窟へ入っていった。狭い洞窟はひんやりと冷たく、彼等は少しだけ気味の悪さを感じた。
洞窟に入ると、狭霧はきょろきょろと辺りを見渡していた。洞窟の壁や天井やらがとても気になるらしい。
(「あ、そういえば」)
狭霧は提灯の油をリアンに手渡すことにしていたのを思いだした。
「リアン様、これをお使いになってください」
「いいのか?」
リアンの問いに、狭霧はコクリとうなづいた。
自分で油を用意しようとしていたリアンは狭霧から油を受け取ると、提灯に火を灯した。
洞窟の岩肌はところどころコケで覆われていた。
洞窟入ってからしばらく経つと、わかれ道が現われた。
そして、またしばらく経つと、わかれ道。
いくつものわかれ道があった。
「今度は、右ね。すこしだけ待ってて。今、書いてるから」
その度に茗眉はわかれ道に目じるしをつけ、どの道を通ったかのメモをとった。それの効果は大きかったようで、同じわかれ道を延々と迷うことはなかった。また、探検に要する時間もグッと少なくなった。
二つの作業を一人がするのも大変なので、圭織が
「大変だろうから、代わるわよ」
と言って、代わりにチョークを握ることになった。カッ、カッ、カッ、チョークと洞窟の岩がこすれて小気味の良い音が洞窟内に響きわたる。コケで覆われた箇所は、茗眉が用意した小枝を使った。準備が良かったといってよい。
「むー、さっぱりだ」
提灯を持って照明係をかってでているリアンは、茗眉のメモを見てもよくわからない様子だった。実は彼女は極度の方向音痴らしい。洞窟に一人で入ったら出て来れなかったかもしれない。
わかれ道をどんどんと進む内に、進むべき方向が見えてきた。
「どうやら、お宝がありそうなのは、こっちみたいね」
茗眉がそう言い出した瞬間、指差した奥の方から何かの声が聞こえた。何かが動く音も。
冒険者達はバックパックを下に置いて敵を待ち構えた。リアンは提灯を持ったまま戦うのは危険だと思い、提灯を下に置いた。
洞窟は狭いので前衛は三人しか立てなかった。圭織、平九郎、リアンの三人が前に出た。
罠を警戒するために先頭に出ていた平九郎が最初に襲われることになったが、彼は避けるのがうまく、三匹の攻撃を簡単にかわして反撃に出た。
「くらえッ!」
彼の手から炎が放たれ、お化けネズミ達をつつんだ。火遁の術だ。
「てやッ!」
火遁の術をうけて怯んだお化けネズミ(一)に対してリアンは手裏剣を投げつけた。手裏剣がグサリとお化けネズミ(一)に突き刺さり、お化けネズミ(一)は逃げ出した。
続けてお化けネズミ(二)にも手裏剣を投げつける。同じく手裏剣が体に突き刺さったお化けネズミ(二)は必死に身を壁にこすりつけて手裏剣を抜くと、一目散に逃げていった。
優勢になったかと思えたが、奥から新たに二匹のお化けネズミが現われた。
狭霧はアイスコフィンでお化けネズミ(五)を固めようとしていたが、なぜか効果がなかった。
「‥‥?」
どうやら抵抗されてしまったようだ。
(「もしかしたら、出番ないかも」)
茗眉は敵が近づいてくれば蹴っ飛ばしてでもやろうと思って、身構えたままだ。しかし、前衛三人が敵を通す様子はない。
圭織は二刀流の使い手であるらしく、右手に日本刀、左手にダガーを持って戦っていた。
「ていッ! えいやッ!」
彼女の二本の剣がお化けネズミ(四)を襲った。
日本刀は空を斬ったが、ダガーは的確に敵を捉えた。
お化けネズミ(四)の小さい悲鳴があがった。
平九郎はお化けネズミ(五)を殴りつけて、更に殴りつけようとしていたが、圭織が制止の声をあげたのでその拳をひっこめた。
「離れてて!」
圭織の言葉に応じて、前衛三人の内、圭織をのぞいた二人は後ろに下がった。
圭織の手から火球が放たれ、洞窟内に爆発音が響き渡った。その衝撃の影響は圭織どころか後方の皆にもおよび、しりもちをついたり、地面に倒れこんだりした。
提灯の火が消え、辺りが真っ暗になったが、茗眉が火打ち石をうって何とか提灯の灯りを再び灯すことが出来た。
どうやらファイヤーボムを狭くて壁の硬い場所で使うべきはなかったようだが、最後の『決め』にとっておいたので結果として問題はなかった。なぜなら、お化けネズミ達の逃げる姿が見えたからである。
「‥‥ごめんね」
しょんぼりとした様子で圭織が謝まると、皆は許してくれた。悪気があったわけでもないからだ。
皆の顔はホコリまみれだ。爆発の際にまった粉塵で服は随分とよごれてしまったが、服のことを気にする冒険者も珍しいはずだ。またモンスターに出会ったりすれば問題になったかもしれないが、幸運にもそれ以上モンスターに出会ったりすることはなかった。
最後は一本道になっていた。おそらくお宝はもうすぐである。
「待って!」
視力の人一倍良い茗眉は、今まで通ってきた道との違いに気付いていた。やけに岩肌の色が新しく感じる。
「平九郎さん、あそこに罠がありそうなんだけど?」
平九郎も同じく罠を警戒していたはずだが、彼女の方が一枚上手だったようだ。
「しらべてみるよ」
平九郎は皆を下がらせて、罠を調べはじめた。唯一の男性として、ここで活躍してみせるつもりである。
しらばく時間が経ったその時、平九郎の表情が変わった。
(「しまったッ!」)
どこかでギギギィ、と何かが動く音がした。
突然、一本の矢が平九郎に向かって飛んできた。
「うわッ!」
平九郎は身をかがませ、それを避けた。あぶないところだった。
「もう大丈夫か?」
リアンの問いに、平九郎は冷や汗を流しながら手を振って答えた。どうやら、もう罠ないらしい。時間からして、幾つかの罠を解除していたようだ。
リアンは駆け出して、奥の方へ行った。『抜け駆け』だ。
木箱が置いてある。彼女は木箱の蓋を開けてみた。すると、そこにはある程度の金とある程度のお宝が入っていた。
「あったぞ!」
皆もすぐに追いついた。
「ざっくざっく、というほどでもないわね」
たくさんのお宝を期待していた圭織は、少し残念がっているようだった。
「そんなにたくさんあっても持ち帰れませんし、このぐらいでちょうどいいかもしれませんよ。‥‥それに冒険者ギルドのものになってしまいますし‥‥」
狭霧の現実的な言葉に皆はうなずき、価値のありそうなものを探した。
武器などもあるが、錆びてしまっているようだ。装飾品とお金の方はそれなりの量がありそうである。
期待していたほどではないが、冒険者達への依頼料と比べれば随分と価値がありそうだった。
「お宝を持ったら帰る準備をしてね。このメモがあれば帰り道も迷うことはないわ」
冒険者達はお宝を手分けして持ち帰ることにし、それから茗眉の案内に従って洞窟の出口へと向かった。
宝探しが終わった後、冒険者ギルドの親父さんは冒険者達を呼び出した。
「あー、あの依頼なんだがなあ。上の人達と相談してみたんだが、こんなものしかくれなくて‥‥。その他には、今回使った道具の支給ぐらいなんだが」
親父さんが冒険者達に差し出したのは、提灯、油、メモに使った紙、それに『かんざし』だった。
「報告によると、一番活躍してくれたのは平九郎だと思うが、かんざしなんているかい?」
平九郎はちょっとかんがえた後でそれを受け取ると、近くにいたリアンに差し出した。
「これを私に?」
「うん、頑張ってくれたと思うしね」
「では、もらっておこうかな」
リアンは少しだけ迷った様子をみせたが、喜んで受け取った。普段クールにきめている彼女も、突然の贈りものに少しだけ表情をやわらかくした。
平九郎は、少しだけ男をあげたのかもしれない。
こうして、宝探しの幕はやんわりと閉じたのである。