メイのお使い

■ショートシナリオ


担当:立川司郎

対応レベル:1〜4lv

難易度:やや易

成功報酬:1 G 0 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:08月18日〜08月23日

リプレイ公開日:2004年08月24日

●オープニング

 メイちゃん、知らない人に付いて行っちゃ駄目よ。コヨーテには気をつけてね。
 母親からしっかり言いつけられ、何度もこくこくとメイは頷いた。
 森に一人で住んでいるおじいちゃんが、夏風邪をひいて寝込んだと聞いたのが数日前の事だ。家族は心配していたが、しばらく静養してだいぶん回復したという。
 メイはお爺ちゃんが早くよくなるように、薬草を漬けたワインを持っていってあげる事にした。
 父と母は、お家にいなければならないので、ついていってあげられない。そこで両親が村長に相談すると、村長が冒険者を雇おうと言ってくれた。
 子供一人のお使いの為に、ですか。そう聞く両親に、村長が村はずれの森に住むコヨーテの群について話した。
 森を通る人を悪戯に襲い、食料を奪ったり怪我をさせたりするという。人を殺して食べたりはしないが、危険であるのに変わりはない。
 メイのお使いついでに、コヨーテの群れを一掃してくれないだろうか。
 両親の不安を余所に、メイはお爺さんのお家に行くのが、楽しみで仕方が無かった。
「‥‥何を持っていこうかな。途中でお花を摘もうかな‥‥お歌を歌ってあげようかな‥‥」
 お爺さんのお家には、この買って貰ったばかりの赤いずきんを被っていくの。
 赤いずきんを被って‥‥。
 なんか、どこかで聞いた事があるような。

●今回の参加者

 ea0907 ニルナ・ヒュッケバイン(34歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ea1674 ミカエル・テルセーロ(26歳・♂・ウィザード・パラ・イギリス王国)
 ea1747 荒巻 美影(31歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea2733 ティア・スペリオル(28歳・♀・レンジャー・パラ・ノルマン王国)
 ea3090 リリアーヌ・ボワモルティエ(21歳・♀・レンジャー・人間・ノルマン王国)
 ea3381 リサー・ムードルイ(22歳・♀・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 ea3855 ゼフィリア・リシアンサス(28歳・♀・神聖騎士・人間・ビザンチン帝国)
 ea5688 フィリア・シェーンハイト(22歳・♀・レンジャー・シフール・ノルマン王国)

●リプレイ本文

 赤い頭巾を嬉しそうに被り、メイは今日一日守ってくれるというお姉さん達を見上げた。両親と村長がメイの為(正確に言うと、メイと村の為、だが)に雇ってくれた人たちは、お姉さんばかりだ。
「ぼ、僕は男ですっ」
 ミカエル・テルセーロ(ea1674)が、慌てて言い換えた。ミカエルは容姿もさることながら、パラという種族性もあって、一見女の子に見える。
 長いスタッフを抱え、ミカエルは少し顔を赤くした。
「僕が男で、ティアさんが女の子なんだよ」
 逆に、ミカエルと同じくパラのティア・スペリオル(ea2733)は、男の子に見える。容姿も対照的だが、控えめなミカエルに対してティアは元気いっぱいだ。
「ボク、初めてギルドから仕事を受けたんだ。よろしくね!」
 メイの手をぎゅうっと握ると、握手をした。
「わたしはメイ。あのね、お爺ちゃんちに行くの」
「村長さんから聞きました。‥‥じゃ、みんなで一緒にお話でもしながら行きましょうか」
 このメンバーの中で一番年上の、ニルナ・ヒュッケバイン(ea0907)がメイに笑顔で話しかけ、彼女を抱き上げて馬に乗せてあげた。メイが乗った馬は、神聖騎士のゼフィリア・リシアンサス(ea3855)の愛馬だ。
 馬の側にニルナとゼフィリアが、ティアはやや前を、そして馬の後ろをウィザードのミカエルとリサー・ムードルイ(ea3381)が付いて歩く。シフールのフィリア・シェーンハイト(ea5688)は、メイの上を飛び回っていた。
 ‥‥誰か一人足りないが?
「そういえば、もう一人居たような気がするんですけど‥‥」
 おっとりとした口調で、はてとゼフィリアが考え込んだ。一人二人‥‥。確かに、一人足りない。
 すると、リサーが鋭くゼフィリアに答えた。
「ゼフィリア、足りぬのはリリアーヌじゃ」
 言われてみれば、確かに最初打ち合わせをした時にはリリアーヌ・ボワモルティエ(ea3090)が居た。リリアーヌはこの中では一番年下の黒髪の少女だ。
「リリアーヌは、例のコヨーテを調べに行くと言っておったぞ」
「そうなんですか‥‥。まだ小さいのに、感心ですねえ‥‥」
「一人で行かせて、大丈夫でしょうか」
 ニルナは、少し心配そうにリサーへ言った。
 大丈夫だろうか、と言いたいのはリサーの方であるが。
「‥‥人は皆そうなのか? 儂はこの歳にしてようやく独り立ちしたというのに、年端もいかぬ子供が一人旅をするとはのう‥‥」
 と、リサーはメイを見た。
「そうですねえ‥‥でも、リサーさん程待っていたら、私達はみんなオバサンになってしまいますし」
「ゼフィリアさん、人とエルフは人生の尺が違うんです、単に生きた年齢を比べて考えてはいけませんよ」
「そうですよね」
 確かに‥‥、とゼフィリアは笑ってニルナに答えた。
 メイは、ミカエルやティア、フィリアと楽しそうに話している。
「そういえばミカエルさんは、前にもメイちゃんの依頼を受けた事がある、って言ってたよね」
 ミカエルとメイの側を飛びながら、フィリアが聞いた。
 どうやら、ミカエルが以前受けた依頼について話しているらしい。ミカエルは、メイに関する依頼を受けた事があるのだ。
「メイちゃんというより、メイちゃんの友達の妖精さんから、なんだけどね」
「じゃ、お兄ちゃんがメイのお薬を持ってきてくれたの?」
 コボルトの武器に塗られた毒をうけたメイの解毒剤を得る為、ミカエル達はコボルトの元へと向かった。直接会っては居ないがその話は彼女の友達、妖精のシェリーから聞いているらしい。
「シェリーは元気?」
 ミカエルがメイに聞いた。
「うん。このお薬も、シェリーが作ってくれたの」
 メイが、持ってきた薬酒を指しながら答える。
「シェリーっていうのは、メイのお友達なの? シフール?」
 メイの肩にちょんと座り、フィリアがメイを見上げた。
「ううん、シェリーはねえ‥‥えっと‥‥フィリアお姉ちゃんよりもっと小さいよ」
「シェリーは、妖精の一種なんだって。ものを腐敗させる力があるから、お酒を造ったりするのが得意だって言ってた」
 メイに代わって答えたミカエルの話を、フィリアは興味深げに聞いた。

 一行がのんびりと道を行く頃、リリアーヌは一人別行動を取っていた。まず村長から話しを聞いた後皆と別れ、出来るかぎり生肉を仕入れた。腐食が激しい生肉はそうそう置いてなかったが、話を聞いた村長が出来るだけ用意してくれた。
 肉を仕入れた後、今度は体臭を消す為に綺麗に体を洗った。
 洗った後、更に今度は泥水に浸かる。
 リリアーヌがここまでしたのには、理由があった。
「(コヨーテに悟られないように、動きを察知しなければ‥‥)」
 あの綺麗な花畑で、妖精と戯れるメイという少女が無事お爺さんの元にたどり着き、戻ってこられるように‥‥。
 リリアーヌは、そうして森へと入っていった。

 お天道様が上に上がる頃、メイの視界に河原が映った。きらきら日の光を反射し、水面を通る風は涼しい空気を運んでくれる。
 側には、様々な花が咲き誇っていた。
 ティアは花畑を見て、きらきらした目でメイを振り返った。
「ねえ、ここで花を摘んでいこうよ」
「うん!」
 メイはニルナに手伝って貰って馬をぴょん、と下りると、ティアと二人駆け出した。河原の花の側に座り、色とりどりの花を見て手を伸ばすメイの側で、ゼフィリアも一緒になって花を摘んでいる。
 ティアはティアで、花の名前や薬効について話していた。
「ティアお姉ちゃんはとっても物知りなんだね」
 物知り、とメイに言われてちょっと得意げなティア。
「そ、そんな事無いよ。冒険する時に、とっても役に立つんだ。だから知っているだけだよ。ミカエルだって知ってるよね?」
「‥‥私は知らないです‥‥」
 がっかりしたように、フィリアが言った。
 慌ててティアが言い換える。
「あの、いや‥‥でもフィリアは動物の事に詳しいじゃない」
「ティアさんは何でも出来るんだよね。すごいなあ」
 ミカエルはフィリアと二人、羨望の眼差しをティアに向けた。メイも何だかスゴイと言われ、ティアを見つめている。
「いや‥‥そう? ‥‥実はさ、ボク‥‥いつか世界中を旅して、すごいお宝を手に入れるんだ!」
「スゴイお宝、どんなの?」
 わくわくしながら、メイは聞き返した。
「やれやれ、どっちが子供かわからんのう‥‥」
「いいじゃないですか、楽しそうですよ」
 ため息をつくリサーと目をあわせ、ニルナは苦笑した。
 と、ちらとニルナが森の方に視線を向ける。いつの間にか、ゼフィリアも戻ってきていた。
「儂等が話を聞いておくゆえ、お主はお子さまと一緒に花摘みをしていて、よいぞ?」
「そうなんですか? それじゃあ‥‥」
 くるりと身を返したゼフィリアの手を、ニルナが掴む。
「ちょっとゼフィリアさん!」
「‥‥行ってもいいんでしょうか、いけないんでしょうか‥‥」
「いけません!」
 ニルナに言われ、ゼフィリアは足を止めた。
 森の中から彼女達の元にやってきたのは、リリアーヌであった。
 リリアーヌの格好に、ニルナが驚く。彼女は泥だらけだったのだから。
「リリアーヌさん、どうしたのその格好は‥‥」
 ニルナが外套で拭いてやろうとしたが、リリアーヌはその手を逃れた。
「いいんです、これで構いません。‥‥それより、コヨーテの群の動きがつかめました」
「やはり、気付かれておるか?」
 リサーが聞くと、こくりとリリアーヌが頷いた。
「はい。左前方‥‥北西から二つの群れに分かれて接近しています」
「無理無いのう、人の匂いには敏感じゃから。‥‥で、どうするのじゃ」
 リサーがニルナとゼフィリアを見返す。
 襲撃して来る事を前提として話し合いをしていたから、誰かが離れるとは打ち合わせをしていない。
「出来れば、このまま迂回していただけないでしょうか‥‥」
「それは出来ぬぞ、リリアーヌ」
 ぴしゃりとリサーが言う。
「儂等は、単に子供の面倒を見る為だけに付き添っているわけではない」
「そうですね‥‥コヨーテの群を一掃する事も、村長からの依頼事の一つですから」
 リサーとニルナはそう言うと、河原に居るメイ達を見やった。
「‥‥それで、私はここに居るんでしょうか、行くんでしょうか」
「ゼフィリア、お主まだその事を言っておるのか。‥‥まあよい、メイが馬に乗るから、馬の所有者であるお主もここに居るがよい」
「そうします」
 ゼフィリアはにこ、と笑って答えると、メイの元へと戻っていった。ゼフィリアと交代に、ティアとフィリアがやって来る。
「‥‥何かあったの?」
「ティアさんとリリアーヌさんは、コヨーテの群を見に行ってもらいましょう。リサーさんは私とともに、コヨーテを待ち受けます。‥‥残りの方は、ここで待っていてもらいましょう」
 話し合いの結果、ミカエルとゼフィリア、フィリアがここに残る事になった。
 リリアーヌは再び、森の気配に紛れていく。ティアはリリアーヌとは別方向から、コヨーテの群に接近した。
 とはいえ、万端の準備をしているリリアーヌと違い、ティアの気配はコヨーテに読まれやすい。
 コヨーテを目視する前に、その接近を感知されていた。リリアーヌはコヨーテの2つの群がティアと、後ろからやってくるニルナ達の動きに反応したのを見届けると、その後ろを追った。
 獣の足音と殺気を察知し、ニルナが剣に手をかける。
「‥‥来ます」
 剣を抜くニルナの視界に、木々の合間を駆け抜けるコヨーテが映った。風を切る音が聞こえ、後方を掛ける幾つかに右方から矢が刺さる。
『ティア、退いておれ』
 ティアの服から、リサーの声が響いた。ティアがリサーの姿を確認すると、向こう側もこちらを見ていた。
 と、ティアの脇をリサーが発した稲妻が駆け抜ける。
 一直線にコヨーテの群を突き抜け、木々を焼いた。
 混乱したちりぢりに散ったコヨーテに、ニルナの剣が突き刺さる。
 ティアの弓とリサーの魔法のフォローに加え、ニルナの剣でコヨーテの群はあっという間に半壊し、残ったコヨーテたちは個々に森の中へと消えていった。
 ふう、と一息ついてニルナが剣をおさめる。
 すう、と森からリリアーヌが出てきた。じいっとニルナ達を見つめている。
「‥‥さあ、戻りましょう」
 ふるふると首を振り、リリアーヌは再び森の中へと消えていった。ティアがきょとんとリサーを見ると、リサーは肩をすくめる。
「よいのじゃ、リリアーヌはリリアーヌの思いがあるのじゃろう」
 さて、そろそろ戻らねば。リサーは、メイ達が待っている方向へと目を向けた。

 森の中にぽつんと立った丸太小屋に、メイの歌声が響く。歌は、お母さんが夜、寝る時に歌ってくれる歌だ。メイは聞き慣れたその歌が一番得意だったから。
 メイの歌が終わると、お爺さんが拍手してくれた。ニルナやゼフィリア達も、楽しそうに手を叩いてくれている。
「‥‥ありがと」
 ちょっと恥ずかしそうに、メイが一礼した。
 メイがお見舞いに来た事を、お爺さんはとっても喜んでくれていた。お爺さんはさっそく彼女達に手料理を作ってくれて、歓迎した。
 テーブルには、もちろんワインが並んでいる。
 薬酒はお爺さんが大切そうに仕舞ったが、テーブルにあるものは薬酒ではない。
 ミカエルがメイに手渡したものであった。
「ミカエルお兄ちゃんがくれたんだよ」
 メイがお爺さんに言うと、ミカエルが付け加えた。
「いえ、これはシェリーに貰ったものだから。僕はお酒、飲まないし‥‥」
「シェリー?」
「ええ、メイの友達なんだよね?」
 ミカエルが目配せをすると、メイが大きくこくりと頷いた。
「うん。シェリーは妖精さんなの。メイのお友達なんだよ!」
「そうかそうか、良かったのうメイ。メイには友達やお姉さんが沢山居るんじゃな」
「うん!」
 元気になったお爺さんを見て、メイは安心したように笑顔を浮かべていた。来る時も元気だったが、やっぱり気になっていたのだろう。時折、心配そうな顔をしていた。
 ニルナはメイに、筆記用具を差し出した。
 ニルナの差し出した筆記用具を見つめ、メイは彼女の顔を見上げた。
「‥‥これ‥‥」
「メイちゃん、早く字を覚えて、今度はおじいさんにお手紙を書いてあげてください。そうすれば、ここまで来なくてもおじいさんとお話が出来るわ」
「お姉ちゃん、ありがとう」
 筆記用具を受け取ると、メイはニルナに抱きついた。
 お爺さん達と楽しそうに話をするメイの後ろで、そわそわとした様子でゼフィリアがテーブルを見ている。
 気付いたフィリアが、こっそり彼女の横に飛んできた。
「‥‥どうしたの、ゼフィリアさん」
「あの‥‥」
「?」
「あのワイン、私もぜひ一口飲ませていただけないでしょうか」
 は? と、フィリアが眉を寄せる。
「ゼフィリアさん〜、もうっ‥‥これはミカエルさんがメイちゃんに‥‥」
「分かっています、分かっていますけど‥‥」
 じい、とゼフィリアはワインの瓶を見つめた。
「かまわんよ、さあせっかく頂いたものじゃから飲みなさい」
「そうですか? お爺さん、ありがとうございます」
「ゼフィリア、少しは遠慮せんか」
 さっそくグラスを掴んだゼフィリアを、リサーが呆れて見つめた。

(担当:立川司郎)