味比べ

■ショートシナリオ


担当:立川司郎

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:09月28日〜10月03日

リプレイ公開日:2004年10月06日

●オープニング

 パリから二日ほど離れた森の中に、彼は一人で住んでいる。
 室内には乱雑に書物が積み重なり、部屋の片隅にはよく分からないモノが入った瓶や箱が置かれていた。庭には様々な薬草や毒草が植えられている。
 一言でいえば、怪しい家である。
 しなやかな細い体、肌は透けるように白く銀色の髪を長く伸ばし、皺だらけの服を着て髪を後ろで無造作に束ねている。
 格好は薄汚いが、顔立ちは整っており人目を引く美貌だった。
 ギルドからの使いに、彼は部屋の中を本を持ったまま歩き回りながら、話しだした。
「屈強な戦士を必要としているわけではありません。‥‥なぁに、ちょっと二、三体捕まえてきて、ある事をして欲しいだけですよ」
「ある事‥‥と何でしょう、アッシュさん」
 アッシュと呼ばれた青年は、すうっと唇を歪めて笑った。
「味見です」
「味見?」
「そうです。この森に住む生物なんですけどね。森の生態について調査をしていまして、ぜひどんな味がするのか、効果があるのか知りたいのです。この間ギルドの依頼報告を少し拝見した所、何でも食べて頂けそうな方が結構いらっしゃるようですから」
 そうですねぇ。
 一つは近くの洞窟に生えている巨大な磯巾着。
 一つは大きなキノコ。
 最後の一つは、大猿です。
 その内容に怯むギルドの使いに、アッシュはにやりと笑う。
「調理方法は任せます。自分たちが食べるんですから、せめて少しでも美味しく頂きたいでしょうから。どんな味がするんでしょうね、極彩色のキノコや大猿の脳は。私? 私が食べたくないから、人に頼むんじゃないですか」
 部屋に怪しい笑いが木霊した。

●今回の参加者

 ea0508 ミケイト・ニシーネ(31歳・♀・レンジャー・パラ・イスパニア王国)
 ea1662 ウリエル・セグンド(31歳・♂・ファイター・人間・イスパニア王国)
 ea1671 ガブリエル・プリメーラ(27歳・♀・バード・エルフ・ロシア王国)
 ea2206 レオンスート・ヴィルジナ(34歳・♂・神聖騎士・人間・ノルマン王国)
 ea3844 アルテミシア・デュポア(34歳・♀・レンジャー・人間・イスパニア王国)
 ea4744 以心 伝助(34歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea4813 遊士 璃陰(26歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea6337 ユリア・ミフィーラル(30歳・♀・バード・人間・ノルマン王国)

●リプレイ本文

 自分だけ毒味を避けよう、という依頼主のアッシュはさておき、少なからずゲテモノ料理に興味を持った人たちが約8名ほど集まった。
 この中でジャパンの忍者以心伝助(ea4744)と遊士璃陰(ea4813)、そしてウリエル・セグンド(ea1662)は彼の依頼を受けるのが2度目である。
「アッシュの兄ちゃん、久しぶりやな〜!」
 駆け寄ってアッシュの手を取る、遊士。
「ははは、久しぶりですね」
 にっこり笑って答えるアッシュだが、さりげなく手は離す。確かに遊士が目を付けるだけあって、アッシュは綺麗な顔立ちをしている。こんな森の中に住んでいるのに、肌は透き通るように白く、髪は白銀色で消えそうに細くさらさらとしている。
 だが遊士とは同じジャパンの忍者として、以心は深くため息をつくのだった。
「ジャパンの忍者が皆、そうだと思って欲しくは無いでやんす」
「あら、私はけっこう好みの顔よ?」
 アッシュの顔を見ながら、くすっとガブリエル・プリメーラ(ea1671)が言う。
「‥‥遊士が?」
 ぽつ、と言ったウリエルを困ったような顔でガブリエルが軽く睨んだ。
「アッシュよ、アッシュ。第一、私は以心やレオンスートの嗜好に合って無いじゃない?」
「ちょっとっ、俺を一緒にしないでよ!」
「違ったの?」
「違うわよ!」
 声を荒げて言い返すとレオンスート・ヴィルジナ(ea2206)は、眉を寄せた。黙っているとレオンスートは凛々しく体格もいい、どこから見ても立派な男性だ。ただ、二m近い身長や格好から、神聖騎士には見られない。
「俺の事はともかく、早く行かないと日が暮れるんじゃないの? 俺は後から大猿退治の方に回るから、お先に行ってらっしゃい」
 レオンスートはひらひらと手を振った。

 とはいえ、大猿とキノコと磯巾着と、一つずつ回っていては時間が足りない。そこでメンバーを二つに割って、それぞれ磯巾着とキノコを捕獲に回り、手が空いた者から大猿確保に行く事となった。
「さあ、気張って行くで」
 猟師を生業としているだけあって、ミケイト・ニシーネ(ea0508)が二人の女性を先導して歩きながら、あちこちの茂みや地面に目を走らせている。
 彼女はアルテミシア・デュポア(ea3844)とユリア・ミフィーラル(ea6337)の二人の前に立って歩き、何かと注意を払ってくれていた。
 当のキノコの事についても知識があり、近くの猟師にでも話を聞いておこうと思っていたユリアにとっては、とても頼りがいのある相手である。
「ねえねえ、ミケイトさん。そのキノコって、食べられるの?」
「おっ、ユリアは料理が得意なんやったね。どんなキノコやと思う?」
 ユリアが首をかしげてアルテミシアを見ると、アルテミシアは苦笑した。
「私は、あのキノコの事を知っているわ」
「えっと‥‥毒々しい色をしているらしいけど、毒が無いのかちょっと心配かな。あと、食材として使えるものかなあ」
「毒は無いから、安心しい。ああいう毒々しいモンって、喰う物やってイメージ無いから、喰ったちゅう話はあんまり聞かんけどな」
「少なくとも、私はごめんだわ」
 ぐっと拳を握り、アルテミシアが言った。言った後で、慌ててユリアに言い返す。
「あ、ユリアの料理を信用して無いわけじゃないのよ」
「大丈夫、あたしは料理人だもん。食べられないものは作らないよ。だからアルテミシアさんもちゃんと食べてね!」
「そうね‥‥考えてもいいわ。あのアッシュが食べるならねっ!」
 いや、確かに考えてもいいとは思う。売り盛りの美女が山の中に分け入ってキノコと格闘し、それを食そうというのだから、それなりにかえってくるものがなければならない。
「そうよ、第一私達だけが嫌な思いをするなんて」
 きっぱり、とアルテミシアが言いきった。あはは、とミケイトが苦笑をして、アルテミシアを振り返る。
「そう嫌だと言わんで、変わったモンを喰う楽しみが出来た、ちゅう位に思っとき」
「あ、ありましたよ二人とも!」
 ユリアの甲高い声に気付いてミケイトが振り返ると、ユリアは元気良く駆け出していた。あ、とアルテミシアがとっさに耳を塞ぐ。
 ミケイトは彼女を制止しようと声を上げ‥‥。
「あ、あかん!」
 ああ、なんだか遅かったかも。
 森の中に、壮大に悲鳴が木霊した。
 目をぎゅっと閉じて縮こまるアルテミシアの前で、ミケイトが肩をすくめて耳に手をやる。
 きーん、という耳鳴りの後で二人がそっと前に視線を向けると、50センチほどの巨大キノコの前でユリアが伸びていた。
「‥‥スクリーマー。森の中に時折生えている毒々しい色の大キノコ。特に害はないが、近接周囲に菌糸を伸ばしており、近づいたものがあると悲鳴のような騒音をあげる」
 ‥‥って聞こえた?
 顔をのぞき込みながら、アルテミシアがユリアに聞いた。

 以心がふ、と顔を上げた。
「何か聞こえたん、以心はん」
「いや、何か悲鳴のようなものが聞こえた気がしたっす。キノコ班に、何かあったのかもしれない‥‥」
 何も聞こえないけど、と耳をすます遊士。
 以心が見ている方をじいっと見ながら、ウリエルがふらりと足を向ける
「キノコ‥‥ちゃんと捕まえたかな‥‥」
「女だけとはいっても、キノコ相手なんだから苦戦なんてしないでしょ」
 ガブリエルがウリエルに言った。
 そういえば、キノコはおろか磯巾着の事も、誰も詳しく知らない。知っていそうなアルテミシアとミケイトがキノコ班に行ってしまったから、この中の誰も磯巾着がどんなものなのか分からない。
「あっしも、海の磯巾着なら少しは知っているんでやんすが‥‥」
「‥‥早く行こう。大猿‥‥食べられなくなる」
「なんや、ウリエルはんは喰う事ばっかりやな」
 呆れたように遊士が言うと、そうかな、と短くウリエルが答えた。
 アッシュに教えられた洞窟は、森の中の岩肌にぽっかりとあいていた。中は薄暗く、じめじめと湿気ている。以心が持ってきていた提灯を取り出して蝋燭に火を付けると、ややウリエルの表情がかわった。
「‥‥何、それ」
「これっすか? これはジャパンのランタンでやんす。提灯と言うんでやす」
「‥‥提灯‥‥」
 ガブリエルがため息をつくと、すこし笑みを浮かべて以心に出来るだけ優しく聞いた。
「ごめんなさい、以心さん。ウリに、ちょっとだけ持たせてやってもらえる?」
「いいでやんすよ」
 ウリエルは提灯を受け取ると、先に立って歩き出した。あんまり表情は読めないが、心なしか嬉しそうに見える。
 以心の耳には、洞窟の奥で何かが動くのが感じられているようだ。また、近づくうちに遊士もそれに気付いたらしい。
「ウリ!」
 闇の中から、何かが素早い動きで走るのを、エルフであるガブリエルに見えていた。ウリエルが動くのより先に、遊士が動いた。
 忍者刀を抜くと、ウリエルの前に立って横に払った。提灯に、細長い触手が映る。ウリエルは提灯をそっと地面に置くと、剣を抜いた。
 灯に照らされた本体が、4人の目にはっきりと見えた。数十本の触手が彼らを狙っている。触手を自分が引きつけておこうと思っていた遊士だったが、それ全部はさすがに相手出来ない。
 早くも絡み取られて、引きずれている。
「皆、イリュージョンをかけるから、後は頼むわよ」
 ウリと以心が攻撃の瞬間を待つ。
 ガブリエルの詠唱が終わると同時に、ローバーの動きがぴたりと止まった。ローバーから伸びた触手も動きを止める。その隙に遊士が触手から飛び出すと、刀を握りなおした。
 以心が飛び込み、両手に握った小柄をローバーの根元に斬りつける。続けてウリエル、そして少し遅れて遊士が切り裂いた。
 ねっとりとした体液が、ウリエル達三人に降り注ぐ。
 すう、とガブリエルが一歩下がる。
「じゃ、運ぶのは頼んだわよ。私は大猿の方に行ってみるから。三人じゃなきゃ、重くて運べないでしょ?」
 えっ‥‥?
 三人がガブリエルを見返した。

 苛々した様子で待っていたレオンスートに、最初に合流したのはミケイトだった。ふらふらしているユリアに腕を貸しながら、アルテミシアが続く。
「ちょっと三人とも、遅いわよ」
「あ〜、すまんなぁ。ちょっとしたアクシデントやねん」
 明るく笑いながらミケイトが言うと、ぽつりとアルテミシアが付け足した。
「ユリアさんが、スクリーマーの菌糸踏んじゃったのよ。それからスクリーマーに近づかずに確保するのが、また大変で‥‥」
 アルテミシアが指さす先には、ミケイトに担がれたキノコがあった。
「じゃ、行きましょうか」
「行きましょうかゆうて、どこで捕まえるのか分かってはるの?」
 ミケイトが眉を寄せる。
「罠でも張ったらどうかしら。誰か猟師だっていう人、居ない?」
「ええっ、じゃあ猟師さんが居なかったらどうするの?」
「居るじゃない」
 とレオンスートは、にっこり笑ってミケイトを見返した。
 はは、とミケイトは苦笑して、キノコを肩から降ろした。そのキノコは迷わずレオンスートに渡す。
「それやったら、うちに任せてもらおか。途中で大猿の痕跡、探しながら来たから、まあ大船に乗った気で任せとき」
「頼りになるわ、ミケイト!」
 それならば、喜んでキノコは持つ。レオンスートと極彩色のキノコ、なんか不似合いだが‥‥。
 ミケイトは道中チェックを入れて置いた獣道に、向かう。レオンスートは罠用に、果物などを手に入れているようだった。
「買ってこようと思ったんだけど、アッシュの家にあったから持ってきてやったわ」
 かくしてミケイトの指示により、レオンスートが持ってきた果物を使って罠を仕掛ける事となった。

 苦労しながらウリエルや遊士、以心がローバーをアッシュのうちに持ち帰り、彼らが川で体を洗って戻って来ると、レオンスート達の元に向かったガブリエルが、彼らとともに戻ってきていた。
「あら、お疲れさま」
「お疲れさまて、姉ちゃん意外に人使い荒いな。‥‥まあええわ、俺もさっそく料理にかかるで〜」
 袖を捲り、遊士が嬉しそうに駆け出す。
 ユリアは鍋を火に掛けており、ミケイトはユリアに頼まれて大猿の下処理をしていた。
「遊士さんも料理をされるんですか?」
 ユリアがちょっと意外そうに聞く。
 いや、実際は遊士は料理、という程出来る訳ではない。困らない程度に料理をする位だ。
「ユリアはん程や無いけどな‥‥やっぱ、愛があれば何とかなるやろ!」
 とくるりと遊士がアッシュを振り返る。が、彼は大猿の下処理をしているミケイトの手さばきに気を取られて、聞いちゃいない。
 ちょっぴり切ない涙をこらえながら、遊士は料理に取りかかった。
「ええもん、俺の料理アッシュはんに食べてもらうんやから。まずは磯巾着の刺身と、煮付けやな」
「刺身? ‥‥刺身って何なの?」
 何だか嫌な予感がするレオンスートが、以心に聞く。以心の表情は、かなりビミョウな感じだ。
「遊士さん、刺身は止めておいた方がいいっすよ。知らないものを生で食べるのは、危ないでやんす」
「ええっ、刺身って生で食べるって事なの? ‥‥ちょっと遊士、よしなさい!」
「大丈夫やって、ジャパンの料理は素材を生かすもんなんや」
 生かした結果腹を下すのでは、たまったもんじゃないが。
 遊士の刺身と煮付けを、こわごわと見ていたレオンスートだったが、意を決して自分も腕まくりをした。そしてアッシュの家から野菜を引っ張り出す。
「こうなりゃ、もう自棄よ。俺も手伝ってあげるわ」
「あっ、あかんって! これはアッシュはんと俺の愛の料理や!」
「何が愛の料理よ、誰も食べられないものを作るんじゃないわよ!」
 と容赦なくレオンスートが野菜をぶち込み、更にワインをぶち込んだ。
「煮物にワインなんか入れるんやない!」
 そんな光景を遠目に見ながら、アルテミシアは引きつった笑みを浮かべた。
「私は食べないわよ‥‥あのローバーはぜっったい食べない」
 そう、アルテミシアは知っていた。
 ふ、と視線をそらすと、もうウリエルが食っている。早すぎ。しかもちゃっかりウリエルはユリアが作ったキノコ料理を食べていた。キノコのスープとキノコの炒め物。キノコのスープには、先ほどミケイトがおろした猿の肉が入っている。
 じいっとウリエルの顔色を、ガブリエルが見ている。
「どう、ウリ?」
「‥‥美味しい」
「そうよね、ウリは美味しいわよね」
 とガブリエルがユリアを見ると、ちゃんとユリアは味見をしていた。かたや遊士は味見をしていない様子‥‥。今ユリアの料理を食べて腹一杯になっておくか、それとも今我慢して遊士の料理を食べさせられるか、どちらを選ぶかというと迷う必要は無い。
 ガブリエルも、キノコのスープに口をつけた。
 焦ってアルテミシアもユリアの料理に飛びつく。あれは食えない。さりげなく、ミケイトもユリアの料理に手を伸ばしていた。
 意外にもキノコはごく普通に美味しく食べられ、猿の肉は不味くはなかった。あっさりしているが、ミケイトがしっかり血抜きをしてくれて処理した事と、ユリアの料理が良かったらしく、臭みもなくさっぱりと食せる。
「‥‥あっしは昔習ったっす。釣りを教わった猟師さんに、釣った魚は食べるのが礼儀だと」
「気が合うなぁ。うちも海と山違いやけど猟師やねん。獲ったモンは食わなあかんな」
 意外な所で、ミケイトが以心に同意している。じゃあ磯巾着は食うのかというと、ミケイトは食えない。ミケイトも知っている。
 さすがに凍り付いたような顔色で、ミケイトが料理を見つめている。
「‥‥なあ、みんなあのローバーと戦った言うたやろ? 何か気づかへんかった?」
「さあ‥‥」
 実際格闘したのは、遊士だし。以心が首をかしげる。すると、何かに気づいたようにガブリエルが顔をあげた。
「あら、ウリエル? ちょっとウリ?」
 きょろきょろと見回すと、ウリエルが遊士の釜をのぞき込んでいた。あわててガブリエルが声をあげる。
「ウリエルっ、食べちゃだめよ!」
 ‥‥と言われて食べるのをやめるウリエルだったら、こんな依頼は参加しないかもしれない。うれしそうに出来た煮物をお皿に盛り、遊士がくるりと振り返ってアッシュに差し出した。
「はい、アッシュはん。あ〜んして」
 何や、新婚はんみたい。とにこにこ笑っている遊士、そしてつう、とアッシュがミケイトやアルテミシアを見た。すべて知ってる彼女達は、苦笑いをしていた。
「いや、まず君が食べてくれ。そうしたら善処しましょう」
「いややなぁ、照れて‥‥。それやったら頂きます」
 ぱく。
 ウリエル、そして遊士、レオンスートが作った煮物を口にする。
 麻痺毒を持ったローバーを食った三人がどうなったのか、言うまでも無いだろうが。
(担当:立川司郎)