【収穫祭】ベルモットの戦い〜白軍支援1

■シリーズシナリオ


担当:立川司郎

対応レベル:1〜5lv

難易度:やや難

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:7人

サポート参加人数:-人

冒険期間:10月25日〜10月30日

リプレイ公開日:2004年11月02日

●オープニング

 世は作物の収穫と豊作の喜びに溢れ、人々はその感謝の意を天に地に捧げている。ここパリもその例外では無かった。
「不健康ですね、昼日中からこんな所でワインにおぼれているなんて」
 艶やかな声に、ちらりと銀色の髪が揺れる。端正な顔立ちからつくられた柔らかな笑みで、彼はその人物を隣の席に呼び寄せる。彼の手の中にあるものをちらりと見ると、カウンターに声をかけた。
「私もワインを頂きましょうか。‥‥彼と同じものをね」
 細い手にグラスが渡ると、彼はようやく口を開いた。
「‥‥珍しいですね、あなたが私に会いに来るなんて」
「あなたが私に会いに来たんじゃないアッシュ」
 アッシュは、そうでしたか? ととぼけた声をあげる。
「アッシュ、聞きましたよ。またギルドの子を使って、猿やら磯巾着を食べさせたんだとか? いけない人ですね‥‥」
「私はマレーアほど意地悪じゃ、ありませんよ」
 人が見れば、五十歩百歩。どちらも怪しい事には違いない。
 マレーアはくす、とわらってグラスを掲げた。赤い液体の向こうに、ランタンの灯が見える。
「アッシュ、私退屈しているんです。‥‥何か楽しい事が無い?」
「楽しい事ですか?」
 少し考え込み、アッシュがすい、と視線を上げた。
「‥‥久しぶりに戦争なんてどう?」
「戦争? どこをけしかけるっていうんです」
「いいえ、模擬戦ですよ。せっかくの収穫祭ですし、模擬戦でもやって盛り上げるのもいいかと思いますが‥‥幸い、私の“知り合い”がパリ郊外に土地を持っているんです」
 知り合い、という言葉にマレーアが興味を示す。
「あなたのパトロンと言うと、どこと繋がっているものやら‥‥」
「いいえ、どこにでも居る貴族のうちの一人ですよ。せっかくの収穫祭ですから、何かイベントがやりたいと言うのです。勝利者側には、ベルモットが振る舞われるそうですよ」
「美味しい酒が出るのならば、やらない訳にはいきませんね。‥‥かつては戦争政治陰謀といえば、あなたの名前が挙がったものです。これは、腕が鳴りますね」
 マレーアは楽しそうに、ふふっと声をたてて笑った。

 パリの宿に戻ったアッシュは、さっそくマレーアと協議した結果に基づいた計画書を作り始めた。
 まずマレーア側が防御、アッシュ側が攻撃側となる。人数はギルドを通して招集し、パリ郊外に布陣する。
「まずは、下準備。模擬戦といえど、戦いというからには負けられません。準備は怠りなく‥‥」
 築城編成等準備、そして模擬戦集結まで締めて10日という所だろうか。
「攻撃側は兵の人数は多いですが、城攻めとなると五分‥‥。ただ、準備の際に構築する城が1つで済むので、その分手をかけられますね」
 駒を繰るものは、人か魔か‥‥一時の快楽を思い描き、地図を片手に笑みをうかべた。

[模擬戦ルール]
1:布陣
.両軍は紅軍(防御)と白軍(攻撃)に分ける。初期参加人数は紅軍30名、白軍36名までとする。
.紅軍は土で城1つと砦6つを、白軍も土で城1つを事前に、相手に見えぬように構築する。

1:防具と武具
.防具は実戦と同様。その上から紅白の布の服を着る。
.槍は6フィートの棒の先をキルトで包み、顔料を塗る。
.鏃は丸い木製でキルトで包み顔料を塗る。
.剣は木剣で刃部分に布を巻き、顔料を塗る。
.急所に顔料がべったりつけば負傷と見なし、城や砦に仲間が回収する。服は紅軍40枚、白軍110枚初期配布され、汚れた布の服を取り替えれば回復と見なす。
.城や砦には防備のために顔料を入れた堀を創ることが出来、城や砦から、顔料を柄杓で掛けることが許される。
.替えの服が無くなった場合は回復できず、負傷の者は戦いから除かれる。
.砦の旗を奪えば、砦を陥落と見なし、戦いから除く。砦に備えてある服も失われる。
.城の旗を奪えば、城陥落と見なし勝利とする。
.敵を全滅させれば、勝利とする。

<マップ>
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1マス100フィート四方

□:平地
川:川
丘:丘陵
茂:茂み
森:森林
◎:白軍城塞
●:紅軍城塞

●今回の参加者

 ea1625 イルニアス・エルトファーム(27歳・♂・ナイト・エルフ・ノルマン王国)
 ea1822 メリル・マーナ(30歳・♀・レンジャー・パラ・ビザンチン帝国)
 ea4465 アウル・ファングオル(26歳・♂・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ea5118 ティム・ヒルデブラント(27歳・♂・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ea6632 シエル・サーロット(35歳・♀・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 ea7706 エリィ・セディオン(31歳・♀・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ea7866 セルミィ・オーウェル(19歳・♀・バード・シフール・フランク王国)

●リプレイ本文

「ふふふ‥‥」
 腰に手を当て、一人笑みを漏らす女性の視線の先には、城を建築せんとする若者達の姿がある。戦、そして戦乱。それは騎士たる自分の血が、体が求めるものだ。
「力では及ばずとも、このわたくし‥‥きっと知の力を持ってこの戦いを勝利に導きますわ‥‥ふふふっ‥‥」
「何をしておる、シエル。おぬしも手伝わぬか」
 悦にいるシエル・サーロット(ea6632)を、メリル・マーナ(ea1822)の声が現実に戻した。パラであり小柄なメリルは、長いロープを手にしてシエルをきっとにらんでいた。
「シエル、城は一人では造れぬぞ」
「分かっています。城の周囲に掘を作る、その土で城を造るという事は聞きましたわ」
「うむ」
 メリルは建設予定地に立つと、指示を待ってこちらを見ているアウル・ファングオル(ea4465)と、本隊のメンバーを振り返る。
「城は、周囲より高い位置にある方が良い。堀の周囲には、盛り土をした方がよいな」
「物見櫓が作れるといいんですが‥‥無理でしょうか」
 エリィ・セディオン(ea7706)が、メリルに聞いた。
「物見櫓か‥‥土で作った所に足をかけて上がるのは、難しいのう。最低限安全性を維持する為の木材は使用してもいい、と聞いた故、階段くらいは付けてやれるが‥‥土が耐えられるかどうか。それよりも、後ろの森にある木にでも登った方が良いかもしれんな。どのみち、それほど高く壁を作れない事だしのう。いざとなれば、セルミィが飛んであがれるぞ。まぁ、当日になってあがれるだけ土が乾燥したかどうか確認すれば良い」
「そうですわね。‥‥それで、まず何をしたらよろしいのかしら」
 何をどうすればいいのかさっぱり分からないシエルは、首をかしげた。
 ここは、建築の知識があるメリルに任せるべきだ。メリルはロープを、アウル達に向かって差し出した。
 持て、という事らしい。二人がロープを持つと、メリルもロープを握った。ロープは端と端がつながれ、一つの丸い輪となっている。
「二人とも、そこの、紅い印を付けた所を持つのじゃ。持ったら、それぞれぴんとロープが張るまで離れるのじゃ」
 印のうちの一つはメリルが持ち、立っている。一カ所ずつ二人が持ってメリルから離れていくと、綺麗な直角三角形が出来た。
「では次に‥‥そうじゃな、シエル。アウルのすぐ左の印を、地面に杭で固定してくれ。終わったら、ななんとアウルの間にある青い印の所に行ってくれ」
「土いじりは好きでは無いんですけど‥‥仕方ありませんわね」
 城づくりの総指揮という役目をかって出ていたシエルであったが、メリルの言うままにアウルの横にある印を杭で固定し、青い印を持った。
「では、その印を持ってわしの対角線上に移動するのじゃ」
 シエルがメリルから離れていくと、そこに見事な正方形ができあがった。
「すごい‥‥」
 感心して見ているアウル。
「こんなに簡単な方法でも、案外俺達は知らないものなんですね」
「先人の知恵じゃ。‥‥さあ、城を造るとしよう」
「でもさ、どうやって壁を作るんですか? 俺はこういう事に詳しく無いのですが‥‥」
 アウルが、広大な平野を見回して聞く。ここからどうやって壁を作ればいいのだろうか。普通に積み上げても、すぐに崩れてしまう。
「そうじゃな‥‥。雨が降らぬ事を祈って、土煉瓦で組むしかあるまい」
 土煉瓦は、土を固めて乾燥させただけのものである。粘土質の泥土をロープなどで均等に切り、それを積み重ねていく。あとは乾燥して固まるのを待つだけだ。
「土は、堀の土で補う。‥‥ん? 本隊の助勢はどうした」
「彼女は、アッシュさんに聞きたい事があるからと‥‥。シエルさんは、他の所を見回りに行きました」
「なんじゃ、わしとアウルだけなのか? ‥‥手が足りぬのじゃ、あそこで測量をしている輩に、さっさと終わらせて手伝えと言え」
 というメリルの指示により、測量をしていた二人が引っ張られた。

 さて、城の建築が進む中、ティムとシエルが進軍ルートの踏み固め、茂みの刈り取りと罠の設置はエリィと、本隊の者。鳴子の設置はセルミィ・オーウェル(ea7866)が担当していた。
 城づくりの作業を手伝わされているアウルが、手を一端止めて話に加わる。
「進軍ルートを設定して、その周囲は敵が侵攻しにくいように荒らしてしまうといいと思うんですの。森には罠を仕掛けて、茂みも刈り取ってしまった方がいいでしょう」
「でも、全部刈り取るのは無理ですよ‥‥手間を考えると、森と茂みの間を刈り取るだけで、精一杯だと思います。俺も城の作業をしなきゃなりませんし、手が足りません」
 アウルが眉を寄せ、シエルに言った。アウルには、エリィも同意する。
「そうですね‥‥元の土地を、あまり荒らしてしまうのは好みません。出来れば、あまり荒らさずに罠を設置するなどすればいいのではないでしょうか。森には敵が隠れる恐れもありますが、木も茂み同様にすべて刈り取ってしまう事が出来ませんから‥‥」
「では、そのようにしましょう。本隊の方の作業が終わるまでは、私たち6名でしなければならないですわね、仕方ありませんけど」
 シエルはため息をついた。

  また16才の騎士、 ティム・ヒルデブラント(ea5118)もシエルや他の仲間同様に、模擬戦には期待している。ただティムは、立派な騎士にはなりたいと思っているが、人を傷つけるのが好きではない。
「‥‥ティム、これは戦いですわ。模擬戦とはいえ、勝負。今は平和な時が流れているといえど、いつ戦が起こるか分からない‥‥その為に腕を磨くのは、騎士のつとめですわ」
 と強い口調で言うシエルに、ティムはただ“はい‥‥そうですね、シエルさん”と言うしかなかった。
 土を踏み固めるのは、とても地道な作業だ。アウルは城作りを地道な作業だと言っていたが、舗装作業の方がもっと地道だ。本隊の者が測量や作戦立案中は手が空かない為、シエルもティムの作業を手伝っていたが、やがて彼らの手が空くとシエルは城の作業の進行状況を確認して本隊と作戦をうち合わせする為、行ってしまった。
 ほっとしていたティムの側に、シフールのセルミィが飛んできた。
 セルミィは上から、ティムの足下をのぞき込んでいる。
「あの‥‥私、何かする事がありますか?」
「そうですね‥‥」
 ティムはセルミィを見上げる。ティムは、木の板を使って土を踏み固めていた。その後は進軍ルートの周囲に水をまいて、土壌を荒らしておく。
 しかしこれは、シフールのセルミィには、ちょっと無理だ。
「‥‥いえ、いいですよ。本隊の方の人の打ち合わせが終わったら、手伝ってもらいますし」
「そうですか‥‥ごめんなさい、何も出来なくて」
 しょんぼりしているセルミィに、ティムはあわてて笑顔を向けた。
「いいえ、いいんです。いざ戦いとなったら、シフールのセルミィさんにしか出来ない事がたくさんあります。今は僕たちがしますから、気にしないでください」
「ありがとうございます。‥‥本当は鳴子の設置をしていたんですけど‥‥私、体が小さいからロープを張るのにも一苦労なんです。だから、設置の指示をエリィさんにしたら‥‥もうする事が無くなってしまって」
「セルミィさんは、罠の設置が得意なんですか?」
 ちょっと意外だ。セルミィはバードなのに、こういった戦場の罠の設置などが得意だとは‥‥。そう言うと、セルミィはにっこりと笑うと“何でも聞いてくださいね”と元気に言い、ティムの周囲を飛び回った。
 最初の1、2日はこうして、セルミィに上から進軍ルートをチェックしてもらいながら、ティムが一人が舗装作業をした。舗装作業は、意外にも二日ほどで済んでしまった。しかし、まだ土を荒らすという作業がある。
「‥‥これ、どうやっても敵に気づかれちゃいますね」
 ぽつりとセルミィが言う。

 本隊から手伝いに来た、ちょっとぼんやりしたファイターの青年は、エリィの前で茂みをじっと見下ろしていた。刈り取り、と簡単にいっても、その広さは四〇〇フィート近くある。これを一人で刈り取れると思うほど、エリィは楽観的ではなかった。
 ここは素直に、手を借りておくべきだ。舗装はティムとセルミィで済みそうだし、城の建築は本隊から強引に人手を引っ張ってくるようだ。
 手伝ってくれると言ったのが彼だったので手伝ってもらう事にしたが、大丈夫だろうか。
 考えていても仕方ありませんね。と、エリィは青年に、声をかけた。
「さあ、はじめましょう。‥‥大丈夫、二人居れば速く済みます。それに、後から本隊の人も手伝ってくれるそうですし」
「‥‥そう‥‥かな」
 なんだか頼りないが、ファイターで腕も立つというから、きっと力も強いだろう。二人で頑張れば大丈夫。
 ‥‥とエリィはのんきに考えてしまっていた。
 所がこの青年、とんでもない方向音痴であった。放っておけば、どんどん変な方向に刈っていって仕舞う。
「あの‥‥刈るのはこっちです」
 と何度注意しても、しばらくするとまた‥‥。やむなくエリィは、ロープを張る事にした。そうすれば“この範囲を”と言うだけで後の指示は要らなくなる。
 この調子で大丈夫なんでしょうか‥‥。戦場で、変な方向に行っちゃったりしなければいいんですけど‥‥。
 ちょっと心配になったエリィだった。

 崩れるかもしれない、という危険を冒して最初に物見櫓に上がったのは、エリィだった。シエルに命令され、メリルにあやされ、結局最初に物見櫓を言い出したエリィが、はしごを登って上がる事になった。何日か乾燥させたとはいえ、まだ完全に乾ききったとはいえない。
 物見櫓は、城の壁に簡単に階段のような段差をつけただけの代物である。段差を使って上まで登り、そこから監視する。
「‥‥もう少し乾燥させた方がいいかもしれません‥‥」
 不安そうに足下を見るエリィ。結局、当日まで乾燥を待つ事とし、今日上がるのは断念した。
 残念そうなエリィに、セルミィが周囲を飛び回って声をかける。
「エリィ様、城の後ろに森があります。木の上からなら、見られるかもしれませんよ」
「‥‥そうですね」
 エリィは櫓に上がる事は諦め、今度は城の後ろにある木に上り始めた。セルミィにロープを掛けてもらい、ロープを使ってあがる。
 木の上から見る景色は、城のせいで向こう側が見えにくくはなっているが、だいぶん遠くまで見渡せた。
 すい、とセルミィが飛び回り、エリィの肩に落ち着いた。
 下から、ティムが見上げている。
「どうですか?」
「ええ、とてもいい景色です」
 エリィは、にこにこ笑ってティムを見下ろした。
 どうやら当分降りて来そうにない。
「‥‥おそらく当日までには乾くじゃろう。いざとなればシフールが何人が居る故、監視はどうとでもなるしのう」
 メリルが言うと、先ほどまで本隊の話を聞きに行っていたシエルが答えた。
「向こうの方を合わせると、シフールは二名ですわ。どちらかが監視役をして頂ければ、櫓が使えずとも監視は出来るでしょう」
「作戦は一応聞いたけど‥‥。回復数が三倍とはいえ、人数が現段階で同等ですから、攻め込む際には慎重に体勢を整えてからの方がいいのではないですか?」
 アウルが、少し心配そうに言う。
 そして、戦いの日が迫る‥‥。

(担当:立川司郎)