銀ちゃんとメイ

■ショートシナリオ


担当:立川司郎

対応レベル:2〜6lv

難易度:やや難

成功報酬:1 G 36 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月09日〜12月14日

リプレイ公開日:2004年12月16日

●オープニング

 いつも明るくて元気だった、この小さな女の子が、今とても悲しそうに目を潤ませていた。しかし、自分にはどうする事も出来ないということは、よく知っている。
 少女は、ぎゅっと拳を握りしめて、森の向こうを見つめていた。
 木々の合間から見える、いくつもの影。昼間といえど薄暗い森の中には、獣の臭いが流れている。その臭いは、通り過ぎる影から漂うものであった。
 たまらず、小さな手を彼女の袖に伸ばす。
「‥‥メイ、行くわよ」
 ふるふると、とメイは首を振った。彼女の目に、涙が一杯たまっている。
 本当に仕方のない子だ。シェリーは、メイの目の前をふわふわと飛び回った。
「メイ、いつまでそうしているの」
 また、ふるふるとメイが首を振る。
 どうしようもないのだ。メイが振り返ると、あの影の中のひとつが‥‥よろよろと歩いていた。どの影も、それを気遣う様子はない。それが無駄だと分かっているからだろうか。

 メイが“銀ちゃん”と初めて会ったのは、一ヶ月ほど前のことであった。メイとシェリーは、いつもメイの村の近くにある森の中で遊んでいた。森の中はシェリーの庭のようなものであり、清水をたたえる泉が湧き出ている。
 シェリーとメイがいつものように森の中で花を摘んでいると、それが現れた。
 大きな影が、木々の合間に映った。銀色の毛並み‥‥狼だ!
 シェリーは警戒したが、銀色の狼と彼の群れは、いたずらにメイ達を攻撃したりはしなかった。適切な距離さえ保っていれば、メイとシェリーの視線の向こうで、のんびりとした様子でメス狼が子供を遊ばせたり、小動物を獲らせたりしていた。
 小動物を獣が食うのを見るのは初めてだったメイは、最初怖がったが、じきにその様子に興味を示すようになった。それが獣の生というもの。
 そんな彼らに変化が現れたのは、つい最近だった。
 群れの狼が、一頭減っている。それだけではない。銀ちゃんの妻である“真っ白”が、怪我をしていたのだ。しかもその傷は深く、じきに群れから遅れるようになった。
「‥‥どうしたのかなぁ‥‥真っ白‥‥」
 メイは心配そうに、真っ白を見つめる。
 以前、この近辺にコヨーテの群が居た。しかし、そのコヨーテはメイの村の村長のはからいで、冒険者ギルドの冒険者達によって駆除された。シェリーは、コヨーテの居なくなった森に、様々な生物がテリトリーを広げてきているのだと感じ取っていた。
 その中に、問題の巨大な獣が居る。
「‥‥メイ、真っ白はもう助からないわ」
「助かるもん、銀ちゃんは真っ白が大好きだもん!」
「それでも‥‥銀ちゃんは群れのリーダーなのよ。弱い狼は切り捨てられる、それが狼さん達のルールなのよ」
「そんなの嫌っ! メイが絶対、真っ白を助ける!」
 大声で、メイが叫んだ。
「あのね、メイ。生き物はみんな、そういう風にして生きていくの。強いものは生き残るし、弱ければ生き残れない。弱肉強食の世界なのよ」
「メイは助けたいんだもん、真っ白はお肉になんか、ならないもん!」
 ‥‥5歳の女の子に、弱肉強食なんか説いても理解してもらえるはずが無いわけで。
 シェリーは、彼女の涙にも逆らえないわけで。
 こっそりと彼女は、手紙をそえて彼女の母親にワインを渡させた。メイの母親にワインを換金させたシェリーは、そのお金を持って、再びギルドに向かう。
 大切にしているワインだけど、メイの涙には逆らえないのだ。

 シェリーは、モンスター退治をしてくれる人を捜しているの。
 だから、私の所に来なさい。

 いつもの通り、命令口調だが‥‥。
“大きな灰色熊を、メイの為に倒してください”
 と、付け加えられていた。

●今回の参加者

 ea1641 ラテリカ・ラートベル(16歳・♀・バード・エルフ・ノルマン王国)
 ea1679 丙 鞘継(18歳・♂・武道家・エルフ・華仙教大国)
 ea1807 レーヴェ・ツァーン(30歳・♂・ファイター・エルフ・ノルマン王国)
 ea1924 ウィル・ウィム(29歳・♂・クレリック・人間・ノルマン王国)
 ea2563 ガユス・アマンシール(39歳・♂・ウィザード・エルフ・イスパニア王国)
 ea3062 リア・アースグリム(27歳・♀・神聖騎士・人間・ノルマン王国)
 ea4111 ミルフィーナ・ショコラータ(20歳・♀・バード・シフール・フランク王国)
 ea7866 セルミィ・オーウェル(19歳・♀・バード・シフール・フランク王国)

●リプレイ本文

 今日の部下は森の臭いがするわね。
 というシェリーの言葉に、ウィル・ウィム(ea1924)がくるりと仲間を振り返った。誰でも部下と呼称するのは、シェリーのいつもの事だ。彼女の依頼を受けるのが初めてではないレーヴェ・ツァーン(ea1807)やラテリカ・ラートベル(ea1641)、リア・アースグリム(ea3062)の三人は、それが素直になれない彼女の言葉なのだと知っている。だから、あえて何も言わない。
「まあ、このメンバーだったら森の中の散策に向いているでしょ」
「‥‥そういえば、今日はエルフさんとシフールさんが一杯」
 メイに言われ、ウィルが初めて先ほどの言葉の意味を理解した。そういえば、今回のメンバーとエルフが半分、シフールが二名。まあ、人間以外が殆どなわけで。
「親分、任せてください。熊を退治して、敵討ちをするですよ! 親分の大切な友達のメイちゃんの為に、ラテリカも頑張るです!」
「頑張るのよっ!」
 何だか気合いの入ったラテリカ。シェリーはぎゅうと拳を握りしめた。

 ‥‥とは言ったものの、明らかに森の中を徘徊するに向いていない体力なわけで。シフールのミルフィーナ・ショコラータ(ea4111)とセルミィ・オーウェル(ea7866)は、誰かに運んで貰う事が容易だが、ラテリカはそうはいかない。
「まだですか〜、親分‥‥」
 と、シェリーがデジャヴを感じる声をラテリカが上げた。ヘロヘロになりながら、ラテリカはレーヴェに手を引いて貰って歩いている。
「頑張って下さい、ラテリカさん。‥‥ええと、猟師さんに聞いた所によると、もう少し獣道を進んだ所に出没するそうですよ。熊さんが付けた傷が木に付いているから、目印になるそうです」
 ゆったりとウィルの肩で風に揺られながら、セルミィが言った。セルミィの反対側には、ミルフィが座っている。
 ノンビリとした二人の様子を見て、ラテリカが苦しそうに息を吐いた。
「ラテリカもシフールになりたいです〜‥‥」
「ラテリカさんがシフールだったら、私達とお揃いになりますね。私とセルミィと、シェリーと‥‥みんなで小さい演奏会をするんです」
 楽しそうに笑いながら、ミルフィが言った。ミルフィとセルミィは、お互い歳も同じくらい。そして二人ともバードだ。一方、シェリーも月魔法を使う。むろんシェリーはシフールではないし、むしろもっと小さいが、二人からすれば人より親近感があった。
「妖精さんって、私達よりももっと小さいんですね。私より小さい種族に会う機会って、あまり無いから嬉しいです」
「そうですよね。酒場でも、シフールだけが集まったりしないかぎり、こう‥‥目線とかサイズが回りだけ大きいのよね。みんな同じサイズって、何だか変な感じね」
 セルミィに、シルフィが答えて話した。
 そこで話が中断した。先行していた丙鞘継(ea1679)が戻ってきている。
「確認は出来なかったが、獣が近くに居る気配がある」
「じゃ、私が行って来ます」
「あ、それじゃ私も‥‥」
 セルミィが飛び上がると、彼女に付いてミルフィが飛んだ。二人とも、テレパシーが使える。たとえ銀ちゃんの群れに会ったとしても、簡単な話だったら出来るだろう。ただし、小さいだけあって、逆に襲われる可能性もあるが‥‥。
 しばらくすると、二人が戻ってきた。
 ここからまだしばらく森に奥深く入っていった所で、休んでいるという。子供達が、兎を食べているようだ。
「数は‥‥十八頭。ただし、一頭群れから少し離れているようですね」
 姿は見えないが、ガユス・アマンシール(ea2563)のブレスセンサーには、その数と位置が把握出来ている。ガユスとセルミィ達の先導で群れの近くまで来たが、そこでまずレーヴェが足を止めた。
 レーヴェに手を引かれていたラテリカが、彼を見上げる。
「どうかしたんですか?」
「‥‥これ以上近づくと、群れが逃げてしまう。メイやシフール達だけならばまだしも、我々がこの人数で近づけば、必ず逃げ出す」
「そうですね。‥‥私たちは、離れて居た方がいいようです」
 静かな声で、リアがレーヴェに同意した。

 そうっと上空を飛び回りながら、セルミィとミルフィは語りかけた。少し離れた所に居た子オオカミが二人を見て駆け寄ろうとしたが、子守をしていたオオカミが軽く制する。
 銀色の毛並みに、青い瞳。その瞳は、やや離れた所から様子をうかがっているメイをじっと見ていた。メイが、そろりと歩き出す。銀ちゃんと彼の配下のオオカミは、メイに手出しをしようという気配がない。
 この、小さな人間の子供には邪気が無い。そして、この銀色のオオカミもまた、とても澄んだ瞳をしていた。
「あの‥‥オオカミさん、話を聞いてもいいですか‥‥?」
 おそるおそる、ミルフィがテレパシーを使って語りかける。
 メイが、真っ白を助けたいと思っていること、灰色熊を退治したいと思っていること。
 銀ちゃんの視線の先に、潤んだ目でこちらを見つめるメイがあった。
「銀ちゃん‥‥あのね、シェリーのお友達のお兄ちゃんやお姉ちゃんが、熊さんを退治してくれるって‥‥。だから、真っ白と仲直りして」
 言葉は伝わらないが、その気持ちは賢い銀色狼に伝わっているはずだ。銀ちゃんは、メイをじっと見返す。
 俺達でも倒せなかった灰色熊を倒せるというのか?
 倒しても、あいつの傷は治らない。
 銀ちゃんの考えが、ミルフィに伝わる。それをメイに言うと、メイは首を振った。
「皆が、熊さんを倒してくれるって言ったもん。‥‥だから、メイは真っ白を助けるんだもん」
「‥‥そうですよ、メイさんには強いお兄さんやお姉さんが付いているんです! 銀ちゃん、熊さんの居る所を教えてください!」
 力強いミルフィの声に押され、銀ちゃんがミルフィを見上げた。
 人にあの熊が倒せるものか。だが、倒すというのなら行ってみるがいい。灰色熊は、あの向こうの大木のあたりに居る。普段は大木の下に掘った穴に居るが、時々獲物を捕る為に出てくる。
 銀ちゃんの言葉を、すぐにセルミィが皆に伝えに戻った。鞘継とレーヴェは、すぐにも出立しようとしている。ガユスは、そっと鞄に手を入れて、小瓶を出した。小瓶は少し重いが、セルミィに渡す。
「これは、傷を治す薬です。お嬢さん方が持っていなさい」
「‥‥ガユスさん、これ‥‥」
 セルミィが、ガユスを見上げる。彼はふ、と微笑を浮かべた。
「勇気あるお嬢さん達へ、プレゼントです。なあに、パリの収穫祭の時に安く手に入れたものですから」
「きっと‥‥メイさんも喜びます」
 ぎゅっと大事に抱え込み、セルミィは羽ばたいた。彼女がメイ達の元に戻っていった後、ガユスが仲間を振り返る。ウィルは、群れから離れている白い狼の様子をうかがっていた。
「ポーション一つで、戻ってくるまで保つとは思います。後は‥‥熊退治の後ですね」
「メイとシェリーは、セルミィ達とともに狼の群に残す方が良かろう」
 レーヴェが、メイを見ながら言う。連れて行く方が、危険が伴う。
もう一度元気を出して、ラテリカが体を起こした。
「行くですよ! ‥‥ここからはラテリカが先導するです」
「‥‥大丈夫か?」
 ぽつりと鞘継が呟いた。

 大きな熊、と確かに依頼の注意書きには書いてあった気がする。しかし、それが3mもあるとは、誰が予想しただろうか。レーヴェとリアが剣を抜き、ラテリカとウィル、ガユスを庇うように前に立つ。人数配分的に、鞘継が前面に立つ事になるが、武器がナックルだけの鞘継では、相手までの距離があまりに短い。
「少しずつ削っていく方がいい、無理はするな!」
 レーヴェの声を耳に、鞘継が無言で熊に飛び込む。左手には、小柄が握られている。しかし、小柄とてリーチは短い。袖に隠した小柄を、鞘継が抜きざまに斬りつけた。
 確かに、手応えがあった。しかし次の瞬間、鞘継に熊の手が振り込まれていた。そのあまりに素早い動きに、鞘継の体は付いていく事が出来なかった。
 吹き飛ばされた鞘継に代わり、レーヴェが剣を振る。本来はここで待避、攻撃と待避を繰り返して闘うべきだったが、レーヴェは視界に居る鞘継が退くのを待たなければならない。しかしレーヴェでさえ、回避に集中しなければ熊の攻撃には、ついていくのがやっとだ。
 胸元を押さえ、鞘継がウィルの胸元によろりと倒れ込む。傷口から血が溢れていた。すぐさまウィルは治癒の術を施したが、直す端からリアが回避しそこねて鋭い爪を肩に受けた。
 熊の猛撃には、リアと鞘継では対応しきれない。かろうじて動きに付いているレーヴェが熊の前方を塞ごうとしたが、熊はレーヴェの剣を振り払うと、鞘継とウィル所にのしのしと歩き出した。
「そっちには‥‥行かせませんよ!」
 ガユスが、真空刃を放った。刃は熊の毛皮をかすめたものの、致命傷に至った様子は無い。眉を寄せ、ガユスが数歩下がる。合間にラテリカがムーンアローを放っているが、ラテリカやガユスの魔法では、何度攻撃しようが毛皮の下までダメージを与える事が出来ないであろう。
 ウィルが熊に向けてコアギュレイトを唱えるものの、熊が動きを止める事は無い。
「レーヴェさん、鞘継さん、どうやら我々では引き留めるのが精々のようですよ。どうにかして、あなた方で倒して頂かなければならないですね」
「‥‥分かっている‥‥」
 レーヴェが剣を握り直した。と、リアが立ち上がった。剣を構え、熊に突っ込んでいく。思わず、レーヴェが叫んでいた。
「リア!」
「‥‥くっ‥‥」
 リアは、体を正面からざっくりと爪でえぐられ、血を吹いた。しかし、倒れそうになる足をしっかりと地に付け、剣を叩き込むように刺した。リアには、熊の次なる攻撃を避けるだけの力が残っていない。
 苦し紛れに、熊がリアの背中をかきむしった。
 ふ、とウィルの視界から鞘継が消えた。自己犠牲か‥‥姫ではあるまいに。鞘継の、呟くような声が聞こえた気がする。鞘継は、右拳をしっかりと握り、リアの後ろから熊に接近した。
 下から、風が巻き起こる。鞘継は拳を力一杯、振り上げた。鞘継の渾身の力が、リアから熊の手を一瞬離した。すぐさま、鞘継がリアの体を後ろに突き飛ばす。ウィルはすかさずリアをキャッチすると、ガユスと二人で抱えて後ろに引きずっていく。
 熊は鞘継の拳に体をふらつかせたものの、怒りに任せて爪で鞘継を横薙ぎに引き裂いた。体勢を立て直していない鞘継は、再び爪を体に受ける。
 リアの意識はすでに朦朧としていたが、とにかく目に付く傷をウィルの術で回復させていった。ガユスは鞘継を確保すると、レーヴェのフォローをする為にラテリカと交代で熊に魔法を仕掛ける。
「はぅ‥‥レーヴェさん、鞘継さん、リアさん‥‥大丈夫ですか?」
 半泣きでラテリカが魔法を放つ。熊もレーヴェの服も、血で真っ赤に染まっている。先ほどの鞘継の一撃とリアの剣が効いたのか、熊は大分動きが鈍っている。
「泣いている暇はありません、お嬢さん。もうしばらくしっかりしてください」
 ガユスは声を掛けると、ちらりとウィルを見た。ウィルが厳しい表情で熊を見ている。と、すうっと立ち上がった。
「ウィルさん、あなたまで自己犠牲精神を起こしたりしませんよね?」
「‥‥自己犠牲? いえ、勝利の法則ですよ」
 ウィルは手を熊に向けてかざした。熊を押さえきれない。レーヴェを振り払うように、熊がこちらに向かってくる。再び、ウィルがコアギュレイトを唱えた。
 詠唱を終えたウィルの体が白い光に包まれる。熊の爪がウィルを叩き‥‥そして足を止めた。地面にたたきつけられたウィルが、ざっくりと切れた自分の胸元に手をやり、熊を見つめる。
「よ、ようやく効きましたか‥‥」
 はは、とウィルが笑った。

 レーヴェに肩を担がれてようやく歩いているリアの視界に、白い獣が映る。リアは、静かに視線を正面に向けた。
 鞘継は、無言で背を向ける。白い獣が、メイとミルフィ、セルミィに囲まれているのを見た‥‥それだけで良い。
「それが報告出来れば、俺の任務は終わりだ」
「‥‥まあ、ちゃんと最後までごらんになってはいかがですか」
 ミルフィとセルミィが、楽しそうに歌いながら白い獣の周りを飛び回る。メイは、手拍子を取っていた。そしてシェリーが、めずらしく笛を吹いていた。
 真っ白は、落ち着いた表情で、その様子を見ている。
 遠くに居る銀ちゃんの、真っ白を見つめる視線は優しく、そして暖かかった。傷の手当てをしようと真っ白の方に歩き出すウィルの肩に、鞘継が手をやる。
 背を向けたまま、ちら、とウィルの体に視線を落とす。
「‥‥自分の格好を見て見ろ」
 ちらりと見下ろすと、ウィルの服は紅く染まっていた。見回すと、後方に待機していたガユスとラテリカ以外、皆の格好は散々だ。
「心配ない‥‥連中が付いている」
 鞘継はそう言うと、歩き出した。
 ふ、とリアが視線を森の方に向ける。
「‥‥申し訳ありませんがレーヴェさん、森に引き返したいのです」
「その傷でどうするというのだ」
「あの熊を‥‥」
 リアは、森に残してきた熊の遺体を思い返した。狼であれ熊であれ、生きる為にそうしただけの事。それが罪であるはずは無い。しかし、一つでも悲しみの少ない方を選択したい、そう思ってリアは闘った。
 最後に、熊を弔ってやりたい。土に返してやりたい。
 リアの言葉を聞いて、鞘継が足を止めた。
「‥‥皆で埋めれば、時間もそう掛かるまい」
「そうだな。‥‥ラテリカは残っていろ、歩けまい」
「レーヴェさん! ‥‥ラテリカも大丈夫ですよう」
 レーヴェが苦笑まじりにラテリカを見ると、ラテリカが小走りにレーヴェの後ろを駆けた。

(担当:立川司郎)